花妖怪の君と過ごした最高の日々   作:『向日葵』

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花妖怪の私が友人に吐露した日

「……久しぶりね、紫」

 

「あら。私達妖怪にとって、このくらいの時間は一瞬じゃないかしら?なのに久しぶりだなんて……あなたも、随分と人間に近い趣向になったわね」

 

クスクス、と。笑った表情を隠すように開いた扇子で顔を隠しながら、私の友人である彼女ーーー『八雲(やくも) 紫(ゆかり)』は公園のベンチ、いわゆる私の隣に座っていた。いつの間に?だなんて無粋な言葉は、この『スキマ妖怪』には不要だ。ーーー神出鬼没。それが、『境界を操る程度の能力』を持つスキマ妖怪の彼女なのだから。

 

……と、言うか。

 

「何よ、その格好」

 

私が彼女を見た瞬間思ったことはそれだ。いつもはその名を体で表すかのように紫を主にしたドレスのような服を着ていたはずなのに、今の彼女は、タンクトップに短パン、黒ニーソと、妙に現代的な服装をしていた。全く、人間に近い趣向を持っているのはどっちなのか。

 

「あら、そう言うあなたは服装変えないのかしら?いっつもその赤いチェック柄の服を着ているけれど」

 

「わかってないわね。この服装はいわゆる私を表す象徴なの。この服あってこその私あり、ってわけーー「そう言う割には、彼に買ってもらった白いワンピース、大事にしまってるみたいだけど?」ーー死ねぇぇぇぇぇ!!!」

 

隣に向かって思いっきり拳を振る……が、そこにいたはずの紫はすでにおらず、目標を失った私の拳は、そのままの勢いでベンチに穴を開けた。これはまさか弁償物だろうか。いや、紫がいればこの穴はそもそも存在しないはず。そう、あいつが悪い。なんと言おうと紫が悪いのだ。

 

……いや、そんなことより。

 

「なんで知ってるのよこのスキマ妖怪!!」

 

きっ、と。スキマを使ったのだろう。ベンチから滑り台の上へと、いつの間にか移動していた紫を睨みつける。

 

「あーら、逆に知らないと思ったのかしら?この世界と幻想郷、両方をいつでも行き来できるこの私が?おーっほっほ!」

 

うざっ、という表情をするが、効果はない。効果はないが、それでもせざる負えない。それほどまでに今のスキマ妖怪がうざいからだ。何よ、おーっほっほって。お前はどこぞの貴族か何かか。

 

「ふっ、ほーんとあなたは素直じゃないわね、幽香」

 

「な、何が言いたいのよ!」

 

顔が真っ赤だが、これは怒りで真っ赤になっているのだ。そう、断じて恥じらいとか、そんなものではない。そう、断じて。

 

「せーっかく彼が褒めてくれた服なのに、着ない理由。……ふふ、勿体無いからでしょ?使っちゃうのーー「その口を閉じろぉぉぉぉ!!!」ーーあらあら、女の子なんだから、そんな乱暴はダメよ?」

 

滑り台へと跳躍して、紫のいた場所に飛び蹴りをかます。……がしかし、やはりスキマは面倒だ。今度は先ほど私がいた場所であるベンチに座っている。

 

それにしてもこいつ、ほんとにどこまでお見通しなのだろうか。妖怪の賢者と呼ばれるだけある、ということだろうか。普段の彼女は面倒くさがりでいつも寝ているくせに。いい加減あなたの式であるあの九尾も謀反を考えている頃じゃないかしら。

 

「……あぁ、もう。わかったわ。不本意だけど、私の負けでいいわ。だから少し黙りなさい」

 

「ふふ、わかったわ。私も久し振りにあなたをからかえたんだし、満足よ」

 

ーーーいつか後悔させてやる。

 

そう心に決意して、私は彼女がここに来た理由を尋ねることにした。そうでもしないと、話が進みそうにないし、何よりこれ以上恥ずかしい思いを……怒りたくはないのだ。そう、怒りたくは。

 

「……で?なんであなたがここに?」

 

「たまたまよ。この公園でスキマの中にいたら、なんか見知った顔がここに走ってくるじゃない。それも、すっごく真っ赤な顔で。何かあっただなんて、一目瞭然でしょ」

 

くっ、まさか見られていたとは、あんな姿を。それもこれも、元をたどれば全部蓮花のせいよ。そうだ、帰ったら一発殴ってあげるんだから。ふん、良い気味よ。……って、

 

「何笑ってるのよ、紫」

 

「ぷふっ。い、いえね……ふふ、あなた、凄い笑顔よ?」

 

言われて、ばっと顔を両手で覆うように隠した。ち、違う。決して笑顔になんかなってない。そんな、蓮花のことを考えてたら、楽しい気分になって、笑顔になっていただなんて……そんなことは断じてない。

 

「言われるまで気付かなかったのかしら?一体何を考えていたの?んんっ?」

 

「う、うるさいわねばか!!あっち行きなさい!しっしっ!!」

 

口で言いながら、追い払うように手を振る。早くどこかにいってほしいものだ、この悪趣味なスキマ妖怪には。ふん。

 

そもそもが、大した用事もなかったのだろう。私の反応を心底楽しそうに見ていた紫は、じゃあ帰るわね、そろそろ藍もうるさいだろうし、と言うと、スキマを開いた。……いや、ほんと、私をからかうためだけに私と接触してきたのか、このスキマ妖怪は。悪趣味にもほどがある。

 

「……あぁ、最後に幽香。あなたに、言っておくことがあるわ」

 

「……?」

 

紫は、自分の作ったスキマに入り込もうとした瞬間、まるで何かを思い出したかのようにこちらを振り返り、こう言ってきた。

 

 

 

 

「あなたのその感情……良いものになるか、悪いものになるか、それは、他でもないあなた自身によって決まるわ。その感情、気持ちを、ちゃんと理解してから、そしてまた考えなさい。あなたがどうしたいかを、ね?」

 

 

 

それだけ言うと、紫はスキマの中へと入り込んでいってしまった。気配はない。つまり彼女は、本当に幻想郷へと帰っていったのだ。それを確認した私は、滑り台から降りた後、先ほどのベンチにまた座り込んだ。

 

……はぁ。

 

 

 

「自分自身の感情、気持ち、ねぇ……」

 

 

 

ーーーそんなもの、当人の私が知らないのに、どう知れって言うのよ。

 

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

 

 

「あ、幽香さん!おかえり!……今朝は、どうしたの?急に出ていったまま、昼のこの時間まで帰ってこないなんて」

 

「……ただいま」

 

蓮花の問いにそう端的に言うと、蓮花の前をすぐに横切って自分の部屋へと向かった。……いや、違う。またもや蓮花の顔を見れなかったとか、そんなのでは断じてない。そう、断じてだ。ちょっとだけ、そうだったかもしれないが、うん、ちょっとだけだ。

 

「まったく、人の気も知らないで。……蓮花のくせに、生意気」

 

自分の部屋のベッドに顔を埋め、呟く。

 

たかだか人間のくせに、ほんと生意気。この大妖怪たる私をこんなにもおかしくさせるなんて。なによ、あの笑顔。思わず殴りたくなってくるわ。

 

「……はぁ」

 

ため息が出る。いいや、出てしまう。自分の感情もわからないままで、何も前に進めてやしない。このままでいいのだろうか?否、よくはないだろう。この感情をわからないままにしておけば、後々後悔してしまいそうな気がするからだ。

 

 

 

『あなたのその感情……良いものになるか、悪いものになるか、それは、他でもないあなた自身によって決まるわ。その感情、気持ちを、ちゃんと理解してから、そしてまた考えなさい。あなたがどうしたいかを、ね?』

 

 

 

「そんな事言われたって……わからないのよ、紫」

 

初めての感情。それに戸惑ってしまう。この感情がなんなのかわからない。初めてだから、当たり前のこと。それでも……この感情を、私は、知りたいと思っている。確かめたいと思っている。

 

 

ーーーそのために私は……一体どうすればいいのだろうか。

 

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