『神社参り』。
僕が住んでいるアパートからバスで二十分ほど行った先に、とても大きな神社が建っている。僕はその神社に、必ず月一回は訪れて、神社参りをしているのだ。
何故そんなことをするのか?別に僕は、その神社の信者というわけではない。まあ、一応の礼儀として、その神社に祀られている神様は崇めているけどね。
僕がその神社に行く理由は簡単。その神社には昔、僕の『幼なじみ』が住んでいたのだ。
罪滅ぼしのつもり......なのかもしれない。
あの頃のことを思い出して、あいつがいた神社に行って、ごめんと心の中で謝罪をして......そうすれば少しでも罪が軽くなると、本気で僕は信じているのだろう。ほんと、身勝手すぎるよ......。
閑話休題。
とにかく、そんなこんなの僕の神社参りには、幽香さんも参加することとなった。まあ、元々連れて行くつもりだったけどね。家で一人お留守番っていうのもなんだったし。
とりあえず僕たち二人は、各々神社へと行く準備を進める。進めると言っても、僕の場合はサイフ、幽香さんの場合は日傘を持ったりするだけなのだが......。
そうして僕たち二人は、目的の神社までバスで行くのであった。
―――その神社の名は、『守矢神社』。
❁❀✿✾
「......随分、大きな神社ね」
「うん。ここに来る度、僕もそう思ってしまうよ」
僕たち二人の目の前にあるのは、大きくそびえ立つ立派な神社――と言っても、参拝客も巫女も誰も居ないので、結構汚い様子なのだが――、『守矢神社』。
これ程までに大きな神社なのだから、祀られている神様もすごい方なんだなぁ、と思ってしまう。確か、諏訪神と八坂神だったはずだ。双神を祀る神社とは......これまた珍しいものだね。何年も来ておいて何言ってんだか、僕は。
ふと、隣にいる幽香さんに向ける。この場所は幽香さん的に見てどうなのか、ちょっと確かめてみたいからだ。すると幽香さんは、『あの貧乏巫女の神社とは大違いね......』などと呟いていた。......なんか気になるな。その巫女さんがいる神社って、そんなに酷い所なの?
「妖怪が出入りしているわ」
「それは本当に神社なのかなぁ!?」
幽香さんからの思いもよらぬカミングアウトに、つい大声をあげてしまった。っていうかそれ、十中八九神社じゃないよね!?参拝客が襲われちゃうよ?それでいいのか巫女!!
......あぁ、なるほど。だから貧乏なのか。参拝客が居ないから。なんて悲しいんだ。
僕は幻想郷に居るであろうその巫女に同情すると、懐から用意しておいたサイフを取り出した。中から500円玉を抜け出し、それを賽銭箱に入れる。チャリンチャリンと小刻みのいい音をがしたことを確認すると、僕らは両手を合わせ、それぞれの願いを心の中で唱えた。
―――もしあいつと会ったのならば、仲直り出来ますように......。
それが、今までずっと僕が願っていたこと。けれどわかっている。この願いは、叶えられる可能性が少ないことを。僕はあいつの居る場所を知らないし、僕自身も家を引っ越して、マンションで一人暮らしをやっていたのだ。今更会える訳もない。けれど、それでも......。
訪れる静寂。シンとした空間。僕の頭の中に思い浮かぶのは、『幼なじみ』の無邪気な笑顔。
それから数秒後、僕はゆっくりと瞼を開けた。隣を見ると、幽香さんも願い事は終わったようだった。僕らはお互いを見て、クスリと笑う。
「幽香さんはどんな願い事したの?」
「世界平和よ。貴方は?」
「世界征服だよ」
そう言って、またクスクスと笑い合う僕たち。やはりいいね、こうやってじゃれ合うのは。ずっと独りだった僕には、とても新鮮なものだ。
「さぁ蓮花、帰りましょうか。早く貴方の作ったご飯が食べたいわ」
「りょーかい。今日は腕によりをかけて作ってあげるよ。楽しみにしててね」
「あら、じゃあ期待しようかしら。フフ、楽しみね」
そんな他愛もない話をしながら、僕らは元来た道を引き返して行くのだった......。
『ハァ......まさか、あの花妖怪をこんな所で見ることになるとはねぇ』
『大丈夫なの?あの子って、今日帰ってくるんでしょ?しかもよりにもよって、あの子の想い人である彼があの花妖怪と関わりがあるなんて......』
そよそよと凪いでいた風と共に、微かに響いたこの声は、既にその場に居なかった僕らには聞く由もなかっだろう。
❁❀✿✾
「幽香さん。僕は明日から学校があるから、家に君一人残してしまうけど、大丈夫?」
「そんなの大丈夫よ。ちゃんとお留守番してるわ。泥棒が入ってきても追い返してあげるから、安心なさい」
いや、勢い余って殺さないでよ?とは流石に言えないので、僕は一人苦笑する。
所変わって、今現在僕らが居るのはバスの中。簡単な話、今帰っている真っ最中なのだ。
当然、僕の座っている隣には幽香さんが座っている。正直、絶世の美人がすぐ近くに居るとなると、ドキドキしてしまうのが人間の性。その中でも僕は一際ドキドキしていることだろう。しょうがない、それがチキン道というやつなのだ。なんと言われようが、僕はその道を貫くぞ!......言ってて欝になってきた。端的に言えば、自分で自分を貶してるようなもんだからね。
「? 蓮花、どうしたの?物凄くドンヨリしているように見えるのだけれど......」
「うん。気にしないで幽香さん。ちょっと死にたくなってきただけだから」
「本当にどうしちゃったのよ......」
おぉ?あの幽香さんが心配してくれている?やったね!心配してくれている幽香さんを見ていると、涙腺が緩んできちゃうよ。ううっ、ありがとう幽香さん......。
「そんなにドンヨリしてると、これからの精神攻撃を手加減しなくちゃいけないじゃない」
「だよねーそうだよねーアハハハハ......」
ええわかってましたとも。結局こうなることは予想してましたとも。だから悔しくなんかないもんね!き、期待なんかしてないもん!心配してくれているとか思ってないもん!......なんか、別の意味で涙腺が緩んできゃったよ。だが泣かない!僕はもう泣かないと決めたのだ!......なんか口の中がしょっぱい。目から汗が流れてるのか。納得。
「蓮花、貴方どうして泣いてるの?」
「何を言ってるんだ君はーこれは汗だよーアッハッハッハッハ」
「...........」
やめて。そんな絶対零度な目線を僕に向けないで。死んじゃうから。僕が悪かったです泣いてましたすいません。ほらこれでいい?これでいいんでしょ!?
そうやけぐそ気味に言い放って、幽香さんとは反対の方向にそっぽを向ける。あぁ、過ぎ去ってゆく景色が綺麗だねぇ。よし、心が落ち着いてきた。やはりこれに限る。心を落ち着かせるには。
......まったく。これじゃあこれから先の学園生活、苦労しかないよ。
一度大きなため息をつき、再度幽香さんの方を向く。相変わらず幽香は笑っている。くそぅ。その笑み、今日で消してやるぜ。
もはや既に、僕はバスから見える外の景色を見てはいなかった。
あぁ、だからだろうか?だから、だから僕は......。
『ふっふふ〜ん♪ふっふふ〜ん♪ふっふっふ〜ん♪』
―――緑色の髪をした少女が、バスの窓から見える、過ぎ去ってゆく景色と共に居たことに気付かなかったんだ......。