花妖怪の君と過ごした最高の日々   作:『向日葵』

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花妖怪の私が毒されたと気付いた日

 

―――『守る程度の能力』。

 

 

それが私の考えついた、蓮花の持っている能力の名前。あくまでも憶測でしかないが、蓮花の話を聞いていた限りでは、彼の持っている能力の名前は現時点でこんなものだ。

 

私は蓮花が帰ってくるまでの間、彼自身のことについて考えることにした。そうして思いついたのが、彼の能力。

ひとえに能力、と言っても様々なものがある。水を出すやつもあれば、火を生み出すものまで。能力というのは多種多様なのだ。しかし、どの能力にも共通しているものが、一つだけある。

 

どんな能力にも、メリットがあればデメリットがあること。それが、全ての能力の共通点。

 

例えばの話だが、私をこちら、外の世界に連れてきたあのスキマ妖怪の、『境界を操る程度の能力』。

彼女の能力はその名の通り、全てにある『境界』の有無を操ることのできる、とても汎用性に優れた力。境界を使ったスキマでの瞬間移動、自分だけの空間、他人の境界を操り弄るなど、数え上げればきりが無い。それ程までに便利なのだ、彼女の能力は。

 

......だがやはり、そんな彼女の能力にもデメリット、欠点というものはある。存在してしまう。

 

彼女の能力は、使い用によっては神すらも凌駕するものになる。なにせ万物の境界を操れることのできる能力なのだ。それくらいは造作もないだろう。

しかし彼女が万物の境界を操れるのかと言えば、答えは否。正確に言ってしまえば彼女は、『自分の理解が及ばない境界は操れない』のだ。これが欠点。

 

つまりあのスキマ妖怪は、予想外の攻撃、要は奇襲等などに弱い。

 

......まあ、それを差し引いても彼女には驚異的な頭脳がある。『妖怪の賢者』などと呼ばれるくらいだ。相手の奇襲などは多方予想もできているだろう。

 

そして私の持つ能力、『花を操る程度の能力』にも勿論欠点がある。

 

基本的に私の能力は、戦闘のサポートを主としている。相手にとって有毒の花粉を出す花を構築したり、花のツタに自分の妖力を張り巡らせて相手を縛り上げることなど、そんなものだ。

この能力の欠点はズバリ、『決定打に欠ける』こと、かしらね。まあ、そこはなんら問題はないわ。決定打に欠けるのなら、私自身が決定打になればいい。私にはそれを担うことのできる身体能力があるし、経験があるのだから。

 

......でも。

 

「それらに比べて蓮花の能力は、デメリットが大き過ぎる......」

 

そう。それなのだ。正しくその通りなのだ。蓮花の守る程度の能力のメリットは、どんな攻撃にでも耐えられることだろう。単純だからこそ、一つに特化しているからこそ、最大限にまで力を発揮できる能力。

おそらくだけど、この私の最高の一撃すら守ることができるでしょうね、彼の能力は。......けれど、彼の能力のデメリットは、明らかに危険なもの。

 

彼の能力のデメリットを一言で表すとしたら、そう、『対価』。

 

細かく言うならば、メリット分の対価を支払うこと。それが彼の能力の欠点。つまり彼は、能力を使い何かを守るたび、何かを失うということになるのだ。

この前蓮花が話してくれた昔の話。能力を無自覚に使ってしまい、それから化け物と罵られ続けた黒い過去。私はその過去の話を聞いていた時、こう思ってしまったわ。

 

―――おかしくはないだろうか?と。

 

人の噂も七十五日、とはよくある言葉だ。だが蓮花の場合は、中学時代まで化け物と呼ばれ続け、家を越し、知り合いが誰もいない高校――と言っても、蓮花自身から聞いた話なのだが――に行ったにも関わらず、今でも周りから距離を置かれている。

 

いくらなんでも長過ぎる。どれほど強烈な印象を持つ者でも、時間が経てばいずれ印象など薄れていくものなのだ。なのに蓮花は、その印象が薄れていくこともなく六年以上も続いている。

挙句に蓮花のことを全く知らない人達でさえ、蓮花を避けている始末。これは明らかに異常。

つまり彼が、蓮花が花を守るために力を使い、友人の骨を不自然な方向に折った時。彼が、失ったものは―――そう、『絆』。繋がり、とも言えるかしらね。

 

小さかった頃もあり、無自覚に使ったこともあってか、能力の制御を上手くできなかったのだろう。結果的に使ってしまった力で彼が失ったものは、彼の人生を台無しにしてしまうものだった、というわけだ。

絆、繋がりを失った彼は、誰からも理解されず、誰からも遠ざけられ、どんどん孤立していった。だから、彼は独り。ずっと独りだったのだ。......いや、

 

「少なくとも、今は私がいるから、蓮花はもう独りなんかじゃない、かしらね?」

 

そうだ。彼は確かに、人との絆を、繋がりを失ったかもしれない。けれどもそれは、『人』だ。妖怪である私にはなんともない。現に今も、私は蓮花に対して嫌悪感を抱いてなんかいないのだから。

私が、唯一の理解者。蓮花のことをわかってあげられる、蓮花の傷を癒すことのできる、唯一の存在。少なくとも私は、蓮花のためになっているだろう。『そう考える』と、不思議と笑みが出てくる。

 

「ふふっ。......?」

 

しかし、笑って気付く。自分の中にいつの間にかあった満足感に。いつの間にか微笑んでいる自分自身に。

 

......なんで、満足しているのだろうか?どうして、微笑んでいるのだろうか?蓮花のためになっていると、そう考えたから?

......なんだろうか、この気持ちは。蓮花のためになっていると思うと、心が温かくなってくる。不思議な感覚ね。でも、嫌じゃない。ちょっとくすぐったい感じ。

 

クス、と。笑みを一つこぼす。......そう言えば、ここ最近よく笑うようになったわね。

 

幻想郷にいた頃の私は、花達の世話をする時以外は、基本的に笑わない。それが今や、蓮花の面白おかしい一挙一動を見るたび、思い出すたび笑みが出てくる。

 

「......随分と毒されたものね、私も」

 

ええ、本当に。随分と毒されたものだわ、この生活にも、蓮花のあの性格にも。

花達の世話をする時の蓮花は、本当に幸せそう。まるで私みたいだもの。満面の、それでいて慈愛の溢れている笑顔で花達に水をやる蓮花は、見ていて気持ちのいいものだった。その時の蓮花の笑顔を表現するとしたら、そう、太陽。花達に元気を与える、そんな太陽みたいな笑顔だったわ。

 

......だからこそ、毒された。だからこそ、嫌だった。

 

蓮花が私に、自らの秘密を打ち明けた時の、あの表情。私になんて言われるかビクビクして、今にも泣きそうだったあの表情。いつもはあんなにも笑っているのに、まるでそれが嘘のように彼の顔から笑顔というものが消えていて。......それが無性に、嫌だった。

 

だから私は言った。自分の正直な気持ちを。貴方は誇れることをしたのよ、って。一つの命を救ったのよ、って。その瞬間に泣いた彼を見て、随分と驚いたものだわ。それから泣きじゃくる蓮花を抱きしめて、大丈夫ってなるべく優しく囁きながら彼を慰めて。普段の私なら絶対にしないようなこと。でもその時は、彼の泣いた顔なんて見たくなかったから、そうしたんだと思う。

 

「......蓮花」

 

あぁ、マズイわね。思い返していたらまた寂しくなってきたわ。花達も皆、起きる気配はないし。あぁもう、早く帰ってきなさいよこのバカ。いつまで待たせるつもりなのかしら。もうこの際、蓮花の通っている『学校』というのを破壊してやろうかしらね?そうすれば蓮花はいつも家に居て、出かけるとしても私も一緒なのに。......ってああ、そう言えば今の私、力がほとんど出せなかったのよね。忘れてたわ。......はぁ。

 

リビングのテーブルに突っ伏しながら、憂鬱になる私。一体何を考えてのだろうか、私は、と突っ伏しながら自問自答。そもそも何故、たかだか私と『訳あり』なだけの人間一人にここまで毒されなければいけないのか......。

 

などと、そう考え始めた時だった。

 

 

 

 

『ただいまー......―――』

 

 

 

 

「―――ッ!」

 

バッと、テーブルに突っ伏していた頭を即座に上げ、急いで立ち上がる。それはもう、高速で。何よりも早く。

 

―――帰ってきた!

 

先程まで曇っていた顔が、嘘みたいに笑顔になるのが自分でもわかった。ふむ、やはり随分と毒されたものね。......って、今はそんなことどうでもいい。

これでやっと蓮花とゆっくり話ができるわ。花達と話すのは楽しいけれど、やっぱり彼と話す方が、とても楽しい。彼の話は、私の心をいつも踊らせてくれるもの。さぁ、今日はどんな話を聞かせてくれるのかしら?

 

さっきまで感じていた寂しさもどこかへと吹き飛び、走るような急ぎ歩きで蓮花が居るであろう玄関へと向かう。

そこにいるのは、いつもと変らない蓮花で......な、なんで私は緊張しているのかしら?ん、んんっ。いつもの私に戻りなさい。蓮花相手に緊張する必要もないでしょう。

 

「お、おかえりなさい、蓮花。き、今日は朝早かったのね。出ていったの、全然気付かなかったわ。それよりほら、早く入って私の相手を............貴女、誰?」

 

結局緊張してしまったため、声がうわずってしまい、何度も噛みそうになった。......が、今はそんなことどうでもいい。

 

 

 

 

 

ねぇ、蓮花?

 

 

 

 

 

―――貴方の後ろにいる、その女は、誰なのかしら......?

 

 

 

 

 

心が、チクリと痛かった。

 

 

 

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