僕には昔、『幼なじみ』がいた。
成績優秀。運動神経抜群。才能に満ち溢れていながら、周りとは違う雰囲気を身に纏った、ちょっと変わったやつ。そんな子だった。
僕とその『幼なじみ』は、とても仲が良かった。
なんのきっかけであんなに仲良くなったのかは覚えてないが、帰宅路を一緒に帰ったり、他愛もない話をずっとしたり、時間があればよくお互いの家にも行ったぐらいの仲だった。
その頃から化け物と呼ばれていた僕にも、その『幼なじみ』は変わらず付き合ってくれた。ホント、感謝してもしきれないね。
だけどその関係は、ある出来事をきっかけにして、さほど時間もなく崩れていったのだ......。
最初は好奇心だった。
僕を普段化け物呼ばわりしていた男女のグループを見つけたのだが、キャッキャわいわい話しているその姿を見て、どんな話をしているのだろうかと、ほんの少しの好奇心でその話を立ち聞きした。
『なぁ。あの化け物の近くにいっつも居るあの女、もしかして化け物の仲間なのかな?』
『あ、それ私も気になってたー。もしかしなくても、仲間なんじゃないの?』
『だけど証拠がないじゃんか。それにあの子、結構可愛いし......』
『じゃあこうしようぜ。あの女がまたあの化け物と仲良くしていたら、女を化け物の仲間と見なし、一緒に虐める』
『あ、それサンセー。あの子、ちょっと可愛いからって調子に乗ってるのよねー』
『うわぁ。女の嫉妬ってこえー......』
『あんですって!?』
そのままコッソリと立ち聞きしていた僕にも気付かず、男女のグループは何処かへと去っていった。一人取り残された僕は、呆然と立ち尽くしながら、先程の男女達が言っていた言葉を頭の中で復唱していた。
『じゃあこうしようぜ。あの女がまたあの化け物と仲良くしていたら、女を化け物の仲間と見なし、一緒に虐める』
「―――!!」
冷や汗が額から流れてくるのを感じた。
僕はその場を急いで離れ、そのまま家へと全速力で帰っていった。隣に『幼なじみ』は居ない。それでよかった。僕の頭の中にあるのは、これからのこと。
あいつと......仲良くしちゃダメだ。離れないと。あいつに危害が及ぶ前に、離れないと......。
翌日から僕は、露骨に『幼なじみ』を避け始めた。
仕切りにこちらへと寄ってくる『幼なじみ』を、あの手この手を使って遠ざけた。
どうしたのと言われれば用事があると言って席を外し、彼女が家に来てインターホンを鳴らしても無視をして、行きも帰りも一緒に居ないよう、時間を早めたりもした。
私の事嫌いになったの!?と言われて泣かれた時は流石に焦ったが、その甲斐あって『幼なじみ』が虐められることはなかった。これでよかったんだ......そう、これで。
それから数ヶ月後、『幼なじみ』は引っ越す事になった。
理由は親の用事という、最もらしいもの。
当然僕は悲しんだ。その反面、喜びもあった。この学校は彼女にとって居心地が悪い。僕が、居るから......。
だったらいっそのこと、彼女には新天地でまたやり直してほしい、身勝手ながらそう思ったのだ。
引っ越す事になったと皆に伝えたその日も、僕は彼女と話もしなかった。
今更なんて言う?引っ越す事になって悲しい?そんなのおこがまし過ぎる。僕にはそんな事言う資格もない。
そしてそのまま時は流れ、引っ越し当日。
彼女の引っ越しを見送りに来た者たちは、みな涙を流していた。彼女はそれを見て、また会えますよと言いながら、電車の中に乗り込んでいった。
その場に、僕は居ない。化け物と呼ばれている僕があの場に行けば、彼女の舞台を台無しにしてしまうからだ。だから僕はその場ではなく、電車が通る道の近くに居た。
あいつ、僕がここに居るの気付くかなぁ。
またもやそんな身勝手なことを考えていたら、遂に電車が動き出した。
僕は走り出した電車を眺める。目の前を通るまで、あと数秒。
そして僕の目の前を電車が通ったその途中......彼女と、目が合った。その時彼女は、ほんの一瞬だが、その顔を驚愕にした後......確かに。
―――確かに、彼女は泣きながら笑った。
カタンコトン。
彼女を乗せた電車が通り過ぎた後、僕は頬に何かが流れるのを感じた。
「あぁ......やっぱり、悲しいね」
そう呟いて僕は、静かに涙を流した......。
さようなら......。あっちでも、お前なら上手くやっていけるから。
❁❀✿✾
「......」
小さかった頃の僕と、『幼なじみ』である彼女が載っている写真を懐かしそうにソッと撫でながら、僕は写真を元あったアルバムへと戻した。
『この日』になると、いつもあの頃を思い出してしまう。
身勝手な僕のせいで、彼女を傷付けてしまったあの頃を。ホントはもっと他にいい選択肢はあったのではないかと考えてしまう、あの頃を......。あれから結局その『幼なじみ』と連絡はないまま、数年が過ぎ、僕も今では高校一年生。
時が過ぎるのは早いねぇ、などと年寄り地味たことを考えながら、僕は自分の部屋を出た。
「あら蓮花。おはよう」
「うん。おはよう、幽香さん......」
リビングに居るのは当然、僕と一緒に暮らしている幽香さん。幽香さんは朝が早く、いつもこうしておはようと先に言われる。いつかは僕から言いたいものだ......ってそうじゃなくて。
なんか別のことを考え始めた頭に鞭打ち――もちろん心の中で――本題を考える。
そう。今日は、幽香さんを『この日』に誘うのだ。
その為に、休日中普段は早起きしない僕も、眠たい目を擦りながら早起きをしてきたんだ。あ、それでも幽香さんに早起きで負けた......ってだからそうじゃなくて。
「ね、ねぇ幽香さん......一緒に行きたい所があるんだけど、いい?」
「別に構わないけど......何処へ行くのかしら?」
また変なことを考えない内に、ササッと本題を言おう。
そう決めて、僕は次の言葉を口に出す。ハッキリと、ちゃんと幽香さんに声が届くように。
「別に大した用じゃないよ。そう、ただの―――『神社参り』さ」