俺のヒーローアカデミア ピースキーパー   作:色埴うえお

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前回までのあらすじ:雄英高校ヒーロー科へ入学した津上保。個性はキープ、掴んだものをだいたいなんでもキープできる。ド◯えもんの四次元ポケットみたいなものだ。
個性把握テストの結果は16位。途中、緑谷出久の手当をしたり、裏口入学だと告白したりと色々目立っているようだ。
担任である相澤は、入学前から続く遅刻癖を重くみて、なにやら対策をする模様。


第二章 正しい個性の使い方
6時53分の挨拶


 怒涛の雄英生活初日から一夜明け、午前6時48分。身に染み付いた習慣により自宅に居ながら既に1時間以上持て余している。

 相澤先生と約束した6時53分まで、後5分。5分前行動ということでもう出てしまっても良いような気もする。

 

「いや、分単位で指定されているってことはそれが重要だからで」

 

 相澤先生との約束を反故にするわけにはいかないと自分に言い聞かせ、靴まで履いて半帖にも満たない玄関スペースでウロウロすること更に4分。約束の時間まで残り5秒、3、2、1――――

 行ってきます!という声と共に、蹴破るように玄関を開けて勢いよく部屋から飛び出す。その瞬間目に飛び込んできたのは朝日に照らされた町並みとそびえ立つ寝袋。

 

「うわあああ!」

「叫ぶな、近所迷惑だ」

「相澤先生!? お、おはようございます!!」

 

 なんと、寝袋の中から担任の相澤先生が姿を現した。頼むから静かにしろと口にする相澤先生はいそいそと寝袋を脱いで小脇に抱えた。

 

「時間通りだな、結構。じゃあ行くぞ」

「どちらへ? それに、どうして相澤先生がここに」

「学校にだ。 お前が遅刻しないように迎えに来たんだよ」

「迎えに!? 俺を!?」

 

 だから静かにしろ。と言いながら相澤先生はゆっくりと通りへと向かい、俺は慌てて玄関に鍵を掛けその背についていく。先生に引率されながらの登校は不思議で新鮮だ。

 特に何ら言葉を交わすことなく歩く、前を歩く相澤先生は時折振り返ってこちらの様子を確認しているようだ。鋭い視線を受けると緊張で背筋が伸びる。

 

 それにしても、俺が遅刻しないようにするためだけに足を運んでくれた相澤先生。その優しさに感動すると共に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

「相澤先生、お手数かけてすみません。わざわざ俺なんかの為に」

「謝るならさっさと遅刻癖をなくすことだな。と言っても、通勤中に1分寄り道するだけのことだから、俺にとっては手間ですらない」

 

 分単位の時間指定は相澤先生がここを通る時間に合わせた、ということなのか。なるほど理に適っている。

 わずかに罪悪感が薄れると緊張の糸も緩んで、周りの様子が目に入ってくる。この時間は駅の方角に向かう人がほとんどで雄英生の姿は見られない。

 

 その中に、人波を縫って走るサラリーマンを見つけた。時々足をもつれさせながら駅の方へ向かっているのは、寝坊でもしたのだろうか。

 ぶつかったりしてトラブルにならないようにと願いながら観察していると、全く同じ道をエプロンをつけた女性が布に包まれた箱、恐らくお弁当箱を持って走っていた。

 

 察するに、慌てて家を出た先程のサラリーマンが家にお弁当を忘れていってしまいそれをあの女性が追っているのだろう。

 女性は息も絶え絶えでペースも落ちていて、足が止まるのも時間の問題だろう。今行って声を掛ければ俺の足なら駅までにはサラリーマンに追いつけると思う。

 ただ、そういう事をしないように相澤先生が来てくれたのにも関わらず手を出す訳には、と。悶々としていた俺をいつの間にか相澤先生が見ていた。

 

「さっき走ってた主婦の事を気にしてたのか」

「俺のこと、お見通しですね」

「そういうところは分かりやすいからな」

 

 と言うと、不意に相澤先生は立ち止まって道の反対側、先程の女性の方へ注意を向けた。

 それに倣いそちらを見ると、走っていた女性は立ち止まって肩で息をしていた。

 

「助けに行っちゃ、駄目ですよね?」

「ああ。と言うより、助ける必要はない」

「必要がない? どういうことですか」

「想像してみろ、さっきのリーマン、弁当が無くとも買うなり外食なり、自力でなんとでもなる。仮に一食抜いたとしても死ぬわけじゃない。それどころか反省して二度と忘れなくなるかもな」

 

 なるほど、助けなかった場合を想像か、今までしたことはなかった気がする。でもあのお弁当を作った女性の気持ちは救われない。

 

「そんな眉間にシワ寄せてどうした、こういう考え方は納得出来ないか」

「いえ、そういう風に助けなかった場合について考えた事が今までなかったので、目からうろこだったのですが、ただ……あのお弁当や作った女性の気持ちは無駄になってしまうのかな…と」

「まあ、そうなるかもな。だが、元はといえば忘れた奴の責任、他人が気に病む必要性はない」

「そう、ですね」

 

 多少の後ろめたさはあるが、今後の為にもその感情を飲み下す。手助けできずすみません、という感情を視線に乗せて女性に送っていると女性の妙な動きが目に留まった。

 女性は周囲をキョロキョロと見回し何かを探している様子だ、何故か時折空の方にも視線を送っている。

 

 相澤先生も女性のおかしな様子に気付いたのだろう、その視線がより鋭くなっているようだった。

 再び女性に視線を戻すと、何かを発見したのか視線が定まっており、そのまま突如として指笛を鳴らした。

 

 すると女性の元にまっすぐカラスが飛んでいく。女性が包みをカラスに咥えさせると、カラスは再び空へ舞い上がった。

 

「あれは、個性……?」

 

 カラスを操る個性だろうか、詳しいことは分からないがそれよりも重要な事がある。

 

「良かったな津上、弁当も無駄にならずに済みそうだ」

「そんなことより、今、個性を……犯罪じゃないですか!」

 

 公共の場での個性発動、それは法律で禁じられている立派な犯罪行為だ。

 

 

 

 

 通勤の途中に津上を拾って学校まで連れて行く。元はそれだけの予定だったが、都合よく目の前で小さなトラブルが起きてくれた。

 

 日々発生する小さなトラブルのほとんどは他人が解決する必要はない。子供や老人はともかく、人は誰しも多かれ少なかれ問題解決能力を持っている。

 万一解決しなくとも、トラブルによる遅れを都度取り戻すより、再発防止策や対応策を用意したほうが最終的に効率がよくなる。

 

 それを伝えられればと思い観察をしていたら事態が思わぬ方向へ転がった。

 

 公共の場での個性使用は原則禁じられている。津上の言う通り主婦の行動は刑法上、犯罪だ。

 

「厳密に言えばそうだろうが、あの程度で捕まえてたらキリがない。警察が見てても注意して終わりだ」

 

 しかしながら、プロヒーローは言うまでもなく、取り締まりをする立場の警察だろうと黙認するレベルの出来事。例えるなら自転車で歩道を走るようなものだ。

 重く捉える必要はない。そう伝えたつもりだったが、津上の返答でその認識が甘かったことを知る。

 

「……あの人は、罪に問われないんですね」

 

 安心と怒りがないまぜになったような言葉だった。“あの人は”という言葉に込められた感情に津上の過去を垣間見た。

 

 あるんだろう。彼女のように個性を使った事が、それを咎められたことが、津上にはあるんだろう。

 手に入れた資料の中で簡単に“補導”とだけ書かれた向こうに、私怨や自己中心的な正義感による通報と私刑がどれだけ隠されているのか。

 考えただけで反吐が出る、こんな気分の悪い通勤時間は久しぶりだ。

 

「時と場合による。彼女だって人に迷惑を掛ければ罰せられる。誰であろうと法の下に平等だ」

「……そうですか」

 

 言葉に反して納得のいかない様子の津上に「行くぞ」と声をかけ歩き始める。

 この場ではどうしようもない、時間を要する問題であるのは明白。

 

 津上が抱いている個性の使用に対する拒否感はその過去(トラウマ)にも起因するのだろう。

 それを克服するなら着手は可能な限り早い方がいい。根深いなら、尚の事。

 

「……手のかかる生徒だ」

 

 聞こえない程度の大きさでひとりごちる。微かにだが津上の抱える歪みの一端を垣間見て、今までの教師生活においても最大級の難問だと予感させられた。

 当面の課題は遅刻の防止と、個性使用に対する抵抗感の払拭。根本解決の目処は未だ立たない。

 

 本当に、手のかかる生徒だ。

 

 

 

 

「そういえば、昨日はまっすぐ帰ったか?」

 

 俯いていた俺にとっては突然に、相澤先生が言った。前触れのなかった質問に反応が遅れると、先生は歩きながら振り返って俺に視線を投げかけた。

 瞼に半分覆われた黒目からの視線は俺の返答を待ちわびるようにじっと留まっている。

 昨日は先生の指導の後、教室のプリントを回収して校舎を出て真っ直ぐ家に向かいその途中で、良いことが有った。

 

「途中クラスメイト……緑谷くん飯田くん麗日さんと偶然出会ったりもしましたが、寄り道はしませんでした」

「……そうか」

 

 少しだけ詰まったような言葉と共に先生の視線は進行方向へ戻った。それにならって視線を前方へ向けるといつの間にか通りの向こうに雄英高校が見えた。

 昨日は3時間ほどかかった徒歩10分の道のりは先生と歩いた途端、10分ほどの距離に感じられた。

 

「徒歩10分ってこんなに近いんですね」

「ああ、どうやっても3時間はかからない」

「うっ……すみません」

 

 時刻は7時10分。今までの自分では考えられない余裕のある到着だ。しかし困った、これからHRまで一体どう過ごせばいいのだろう。

 

「津上、昨日の遅刻の罰として教室の掃除をやっておけ。掃き掃除とモップがけ、それでも時間が余ったら窓でも拭いてろ」

「分かりました!」

 

 そう答えて駆け出そうとしたところ、相澤先生に話は最後まで聞け、と呼び止められた。

 

「掃除用具はロッカーに入ってる。物を壊したりしなければ個性を使っていい。効率的に進めろ」

「はい! 今日はお迎えありがとうございました!」

 

 俺のどうしたらいいのだろうと言う思考を先読みするような指示、相澤先生は本当に素晴らしい。

 俺に与えられた教育的懲罰に一段と気合を入れて校舎へと足を踏み入れた。

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