ネタは浮かぶけど話が発展しなくて悩む執筆時間。
「うおおおぉぉぉ! 俺は現実に帰るぞー! μウウウゥゥゥ‼」
「お、落ち着いて! シャドウナイフ!」
「……なぁにこれ?」
暴れるシャドウナイフ。シャドウナイフを羽交い締めにするLucid。おろおろするμ。控え室にやって来たスイートPは、その奇妙な光景に首を傾げた。
「いやあ、突然シャドウナイフが『現実に帰る』って暴れだしてさー。楽士の中でも戦闘に特化した彼を止めるのには苦労したよ。Lucidがいなかったらどうなっていたことやら……」
少し疲れた様子でそう答えるのはStorkだ。何か悪いモノにでも取り憑かれたかのようにじたばたと暴れるシャドウナイフを、彼は顔色一つ変えずに押さえつけている。もっとも、ガイコツ頭の顔色なんて分かったものではないが。
「どうしてまた突然?」
「それが分からないから困ってるんじゃないか。僕ら楽士たちは基本的に相互不干渉だからねぇ。普段なら誰かが悩んでても相談に乗ったりとかはしないけど、今回は事が事だろう? このままシャドウナイフに暴れられたら部屋がメチャクチャになっちゃうよ」
話を聞いて、今のシャドウナイフはまるで腹をすかせた獣のようだと、スイートPは思った。
「いい加減理由を教えてくれ。このまま暴れてたって解決にはならんだろう」
Lucidがそう言うと、シャドウナイフの動きがぴたりと止まる。
「……が……だ」
「え?」
「映画が見たいんだ! シャドウナイフの‼」
若干素が出た彼の叫びに一瞬、部屋の中がしんと静まり返る。
「ああ、そういうこと」
部屋の角で少年ドールが納得したような声を出した。
「知っているのか⁉ 少年よ!」
「教えてちょうだい! ドールちゃん!」
「あ、いたの?」とか言わないのは2人の優しさか、それともいつものことだからか。
「何そのテンション……。シャドウナイフの姿がアニメの主人公を模してるってことは知ってるよね?」
「ええ、そうだったの?」
「変わった格好だとは思ってたけどね。僕が言えたことじゃないけど、あは! あははは!」
話の出鼻をくじかれる少年ドール。相互不干渉というよりは、単に他人に興味がないだけのように見える。
「つまり、シャドウナイフの元ネタの映画を見るために帰りたいということか?」
「そういうことだと思う」
Lucidの言葉に少年ドールは頷く。楽士同士の会話の中で、話を軌道修正してくれる人の存在は貴重である。Lucidの場合、時々はっちゃけることがあるが。
「大丈夫だよシャドウナイフ! 映画ならメタバーセスで探してメビウスでも見られるようにしておくから!」
まるでワガママを言う子どもをなだめるようにμがそう語るが、
「笑止! 動画サイトに違法アップロードされた映画に何の価値があるというのだ! ファンならば己の金で映画館に行き、己の金でDVDを買い、己の力で特典を手に入れるべきであろう⁉」
火に油を注ぐ結果となってしまった。
「ど、どうしよう⁉ Lucid‼」
「とりあえず、ファンの心理にケンカを売る発言は止めておこう」
慌てるμと、なだめるLucid。
「映画館なんてどこがいいのさ……家族連れかカップルばかり集まるし、何よりあんな暗い中で映画なんて見たら目が悪くなりそうじゃないか……」
ぽつりと、少年ドールが呟く。薄暗い部屋に引きこもっている人のセリフとは思えないが、人間、自分のことは棚に上げるものだ。
「とはいえ、どうするう? 現実で現在進行形で上映してる映画なんてメビウスじゃどうしようもないと思うんだけどお」
スイートPの指摘は最もだ。
メビウスでの情報は、μがネットで集めてくる情報が全てだ。ネット経由で手に入らないモノは、μが1から作る以外に手に入れる方法がない。ましてや、上映中の映画なんてインターネットの動画サービスでも公式配信なんてされていないだろう。
可能性があるとすれば、どこかの誰かが動画投稿サイトなどに勝手にアップロードしたものを探すことだが、シャドウナイフの反応を見ればお察しだ。そもそも犯罪である。メビウスにおいて法律など無いに等しいものだが、「悪いこと」なんて見ていて気持ちの良いものでもないだろう。
「それにしても、今までよくメビウスから出ようとしなかったねえ。『映画が見たい』『特典が欲しい』とかのファンの心理なんてメビウスじゃどうしようもないだろうに」
「元々メビウスだと、インターネットでも外の世界の情報なんて入ってこないからな。それがバグか何か知らないが、図書館のパソコンが現実のインターネットに繋がるようになってしまった。そのせいで偶然インターネットを利用したシャドウナイフが映画の存在を知ってしまったのだよ。シャドウナイフのアニメは最終回まで終わっていたから、それまで映画をやってるなんて思いもしなかったのだろう。映画の存在を知ってファン魂が暴走してしまったといったところか」
Storkの疑問に答えたのは、今現在もシャドウナイフを羽交い締めにし続けるLucidだ。
「しかし、何か対策をとるなら早くした方がいいぞ? メビウスは我慢とは無縁の世界だからな。この正義正道の影法師が我慢の限界を迎えて強行突破に乗り出したらこちらも力づくで解決しなければならなくなるぞ? 戦闘要員のシャドウナイフが相手となれば、この控え室も無事では済まんだろう」
「ええ⁉ それは困るわ! ここに置いてるゆめかわグッズに傷がついちゃうじゃない!」
「僕だって困るよ! ここにどれだけ本を置いてると思ってるのさ⁉」
自分たちにも危害が及ぶと分かった瞬間、目に見えて慌て始めるスイートPと少年ドール。
とはいえ、状況が停滞しているのも事実だ。このまま何も解決策の浮かばぬままグダグダと問題を引き延ばしていくしかないのか……。
そんな時である。
「待たせたわね」
デジャヴを感じさせる言葉と共に、扉を開けてソーンが入って来たのは。
「ソーン!」
μは嬉しそうに名前を呼ぶが、
「で、出た! オスティナートの楽士のオチ担当!」
「で、出た! マインドホン信者!」
スイートPとStorkからの反応は散々である。だが、こんなことでへこたれるソーンではない。
「ご要望に応えて期待通りに持ってきたわよ、マインドホン」
◇◇◇
「正義正道の影法師、シャドウナイフ! 見参‼」
後日、そこには元気に悪を滅するシャドウナイフの姿が。
「結局、シャドウナイフの願いは叶えてあげられなかったね……」
そんなシャドウナイフを見て、淋しそうにμは呟く。
「Lucid……わたし力が欲しい、力が欲しいよ。どんな人の願いも叶えられる力が……」
「μ……」
悲しむμの隣に、Lucidはただ立っていた。
(正直、あのままグダグダしてるよりだったら、マインドホンを使って話をさっさと終わらせたのは正解だったと思う)
とは言えなかった。