「あら?ペットって、首輪を付けるものなのね。......そうだ蓮花!貴方にも首輪を付けないと!」
「僕は人間なんだけど!?」
叫んだ。それはもう、心の底から。
もしかしなくてもあれだろうか。幽香さんは僕の事を、ペットとして見ているのだろうか?だとしたら、即刻この家(マンション)から出て行ってもらうよ?いいの!?
「フフ。冗談よ、冗談。貴方にはここに住ませてもらっている恩もあるし、そんな扱いはしないわ」
「どうだかね。幽香さん、貴女の性格はこの一週間でよ〜く理解してるから、その言葉が冗談とは聞こえないんだよ」
「あらあら、そんな事思われてるなんて心外だわ。私ほど平和を愛している者は居ないわよ?」
どの口が言うんだ、どの口が......。
そうため息混じりに呟いて、僕は何時も通りに花の世話を始めた。
―――そう。幽香さんが僕の家で住み始めてから、早一週間が過ぎていた。
最初は嫌がっていた僕だったが、このままだと彼女は住む所が無いんじゃ......?と思ってしまい、仕方なく彼女を住ませる事にした。もう一度言うが、仕方なく、だ。
べ、別に脅された訳じゃないんだよ?本当だよ!?ただ、ちょっとした『お話』をしただけさ!......日傘を突き付けられながら、ね。
閑話休題。
そんなこんなで僕は、幽香さんと言う美人の同居人が出来たのだった。
まぁ僕としても、こんな美人の同居人が出来たっていうのは喜ばしい事だしね。そんなに不満は無い。
ただ、不満があるとしたら......そう、幽香さんの性格ぐらい、かな。
この一週間で分かったのだが、幽香さんはかなりのドSだ。親切のSじゃないよ?もう一つの方のSだからね?
つまりは、サディスト。幽香さんは人を弄ることを、快感としているのだ。それはもうタチが悪い程に......ね。
だけど、何も悪い事ばかりじゃない。
「―――蓮花。その子達、もうお腹いっぱいだわ」
「ん、了解」
幽香さんに忠告されたので、花に水をやるのを止める。
そう。これが、僕にとって一番良いメリットなのだ。
―――幽香さんは、妖怪だ。それも、花妖怪。
因みに言っておくが、僕の頭は正常だ。だから『あぁ、もうコイツはダメだ......』的な哀れみの視線はやめてくれ。
そりゃあ、ね。僕だって、最初は信じてなかったよ。幽香さんが妖怪だなんてさ。
でも、そう信じざるおえない出来事が二つあったんだ。
まず一つが、その驚異的な身体能力。
僕と初めて会った日もそうだが、とにかく腕力や耐久力とかが半端じゃなく高い。
少し前に、幽香さんの力はどれぐらいあるのだろうかと思って『ねぇ幽香さん。ちょっとこれ、握ってみて』と言ってスチール缶を渡したんだ。
皆も知っての通り、スチール缶はアルミ缶と違い結構硬い。握力が四十以上ある僕ですら、ちょっと凹ませるのがやっとなのだ。
それなのに幽香さんは、涼しい顔してスチール缶を握り潰したのだ。それもただの潰し方じゃない。
幽香さんがスチール缶を握った時、消えたと錯覚するぐらいの速さでスチール缶が潰されていた。
そして幽香が握った掌を開けた時、ビー玉ほどに圧縮されていたスチール缶が、そこにはあった。
それと同時に、僕は理解した。いや、してしまったんだ。
あぁ、幽香さんだけは、絶対に怒らせてはいけないんだ......と。
そして二つ目。主にこっちの方が、幽香さんが本当に花妖怪なのだと実感した出来事であった。
なんと幽香さんは、花達と話すことが出来るのだ。勿論ちゃんとした証拠もある。
幽香さんと一緒に食事をしていた時、幽香さんが唐突に『あら?ねぇ蓮花。貴方の部屋の子達が、虫を追い払ってほしいって言ってるわよ?』などと言ってきたのだ。
何を馬鹿な事を......と思いながらも、僕は食事を一時中断し、自分の部屋に入って驚愕した。
―――なんと、花達に花の害となる虫が沢山群がっていたのだ。
その時は幽香さんに言われて気づけたけど、もしあそこで花達を放置していたかと思うと......ゾッとする。
この出来事が一回だけならまだしも、この一週間の間に何回もあったのだ。そうなってしまってはもう、幽香さんの言う事を信じざるおえない。
「フフ。いい手際ね蓮花。この子達も喜んでるわ」
「そっか......それなら、世話をしたかいがあったってもんだよ」
そしてこうやって、僕に花達の状態や言ってくれた事を伝えてくれるのだ。
―――これがもう本当に助かる。
だって、僕には分からない花達の細かな異常でも、幽香さんは敏感に察知出来る。しかもそれを、直ぐに僕に伝えてくれるのだ。この事に関しては幽香さんに心から感謝している。
実の所、最近花達の世話がめちゃくちゃ楽しい。
いや、前からも花達の世話は楽しかった。
だけど、幽香さんが来た事によって更に花達の世話が楽しくなったのだ。
僕は花達と話せない。だが、幽香さんは花達と話す事が出来る。
「クスクス。蓮花、貴方かなり好かれてるわね。こんなにも花達に好かれてる人間を見るのは初めてだわ」
「や、やめてくれ恥ずかしい......」
つまりこうやって幽香さんが翻訳となり、花達の言葉を聞く事が出来るのだ。
僕はこの事が嬉しかった。純粋に、ただただ嬉しかったのだ。
好きな花達の言葉を聞く事が出来る。ただそれだけで、僕は満足していた。
そうやって幽香さんに感謝しながらも、最後の花に水やりをする。
そうして、毎日の日課が終わった。
「......うん。今日のノルマ、終わりっと」
「ご苦労さま。はい蓮花、貴方にも水よ」
「ん、ありがとう」
そう言って幽香さんから水の入ったコップを受け取り、口を付けて水を飲み込む。
うん、うまい。喉の渇きが潤うね。
いやぁ、本当に幽香さんが来て良かったよ......。
美人だし、僕より花のこと詳しいし、気が利くし、何より花と話せるし......だから、だからせめてね.......?
「そうだわ蓮花。白の首輪と赤の首輪、貴方はどっちがいいかしら?」
「............」
せめてその性格をなんとか出来れば、文句無しだったんだけどなぁ......。