俺のヒーローアカデミア ピースキーパー   作:色埴うえお

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穴だらけの作戦

「あなた、優しいのね」

 

 蛙吹さんが俺に向かってそう言った。そう見えるのなら少しだけ嬉しい。でもきっと俺の事をもっと知ったらそうは言えないと思う。

 せめてそれまでは、良い関係でいたい。

 

「そう言ってもらえると嬉しいな。俺の個性はこんな感じ、何か質問ある?」

「大丈夫よ」

「蛙吹さんの個性は、カエルみたいな動きだけれど、そのまんまの認識で大丈夫?」

 

 見たのは飛び跳ねたり、長い舌だったりそんな力だ。それだけでも使いこなせば十分強力だろうと思う。

 それを聞いた蛙吹さんは人差し指を口元に当てて少し考えるような素振りを見せてから答えた。

 

「そうね、簡単に挙げていくと、水中での機動力。跳躍。壁に張り付ける。舌を最長で20mくらい伸ばせるわね。……後は胃を出して洗ったり、ピリッとする程度だけれど毒液を分泌したり……とにかく、カエルっぽいことならだいたい出来るわ」

「やっぱりすごい個性だ」

「ありがとう、ケロケロ」

 

 蛙吹さんから教えてもらった個性は、応用が利くなんてレベルではなく、複数の個性を持っていると言っても過言ではないような個性で、憧れてしまうようなものだ。

 特に、今回のケースにおいては壁に張り付けるのはかなりのアドバンテージだと思えた。

 

「壁に張り付いて外側から核兵器を奪うのはどうかな?」

「それが出来たら楽でしょうけど、カーテンとかで中を隠すんじゃないかしら?」

「それもそうか……」

 

 俺が敵なら間違いなくそうする。それに相手には八百万さんが居るから部屋に入れてもトラップなんかが仕掛けられているはずだ。

 そもそもトラップを使わなくとも常闇くんの力強い個性なら蛙吹さんを封じることだって出来るかもしれない。

 

「八百万さんと常闇くんが居る以上蛙吹さん1人が侵入できたとしても確保が難しそうだし、やっぱりこの作戦はダメそうだ」

「どういうことかしら?」

「蛙吹さんが頼りないって言いたいんじゃなくて、(ヴィラン)チームの個性が強いからそう言ったんだ。例えば八百万さんの個性で作ったトラップが仕掛けられてるかもしれないし、爆弾を常闇くんが影みたいな爪で直接守ってたら身体能力に長ける蛙吹さんでも苦戦するはずかな……って」

「津上ちゃん、二人の個性を知ってるのね。詳しく教えて貰っていいかしら、もちろん峰田ちゃんの個性も知っていたらお願いね」

 

 蛙吹さんの言葉で情報共有をしていなかった事に気が付いた。俺みたいに昨日だけでクラス全員の個性を覚えようなんて普通は思わないだろう。

 すぐに、三人の個性に関する俺の知っている情報を蛙吹さんに伝える。

 

 

 

「よく観察してるのね、津上ちゃん。不確定要素は多いけれど、少しは作戦が立てられそうだわ」

 

 それを聞いた蛙吹さんは笑みをこぼしながら言った。本当に頼りになる人だと思った。

 

 蛙吹さんと共に見取り図を見ながら作戦を立てる。

 5階建てのビル。部屋は各階10部屋前後。すべての部屋を15分以内に回ることは物理的に不可能。敵の数も多いため直接戦闘はこちらが不利。

 つまり、敵との接触を可能な限り避け、核兵器の確保するしか勝ち目はない。正に言うは易く行うは難しだ。

 

 それの可能にする作戦を残り数分で考えなくてはならなかった。

 

 

 

 

 

『制限時間は15分、両チーム、訓練開始!』

 

 作戦会議を終えたところで入ったオールマイトの合図により訓練がスタートした。

 

「それじゃあ偵察に行ってくるわ、津上ちゃん、準備しておいてね」

「ああ、そっちは任せた、蛙吹さん!」

 

 ケロケロと言って蛙吹さんは跳躍し、ビルの壁面へ張り付いた。それを見送った俺は気合を入れ、左手で右の手のひらを殴った。

 それを繰り返し繰り返し行っていく。これは気合を入れるポーズじゃなくて殴った衝撃をキープしているのだ。

 

 作戦はこうだ、蛙吹さんが外側から建物内を見て、核兵器の有無を確かめる。見つかれば御の字、でなくとも捜索する部屋を限定する事ができる。

 その間、俺は風と衝撃をキープして戦闘に備える。

 偵察が完了し次第、蛙吹さんの壁への張り付きと舌で屋上や窓から侵入して速攻をかける。という流れだ。

 

『見つけたわ、4階東の大部屋。常闇ちゃんが部屋に居るわね』

「一人だけ?」

『ええ、他の二人の姿は無いわ。部屋にはトラップもなさそうね』

「常闇くんに全幅の信頼を置いているか、そこまでたどり着かないと踏んでいるのかもしれない」

 

 通信機越しに蛙吹さんの口から聞いた相手チームの配置は俺に対する評価が正確なことを裏付けている、だが相手チームは蛙吹さんを侮ってしまった。

 窓から侵入して即座に爆弾に手を伸ばせば勝ててしまうかもしれない。そういう考えに至るのも当然だろう。

 

「窓からこっそり侵入して確保出来る?」

『この部屋には開けられそうな窓は無いわね。無理やり割って入るか、他の部屋から侵入するか』

「あとは屋上から侵入とかかな……とにかく、敵が気付いてないこのチャンスを活かそう」

 

 俺が一階から侵入して囮になって敵チームの注意を引き、その間に蛙吹さんが侵入して爆弾を確保すればいい。

 

『それなら、津上ちゃんを舌で投げるから一緒に屋上から侵入しましょう』

「え?」

 

 蛙吹さん一人ならともかく、俺が行っても足手まといになるだろう。そう言う間もなく蛙吹さんの言葉が続く。

 

『着地は出来るわよね、危ないから通りの少し開けたところに移動してくれるかしら』

「……わかった」

 

 俺の判断より蛙吹さんの判断の方が正確だろう。それなら与えられた役割をしっかりこなすだけだ。

 100回目の衝撃のキープを終えて通りに出た俺は、ビルの壁面に張り付いている蛙吹さんを見上げた。

 

『いくわよ、せーのっ!』

 

 蛙吹さんの舌が体に巻き付き勢いよくビルの上へと放り投げられる。

 ビルの上空5メートルくらいまで飛ばされ、ビルの屋上を転がりながらどうにか着地に成功する。

 見上げると壁面を登りきった蛙吹さんがひたひたと歩いて来て、横になっていた俺に手を差し伸べた。

 

「てっきり個性で着地すると思ったのだけれど、怪我は無いかしら?」

「大丈夫。そっか、その手が有ったね」

「自分の個性を忘れるなんて、不思議ね」

 

 ひんやりとした大きな手を借りて立ち上がる。何はともあれ、屋上への侵入は無事成功した。

 しかし、屋上から建物内へ入れる唯一の道は、鍵の掛かった分厚い鉄の扉で塞がれている。

 

「やっぱり鍵が掛かってるわね。仕方ないわ、気づかれるかも知れないけれど、ドアを破壊してくれるかしら」

「分かった」

 

 きっと蛙吹さんはこれを見越して俺を連れてきたんだろう。と思い指示に従ってドアに手をかざす。

 手のひらを扉に押し当てると徐々に手が扉の中へ沈んでいく。

 

「それは、何をしてるのかしら?」

「え、扉を壊してるんだ、言われた通りに」

「予想外の壊し方ね」

 

 手で掴んだものをキープする個性だが、手に直接触れているものならば握るまでもなくキープすることが出来る。

 手で触れた範囲しかキープ出来ないため、必然的に千切れてしまうのが欠点だ。

 

 扉の向こう側まで通じる穴を開けて内鍵を触る、そこにサムターンはなく内側からも鍵が必要な扉だった。

 ならばと鍵のある辺りを掴んでキープで引きちぎり扉を開いた。

 

「開いたよ、蛙吹さん。急ごう」

「待って頂戴、津上ちゃん。それで床を抜けば直接、核兵器のある部屋に侵入出来るんじゃないかしら?」

「……なるほど」

 

 盲点だった。そうか、そういう使い方も出来る。人を欺き、騙して、勝手に侵入するならこういう使い方をした方がいい。

 多分、あの人達はこうやって侵入してたんだろう。

 

「部屋はあっちかな。真上から侵入しよう」

「ええ」

 

 見取り図で部屋の真上となる場所を確認して床を抜いていく。外壁を抜いてそれが終わったら内壁を抜く。人が通れる大きさを開けるのにかかる時間は40秒ほど。

 これでは戦闘になったらまず使えない。だから、音を立てないように慎重に床を抜いた。

 くり抜いた円形の板を横に出して、穴から部屋を覗き込む

 

「人の気配はなし、大丈夫そうね」

「まずいな、この高さだと、音もなく侵入ってのは無理そうだ」

「私が吊るわ、じっとしてて」

 

 湿っている温かな舌が胴に巻きつけられ、ゆっくりと降ろされる。その後蛙吹さんがひたりと静かな音を立てて着地した。頼りになる人だと改めて思った。

 

 言葉を交わさず、アイコンタクトをして再び床に穴を開けていく。床板を抜き横に避け、下の階の天井の板を少しだけ抜くと、少し離れたところに目標である核爆弾の姿が目に入った。

 常闇くんの姿は見えなかったが、この場所からの奇襲ならばどうやっても防ぐことは出来ないだろう。

 

「天井の板は乗れば突き破れるくらい薄いから、このままリスクを負って穴を開けるより一気に飛び降りた方がいいと思う」

「そうね、そうしましょう」

 

 目を合わせ、しっかりと頷きあう。少し呆気ない気もするが、勝てるならそれに越したことはないだろう。

 

「「せーのっ!」」

 

 天井を突き破り、数メートル先にある核兵器へ手を伸ばす。

 完全に虚を突いた奇襲は部屋で待機をしていた常闇くんに一切の行動を許さなかった。

 

はふほ(確保)……ケロ」

 

 蛙吹さんの舌が核兵器に触れ、そう宣言する。

 確保を優先する蛙吹さんと異なり、常闇くんを警戒していた俺は彼の手からワイヤーが伸びている事に気が付いた。

 

「一体何処から、いつの間に……だが」

 

 そう言いながら常闇くんは柱の影へと隠れる。

 オールマイトからの終了宣言が無いこと。常闇くんの不自然な動きと伸びたワイヤー。存在しないトラップ。目隠しされていない窓。

 

 そこに至ってようやく、俺たちが敵の策に嵌っていることに気がつく。

 

「蛙吹さん! これは偽物、罠だ!」

「気付いたところで既に術中! 終焉の刻だ」

 

 それと同時に頭上で金属のこすれる音がして、スプレー缶のようなものがゆっくりと落ちてくる。

 天井を見ると、紫色の玉がクリップのようなパーツにくっついており、目の前の缶がここに張り付いていたのだと分かった。

 

「閃光弾よ!」

 

 蛙吹さんの言葉でこの缶がなんなのかようやく理解する。

 この超人社会においてもヴィランの鎮圧に効果を発揮する、強力な非殺傷武器のひとつだ。

 

 目の前で炸裂すればその強烈な音と光によって身動きを完全に封じられてしまう。もしそうなれば負けは必至だ。

 

「くそっ!」

 

 殆ど無意識に声を漏らしながら、伸ばした手でクリップの完全に外れた閃光弾を掴んだ。

 

「不発!?」

 

 一瞬の間が開き、常闇くんがそう叫ぶ。

 掴んだ閃光弾は無意識の内にキープされ不発に終わった。

 

「一旦引くわ!」

 

 蛙吹さんがそう言って侵入してきた穴へ跳躍。それに続いて届くはずのない穴に向かって跳躍すると、上階から伸びてきた舌が俺の手を掴んだ。

 

「させん!」

 

 引っ張り上げられる俺を常闇くんの影のような爪が追う。だが、こちらには反撃の手がキープされていた。

 

 迫りくる爪に俺のパンチ100発分の衝撃を一気に解き放っ(リリースし)て吹き飛ばした。

 そして、穴をくぐる瞬間、炸裂直前だった閃光弾を下の階へ吐き出(リリース)した。

 

「蛙吹さん、目を閉じて耳を塞いで!」

「ケロッ!」

 

 手を貫通する衝撃のような音が鳴り響き、一転、辺りは静寂に包まれる。

 目を開けると顔をしかめた蛙吹さんが小さな唸り声を発していた。

 

「蛙吹さん、大丈夫?」

「うぅ、すごい音ね。助かったわ、津上ちゃん」

「きっと残りの二人も気付いたはず、常闇くんが動けるようになるまでにここから離れよう。作戦を練り直さないと」

 

 あそこに有った核兵器は恐らく八百万さんが作った偽物、ならば本物の核兵器は一体何処にあるのだろうか。

 偽物の核兵器に閃光弾やワイヤー、恐らくいずれも八百万さんの作ったものだろう。天井に付いた玉は峰田くんの個性だったはずだ。

 

「津上ちゃん」

「な、なに?」

 

 突然の状況変化に戸惑っていた俺は、蛙吹さんの声に驚いて裏返った声をあげてしまった。

 

「ここから離れる前に、下で動けなくなってる常闇ちゃんを確保してくるわ。少し待っていて」

 

 俺の返答を待たずに下の階へ飛び降りた蛙吹さんは驚くほど冷静で、動揺している自分が少し恥ずかしくなった。

 

 

 

 

 目の前に閃光弾が落ちてきてもうダメだと思ったとき、津上ちゃんがその個性で閃光弾を無力化。しかもその後閃光弾を使って反撃して常闇ちゃんを返り討ちに。

 音もなく床や壁をくり抜いてしまえたり、本当に素敵な個性だと思ったわ。

 

 下の階へ降りると、頭を抱えて地面に突っ伏している常闇ちゃんの姿が目に飛び込んできたわ。

 

「すまない、不覚を取り捕らえられなかった! 彼奴らそちらに逃げた……壁を抜くぞ、警戒を怠るな」

 

 音量調節のめちゃくちゃな彼は私の接近にも気付かず通信機の向こう側へ話してる。

 残り2人が5階にいるのなら、核兵器もそこにあるはず。うずくまっている彼にはすこし申し訳ないけど、訓練だもの許して頂戴。

 

「常闇ちゃん確保よ」

「くっ、無念」

『常闇少年、確保により戦闘不能! 以降通信は控えるようにね』

 

 オールマイトのちょっと可愛らしいアナウンスを聞きながら二階へもどると、そこでは津上ちゃんが拍手をしていて少し驚いたわ。きっと衝撃を溜めてるのね。

 

「無事確保成功よ」

「ありがとう」

「お礼を言うのはこちらの方。それと、いい情報を手に入れたわ」

 

 核兵器があるのはこの5階。そして最初の偵察で中が見えなかったのは2部屋。核兵器はこのどちらかにあるはずね。

 そして常闇ちゃんの報告で相手チームに壁抜きが出来ると知られた以上、屋上からの奇襲は通用しないわね。

 

「廊下を通って正面から行きましょう」

「でも廊下は、トラップが仕掛けられてるはず」

「津上ちゃんが居れば大丈夫よ」

 

 津上ちゃんの個性を使えばトラップを無効どころかこちらの攻撃に利用できるから、八百万ちゃんの個性は封じたも同然。

 それを伝えると津上ちゃんは心底驚いた表情でなるほど。と言っていて、相変わらず面白い人だと思ったわ。

 

「自信を持って、貴方の個性は本当に凄いもの」

 

 

 

 

 俺の個性が凄い。蛙吹さんはそう言った。壁を抜いたり、閃光弾を無力化したり、確かにそれなりには使えるんだな、と他人事のように思った。

 けれどそれは人を騙す使い方、人を傷つける使い方、人のものを盗む使い方。それなのに、蛙吹さんはそれを評価する。

 

 以前、この個性を人助けに使おうとしたときは、色んな人に咎められた。けれど今は人を攻撃する為に使って称賛されている。

 不思議な感覚だ、でも嫌な感じはしない。

 

 けれど、このよくわからない感情を理解するのは今じゃなくていい。

 

「急ごうか、時間も無いし」

「ええ」

 

 気付けば残り5分ほど、余所事を長考している時間は無い。

 蛙吹さんの言う通り、俺の個性でトラップを無効化しながら目的の部屋まで直進していく。

 前衛である常闇くんが居ない今、トラップさえ無効化してしまえば、蛙吹さんを止めるものはなにもない。

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