花妖怪の君と過ごした最高の日々   作:『向日葵』

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花妖怪の君が過ちを犯した日

ガタン、ガタン。

 

 

バスが少し揺れると同時に、僕の体も左右に少し揺れる。その反動で早苗のお守りが落ないように、僕はお守りを握っている片手に少し力を入れた。

 

「......幽香さん、今頃、帰ってるのかなぁ」

 

気に掛かるのは、家を出る前には既にいなかった、同居人のこと。料理を作っているあいだにどこかへと消えたのだ。ほんと、どこに出かけたのやら。そんなに遠くには行かないはずだから、散歩とかだとは思うんだけどね。

 

「書き置きも残してるし、ご飯もラップかけてるし、うん。大丈夫だよね」

 

頭の中で、家を出る前の状況を思い出し、一人納得する僕。幽香さんが帰ってきても、ご飯もあるし理由を書いた書き置きもあるし、大丈夫だろう。特に気にすることはないはすだ。それに、僕が出かける理由も、リビングにいる花達が知っている。上手く幽香さんに伝えてくれるだろう。

 

(......でも、なんでだろ)

 

改めて大丈夫だろうと認識した僕は、残る気がかりの原因である、片手に握られているお守りを見る。そのお守りの真ん中にはでかく、守矢!と刺繍が施されている。

 

そう、このお守りだ。このお守りである。

 

どうしてこのお守りは、リビングにあったのだろうか。部屋を掃除する際にはもちろんのこと、早苗が家に来て帰ったあとも、リビングにこんなお守りは落ちてはいなかった。なのに、お守りはあたかも最初からそこにあったかのように存在していた。

 

ううむ、と唸りながら考えるも、答えは一向に見つからない。どうしてあの場所にあったのか、どうやってあの場所に存在していたのか。

 

「......ま、早苗に聞いてみればいいか」

 

そうだ。これが早苗の持ち物ということはまず間違いない。だからこそ、こうして届けに行っているのだ。ならば、渡す時に聞けばいい。この前来た時に落としたの、とか。そんな風に聞けばいいさ。

 

「ううん。でも、電話に出なかったのは少し気になるなぁ......」

 

そう。僕は家を出た後に、一度早苗に電話をかけてある。遊園地で遊んだ後、電話番号を交換したことを思い出し、即座にかけたのだ。家を出る前にそのことに気付けなかったのは、僕が忘れっぽいのか。はたまた、僕が馬鹿だからか......個人的には前者だと願いたい。

まあとにかく、そんなこんなで僕は早苗に電話をかけたのだが......でなかった。何をしているかは知らないが、とになくこうなったら直接渡しに行こうと、僕は腹をくくったのである。

 

「よし、もう少しで早苗の神社に近くに......ん?」

 

バスに乗ること数十分。揺られ揺られながらも、もう少しでやっとたどり着く、早苗の神社の近くにあるバス停。......だが、そこで異変が起こった。

 

(......『あんな人』、目の前に、座ってたっけ?)

 

気付けば僕の目の前には、紫色のドレスを身にまとい、車内であるにも関わらず日傘をさして顔を隠している奇妙な女性がいた。

 

もう夜遅く、このバスには僕一人くらいしか客がいなかったはずだ。じゃあ、なぜ僕の目の前には、『さっきまでいなかったはずの客』がいるんだ......?

 

いつの間にか乗ってきた?

 

いや、それはない。このバスはそこに客がいなければそのバス停で止まらない。今までの数十分、このバスは『一度も止まっていない』。

 

そもそもこんな格好、目の前に一回でも座られたら気付かないはずがない。だけどこの人は、まるで最初からそこに座っていたかのように自然に佇んでいた。いや、そもそもーーー

 

「ごきげんよう」

 

「ーーーっ!」

 

と、そうやって思考の渦にはまっているときだった。

 

目の前で日傘をさして座っている、紫色のドレスを身に纏った女性が、僕に話しかけてきた。いきなり話しかけられて少し驚いたが、あいさつにあいさつで返さないわけにもいかず、とりあえず『こんばんわ』とだけ返しておく。もちろん、警戒心を解いてはいけない。

 

「あなたの同居人、今ちょっと、危ないわよ?」

 

「ーーーなん、だ、って?」

 

が、その言葉を聞いた瞬間、そんな警戒心などはどうでもよくなるほどに、僕の頭の中は真っ白になった。

 

 

ーーー今この人は、なんて言った?同居人が危ない?それはつまり......『幽香さんが危ない』ってことか?

 

 

「いえ、違うわ。厳密に言うと......危ない状態になっている、かしらね」

 

「どういう、ことですか......!」

 

息が、勝手に荒くなる。呼吸が、激しく乱れる。

 

 

幽香さんが、危ない状態?意味が、わからない!

 

 

 

......けれど。

 

 

(なんなんだ、この人は!意味不明なことばかり、言ってるはず、なのに!なのに......どうして、どうしてこの人の言葉は、こんなに『そのとおり』だと思えてしまうんだ!?)

 

 

そうこうしてる間にも時間は過ぎていった模様で、僕を乗せていたバスは、この女性に会う数分前に既に僕が降車ボタンを押していたため、僕の目的地であるこのバス停で止まっている。しかし今の僕は、それどころではなかった。降りないのかという、バスの運転手の怪訝そうな視線を感じた。

 

(......っ)

 

この人は、まずい。直感がそう告げいる。これ以上聞いてはいけない、と。これ以上この人と関わるな、と。さっさと降りて、今まで通りの気分で、神社に向かうべきだと。

 

しかしそんな僕の心境など何処吹く風と言わんばかりに、彼女は淡々とした口調で僕に告げた。

 

 

 

「あなたこのままだと......幼なじみと同居人を、無くしてしまうわよ?」

 

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、何故か僕の体は、反射的にバスから降りるべく動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行った、かしらね。......この私が協力したんですもの。間に合わせなさいよ、蓮花。私の友人を、幽香を、救ってあげて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、はっ、はっ」

 

息が、苦しい。そりゃそうだ。全速力で走っているんだから。

 

 

どこへ?

 

 

「幽香、さんっ......!」

 

 

決まっている。早苗の神社にだ。

 

 

なんのために?

 

 

「さな、えっ......!」

 

 

わからない。でも、わかる。すごく、嫌な予感がするんだ。

 

 

なにを根拠に?

 

 

「はっ、はっ、ふぅっ!」

 

 

それこそわからない。でも、もう目前にまで迫ったあの階段をかけ上がれば、何かがわかるはずだ。

 

 

それで引き返せなくなっても?

 

 

「まに、あって、くれっ......!」

 

 

そんなの知らない。何がどうであれ、僕は、早苗と幽香さんを無くしたくなんかない。

 

 

 

階段を全速力でかけ上がり、鳥居をくぐる。そして、そこで僕が見た光景は。

 

 

 

 

 

 

ーーー今まさに早苗の頭を手刀で突き刺そうとしている、幽香さんの姿だった。

 

 

 

 

 

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