(考えなさい、
規定時間を半分以上過ぎても動きを見せなかった蛙吹さん津上さんたちヒーローチームが起こした最初の行動は、私達
常闇さんの報告のおかげで、ヒーローチームが全ての罠を素通りしてダミーへたどり着いたのは、壁を抜いて移動をしていたからと判明しました。
しかし、得られた情報はそれだけ。
報告通り壁を抜かれるのであれば、わたくし一人では防衛しきれないと判断し、この階の廊下を見張っていた峰田さんに戻っていただきました。
それに加え輪をかけて予想外だったのが、トラップとして仕掛けた閃光弾の爆発音が聞こえたにもかかわらず、捕らえられたのが常闇さんの方だけという事態でした。
音もなく壁を抜き、閃光弾を無効化するという芸当を二人は一体どのように成したのか、今は見当がつきません。
「なあ八百万。これ、ヤバイんじゃないか?」
「ええ、分かっています。申し訳ありませんが、峰田さんは階下への警戒を。床を抜かれてしまえばその時点でわたくし達の敗北です」
戻ってきた峰田さんにはドリルで開けた床の穴からファイバースコープを用いて階下の監視を依頼しました。
床を抜かれてしまえば、ヒーローチームは核兵器に触れ、わたくし達の敗北となってしまいます。なんとしてもそれは避けねばなりません。
壁を抜くという常闇さんの報告は間違いないでしょうから、お二人には壁を抜く手段があり、間違いなくそれは個性を用いたもの。
蛙吹さんの個性はカエルに関わるものであるのは明らか、その手段は津上さんの個性を用いたものであるとみて間違いないでしょう。
風や衝撃を蓄積して放出する、そんな個性だと思っていましたが、そうでは無く、風や衝撃に限らず物質等も可能であると考えるべきで、それならば先程の奇襲も理解できます。
いえ考えるべきではなく、間違いなくそういった個性なのでしょう。触れるもの全てを蓄積してしまえるそれは、私にとって最悪の相性に他ありません。
「峰田さん、常闇さん、申し訳ありません、私は、判断を誤りました」
「ん? どういう事だよ」
私のとった作戦はひとえに時間稼ぎ。
蛙吹さんの跳躍などの身体能力によって偵察や強襲をされることを考え、ダミーを用意し、無駄足を踏ませる。勿論、そこに至る道中にも罠を仕掛けることで侵攻を妨げ、可能な限り時間を掛けさせるつもりでした。
廊下や階段に設置したトラップはいずれも蛙吹さんの身体能力であれば回避出来る程度に留めて、二人を分断。
常闇さんは一対一であればいずれにも決して負けないと判断した上で、ダミーの護衛に回っていただき、さらに万一に備え必ず相打ちに持ち込める強力な閃光弾を用意しました。
蛙吹さんさえ戦闘不能にしてしまえば、個性の準備に時間のかかる津上さんが5階にある本物にたどり着くことは無い。そういう作戦でした。
しかしこの作戦は津上さんの個性が、衝撃や風を手に溜める個性であったらの話、津上さんの個性は盤面をひっくり返すほどの可能性を秘めたものだったのです。
「わたくしが仕掛けたトラップは、全てわたくし達に牙を向くことになります」
「だから、どういう事か説明してくれよ」
「時間が無いので簡潔に申し上げます。恐らく津上さんの個性は触れたものを溜め込み放出するもので、それを使い壁に穴を開けてダミーまで侵入したと思われます」
「それで?」
「仕掛けたトラップもその個性で溜め込んでしまえば、あちらの武器として使用できるのです。ご理解いただけましたか?」
このままだと、閃光弾を使われて制圧されるのは時間の問題。
考えなさい、百、最善を――――
「峰田さん、これをつけておいてください」
「ゴーグルにヘッドホンか?」
「ヘッドホンではなくイヤーマフですわ。閃光弾対策です。これらを着けていれば一度で動けなくはならないでしょう」
峰田さんに渡した後、自分の分となるガスマスクを創造。聴覚と視覚が制限されますが、これで同じ空間に居ながらでも閃光弾を起爆出来るでしょう。
「私が出た後はドアを個性で塞いでください」
「出るって、どうするつもりだよ!」
「足止めです! 残り3分、必ず死守してみせます」
これは私のミス。私が取り返さなければ。
「冷静になれって、二人でこの部屋を守ればいいんだよ。核兵器もこうやって柵で囲ってるんだし、守れば破られるはずねえって」
「お二人が連携して攻めてきた際にわたくし達2人が確保されないとも限りませんもの」
閃光弾に加え、催涙ガス弾、あらゆる手を尽くし、足止めに徹すればいいのです。それも、たった3分。
その決意を込めて部屋を離れる、ここが正念場ですわ。
◇
「閃光弾はキープした。早く行こう」
5階廊下を歩いてから既に5個のトラップに足止めを食らっている。
閃光弾にガス弾、峰田くんのくっつく玉、トラップの材料をあれもこれもキープして無効化しているが、数が多すぎる。
「時間が無かったとはいえ、分かりやすいトラップばかりなのは、時間稼ぎが狙いだからでしょうね」
「恐らく、ね」
蛙吹さんの意見に完全に同意だ。
先程から解除している罠の殆どは、丸見えのワイヤーとその先に繋がっている閃光弾やガス弾で作られた簡単なものだ。
本来なら常闇くんが誘い込んだり、追い詰めたりすることで十全な働きをするようにしたのだろう。
目的の部屋のうち、1つ目は正面の突き当りにある。そこに核兵器が無かった場合を考えたら眼前のトラップを悠長に解いている暇は無い。
「先に行くわ、この距離なら、すぐ追いつけるわよね?」
「ああ、追いつくよ」
同じ考えだった蛙吹さんは返答を聞いてすぐさま張り巡らされたワイヤーを飛び越えた。
早くこのトラップを解いて合流しなくてはと思い、ワイヤーに手をかけたその瞬間、事態は急変する。
「お覚悟を!」
女性の声と小さな爆発音。ワイヤーの向こうを見れば蛙吹さんがネットで捕らわれている。
それをやったのは――――
「「八百万さん(ちゃん)!」」
敵チームの八百万さんがそこには立っていた。ガスマスクのようなものをつけ、手ではロケットランチャーのようなものが煙を立てている。蛙吹さんを捕らえた網はそれから発射されたのだろう。
こちらがバラバラになるのを虎視眈々と狙っていたのだ。こちらが油断するこの瞬間をずっと……
「なんて人だ。全て狙い通りだったのか……」
このまま蛙吹さんが戦闘不能になれば、こちらに勝機はない。
ならば、今俺が取れる選択肢はこれしかない。
「蛙吹さん、伏せてくれ!」
キープした衝撃と峰田くんの玉を左右の手で一度に解放し、八百万さん目掛けて真っ直ぐ発射する。
ワイヤーの隙間を貫いて飛翔する玉は回避行動を取った八百万さんの腕を捕らえ、真後ろの壁に釘付けにした。
「すぐに行く! 峰田くんは……!」
「大丈夫、見当たらないわ」
異変に気付いた峰田くんが加勢に来る前に蛙吹さんの拘束を解かなければならない。
下段のワイヤーとそれに繋がった閃光弾をキープして蛙吹さんの元へ駆け寄り手を伸ばす。
「ネットを少し切る、じっとして!」
ネットを一部キープし穴を開けようとしたその時だった。
「津上ちゃん、気をつけて!」
「させません!」
何故か拘束の解けている八百万さんが手に持った幾つもの閃光弾を辺りにばら撒いたのだ。
「さあ、これだけの数、防げますか!」
数があり、中には手の届かない場所にも転がっている。これら全てを俺の個性で防ぐのは不可能だ。出来るのは目と耳を塞いで被害を最小限に抑えること。
しかし、ネットで捕らえられている蛙吹さんは手が自由には動かせず、それが出来ない。この量の閃光弾をこの距離で受けたら、タダではすまない筈だ。
「蛙吹さん!!」
伸ばした右手を蛙吹さんの眼前で広げる。せめて光だけでもという一心だった。
激しい閃光と轟音が辺りを満たす。その中で、蛙吹さんへの心配と敗北の悔しさを強く握りしめていた。
最初に目に入ったのは無意識に握られた手だ。続いて耳に入ったのは――――
「何故、立っていられるんですの……?」
という八百万さんの驚愕だった。
あれだけ大量の閃光弾を食らって俺の目と耳は正常に作動している。
「津上ちゃん!」
蛙吹さんの呼びかけで意識が戻る。すぐさまネットを個性で千切り、蛙吹さんを脱出させる。
そこで自身の中に強烈な音と光がキープされていることに気が付いた。無意識で握った手で閃光弾の光と音のほとんどをキープしていたのだろう。
「蛙吹さん!先に行って!」
「分かったわ」
「行かせませんわ!」
八百万さんは手のひらから棒を伸ばしこちらに叩きつけた。俺はそれを右手で受け止め、キープしてへし折る。
その隙を付き蛙吹さんは目的のドアへ飛び出した。
なんでも生み出す八百万さんには、なんでもキープ出来る俺の個性が天敵だ。
「このドア、塞がってるわ!」
対峙する八百万さんの向こうで蛙吹さんが叫んだ。
「壁抜きはさせませんわ。あと1分粘らせていただきます」
そう言って八百万さんは体の色んな部分から有刺鉄線を生み出し俺の周囲に張り巡らせていく。
うねる有刺鉄線の防壁はキープで突破するのは骨が折れるだろう。それに、残り一分、時間がない。
「蛙吹さん!窓だ!」
「分かってるわ!」
音を気にする必要のない今であれば窓を突き破ってしまえばいい。蛙吹さんにはそれが出来る。
後は俺が八百万さんをここに釘付けにしさせすればきっとやってくれると信じて、蛙吹さんが近くの窓を突き破ってビルの外へ飛び出していくのを見送った。
「峰田さ……
爆発音で八百万さんの通信を妨害する。恐らく耳栓か何かをつけているのだろうが、マイクが爆音を拾ってしまえば通信は出来ない。
キープされている爆発音を小出しにすれば、通信を妨害し続けられる。そうすれば蛙吹さんの奇襲の成功率はぐっと上がるはずだ。
「通信はさせないよ」
それが俺に出来る最後の役割だ。
そう思い、いつでも音を解放できるよう準備をする。それに対して八百万さんが行ったのはあるものの創造だった。
カランと乾いた金属音がなり、八百万さんの足元に缶が転がる。
「今回は音や閃光のように一瞬で消えるものではありません。さあ、どうされますか?」
缶から吹き出したのは白い煙。ただの煙幕、そう思ったが、鼻や目に微かな痛みを感じその煙の正体を察した。
「催涙ガス…!」
「ご明察です」
ここで催涙ガスのキープを始めれば音の放出が出来ない。だが、防がずにまともに喰らえば個性の制御は恐らく不可能。
催涙ガスのキープを行い続けるしか手段はない。
「峰……
催涙ガスのキープを中断し八百万さんの通信を爆音で防ぐ、しかしその瞬間に吸い込みきれなかった催涙ガスが顔の粘膜に襲いかかった。
目や喉に激痛が走る。想像の何倍もの痛みに個性のコントロールが歪み、さらにガスを吸い込んでしまう。
「窓に警戒を!」
「ぐっ!」
「津上さん、確保させていただきます!」
八百万さんの気配がこちらに迫る。
なんとかしなければという一心でキープされているものを手当たり次第に解放した。閃光やワイヤー峰田くんの玉、閃光弾などなど全てだ。
「きゃあ!」
反動の後に小さな悲鳴が上がった。霞む目で正面を見ると、八百万さんが着けているマスクが大きくズレていた。めちゃくちゃに放った何かがぶつかったのだろう。
そのまま落ちていた缶に足を取られた八百万さんはこちらに倒れ込み、それを支えようと反射的に伸びた俺の手は、彼女の胸を掴んだ。
「おっ!?!?!?!?」