絶対に合うはずがないと、そう思っていた幼なじみ、早苗とのまさかの再開。
最初は戸惑っていた僕。でも、すぐに考えを改めなおすことにした。
だって、この機会に、僕は早苗に謝りたいのだから。それだけをずっと思っていたから。あの日あの時から、早苗を傷付け続けていたことへの謝罪をしたかったのだから。
もしかして、僕の毎月の神社での願いが叶ったのだろうか?神様が僕に、早苗に謝れと言っているのだろうか?
だとしたらこれは、もしかして『奇跡』と呼べるのではないだろうか......?
❁❀✿✾
僕らがいまいる場所は、校舎の中でもほとんど人が寄り付かない屋上。何故屋上なのに人が寄り付かないのか。簡単な話、この学校の屋上は基本的に出入り禁止となっているのだ。だからほとんど人が寄り付かない。
そんな学校の規則を無視して、僕と早苗は屋上に来ている。
それほど大事な話があるのだ。僕にも......そして、おそらく早苗にも。
早苗はまるで懐かしむかのように、いや、実際に懐かしんでいるのだろう。屋上から見えるこの街の姿を見ながら、クスッと微笑んでいた。屋上に設置されている手すりに身を乗り出して、風を受け止めているかのようにここから見える風景を懐かしんでい。
訪れる暫くの静寂。先に言葉を発したのは、早苗。
「本当に久しぶりですね、レン君。そしてこの街に来るのも久しぶりです。何も変わってないんですね、この街は......そして、レン君も」
「......早苗」
「その様子だと、この学校にはやはりレン君のことを知ってる人達は居ないんですね。よかっじゃないですか。もう、あんな思いをしなくていいんですから」
「早苗」
「懐かしいですよねー。ホント、全部懐かしいです......。あ、聞いてくださいよレン君。向こうの学校に居た時ですけどね、もうこれが本当に酷い話で―――「早苗!!」―――......はい。わかりましたよ。せっかちですね、レン君は」
僕の呼びかけをはぐらかす早苗にしびれを切らした僕は、声を張り上げて叫んだ。もう、巫山戯てる場合じゃないんだ。それは早苗も理解しているのだろう。だからこそ、僕からの呼びかけをはぐらかしていたのかもしれない。誰もがこんな雰囲気を望んじゃいないのだから。
「早苗......まずは君に、言う事がある。とても大事なことなんだ」
「......いいですよ。聞きます」
だからこそ、巫山戯てないで、この雰囲気に終止符を打とう。僕が君に言いたかった一言。言いたかったのに、今までずっと言えなかった一言。
僕は......君に、
「――ごめん。本当に、ごめんなさい。謝って許されることじゃないっていうのはわかってる。僕は君を傷付けたんだから。君の意見も聞かずに、勝手に自己判断して、君を何度も泣かせてしまったのだから。こんなことを言う権利もないっていうことも理解している。でも、これだけは言わせてくれ。......ごめんなさい......!」
そう言うと同時に、早苗に向かって頭を深々と下げる。僕にできる、最大の謝罪の誠意。
そして、やっと、やっと言えた......。
ずっと言えなかった一言。『ごめんなさい』。これだけを早苗に言いたかった。許してもらおうだなんて思っていない。だって、僕はそれほどのことを早苗にしたのだから。深い傷を負わせてしまったんだから。
今早苗は、どんな顔をしているのだろうか?頭を下げている僕には早苗の顔を伺うことはできない。やはり怒っている顔なのだろうか?それとも嫌悪の顔をしているのだろうか?少なくとも、良い顔はしていないだろう。
ザッザッと、足音が聞こえる。早苗の足音だ。頭を下げている僕に近づいてくる。何を言われるのだろうか?罵倒だろうか?やはり怖い。そう言われるという覚悟はしているのだが、やはり怖いのだ。早苗からそう責められるのが。
足音は僕のすぐ近くで止まった。
僕は目を強くつぶる。どんな言葉をかけられても耐えられるように、気休め程度でしかないが、それでもギュッとつぶる。まるで、今から親に怒られる子供のように。
そして―――
「ふぁっきゅー」
星を見た。いや、見せられたのだ。ほら、漫画とかでよくあるでしょ?頭に強い衝撃を喰らって頭の当辺りを星が回るやつ。今の僕を表す表現がまさしくそれだ。
頭突き。そう、頭突きをされたのだ。人体の急所の一つである後頭部に。誰にされた?もちろんそれは早苗で......って、
「いったぁぁぁ!?マジで痛い!頭が割れる!なんで頭突き!?」
「レン君がおかしなことを言うからです」
「はぁ!?」
意味がわからない。早苗は何を言っているんだ?おかしなこと?もしかして、僕が先ほど言った、謝罪の言葉のことなのだろうか?いや、だとしたらどこもおかしくないだろ。
意味がわからず、未だにジンジンする後頭部を押さえている僕に、早苗はいいですか?と人差し指をこちらに指しながら訳を言った。
「私はレン君に感謝することはあれ、恨むようなことなんて一つもありせん」
「............は?」
意味が、わからない。それこそ意味がわからないよ。感謝することはあれ恨むようなことなんて一つもない?そんな筈はない。ある筈がないんだ。
「......なんで?僕は君を傷付けたんだよ?自分の勝手な考えで、君を傷付けてしまったんだよ!?なのに、感謝することはあれ恨むようなことはない?そんなの嘘―――「だって!!」―――!?」
「だってそれは全部......私を、守るためだったじゃないですか......!」
「―――っ!!......なん、で」
なんでそのことを知っている?誰にも言ったことはないはずだ。それなのに、どうして早苗は知っている?わからない。もうわからないことだらけだよ!
苦渋している僕の表情を見たからだろうか。目の前にいる早苗は、安心してくださいと言わんばかりの笑顔を僕に向けて、何故知っているのかの説明をしてくれた。
「レン君が私にイジメの対象にならないようにあんな態度をとっていたことを、教えてくれ方たちがいました。だからこそ、私はあなたに感謝することはあれ、恨むようなことなんて一つもありませんと言ったんです。だって、あなたは私を守ってくれたじゃないですか。最も、教えられたのが電車に乗る直前だったし、あの場にレン君がいなかったから伝えることもできませんでしたけど......けど、あの時からずっと、私はあなたに言いたいことがあったんです
―――私を守ってくれて、ありがとう。ただ、ありがとうって言いたかったの......!ずっとずっと言えなかった。あなたに感謝の言葉を送れなかった。でも今言えた!言えたんです!とてもスッキリしましたよ。もう一度言います。ありがとう......」
「......」
......そっかぁ。早苗も、僕と同じ、いや下手したら僕以上にその『言葉』を言えなかったことに、伝えられなかったことに苦しんでいたのかもしれない。
あぁ、なんだ......言ってみれば、簡単なことじゃないか。こんなに分かり合えるんじゃないか。何が許してもらえないかもしれない。許してもらおうなんて思ってない、だ。結局の話僕は、早苗を信用していなかったんじゃないか。
言ってみればこんなにも......こんなにも......
「早苗......。僕と、仲直りしてくれる......?もう一度あの頃みたいに、僕と接してくれるかな?」
「はい......。こちらこそ、喜んで仲直りさせてください......。あの頃みたいに、いや、あの頃以上にあなたと接してあげますよ」
―――こんなにも、簡単な問題だったんじゃないか。
幽香さん。ねぇ聞いてよ幽香さん。僕が深刻だと思ってた問題は、思っていたほど対したことがなかったみたいなんだ。僕が逃げていただけなんだ。現実から。早苗から。自分から。でもそこから一歩進めば、こんなにも結果は違うことになる。
幽香さん。もし君がいなかったら、もし君が僕に勇気を与えてくれるきっかけになっていなければ、僕は早苗と会っても仲直りできなかっただろう。
そんな君に一言言いたい......ありがとう、って。
結局その後僕と早苗は、先生が屋上に見回りに来るまでずっと、屋上から見えるこの街の風景と夕暮れの太陽を眺めていた。
オマケ話
「ねぇ早苗。結局僕が君を守るためにやっていたことを教えた方って、誰のことなの?かなり気になるんだけど」
「ああ、そのことですか。ふっふっふ。いいでしょう、教えてあげます!私にそのことを教えてくれた方とは!」
「方とは?」
「―――なんと二柱の神様なのです!」
「......ああもしもし救急車ですか?いやですね、ちょっと変な宗教団体に催眠術を施された幼なじみが隣にいるんですけど......」
「ふぁっきゅー」
ゴツンッ。