「ほら、蓮花。早くその、『デパート』とやらに行くわよ」
「わ、分かってるってば幽香さん。だから、そんなに急がなくてもいいんじゃ......」
「私は色んなとこを早く見て回りたいの。こんな素敵な所、『幻想郷』じゃあ考えられなかったわ」
そう言って幽香さんは、握り締めている僕の手を急かす様に引っ張る。
周りから見れば仲睦まじい恋人達の様な光景だろうが、引っ張られてる僕にとっては拷問みたいなものだ。
え?なんでかって?そんなの、答えは簡単だよ。
「痛い痛い痛い!!ねぇ幽香さん!君、自分の握力考えてる!?」
いやもう、本気で痛い。
だって、スチール缶を一瞬でビー玉ぐらいに握り潰せる力だよ?そんな力で手を握られたらどうなるかなど、結果は火を見るより明らかだ。
そんな僕の困った様子を一度見た幽香さんは、その顔に笑みを張り付かせた。
「フフ。考えてるに決まってるでしょう?私達妖怪が人間なんかより力が強いなんて、ちゃんと理解してるわ。つまり、ワザとよ」
「なお悪いわ!!」
相も変わらずタチが悪い!!君って友達居ないでしょ!?
その意味を込めて幽香さんを睨むと、幽香は『あらあら、ごめんなさいね』と言って握っている力をだいぶ緩めてくれた。
うん、これなら痛くない。で、でも、手は握ったままなんだね........は、恥ずかしい。
......さて、そろそろ説明するとしよう。何で僕が、幽香さんと一緒に外を歩いているのか、って事にね。
―――僕と幽香さんは今、二人で買い物をしに行く真っ最中なのだ。
本当は僕一人で行ってもよかったのだが、幽香さんには服も買わないといけないし、何より自分も行きたいと幽香さんが仕切りに言ってきた為、二人での買い物になってしまったのだ。
外に出て人通りの多い道に着くと、幽香さんはテンションが上がっているのか、若干はしゃいでる様にも見えた。
何でも、幻想郷ではこんなに多い人達を見たことが無いらしい。それを聞く限りじゃあ、幻想郷って案外狭いのかな......?
そんなことを考えていると不意に、幽香さんが楽しそうに笑っているのが見えた。
「それにしても本当良い所ね。面白い機械がいっぱいあるし、人々は賑わっている。前にも言ったけど、幻想郷じゃまず考えられない光景だわ」
「......前から気になってたんだけど、元々幽香さんが居た幻想郷ってどんな場所なの?」
「そう、ね......。詳しい事は教えられないけど、率直で言ってしまえば、力がモノを言う世界ね。私好みの世界だわ」
な、なんだその弱肉強食な世界は......。
どうやら僕は、幻想郷に対する認識を改めなくてはいけないようだ。
......とまあそんな事を思っている間に、どうやら目的地に着いたらしい。どこらにでもある、ごく普通なデパートだ。
更に人が多くなってきた為か、流石の幽香さんも、手を握るのはやめてしまったようだ......残念だと思ってしまったのは仕方が無い。それが男という生き物なのだから。
「......デカいわね。紅魔館の倍はあるんじゃないかしら?」
「紅魔館?」
「吸血鬼が住む真っ赤っな館の事よ」
え?何それ怖い......。
どうやら僕は、本気で幻想郷に対する認識を改めた方が良さそうだ。
❁❀✿✾
「へぇ。中にも人がいっぱいなのね......」
「まぁ、デパートだからね。人が多いのは何時ものことさ。ほら幽香さん、上に行くよ」
そう言って僕は階段を上り、分かり易いように幽香さんを先導する。
このデパートは三階建てで、一階には食材類が、二階には衣服類が、三階には娯楽類のゲームなどが置いてある。
僕らが行くのは二階。つまりは、衣服類の置いてあるフロア。
幽香さんが何時も同じ服を着ていた為、他に衣服は持ってないのかと聞いた所、『そんなモノ持っている筈ないでしょ』と言う凛々しい答えが返ってきた。それが今日の朝の出来事。
と言う訳で急遽、幽香さんに服を買ってあげることにしたのだ。
そして二階のフロアを歩くこと数分。ようやく女性の着物売り場まで着いた僕は、幽香さんに簡単な説明をしておく。
「じゃあ幽香さん。お金はあげるから、それで好きな服を買って、そこの試着室で着替えて来てね」
「ん、分かったわ。少し待っててね」
そう言って幽香さんは、服が沢山ある場所へと向かっていった。
さて、と。とりあえず僕は、幽香さんの着替えが終わるまで待ってるかな。
―――そして待つこと数分。
「終わったわよ蓮花。こっち、向いてもいいのよ?」
幽香さんの声が、後ろから聞こえてきた。
一体どんな服なのだろう、と僕はワクワクして、後ろをゆっくりとした動作で振り向く。するとそこには......。
「フフ。こんなのはどうかしら?」
「............」
―――そこには、白いワンピースを着た緑髪の天使が居た。
何時もの赤いチェックを着た格好ではなく、フワフワとした真っ白なワンピースの格好をした彼女は、さながら汚れを知らない純白の存在。
袖の無いその白きワンピースは、今の季節にピッタリな服であった。
赤い瞳、艶のある緑髪、ウエディングドレスにも負けない純白のワンピース。そのどれもが、彼女の魅力を引き立てていた。
目が、離せない。ただ思う。綺麗だ、と......。
「ち、ちょっとどうしたのよ、そんなに見つめちゃって......。何か悪いモノでも食べたの?」
「............綺麗だ」
「は、はぁっ!?な、ななななにを言ってるのかしら!?わ、私が綺麗だなんて、そんな......初めて言われて......」
......ハッ!?
や、やばかった。危うく、幽香さんの美貌にヤられる所だったよ......。
と言うか、なんだいその可愛らしい悲鳴は。君はあれか。僕を萌え死にさせるつもりかい?
普段の幽香さんからは考えられない程の狼狽っぷりに、物凄くギャップを感じてしまうのは僕だけだろうか......?
―――結局その日は、そのワンピースだけを買って買い物は終わりとなった。
帰りがけ、まだ顔を赤くしていた幽香さんに本当にそれだけで良かったのかと聞いたら、『貴方が褒めてくれたこの服がいいのよ......ふん』と言って若干顔を赤くしながら、そっぽを向いた。
その仕種に僕が、やばい、マジで可愛い......と思ったのは言うまでもないだろう。