花妖怪の君と過ごした最高の日々   作:『向日葵』

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花妖怪の君を止めた日

『貴方の力は、何かを代償にして、何かを守る力。守るという一点については、正直最強だと思うわ。けれど、まだその力を制御できない貴方にはその支払う代償を決められない』

 

 

(間に合って、く、れ......っ!)

 

 

いつか、幽香さんが僕にそう説明してくれた時がある。僕の力は、守るということに対しては最強とも言える、と。けれど、支払う代償は自分で決めることができない。だから子供のときに使ってしまった力のせいで、支払った代償が繋がりということも説明された。

 

正直、そのとおりだと思った。

 

 

(こんな力、何度でもいらないって思った!何度も捨てたいって思った!普通の人になりたかった!!)

 

 

実は今まで僕は、この力を子供のとき以外にも何回か使ったことがある。いや、使ってしまったことがある。この力を使うコツなんて全くわからないが、とにかく、心の底から対象を守りたい、と思った時にこの力が作用する。子供ゆえに、感情の制御ができなかったんだ。その時にも、代償を払ったのだろう。

 

家に帰ると、花が枯れてたり。早苗から昔貰った、大事に扱っていたネックレスが壊れたりと。

今までは偶然だろうと思っていたことも、なるほど、そう説明されると辻褄が合う。

 

僕はこの力が怖かった。

 

人とは違うこの力に、恐怖した。この力のせいで、化け物と呼ばれた。この力を持っている自分が、怖かった。こんな力、いらないって、何回でも思った。

 

―――でも、それでも!

 

 

 

 

(今だけは、この力を、自分の意思で使いたいって......そう思えるんだ―――!)

 

 

 

「さなええええええええっ!!」

 

「れん、くん……っ!?」

 

 

 

僕がそう叫んだ瞬間、体の下半身の部位が悲鳴をあげた。自分の体だ。どこに異常が出たのかもわかる。どうやら足が折れたみたいだ。途端にバランスを取れなくなってしまい、地面にうつぶせに倒れてしまう僕。

おそらく、代償。力を使ってしまったことへの。……でも、代償が出たってことは、この力を使えたってこと!!

 

 

「―――っ!?」

 

 

僕の予想通り、早苗の頭に向けて放った幽香さんの手刀は、早苗の頭に届くことなく、不可思議なところで弾かれた。まるで早苗の体の周りを、何かしらの力で『守られている』かのように。

 

腕を何かに弾かれた幽香さんは、驚愕に顔を染めて、もう一度腕を振り上げた。

 

 

「幽香さんっ!!」

 

 

早苗を再度攻撃しようとする幽香さんを止めるために、大声で呼びかける。ほんとは駆け寄って幽香さんの前に立ちたいのだが、いかんせん足が折れている今の状態じゃ無理だ。だが、大声をあげた効果はどうやらあったらしい。

 

幽香さんは、びくっ、と体を震わせて、僕の方へと振り向く。

 

 

―――まるで、泣いているかのような表情だった。

 

 

「―――れん、か?わ、わた、し……」

 

幽香さんは自分の手と、足が折れて倒れ伏している僕を何度も見比べて、震えるような声でそう呟く。おそらく、今になって、自分のしようとしてしまったことを自覚したのだろう。

 

「幽香さん、大丈夫だから。大丈夫だから、落ち着いて」

 

「あ、あぁ……―――っ!!」

 

「あうっ!」

 

そう声をかけたが、今の幽香さんには効果がなかったらしく、目の前にいた早苗を突き飛ばすと、僕を無視して階段を走って降りていった。

 

くそっ。もっと他にかけてあげる言葉はなかったのかよ、僕は。

 

「ゆうか、さん……!」

 

「レン君!!」

 

すぐに幽香さんを追いかけようとした僕を、我に返った早苗が止めに入ろうと走って近付いてくる。まあ、足が折れて倒れ伏している人間が逃げてった人を追いかけようとしたら、そりゃ止めるよね。

もっとも、早苗が僕の足が折れていることを知ったのは、近寄って今の僕の状態を見て知った今だろうけどね。

 

「お、折れてるなんて。レン君、いくらなんでもその足じゃ無理です!」

 

「だけど、行かなきゃ……!今の幽香さんを、放って、おけない……!」

 

足が折れて立ち上がれず、なんとも情けなく地面に這いつくばって声を荒らげることしかできない僕。なんて、力のない。早苗のことは守れたのに、幽香さんのことは守れないのかよ。なんて、なんて無力なんだ僕は。自分が嫌になってくる。

 

「どうして、そこまで、するんですか?」

 

「どう、して?決まってるよ。幽香さんが、僕を、正してくれたから……今度は、僕が彼女を正すんだ」

 

そうだ。あの時、彼女がいてくれたから。幽香さんがいてくれたから、今の僕はいるんだ。だったら今度は、僕がいないと……幽香さんのとなりに、僕がいないとダメなんだ。

 

自分勝手で、なんとも偽善な行為だって、笑ってくれていい。でも、それでも僕は、彼女の元へと行かなければいけない。なんとしてでも。

 

ずる、ずる、と、体を少しずつ引きずりながら、先ほど幽香さんが降りていった階段の方へと近付いていく。階段、どうやって降りようか。この際だ、転がってでも降りよう。

 

そんな、馬鹿みたいな考えをしている時だった。早苗はため息をつくと、

 

「……レン君は、いっつもそうです。昔と全く変わりませんね」

 

「さな、え……?」

 

そう、諦めたかのように呟いた。でも、そんな彼女の顔には、笑顔が。

 

「でも、いいんです。そんなレン君が、私は……いえ、今は、まだ。でも、幽香さんを助けたいのは、私も同じです。私を襲ってきたときの幽香さん、すごく、悲しそうでした」

 

 

―――なんて強い子だと、そう思った。思ってしまった。普通ああやって襲われたりしたら、相手に憎しみを持っても仕方ないのに。ただでさえ妖怪の幽香さんの腕力は、常人を超えていて、あの手刀が当たっていれば早苗は死んでいたかもしれないのに。そんな相手に、この子は……。

 

 

「だから、レン君。私が『奇跡』を起こしてあげます!!レン君が、幽香さんを追いかけられる……そんな、『奇跡』を!」

 

「さな、え……?なに、を―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ、はっ。幽香さん、一体どこまで行ったんだ……!?」

 

場所は守矢神社から所変わって、近くの神社付近。早苗の話によれば、幽香さんはこの町から出ていってはいないらしい。そのことをなぜ早苗が知っているのかは知らないが、ここは幼なじみを信用するさ。

 

この町を出ていない、ということは、隣町の僕のところには行ってない、ということ。つまりは、そんな遠くには行ってないはず。ここら辺は、昔早苗が引っ越して以降全く来なかったので、うろ覚えな場所がいくつもあるが。とにかく、覚えているところを片っ端から『走って』探している。

 

 

―――え?足の骨?さっきまで折れていた?ふっ。常識に囚われちゃいけないって、幼なじみが言ってたんだよ。

 

 

……というのは嘘で、まあ、正直な話、僕もよくわからないんだ。でも、早苗にも僕と同じような力があって、その力を使って僕の足を直した、というのはわかっている。

幼なじみやってた僕としては、今日初めて知ってびっくりしたのは言うまでもないが。とにもかくにも僕は、早苗の起こした奇跡とやらによって、無事足の骨折を治すことができたのだ。ほんと、あの幼なじみには感謝してもしきれない。そんな早苗はと言えば、力を使って疲れてしまったので、幽香さんを探すのはレン君に頼みました、とのこと。

 

「あぁもう、幽香さん……!」

 

だが、そんな幼なじみに助けてもらって、それでも、幽香さんを見つけきれない。どこに行ったのだろうか。一旦止まって、乱れた呼吸をある程度整えてみるが、一向に答えは見えてこない。

 

 

―――最後に思い出す幽香さんの表情は、あの、悲しそう顔だった。

 

 

「……くそっ!」

 

なんで気付かなかったのだろうか。僕はやっぱり馬鹿だ。同居人一人のことすら、理解してやれない。あの人は僕のこと、理解してくれたのに。それなのに僕は。

 

「考えても仕方ない。とにかく今は、幽香さんを探さないと……!」

 

そう思い、一度止めてしまった足に力を込め、再度走り始める。今は一分一秒でも無駄にはできない。このままじゃほんとに、幽香さんと一緒にいられないような気がするんだ。

 

「とりあえず、今度はあっちを――「こんな所でしょぼくれて。どうしたんだい、少年!」――……誰?」

 

「ふっふっふ。聞いて驚け!私がかの有名な大学オカルトサークルに所属している、その名も宇佐見蓮子!よろしくね、少年!」

 

……い、いやいや、ほんとに誰?

 

いきなり話しかけられて、いきなり自己紹介されて、いきなり握手って。突拍子過ぎてついていけない。……可愛い女性なのに、どこか残念な人だ、と思ってしまう。

 

どこまでも澄んでいるかのような、漆黒の髪。どこまでも透き通るような、黒色の瞳。大和撫子を思わせるような『彼女』は、しかし、先ほどのセリフから察するに、そんな大和撫子とは真逆な活発そうなイメージを持たせている。……黙っていれば美少女、とか呼ばれてそうな人だ。でも、そんなフランクな態度は、むしろ好感が持てる不思議な人だ。

 

「少年。あんたいま、悩んでるでしょ?いやぁ、いいねぇ青春ってのは」

 

「……なんで貴女に――「蓮子だよ」――……なんで蓮子さんに、そんなことがわかるんですか」

 

「あはは。だって、少年――「蓮花です」――はは、こりゃ一本取られたよ。まあとにかく、蓮花君。なんでわかるか、ってね……だって、君の顔。

 

 

―――大切なものとすれ違って、それを無くすかもしれない時の私の顔と、全く一緒なんだよね」

 

「―――っ!!」

 

心臓を、掴まれたかのような感覚に陥いった。

 

だって、それは、つまり。この人と、同じことを経験しているのだとしたら……この人は、蓮子さんは、『どうなった』のだろうか。

 

「わかってるよ。私がどうなったのか、でしょ?結論から言えば、仲直りしたさ。つまりハッピーエンド。でも、それはあくまで私の時は、の話。蓮花君がそうなるかはわかんないし、そこはやっぱり、君次第なんかじゃないのかな?」

 

「……そう、ですか」

 

でも、と、彼女は人差し指を僕の目の前に突きつけて言葉を放った。

 

「自分のことだけ考えて結果的にすれ違ったものってのは、一度ヒビが入ればどんどんでかくなる。けど、お互いがお互いのことを思ってすれ違ったものは、いくらでも修復できるのよ。だから、蓮花君!」

 

 

 

 

ーーー彼女なら、この先の公園にいるよ。

 

 

 

 

この際、なぜ彼女が知っているのか、などという疑問はどうでもよかった。それよりも先に、足が動いたからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

 

「……幽香さん」

 

ぽつり、と。弱々しくも、はっきりとそう呟いた。

 

いたんだ、そこに。僕が、ずっと探していた人が。もう会えないかもしれない、って思っていた人が。

古びた公園で、まるで、この空間には、世界には、自分以外は誰もいないと。そう思わせるように、彼女は、公園の片隅にあるブランコを漕いでいた。一人、寂しく。

 

「……やぁ、こんばんわ」

 

「……こんばんわ」

 

そんな彼女に僕は、歩み寄った。誰もいない、そう思わせるような彼女に、そうじゃない、僕がいるって。そう思わせるために。……なんて、かっこつけたり。

 

「どうしたの、こんなところに一人で。それも、こんな時間に」

 

「……どうして、かしらね」

 

公園に設置されている時計を見てみると、針は11時20分を指していた。あはは。もうこんな時間だったのか。ご飯、冷めてるだろう――「とても」――ん?

 

「とても、悪いことをしたの。取り返しのつかないこと。私の、勝手な、行動のせいで。感情のせいで。止めてくれた人を、私のせいで傷付けてしまったの。傷付いてほしくなかったのに」

 

幽香さんはとても、悲しそうな顔で、続きを語った。まるで、親に叱られている子供みたいな表情だ。

 

「その時、気付いちゃったの。私がしたかったことは、私が見たかったものは、こんなのじゃなかったって。でも、気付いた時にはもう遅くて……私が欲しかったものは、全部なくなってて」

 

ポツポツと、そう呟く幽香さんは、涙を流していた。あの、いつも強気で、弱いところを見せない幽香さんが。

 

「私は、とある人の笑顔が見たかったの。まるで、そう。花達に元気を与えてくれる、そんな、太陽のような笑顔。微笑みは、そうね、日向のような暖かさ。それを見たかった。……でも」

 

……こ、これは、もしかしなくても、僕のことなのだろうか。なんか、こう、ムズ痒い。恥ずかしいけど、照れる。ものすごい照れる。顔が熱くなるのを実感した。

 

「……その笑顔が、微笑みが。ある人物が現れたことによって、見られる頻度が減ってしまった。それに不満を覚えてたある日……その笑顔を、微笑みを、全く見ない日が来たの。いつも、そんな表情を絶やさなかった彼が。それが、無性に、なぜか、無性に許せなくなって……!」

 

幽香さんは、涙をボロボロこぼしながら、語気を荒げた。

 

「今までの不満が、一気に爆発して。そいつを、苦しめたくて。彼から笑顔を奪ったそいつを、許せなくて!……おかしいわよね。彼は、誰にでも優しかっただけなのに。私は結局、彼のことを理解してあげられなかったのよ。そんな気になって、彼のことをわかってやれる唯一の存在だと、そう勘違いしていたの。その結果が、これ。ほんと、馬鹿よね私。こんな、こんなこと言って。許されるわけ、ない、のに――「それは違う!!」――え?」

 

幽香さんの言った言葉で、今のはちょっと、聞き流せない。聞き流すわけにはいかない。だって、僕は。

 

「幽香さんは、僕のこと、理解してくれた!!ほかの誰よりも!あの早苗よりも!!……幽香さんが、あの時、いなかったら。僕はきっと、早苗に再開しても、逃げ出していた!!」

 

「でも……でもそれは、わからないじゃない!!もし私に会ってなかったとしても、あなたはあの子と仲直りできたかもしれない!!私なんかがいなくても、ああやってあの子と話してたかもしれない!!私なんかが、いなくたって―「じゃあ!!」――」

 

 

 

 

「僕があなたに、いて欲しいって思ってる!!……それじゃあ、ダメですか?」

 

 

 

「―――っ!!」

 

 

「幽香さんがいてくれたから、僕のこと、理解してくれて勇気を与えてくれたから、僕は道を切り開けたんだ!私なんかが、じゃない!!幽香さんがいてくれたから!!幽香さんだったから!!―――だから、幽香さん!!」

 

 

 

僕は、あなたを許します。

 

 

 

そう告げたときの幽香さんの表情は、物凄く、弱々しくて。少しでも触れれば、砕けてしまいそうなくらい、儚くて。そんな彼女を僕は、いつまでも……守りたい、と。そう思った。

 

いや、これが本来の幽香さんなのかもしれない。妖怪だからとか、人間だったらとか、そんなの関係ない。これが彼女本来の、『風見幽香』なのかもしれないのだ。

 

「……わたしを、ゆるして、くれるの?」

 

そんな幽香さんは、まるで、縋るような……助けを求めるかのような、震えた声でそう呟いた。

 

僕はそんな幽香さんに、彼女を安心させるように。自信満々にこう言った。

 

 

 

「ええ、許します。それに、僕だって幽香さんのことを理解してあげられなかった。仮に幽香さんが、僕のことを理解してあげられなかったとしても、時間はいくらだってあるんだから。二人して『これから』わかりあえばいい!

……だから、幽香さん。

 

 

 

 

 

 

 

―――一緒に、帰ろう。僕たちの、帰るべき場所に」

 

 

「……う、んっ!」

 

 

 

涙を流しながらも元気良く頷いた幽香さんの顔は、そう、まるで向日葵のような……それこそ、見る人全ての心を暖かくしてくれるような、そんな綺麗な笑顔だった。やはり彼女に涙は似合わない。彼女には、幽香さんには、笑顔が一番よく似合っているのだ。

 

 

 

結局この後、体力を回復させた早苗が僕たちを探し出すまで、僕たちは公園で一緒にブランコを漕ぎながら笑いあっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、蓮子……遅かったわ、ね?何かしら、えらく上機嫌ね。何かあった?」

 

「いや、なんでもないよー。ただ、強いて言うならそうね……青春、かしらね?私の横を猛スピードで走っていった女の人を見た瞬間から、こう、びびっ、と来たのよね」

 

「相変わらずなんて言ってるかわからないわね……でも、まぁ。いいこと、したんでしょ?」

 

「えへへ。まあ、お節介なおねーさんの、ちょっとした助言をね。……さ、行きましょ、メリー!世界の不思議が私たちを待っているわ!」

 

 

 

 

 

 

 

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