『貴方、やっぱり覚えが早いわね。素質があるわ。どう?花の世話は楽しいかしら?』
『うん!とっても楽しいよ!どんどん成長していくお花を見てると、嬉しいって思うもん!』
そう言って向日葵に水をかける『僕』。その表情はとても楽しそうだ。そんな僕を見て、恐らく微笑んでいるであろう女性。いつものように、その女性を直視することはできない。
『そう。わかるわよ、その気持ち。自分の手で育てたって思うと、やっぱり充実感もあるものね』
『じゅーじつかん?っていうのはよくわからないけれど......でも、お姉さんも楽しいってことはわかるよ!』
本当に不思議な夢だ。見ていると、とても懐かしく思えてくる。それと同時に......思い出してはならないような気もしてくる。
―――『これ』は一体、なんなのだろうか......?
自分で自分のことがわからない。この夢は、確かに僕が昔経験したことのある出来事。だが当の本人であるはずの僕が思い出せない。なんか、変な気持ちになってくる。
『ふふっ。ええ、楽しいわ。最近は貴方がいるからもっと楽しいわね。......あら?』
『?どうかしたの、お姉さん?』
『ええ、お客さんよ。ちょっと歳食ったスキマのお客さんが、ね』
❁❀✿✾
早苗と仲直りした時、僕はこう思ったんだ。
―――あぁ、今日はなんて日なんだろうか!
帰りついて幽香さんに会った時、僕はこう思ったんだ。
―――あぁ、今日はなんて日なんだろうか......。
全く同じことを思ったはずなのに、この温度差はなんだろうね。僕にはとても理解ができないよ。それを思った張本人なのに。
「......」
「......」
「......」
無言。
僕、早苗、幽香さんという実に三人という人数にも関わらず、なんの話もない。無言である。
今現在の僕らは、リビングの真ん中で、テーブルを挟んで座っている形になっている。僕の隣に、幼なじみである早苗。そんな僕ら二人の対面に座っている、幽香さん。
最後に三人のうち誰かが喋った言葉といえば、家に入る際の早苗の『お邪魔します』というものだけだった。それからは無言。あれから実に数十分という時間が経っているのにも関わらずに、だ。
......正直、気まずすぎるんですけど?
「......」
「......」
「......」
無言。
え?どうしたらいいの?こんな時この中唯一男の子である僕はどうしたらいいのかなぁ?誰か教えて切実にお願いいたします!
......そう願ってもどうにもならないのが、現実というもの。ならばやはり、僕の力でどうにかしようじゃないか。
とりあえず一言でも何か喋れば、この空気を変えられるはず!
「あ―――」
「......あ?」
「......」
ごめんなさい素人がナマ言ってすいません。
いや待って幽香さんマジ怖い。え?喋った言葉が『あ』だけってどゆことなの?これじゃあ会話すら成り立たないよ。でも怖いんだから仕方がない。あのまま喋ってたら、多分僕はミンチにされていた。幽香さん愛用の傘で殴打されていた。
言っとくけどあの傘、かなり強度高いんだよ?コンクリートに突き刺しても――幽香さんの力だから可能である――どこも壊れてないくらいなんだから。
チキン?それで結構ですが?今の状態の幽香さんに何か物言いできる者がいたならば、僕はそいつを勇者と褒め称えてやろう。いや割と本気で。
「......」
「......」
「......」
そしてまたもや無言。もう僕の力ではどうしようもできない。
こんな時には頼りになるはずの僕の幼なじみは、隣でなんかニコニコしてるし。早苗さんや、その笑顔怖い。目をうっすらと開けながらニコニコしないで。目が全然笑ってないから。マジで怖いから。
対面からは高圧的な威圧感を感じ、隣からは奇妙な威圧感を感じる。僕にどうしろと?いや、先程も言ったが、どうしようもできない。今の僕は、蛇に睨まれたカエルのようなものなのだから。
このまま無言が続いてしまう、と思った矢先......意外にも先に口を開けたのは、僕らの対面に座っている幽香さんだった。
「ねぇ、蓮花......?」
「ひ、ひゃいっ!?」
おかしい。ただ名前を言われただけなのに、何故僕はとてつもなく恐怖を感じているのだろうか。
「貴方の隣にいる女は......誰かしら?」
「前に話した僕の幼なじみです勘弁してくださいぃっ!!」
おかしい。ただ早苗のことを聞かれてるだけなのに、何故僕は本気で命乞いをしているのだろうか。
意味不明の恐怖にガタガタ震えている僕をよそに、隣に座っている幼なじみは、自分の自己紹介を始めた。
「紹介に預かったレン君の幼なじみ、東風谷早苗といいます。以後お見知りおきを。レン君のことは『誰よりもよく知っている』ので、そのおつもりで」
あれ?なんか早苗、攻撃的じゃない......?僕の気のせいだよね?そうなんだよね?
あぁ、幽香さんの不機嫌メーターが上昇したよ絶対に。すんごい勢いで僕のこと睨んできてるし。これは早苗が帰ったあとが大変だなぁ......。
対する幽香さんは、僕の方に向けていた睨み顔を早苗に向けると、笑顔で自己紹介を始める。ちなみにその笑顔は、決して良い笑顔ではないように思える。少なくとも、交友的な笑顔ではない。
「そう。よろしくね、東風谷さん?私の名前は風見幽香。貴女の幼なじみと『同居』させてもらってる、いわゆる居候ね」
......『同居』の部分をえらく強調してるって感じるのは、僕だけじゃないよね?―――早苗さん、マジでニコニコするのやめて。ってかなんでさっきよりニコニコしてるの?いや怖い。本気で怖いから。
「同居、ですかぁ。なんだか私、貴女と仲良くなれそうな気がします」
「そう?私は全然そうは思えないけどね。失せなさいって言いたくなるわ」
「そんな酷いこと言わないでくださいよ、風見さん。綺麗な顔をしているのに、台無しになっちゃいますよ?」
「あら、お世辞がうまいのね。貴女も綺麗な色の髪をしているじゃない。綺麗だわ。抜き取ってさしあげようかしら?」
『『ふふふっ......』』
「......」
こ、怖い!これが女性同士の会話なのか!?なんかギスギスしてるんですけど!?殴り合いになりそうな雰囲気なんですけども!?
この中唯一の男の子であるはずの僕は一言も言葉を発せない。この二人の会話に入りたくないからだ。例えるならば、何の装備もしてない状態で戦場を駆け抜けるようなものだ。明らかに無理である。
ダメだ。この空間はダメだ。冷や汗が止まらない。
「あ、そうだ!こういった催し物はどうでしょうか、レン君と風見さん!」
「催し物......?」
「な、何かするの、早苗?」
よしっ。流石は僕の幼なじみ。この雰囲気をダメだと感じたのだろう。そういった提案は本当にありがたい!やっと僕も言葉を発せた!
そんな早苗は、『はい!交流会みたいなものですよ!』というと、カバンの中からとある紙を取り出し、それを広げてこちらに見せつけてきた。
紙に書かれてる内容は、『文月遊園地オープン!沢山のご来店の方々、お待ちしております!皆で遊んで楽しくやりましょう!』というものだった。
そして早苗は、先ほどのギスギスした笑顔はどこにいったのか、今ではとてもいい笑顔でこう言い張った。
「遊園地に行って、親睦を深めましょうよ!」