俺のヒーローアカデミア ピースキーパー   作:色埴うえお

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チームアップ(1)

 俺は今、充実の高校生活を満喫している。

 相澤先生から言いつけられた掃除をしていると、登校して来た多くのクラスメイトが手伝いを申し出てきたのだ、好意だけ受け取ると伝えても「勝手にやってることだから」と笑顔で口にし最後まで手を貸してくれた。

 その最中に、昨日の遅刻を謝れていなかった女子の面々に謝罪すると、誰もが快く許してくれた。その上こんな俺を面白いと評価してくれるクラスメイトもいた。

 

 授業の方も分かりやすく、みんな真面目に受けている。これが日本のトップ校の授業風景かと感動した。

 いつもの癖で昼はグラウンドで風を感じながら食べたが、何だがいつもより美味しく感じた。

 

 そしてようやく訪れた午後。ここからは、より気合を入れなくてはいけない。なぜなら、午後はヒーロー基礎学だからだ。この授業を受けるためにヒーロー科に入学したと言っても過言ではないのだ。

 

「わーたーしーがー!普通にドアから来た!!!!」

 

「本当に教師やってるんだな!」

銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームだ……画風が違いすぎて鳥肌が」

 

 それぞれ反応は少しずつ違うが、クラス中が興奮している。それもそうだろう、平和の象徴と言われる生ける伝説が目の前に居るんだ。

 興奮しないほうがどうかしてる!

 

「ヒーローの素地を作る為様々な訓練を行う科目、ヒーロー基礎学!第一回となる今回やるのは……戦闘訓練!!」

 

 一挙手一投足がコミカルでカッコいいオールマイトが言った通り、第一回は戦闘訓練のようだ。戦闘となると俺の個性はあまり活かせないがやれるだけのことはやろう。

 そう決意を込めてオールマイトの言葉に一層の注意を傾ける。

 

「それに伴って、入学前に送ってもらった“個性届”と“要望”に沿ってあつらえた、戦闘服(コスチューム)!!!」

「「おおおっ!」」

 

 オールマイトの操作で壁からせり出したスーツケースを見て、ピッタリの息で前の席の皆が立ち上がった。俺の居ない間に打ち合わせでもしていたんだろか。

 そうか、あれが被服控除の戦闘服(コスチューム)か、俺の要望は叶えられただろうか。

 

「着替えたら順次グラウンド・βに集まるんだ!」

 

 そう言い残してオールマイトが教室を去ると、我先にとコスチュームを取り各々更衣室へ移動していく。

 俺も自分の出席番号、14が書かれたケースを持ち、教室を後にした。

 

 

 

 

 更衣室でコスチュームを一通り身につけると、まるで俺の為にあつらえられたようなフィット感に感動していた。いや、俺のためにあつらえられたものか、興奮ですっかり忘れていた。

 手を握ったり手首を曲げたり回して動きを確かめる、ちゃんと要望の方も聞き届けられている事が分かり、一際嬉しくなる。

 

 俺の要望は2つ“手の動きを阻害しないでいただけると嬉しいです”そして、“顔が隠れるようにしてください”だ。

 黒を基調としたつなぎに白いラインのデザイン、特徴はしっかりとした手甲とフルフェイスヘルメット。難しい機能はついていないシンプルなもので、とても、とても。

 

「カッコいい……」

 

 いつか見たヒーローのようなコスチュームに感動しながら、最後にフルフェイスのヘルメットを装備して更衣室を後にする。

 まるでもうヒーローになったような錯覚がして思わず軽くなった足取りで、先に行ったクラスメイトの後を追ってグラウンド・βに向かった。

 

 

 

 

 

 今日の戦闘訓練は屋内戦、2人組を作り、ヒーロー側ヴィラン側で2対2の戦闘を行う。

 ヴィラン側は爆弾を所持しており、規定時間爆弾を守り抜くかヒーローを全員倒せば勝利、逆にヒーロー側は爆弾に触れ回収するかヴィランを全員倒せば勝利。

 オールマイトの説明を要約すると、こんな感じだ。

 

「先生、2人組を作れとのことですが、このクラスは21名、ひとり余ります!」

「そこは1チームだけ3人になってもらう。戦力差のない戦いなんて現実にはそうないからね、良い訓練なるだろう」

 

 飯田くんの鋭い指摘に対し、オールマイトが答える。今回の訓練は見学せずに済みそうだと胸を撫で下ろした。

 

「コンビ及び対戦相手は、くじだ!!」

「適当なのですか!?」

「プロは他事務所のヒーローと急遽チームアップすることも多いし、そういうことじゃないかな?」

 

 再びの飯田くんの鋭い指摘に、今度は緑谷くんが答えた。横で聞いていた俺が「なるほど」とうんうん唸っていたら、オールマイトが「早くやろ!」とクラスの皆にくじを引くように勧める。

 出席番号順でくじを引いていく、何組かは既にコンビが成立し打ち合わせのようなものを初めている。自分の番が近づくにつれ少し緊張してきた。

 

「次、津上少年、引いてくれ」

 

 オールマイトの指示に従いひと息にくじを引く。俺の引いたアルファベットはHだった。

 既に出ていたアルファベットだったため、こんな俺と組むことになってしまう運の悪い人は一体誰だったかと記憶を呼び起こしながら振り向くと、その人物は既に目の前に来ていた。

 

「よろしく、津上ちゃん」

「あ、蛙吹梅雨さん、よろしく」

 

 緑色のコスチュームを身にまとった猫背気味の蛙っぽい女子、蛙吹(あすい)梅雨《つゆ》さんが今日の訓練のパートナーになってくれるらしい。

 今朝も掃除を手伝ってくれた優しい彼女の足を引っ張らないようにと静かに気合を入れ直す。

 

「頑張るよ」

「ケロ? ええ、頑張りましょう」

 

 蛙吹さんと並んで抽選を最後まで見届ける、そういえば、3人チームは常闇くん・峰田くん・八百万さんのCチームとなった。

 

 

 

 

 初戦から激闘の麗日・緑谷チーム対飯田・爆豪チームが終わり、対照的に一瞬で戦闘が終わった障子・轟チーム対尾白・葉隠チーム。

 自分の個性を活かして戦うクラスメイトたちに、深い尊敬の念を抱いた。俺が個性を使いこなせても、彼らのようになれるとはこれっぽっちも思えない。

 

「この状況でほぼ完璧と言える手段を選んだ轟少年に改めて大きな拍手を送ろう。では、続いての組み合わせは」SHUCK

 

「『Hコンビ』がヒーロー!『Cコンビじゃないね、トリオ』がヴィランだ!」

 

 そしてとうとう俺が呼ばれた。前二組の戦闘と比べて大きく見劣りするだろうが、蛙吹さんの為にも精一杯やるしかないだろう。

 ただ、2対3であるお蔭で気が楽だ。これなら負けてしまっても仕方ない。

 

「数的不利を覆してこそのヒーローだ、期待しているぞ蛙吹少女、津上少年!」

「はい」「ケロッ」

 

「常闇少年、峰田少年、八百万少女は優位であることに油断をしないように。課題通り賢しいヴィランに徹してくれ」

「承知」「はいっ」「当然ですわ」

 

 オールマイトに促され、モニタールームを後にする。緊張で胃がキリキリして今にも吐きそうだ。昼におにぎりを余計に食べるんじゃなかった。

 先を歩くCチームが何やら話をしている。影のような見た目の爪を生み出せる常闇くん、ありとあらゆる道具を生み出す八百万さん、くっつき跳ねる玉を生み出す峰田くん。

 皆何かを生み出すことに長けている。勿論チームメイトの蛙吹さんだって、蛙っぽい色んな事ができるらしい凄い個性の持ち主だ。

 

(それに比べて俺は……)

 

 左右の手で人のものを仕舞ったり隠したりできるだけ。何かを生み出したり身体能力が上がったりしない弱個性だ。

 せめて蛙吹さんが活躍できるように囮になるくらいが俺の出来る精一杯だろう。

 

「俺が囮になるから、一人でもいいから相手チームを確保してくれ!」

「……随分と弱気ね」

「俺の個性は戦いに何の役にも立たないから。申し訳ないけど、蛙吹さんの個性(ちから)を頼りにするしかない」

「頼りにされるのは構わないけれど、私、津上ちゃんがどんな個性なのか知らないわ」

 

 そうだよ、俺の事なんか知っている訳ないじゃないか。先に説明しないといけなかった、俺の個性が如何に使えないかを……

 

 

 

 

 蛙吹梅雨よ、高校生活2日目でいきなりクラスメイト同士で戦闘訓練なんて、雄英高校はやっぱり普通じゃないわね。面白いわ。

 今回の訓練でコンビを組むことになったのは初日から色々と目立っているクラスメイト、津上保ちゃん。

 初日の遅刻に始まり、嘘か真か裏口入学の告白、緑谷ちゃんへの応急処置、今朝の教室掃除、話題の尽きないとても面白い人だけれど、なんだか自分を卑下する癖があるみたい。

 昨日の個性把握テストでの活躍からしても役に立たないとは、とても思えないわ。

 

「俺の個性はキープ、手で掴んだ物をキープしていつでも取り出せるんだ。キープした物の重さは体に掛かるし、気が緩んだりすると出てきてしまったりもする」

「便利そうな個性ね」

 

 普段から色んな事に使えて便利そうな個性。お買い物で嵩張るものを一度に買ったり、お掃除もちりとり要らずかしらね。

 私がその素敵な個性に想像を巡らせていると、横の津上ちゃんは勢いよく首を左右に振ってそんなことはないって否定してきたわ。

 

「鞄で代用が利くダメな個性さ」

「あまり自分の個性を悪く言わない方がいいわ、津上ちゃん」

「事実を言っているだけさ」

「ケロ、頑固ね」

 

 雄英に受かって、昨日のテストでだって活躍していたのだから自信を持っていいと思うのだけれど、謙虚すぎる人なのね。

 あのボール投げで見せた力を使えば戦闘だってこなせそうだけど、どうなのかしら。

 

「昨日のボール投げはどうやったの?」

「ああ、あれはボールが手にぶつかった時の衝撃をキープで溜めて一度に解放しただけなんだ」

「それを攻撃に使ったらどうかしら?」

「な、なるほど……」

「ケロォ」

 

 なんだか、借り物の個性みたいでこれからの訓練が少し不安だわ。使い勝手の良い個性なのに普段使ってないのかしら。

 それに、衝撃までキープ出来るならサポートに限らず、本当に色々な事ができるはずよね。

 

「何がキープできるの?」

「うーん……目に見えるもの、触れるものであれば何でもキープ出来るね。空気や水とか」

「人間でも?」

「いや、人間に限らず、生物はキープしない事にしてるんだ」

 

 津上ちゃんが言ったのは「出来ない」ではなく「しない」。

 彼は手のひらを見つめながら険しい顔をしていて、きっと複雑な事情があってそうしているのだと思うけれど、気になるわ。

 

「それはどうして?」

「キープ中に動かれると危ないんだ」

「危ない?」

「途中でキープをやめるとそこで物が千切れるから、怪我をさせてしまうし」

 

 うん。彼のことはまだ分からないことだらけだけど、これだけは分かったわ。

 

「あなた、優しいのね」

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