花妖怪の君と過ごした最高の日々   作:『向日葵』

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花妖怪の私が彼とお出かけした日

「……変、なんかじゃ、ないわよね?」

 

自分の部屋にある大きな鏡の前でそう力なく、まるで確認するかのように声を出す……がしかし、それも仕方ないことだろうと私は思う。なぜなら、私は。

 

 

 

 

ーーー『おめかし』なんてしたことないのだから。

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

今日は蓮花とお出かけ。というわけで、クローゼットの中に大事に折り畳んでいた白いワンピースを取り出し、身につけたわけなのだが。

 

「……う、ううーん。やっぱり着慣れないわね」

 

当たり前だ。蓮花に買ってもらった初日しか着用しなかったから、着慣れてたまるものか。私にはいつもの赤いチェックの服が合っているのだ。じゃあ、なぜこのワンピースを私は身につけているのか。

 

「むぅ……これは別に、そんな、紫に感化されたわけじゃない。そう、ただの気分よ」

 

誰に言っているのかわからない独り言を、自分の部屋の鏡の前で呟く。とにかく、理由はどうであれ、私は『おめかし』としてこのワンピースを着て蓮花とお出かけをするのだ。そう、これを着るのも、ほんとにただの気分。『おめかし』というものを、してみたかっただけだ。

 

このワンピース、買ってもらった当初は嬉しくて着ていたのだが、よくよく考えると肌の露出が多く、また、スカートが私のいつもの服よりも短いためか、下が妙にスースーして落ち着かないのだ。

 

要は、冷静になって考えてみると、それなりに恥ずかしい服装だったというわけだ。……まあ、全員が全員そう思うとは言わないけれど、少なくとも私はそう思った。決して、着るのがなんか勿体なく感じたとか、そんなものではない。少ししかない。

 

それに、下の太ももあたりの露出も、あるものによって防ぐことができるし、それを着用することで、スースーしていた部分もなくなる。

 

それは、

 

「ん、早苗からもらったこの、『くろすとっきんぐ』?って、結構良いものね。肌触りもいいし、きつくもなくゆるくもなく、ちょうどよく足にフィットするし」

 

上機嫌にそう言いながら、肩の露出している白いワンピースに、黒ストッキングなるものを着用した自分の姿を鏡で見ながら、一回転。

 

遠心力でひらりと舞ったスカートの裾と、太ももや下着の露出を守る黒ストッキングが見える。あとはいつもの日傘を掴んで、よし。

 

「ーーーこれで準備万端!!」

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

「あ、幽香さん、おはよーーーってどうしたのその格好!?」

 

「……た、ただの気分よ、気分」

 

 

ーーーリビングに行ったら、そこにいた蓮花にものすごく驚かれた。

 

 

……あぁ、いや。蓮花が驚くだろうということは、容易に想像できた、うん、だがしかし、そんなに驚くほどのことだろうか。たかだかおめかししただけではないか。これではまるで、いつも私が、そういう、おしゃれ?に気を使ってない女みたいにみえる。

 

ムカついたので、頬を一発殴ってやった。

 

「いや、痛いんだけど!?普通に痛いんだけど!?」

 

「痛くしてるからね」

 

「そういう問題じゃないんだけども!?」

 

殴られた頬を片手で抑えながら、蓮花がそう吠える。だがしかし、私は何も悪くない。私のことを、おしゃれもまともにできない女として見ていた蓮花が悪いのだ。……ん?どうして私は、蓮花に見て欲しいのかしら?あれ?

 

……いや、そんなことはどうでもいい。今は考えるべきではない。今大切なのは、この私の、私自身のおめかしについてだ。

 

「さぁ、蓮花。今日の私のこの格好に、なにか言うことはあるかしら?」

 

まるで自慢するかのような口調で、蓮花に私の今の姿を見せつける。すると蓮花は、そんな私の様子をじーっと見つめると、何かを考える素振りを見せてから、口を開いた。

 

「いや、その、ええと……あの」

 

ふんふん、なるほど。そんなに言いよどむということは、あれか、似合ってないということでしょ?大丈夫よ、そんなに気を遣わなくても。大丈夫、すぐに楽にしてあげーー「正直に、言いますとですね」ーーん?

 

「ーーーやっぱり、幽香さんって可愛いって思った。それに、その……とても、綺麗だし」

 

……って、

 

「ーーーなっ!?」

 

言いよどむという蓮花の行為に、てっきり、似合ってないと言おうか言いまいか悩んでいるというジェスチャーと思った私にとってその言葉は、あまりにも不意打ちというものだった。……もちろん、言われ慣れてない、ということもあるが。

 

とにかく、全く身構えていなかった状態に不意打ちをくらった私は、当然の如く狼狽してしまうわけで。とどのつまり、

 

「ーーーこの世から消えてなくなりなさい!!」

 

「な、なんでぇ!?」

 

 

ーーーものすごく、テンパってしまった。

 

 

あぁもうほんと、なんなのかしらこの人間は。もはや、狙ってやっているとしか言いようがない。だから私はこいつを殴る。殴るのだ。とにかく殴る。

 

「痛い痛い痛い!痛いよ幽香さん!突然どうしちゃったのさ!?」

 

「うるさいうるさいうるさぁい!その口を閉じなさい!あぁ!顔もこっちに向けるなぁ!」

 

そんな理不尽な!?とか蓮花は喚いているが、関係あるか。今のあなたの顔を見てしまえば、それこそ私は恥ずかしくて死ぬ。……大妖怪を殺せる人間とか、なにそれ怖いわ。蓮花って本当に人間?

 

 

こんなのでこれから先の蓮花とのお出かけ、大丈夫なのかしら……そんな不安を感じながら、私たちは朝から人知れずコントを繰り広げていた。

 

 

……別に、蓮花と二人っきりのお出かけが楽しみとか、断じてそんなことは思っていない。

 

 

 

 

 

❁❀✿✾

 

 

 

 

 

「ーーーあっ!待ってましたよレン君!それに、おお!!やはり似合ってますねぇ幽香さん!!めちゃくちゃ可愛いですよ!!」

 

「さて、どういうことか説明してもらおうかしら蓮花……?」

 

「幽香さん!僕の右腕は、そっちには曲がらなーーー」

 

ぽきっ、とか変な音が蓮花の腕から聞こえたが、知らない。知ったことではない。今私が気にしていることは、そんなちんけなものではないからだ。何故蓮花とのお出かけのはずなのに、早苗がいるのかしらね?ーーーね、蓮花?

 

「ま、待つんだ幽香さん!!僕の左腕もそっちには曲がらなーーー」

 

「人の腕は、そんな方向にも曲がるものなんですね……奇跡です、これは!」

 

助けてくれないかなぁ!?とか言ってる蓮花を、不思議そうに見ている早苗。この子って、あれかしら?アホの……んんっ、天然ってやつかしらね?

 

いやまあそんなことより。ほら、いつまでも地べたでのたうち回ってないでよね、蓮花。周りから変な目で見られるじゃない。ーーーふっ。

 

ごぐっ。

「ーーーふおおおおおっ!?」

 

地べたでのたうち回っていた蓮花を掴んで無理やり立たせ、外した肘をまた入れ直しただけなのにこの反応……ちょっとオーバーすぎやしないかしら?

 

「そもそも腕を外したはずなのにぽきって音が聞こえる時点でおかしいんだけど!?折ったよね!?あれ確かに折った音だよね!?なのになんで腕が外れたの!?」

 

「落ち着きなさい蓮花。正確には腕じゃなくて肘よ、外した部分は」

 

「そんなこと聞いてないんだけど!?」

 

「うん、知ってるわ。知ってて言ってるのよ、あなたは馬鹿なのかしら?死ぬの?」

 

「今日は随分と言葉に切れ味がありますねぇ!?」

 

「言葉で人は殺せる……なるほど、奥が深いですね」

 

そう言いながらうんうんと頷く早苗。この子、素質があるのかもしれない。

 

……って、そうじゃない。そうじゃなくて、何故ここに早苗がいるかだ。だいぶ話が脱線してしまった。それもこれも、蓮花が弄られやすい体質のせいだ。なぜだか無性に虐めたくなっちゃうのよね、彼。

 

それにしても、

 

「うう、なんで今日の幽香さんはこんなにも機嫌が悪いんだ……僕なにかしたかなぁ」

 

「十中八九レン君のせいだと思いますが、それは言わないでおいてあげましょう。私は優しいですからね!」

 

「いやもう言ってるんですけど!?ちくしょうもう何も信じないからな!!うわぁぁぁん!!」

 

 

「……はぁ」

 

 

ついに耐えられなくなったのか、いきなり泣き出した蓮花が、人混みをかき分けて奥の方へと消えてしまった。さらにそんなに蓮花を探すためなのかどうかは知らないが、これまたいきなり懐からダウジングを取り出してドヤ顔をしている早苗。

 

全く、こんなのでこれから先のお出かけ、大丈夫なのかしら。いえ、大丈夫じゃないわね。うん、十中八九大丈夫じゃない。

 

 

 

蓮花とのお出かけを『楽しみ』にしていた私は、出鼻をくじかれガックリと肩を落としながら、走って行った蓮花とそれをダウジングで追っていった早苗をゆったり歩いて追いかけることにした。

 

 

 

 

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