「新しい楽士のLucidだよ! みんな仲良くしてあげてね!」
「Lucid、メビウスでしか生きられない者達の心も知ってほしいと言ったのを覚えてる? 楽士達はおいそれと他人に胸の内を見せたりはしないでしょうけど、時間をかけて親交を深めて」
ソーンとμが集まった楽士達になんだかオシャレな黒いガイコツの新人楽士Lucidを紹介したのが1ヶ月程前のこと。
ソーンがLucidに楽士達と親交を深めるように言ったのも、同じく1ヶ月程前のことだ。
正体不明の謎の楽士として帰宅部の中でも楽士の中でも注目されているが、その正体は帰宅部の部長である。この事実を知っているのは本人を除けばソーンとμの2人だけ。
元々彼はソーンがスカウトして連れて来た。メビウスに気付き、アリアと出会い、カタルシス・エフェクトを誰よりも先に発動させ、短期間で楽士を2人(1人は元楽師であるが)も撃破する彼の存在は楽士の長としてもソーン個人としても無視できなかった。
そしてLucidとして活動するなり、作った曲はヒットチャートを抜きまくり、ラガードを狩りまくり、帰宅部相手にも手を抜かない徹底ぶりだ。毎度帰宅部には逃げられているが、そこは大目に見ようじゃないか。
帰宅部にとっても、楽士にとっても、彼は切り札となる存在なのだ。だからこそ、ソーンは彼を仲間に引きこみたかった。
さて、ソーンはLucidに対して「楽士達と親交を深めて」と言っておいた。Lucidは「コミュ障なので自信がない」などと言っていたが、ソーンは知っている。Lucidが帰宅部の部長として活動している時、帰宅部だけでなく学校のいろんな生徒のお悩み解決のために走り回っていることを。
あれから1ヶ月。Lucidは楽師達とちゃんと親交を深めているだろうか? 彼が楽士達の心を知ることで、メビウスに残る道を選ぶとまではいかなくとも、最低でもそういう道もあると考えてくれるようになってくれていればいいのだが……。
「ねえ、μ」
「なあに? ソーン」
「Lucidは楽士達と仲良くしているかしら?」
楽士達が集まる控え室でソーンはμに聞いてみる。Lucidが楽士として行動している時、μはLucidのパートナーとして行動を共にしている。彼についての客観的意見はμに聞くのが1番だろう。多少天然ではあるが、彼女、嘘とか苦手だし。
「うん! Lucidはみんなと仲良くしてるよ!」
μは満面の笑みで答える。楽士達が仲良くしているのがよっぽど嬉しいのだろう。
「スイートPは『私のこと理解してくれるのはLucidちゃんだけだ』って言ってお茶会に誘ってくれるし、少年ドールもLucidにはいろいろ相談するんだ! StorkやイケP、シャドウナイフはLucidのことお友達として気に入ってるみたいだし、梔子も『他の楽師に比べてLucidは話しやすくて助かってる』って! ミレイもLucidと競ってる時はなんだか楽しそうだしウィキッドもLucidといると少しだけ優しい顔するんだよ!」
楽しそうに話すμ。少し天然さんな彼女の主観なので話す内容を全て信じる訳にもいかないが、特に問題はなさそうだ。
「ソーン以外とはもうすっかり仲良しさんだね!」
「そうね……うん?」
「どうかしたの? ソーン? お腹でも痛い?」
「いえ、お腹は大丈夫。それよりもμ、Lucidは楽士達にもう馴染んでいるのよね?」
「うん、そうだよ? ソーン以外とはもう馴染んでるよ?」
あれ? もしかして私、ハブられてる?
ふとそんな疑問がソーンの頭をよぎった。
「落ち着きなさい、落ち着くのよ私……。こ、これは何かの間違いよ。そんな私だけハブになってるだなんてそんなこと……」
「Lucidも似たようなこと言ってたよ? 帰宅部のみんなに正体バレてない? って聞いたら『デジヘッド狩りの時は基本ぼっちだから大丈夫……』って。表情は分からないけど感情のパラメーターはブルーになってた」
どこの組織もリーダーというものは孤独なのか……。まあ、今ソーンが孤独を感じているのは件のLucidのせいなんだけど。
「ちなみに最後に個人的に話したのは『何か考えておくわ。また今度声をかけて』って言った時だよ! ソーンとLucidが親交を深めるために何かしようとしてたんだよね!」
「親交を深めるどころか始まってすらいないじゃないか!」
「そ、ソーン! 口調口調!」
「あらいけない」
ちょっと興奮し過ぎたようだ。
「しかし何故私だけ……?」
「私、Lucidに聞いてくるね!『なんでソーンとは仲よくしようとしないの?』って!」
「待って、待ってちょうだい。それはダメよ」
ソーンは慌てて意気揚々とLucidの所へ行こうとするμの腕を掴む。そんなことされたらハブられてるのを気にしてるみたいじゃないか。
「別にそんな深刻な問題ではないのよ。ただちょっと理由が気になっただけだから」
決してハブられてるのがなんか悲しいとかそんな理由ではない。断じてない。
「もしかしたら私と他の楽士達の間では何か違いがあるのかもしれないわ。だからLucidも私とは親交を深められないのかもしれない」
「ソーンもLucidと仲良くしたいんだね! 私も協力するよ!」
何やら勘違いされてしまったようだが、気にすることでもないなとソーンは判断した。
「ソーンとみんなの違いでしょ? えーとねー……あ、そうだ! 1つあったよ! ソーンがみんなと違う所!」
手をポンと叩くμ。なんと分かりやすい動きだろうか。
「あのね! ソーン以外の楽士のみんなはね、けっこう自分からLucidに絡んでいくの!」
「自分から……? 想像できないわね……」
特に少年ドールとかウィキッドとかその辺。
「スイートPはLucidの服装に興味を持って話すようになったし、StorkやイケP、シャドウナイフは自分の同類だって思って話しかけたみたい。ミレイは自分から突っかかっていくタイプだし、ウィキッドも『それ以上近づくな』ってLucidに言ったのがきっかけだしね! 少年ドールだけは私が『仲よくして』って言ったんだけど……」
「自分から……なるほど……」
μの言葉にソーンはしばらく考え込んだ後、何かを思いついたように立ち上がった。
後日。
「ねえ、Lucid」
「どうした?」
「私とデートしましょう」
「なん……だと……⁉」
ソーンの一言が控え室の空気を一瞬にして凍らせた。
「ソーンとLucid、仲良くなれるといいね!」
言葉を失う楽士達の中で、1人で笑顔で喜ぶμだった。