花妖怪の君と過ごした最高の日々   作:『向日葵』

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花妖怪の私が寂しいと感じた日

 

早朝。

 

鳥たちが日の出を喜び空を飛び回りながら囀っている中、私こと風見幽香は、今日は珍しく遅起きをしてしまった。遅起き、と言っても、いつも起きていた時間より三、四十分遅いくらいなもので、他人からすればそんなに気にすることはないのだが、私にとっては少し気になるのである。

......まあ、基本生活リズムを滅多に崩したりはしない私だからこそ気にするのであるが。

 

 

閑話休題。

 

 

気にしていても仕方がない。

本当は気になるのだが、理由がわからないので今は気にしていられない、と。そう考えることにして、私は手馴れた手付きで自分の部屋のドア――自分の部屋と言ってもこの部屋は、本当は花を一番管理してあるところなのだが、蓮花に無理を言って、この部屋を私の部屋にしてもらった。単純に私が気に入っただけなのである――を開き、リビングへと向かった。

 

「おはよう。今日は珍しく遅起きをしてしまったわ。ところで蓮花、ご飯はあるか、し......ら?」

 

この時間帯なら蓮花も起きていて、ご飯も作っているだろうと、そう考えリビングに着いた私なのだが、そのリビングを見回してとある違和感に気付く。

 

 

 

―――蓮花がいない。

 

 

 

そう、蓮花がいないのである。蓮花がいないのである。大事なことだから二回言った。一大事だからこそ二回言った。では、何が一大事なのか?それはもちろん......。

 

 

 

 

 

「私の......ご飯は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、危なかったわ。予め作られてたご飯が冷蔵庫に入れられてなかったら、どうなっていたことか......」

 

今日は蓮花が『学校』、というところに行くので、朝は居ないということをすっかり忘れていたのだ。お陰様で随分時間はかかったが、なんとか作られていたご飯を食べることで危機は脱した。

その時の私の様子を一言で表すとするならば、焦り。そう、それはもう、かなり焦った。

妖怪として生を受けてからの今までの人生――いや、妖怪だから妖生だろうか?割とどうでもいい――の中で、ワーストワンに入るほど焦ってしまったのだ。まったく、恥ずかしい。

 

さて......もう気付いている者もいるだろうが、何を隠そう、私は家事が全く出来ないのである。

例えるなら、何か料理を作ってくれと言われたら未元物質を作り、掃除をしてくれと言われたら、チマチマしたことが嫌いなのでマスタースパークで辺り一面を吹き飛ばして掃除したり......。

 

餓死?何を妖怪が。それくらいじゃあ死なないだろ?と思う者も出てくるだろうが、どうやらそうもいかないらしい。

私を幻想郷からここ、外の世界に連れ出した本人であるスキマ妖怪は、この世界に私を送る際こう言った。

 

 

『先に忠告しておくわよ幽香。幻想郷と外の世界では、色々と勝手が違うわ。例えるならそうね......制限が掛かってしまうのよ。幻想郷での常識は、外の世界では非常識になる。受け入れられなくなってしまうのよ』

 

 

まあ、簡単な話、食べ物を食べなくても餓死しないという幻想郷での常識は、外の世界......ここでは非常識になってしまう。つまり私は食べ物を食べなくては死んでしまうし、その過程でお腹が減ったりしてしまうのだ。

蓮花が住んでいるこのマンションに来るまでは、それはもう地獄だったわ。

お腹は減るし、力は大分制限されてるし、なにより空を飛べなくなったのがキツかった。だからこそ、外の世界に来てから数日で蓮花という存在に会えたのは行幸だったわ。彼がいなければ、今頃私はそこらへんの道端で野垂れ死んでいるだろう。そんな死に方絶対にごめんだわ。大妖怪にあるまじき死に方。

 

 

それに......私と彼は、決して無関係ではない。

 

 

私がこちらの世界に来たのも、それらの理由が大半を占めている。あとの理由は花の種だったりするのだが、そこは今の話に割と関係ないため省かせてもらう。

 

彼が幼い頃、私と彼はもう既に出会っていた。つまり一時的とはいえ、彼は幻想郷に来ていたことがあったのだ。最も、もう彼自身は覚えていないのだろうが。......いや、

 

「忘れさせた、の間違いかしらね......」

 

そう。忘れさせた。蓮花から幻想郷にいたということを、ひまわり畑に来たという記憶を、私と会ったという事実を忘れさせた。

そう、その方がいいのだ。それでいいのだ。少なくとも、彼にとってはその方がいい。思い出す必要なんてない。『あんな事』、思い出さなくてもいいのだから......。

 

それこそが私の目的。外の世界に来た理由。偶然蓮花の家に居候させてもらった?蓮花以外の人のところでも居候させてもらっていた?それは違う。蓮花じゃなきゃダメだった。......つまり、私の目的は。蓮花じゃないとダメな理由は。

 

「蓮花はあの時のことを思い出していない、か。私の杞憂だったのかしら......?」

 

―――蓮花の記憶だ。

蓮花が幻想郷の時のことを思い出してないかの確認。そのために、私は幻想郷から外の世界に来た。

まあ最も、私の心配は杞憂だったようで、蓮花は何事もなく生活している。

しかし、いつどこで記憶が戻るかもわからない。あのスキマ妖怪の封印術だって完璧じゃないのだから。だからこそ、大丈夫だという確実な証拠が揃わない限りは、私はこの家にいようと思う。

 

それに......、

 

「一昔前じゃ、考えられなかったわね......」

 

―――居心地がいいから、ずっと居ようかなと思うだなんてね、と付け加えて、私は辺りを見渡した。

 

そうして目に入るのは、色鮮やかに咲いている花達。夏の自由研究等で有名なアサガオは当たり前、アデッサ、トケイソウ、ニチニチソウなど、様々な花達がその花弁を晒している。とても幻想的で、とても綺麗な光景だ。やはり蓮花はすごい。花達に対する知識や愛情なら私と同等くらいだ。流石、私が認めた人間。

......まあ、私は花達の声が聞けるので、水の差し加減、害虫の駆除等がいち早く行えるから、蓮花より効率はいい。ちょっと優勢感を得てしまい、喜んでしまったのは蓮花には内緒だ。言ったら拗ねてしまうから。ふふっ。

 

......とは言っても、今現在花達の声は聞こえない。

 

こんなにも数々の花がいるのに、だ。理由は簡単。寝ているだけなのだ。

花達だって人間と同じだ。人間たちが食事をしなければ死んでしまうように、花達も水や肥料がなければ枯れてしまう。だから今のように、寝ていることだってあるのだ。......でも。

 

「......静か、ね」

 

ポツリ、とそう呟いた。自分でも驚きだ。まさか私が、『寂しい』と感じてしまうなんて。花達が眠って静かになることなんていくらでもあったというのに、こんな感情を抱いたのは今日が初めて。何故こんな感情を抱いてしまったのだろうか、と疑問に思ったが、答えはすぐに見つかった。

 

「......蓮花」

 

返事は返ってこない。いつもなら蓮花が『なに?どうしたの、幽香さん?』と不安な気持ちでさえ晴れやかにしてくれる笑顔で言ってくるのに......。

 

今は、その眩しい、まるで太陽みたいな笑顔がない。

 

なんでだろう。たった一人欠けただけ。たったそれだけだというのに、あの笑顔がないというだけなのに、なのにどうして......どうして私は、

 

 

―――どうしてこんなにも不安に、なってしまうのだろうか......?

 

 

「早く帰ってきなさいよ、このバカ......」

 

そう呟いた私の声は、自分でも驚くほどか弱く、やはり誰にも返事をされることなく虚しく部屋に響いて消えていった......。

 

 

 

 

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