歌姫の寝ぼけ見る夢   作:灰色平行線

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内容のせいで文字数が増えまくった話


Spinacia oleracea

「集まったわね? 今日は大事な連絡があるわ」

 楽士達の控え室では、ソーンの呼び出しによって全ての楽士が集まっていた。

「ちょっと、私の貴重な時間を潰してまで呼び出したんだから、くだらない用件だったら承知しないわよ?」

 ミレイがイライラした様子で口を開く。

「彼女、何かあったのかい?」

「急な呼び出しだったからねえ。でもミレイちゃんがイライラしてるのなんて毎度のことじゃない。叫ばないだけまだマシよ」

 その横ではStorkとスイートPがヒソヒソと話してしている。

「ところでソーン、μはどこ? 姿が見えないようだけど」

「よく聞いてくれたわね梔子。大事な用件というのはμのことよ。μは今、意識不明の重体で体を癒している最中なの」

 ソーンの言葉に先程まで緩んでいた楽士達の空気が張り詰めたものになる。

「μが重体って、大丈夫なのかよ⁉」

 皆を代表するようにイケPが叫ぶ。

「命に別状はないわ。ただ、体の修復が完了するまでの間、メビウスの存在が多少不安定になる。そこだけは覚えておいて」

 ソーンの説明を聞いても、楽士達の動揺は収まらない。メビウスの存続は、楽士達にとってそれだけ重要なことなのだ。

「原因は分かっているのか? 帰宅部がμと接触したなんて話は聞いていないぞ?」

 楽士達の中でただ1人、Lucidだけがいつもと変わらぬ様子でソーンに問いかける。動揺がないのは彼が帰宅部の部長を兼任していて、メビウスにそこまで依存していないからか。帰宅部とμが接触していないと言えるのも、彼が普段は帰宅部の方で活動しているからだ。

「μの意識不明は帰宅部が原因ではないわ。事故よ」

「事故だと?」

 怪訝そうにシャドウナイフが眉をひそめる。μはメビウスにおいては全能とも言える力を持っている。その彼女がただの事故で意識不明にまでなるとは考えにくい。

「最近、μがよく小さくなって行動してることは知ってるでしょう?」

「確かあのドチビッチョの真似をしてるんだっけ?」

 ソーンの言葉に首を傾げるスイートP。

「どういう訳か、あの姿気に入ってるみたいだしね」

「デカくてもチビでも鬱陶しいのは変わんねーけど」

 ぽつりと呟く少年ドールに、特に興味なさそうなウィキッド。反応は人それぞれだ。

 だが、

 

「夜中に小さくなって散歩していたら、虫退治用の街灯にフラフラ近づいて感電したらしいわ」

 

 そう続けたソーンの言葉に対して、誰もが同じ反応をした。

「……は?」

「だから夜中に――」

「いやいやいや! 繰り返さなくていーから! っつかありえねーっしょ⁉」

 真っ先にそうツッコミを入れたのはイケPだ。

「いくらウィキッドが羽虫って呼んでるからってまさか本当に虫みたいな行動にでるなんて……」

「ああ⁉ 私関係ねーだろ! ぶっ殺すぞ!」

 軽口をたたくLucidにわりと本気でブチ切れるウィキッド。

「ウィキッド相手にふざけられるのなんてLucidくらいだよねえ……」

「見た目に反してかなりはっちゃけるわよねぇあの子……」

 ヒソヒソと内緒話を続けるスイートPとStork。

「とにかく」

 強引に話を戻すソーン。

「μの意識が戻るまで、存在が安定しないメビウスでは何が起こるか分からないわ。私たちは寄せ集めの集団だけど、メビウスを維持させるという目的は同じ。何かあったら連絡を入れること。ホウレンソウをしっかりとしてちょうだい」

 まるで学校の先生のように言い聞かせるソーン。

 

「ほうれん草? 何でそこで野菜が出てくるんだよ?」

 

 が、理解できていない者が1人。イケPである。

「はあ? アンタそんなことも知らないの? 報告、連絡、相談の略よ。ホント庶民ってのはこれだから……」

 そんなイケPを馬鹿にしたように笑うミレイ。

「……まさかミレイが正しいことを言うとは思っていなかった」

「なぞなぞはアレだけど、勉強はそこそこできるらしい。最近ドリル頑張ってるみたいだし」

「なるほど……」

 そしてそんなミレイに驚く梔子と、梔子にひっそりと教えるLucid。リアクションの数珠つなぎである。

「とりあえずは、後であなたたちがちゃんと連絡を伝えられるかテストさせてもらうから、そのつもりでいなさい。連絡は以上よ」

 ソーンの言葉によって楽士の集まりはお開きとなる。

「最近はLucidのおかげもあってか、楽士同士でも話す機会がわりと増えてきている。まあ、連絡くらいはしっかりできるか」

 誰にも聞こえないように独り呟くソーン。だが何故だろう、楽観視しているはずなのに、胸の中には不安が渦巻いていた。

 

 ◇◇◇

 

 数日後。

 外を歩いていたスイートPの携帯が鳴る。ソーンからの着信だ。

「はぁ~い、スイートPでぇ~す」

「ソーンよ。早速だけど、連絡を回すテストをさせてもらうわ」

「ず、随分いきなりなのねぇ」

「伝えてもらう内容は『三丁目のサタケさん家に泥棒が入った』よ。これをStork、少年ドール、梔子、ミレイ、イケP、シャドウナイフ、ウィキッド、Lucid、私の順に伝言ゲームみたいに伝えていってちょうだい。連絡は必ず通話ですること。ズルしようなんて考えないこと。以上よ」

 そう言ってソーンからの通話は切れる。

「なによもう……。でもソーンちゃん怒らせると怖いし、やるしかないかあ」

 しぶしぶながら、スイートPはStorkの携帯に電話をかける。

 

「もしもし?」

 いつものように覗きに励むStorkの電話が鳴る。

「もしもしStork? スイートPだけど、ソーンちゃんからのテストよ」

「ああ、アレね」

「『三丁目のサタケさん家に泥棒が入った』これをドールちゃん、梔子ちゃん、ミレイちゃん、イケPちゃん、シャドウナイフちゃん、ウィキッドちゃん、Lucidちゃん、最後にソーンちゃんの順に伝言ゲームの要領で伝えれば……ってきゃあ⁉」

 突如、Storkの電話の向こうから悲鳴と共にドスンという大きな音が聞こえてくる。

「おや? 何かあったの?」

「転んだのよ! もー誰よこんな所にバナナの皮なんて捨てたヤツ! とにかく伝えたからね! 必ずWIREじゃなくて電話で伝えなさいよ! 変態!」

 八つ当たり気味にスイートPからの電話は切れる。

「今時バナナの皮で転ぶだなんて、漫画じゃあるまいし! あは! あはははは‼」

 ひとしきり笑った後でStorkはふと考える。

「もしかして、バナナの皮で転ぶとこも含めて連絡事項なのか? ホウレンソウをしっかりと言ってたし……」

 

「も、もしもし?」

 自室で本を読んでいた少年ドールの携帯が鳴る。

「もしもし? 僕だよ、Storkさ! 少年よ、試練の時は来た!」

「何でそんなにテンション高いのさ……」

「えーと、『三丁目のサタケさん家に泥棒が入った。あとスイートPがバナナの皮で転んだ』これを梔子、ミレイ、イケP、シャドウナイフ、ウィキッド、Lucid、ソーンの順に伝言ゲームで伝えろってさ。ちゃんと通話でね……ってどわ⁉」

 通話の途中で少年ドールの電話の向こうから、Storkの叫び声と鈍い音が聞こえる。

「え? 何?」

「いたた……いやあ、覗きがバレちゃったよ。最近の女の子ってグーでくるんだねえ」

「何で覗き中に電話してんのさ……」

「それじゃあ、伝えたからね。少年よ大志を抱け!」

 そう言ってハイテンションにStorkからの電話は切れる。

「まったく、何で僕が……ってあれ?」

 文句をつく少年ドールはふと考える。

「普通、覗きの最中に電話なんて明らかにバレそうなことしないだろうし、もしかして、これも連絡する内容に含まれてるの? ソーンはテストだって言ってたし、伝える内容も突拍子もないものにしてくるかもしれないし……」

 

「もしもし?」

 自宅にいた梔子の携帯が鳴る。

「も、もしもし? 少年ドールだけど……」

「電話なんて珍しいな。もしかして、ソーンの言ってたテストの件?」

「う、うん。『三丁目のサタケさん家に泥棒が入った。あと、スイートPがバナナの皮で転んでStorkの覗きがバレて殴られた』これをミレイ、イケP、シャドウナイフ、ウィキッド、Lucid、ソーンの順に伝言ゲーム方式で伝えて。電話じゃないとダメだって言ってた……うわっ⁉」

 電話の最中、梔子の携帯の向こうから少年ドールの短い悲鳴が聞こえる。

「どうした?」

「あ、積んでた本が崩れてきただけだから大丈夫ってああ⁉ フィギュアが壊れてる⁉」

「……まあ、大きな事故とかじゃなくて良かった。今はμの力も頼れないし」

「う、うん……。じゃあ、伝えたから、切るね……」

 そう言って哀愁を漂わせながら少年ドールからの電話は切れる。

「μ……あれ?」

 μの心配をする梔子はふと考える。

「こうもタイミングよくアクシデントが起きるものなのか? もしかして、本が崩れるところも含めてソーンのテストになっている?」

 

「もしもし?」

 買い物途中のミレイの電話が鳴る。

「梔子よ。ソーンのテストの時間が来たわ」

「はいはい、分かったわよ。まあ、私にかかればどんなテストでも赤子の首をしめるようなものでしょうけど」

「それを言うなら手を捻るでしょ? やっぱりバカだ……。それじゃあ伝えるけど、『三丁目のサタケさん家に泥棒が入った。あとスイートPがバナナの皮で転んでStorkの覗きがバレて殴られて少年ドールのフィギュアが壊れた』これをイケP、シャドウナイフ、ウィキッド、Lucid、ソーンの順に伝言ゲームと同じやり方で伝えて。分かる? 伝言ゲームよ。あなたはイケPに電話するのよ」

「分かってるわよ! 私を誰だと思ってるの? 不可能を可能にする女、ミレイ様よ?」

「可能を不可能にするから不安なんじゃ……まあいいわ、ちゃんと伝えたから。電話で伝えなさいよ? ズルしてもソーンにはどうせバレ……っ⁉」

 突然、ミレイの電話の向こうから息を呑むような音が聞こえてくる。

「な、何よ? どうしたのよ?」

「し、心配ない。た、タンスの角に足の小指をぶつけただけだ……」

「驚かせるんじゃないわよ! まあ、私ならそんな小さなミス、する訳がない……って、ちょっと⁉ 勝手に切ってんじゃないわよ!」

 ツー、ツーという機械音しか鳴らない電話にミレイは叫ぶ。

「ったく……あら?」

 悪態をつきながらふとミレイは考える。

「よくよく考えたら通話中に小指をぶつけるなんてことあるのかしら? さてはこれも伝えるべき内容の一部ね! こんな引っかけに騙されるような私じゃないわ! オーホッホッホッホ‼」

 

「もしもし?」

 イケPの電話が鳴る。

「このミレイ様が直々に電話をかけてあげてるのよ、光栄に思いなさい!」

「へいへい、いきなりなんだよ?」

「ソーンからのテストよ。私の名誉のためにもきっちりと伝えなさい?」

「どんだけ上からだよ……」

「『三丁目のサタケさん家に泥棒が入った。あとスイートPがバナナの皮で転んでStorkの覗きがバレて殴られて少年ドールのフィギュアが壊れて梔子がタンスの角に足の小指をぶつけた』これをシャドウナイフ、ウィキッド、Lucid、ソーンの順に伝言ゲームで伝えない。ちゃーんと電話でね。……はあ⁉ カードが使えない⁉ 今時カードも使えない店だなんて時代錯誤もいいところだわ!」

「あ? 何、お前買い物中なの?」

「そうよ、買い物の途中に電話してやってんだから感謝なさい?」

「いや、絶対買い物のついでに済まそうとしてるだけだろ……」

「おだまり! とにかく、伝えたわよ⁉」

 そう言って一方的にミレイからの通話は切れる。

「相変わらず楽士の女連中はおっかねえ、はあ……ん? 待てよ?」

 ため息をついたイケPはふと考える。

「わざわざ買い物中であることをアピールしたということは、もしかして、これも連絡内容に含まれてるんじゃないか? そうか、引っかけ問題だな⁉ やっべ、俺ってば冴えてる‼」

 

「俺だ」

 今日もどこかで正義を執行しているであろうシャドウナイフの携帯が鳴る。

「おう、イケPだけどよ……ってお前が言うと短い言葉でもなんかカッコつけた感じに聞こえるな……」

「して、何用だ?」

「それは思いっきりカッコつけてるな……。ソーンからのテストだよ。『三丁目のサタケさん家に泥棒が入った。それとスイートPがバナナの皮で転んでStorkが覗きがバレて殴られて少年ドールのフィギュアが壊れて梔子がタンスの角に足をぶつけてミレイのカードが使えない』これをウィキッド、Lucid、ソーンの順に伝言ゲームで伝えろってさ。ちゃんと電話でな」

「いいだろう。正義正道の影法師の力、とくと見よ!」

「いや電話だから見えね……って、うおう⁉」

 突然電話の向こうからイケPの叫び声が聞こえてくる。

「何事だ?」

「クソッ鳥のフンが落ちた! 美容院行ったばっかなのに! っつかメビウスって鳥のフン落ちんの⁉」

「何かと思えばそんなことか……」

「そんなこととはなんだ⁉ とりあえず切るぞ! あー、どうすんだコレ……」

 そう言って慌てた様子でイケPからの電話は切れる。

「全く、騒々しい……む?」

 呆れるシャドウナイフはふと考える。

「鳥のフンが落ちたのは偶然か? まさか、これも連絡内容……」

 

「もしもし?」

 自室でくつろいでいたウィキッドの携帯が鳴る。

「俺だ」

「名前言えよ名前」

「正義正道の影ほ――」

「んで、用はなんだよ?」

「……ソーンからの指令だ。『三丁目のサタケさん家に泥棒が入った。あとスイートPがバナナの皮で転びStorkの覗きがバレて殴られ少年ドールのフィギュアが壊れ梔子がタンスの角に足の小指をぶつけミレイのカードが使えずイケPの頭に鳥のフンが落ちた』これを電話でLucidに伝え、Lucidには同じ内容をソーンに伝えろとのことだ」

「いや長えよ。馬鹿じゃねーの?」

「文句ならソーンに言え。俺は伝えただけだ……ム?」

 突然、電話の向こうのシャドウナイフの様子が変わる。

「すまないがもう切るぞ。正義を執行せねばならん相手がいたのでな!」

 そう言って他の楽士たちに比べるとあっさりとシャドウナイフの電話は切れた。

「はー面倒臭え、なんだってこんな長え内容覚えなくちゃならねーんだよ……待てよ?」

 苛立つウィキッドはふと考える。

「あのクソ法師がヒーローごっこに向かったのは偶然か? ソーンのヤツがホウレンソウなんて言いやがった状況であんな電話をしてきたんだ。もしかして……」

 

「もしもし?」

 部長の姿だが、都合よくアリアが一緒にいないLucidの携帯が鳴る。

「おう、アタシだ」

「ウィキッドか?」

「そうだよ、ウィキッド様だよ。いいか、1度しか言わねーから耳クソかっぽじってよーく聞け。『三丁目のサタケさん家に泥棒が入った。あとおっさんがバナナの皮で転んで除き魔の覗きがバレて殴られて根暗ドールのフィギュアが壊れてマスクがタンスに足の小指ぶつけて年増のカードが使えなくてスカした野郎の頭に鳥の糞が落ちて中二野郎が正義執行しに行った』これをソーンに伝えろ。電話でな」

「随分と長いんだな……」

「アタシに言うんじゃねーよ。アタシだって長いと思ってんだから」

「まあ、とにかく分かった」

「おう、んじゃ『茉莉絵ちゃん、お昼ご飯できて――』うるっせえよ! 今電話してんのが分かんねえのかババア!」

 突然、電話の向こうから誰かの声と、ウィキッドの怒鳴り声が聞こえたかと思うと、そのまま電話は切れてしまった。

「……ふむ」

 しばらく唖然としていたLucidはふと考える。

「……まさか、今のも伝える内容か?」

 

 ◇◇◇

 

「もしもし?」

 1周回ってソーンの携帯が鳴る。

「Lucidだ」

「そう、早速だけど、私が伝えた内容を教えてくれる?」

「三丁目のサタケさん家に泥棒が入った」

「どうやらちゃんと伝わっ――」

 

「それとスイートPがバナナの皮で転んでStorkの覗きがバレて殴られて少年ドールのフィギュアが壊れて梔子がタンスの角に足の小指をぶつけてミレイのカードが使えなくてイケPの頭に鳥のフンが落ちてシャドウナイフが正義を執行しに行ってウィキッドが暴れてる」

 

「……」

 安心したのもつかの間。続けて発せられたLucidのセリフにソーンは言葉を失う。

「正直、伝言ゲームにしてもこの内容はどうかと思うぞ?」

「いや私じゃないわよ。9割くらい私じゃないわ」

 呆れたように言うLucidに対して抗議せずにはいられないソーン。

「まさかホウレンソウもまともにできないなんて……」

 やっぱり自分が全員に連絡した方が確実だと思うソーンだった。




おまけ

「Spinacia oleraceaはホウレンソウの学名だね! ヒユ科アカザ亜科ホウレンソウ属の野菜で涼しい地域や季節に栽培されることが多いんだって! ウィ●ペディアに書いてあったよ!」
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