「そういやLucidって何者なんだろうな」
それは、笙悟が部室の中で何気なく呟いた一言から始まった。
「確かに気になりますね。これまでの待ち伏せ作戦が失敗してるのも、全部その楽士のせいって訳でもありますからね」
笙悟の言葉に美笛が賛同する。
「鍵介君もLucidさんについては何も分からないんですよね?」
「ええ。僕が楽士にいた頃はLucidなんて楽士はいませんでしたよ。楽士達が全員呼び集められる時もいませんでしたし、僕が帰宅部に入った後で新たに楽士になったのは間違いないでしょう」
鈴奈の言葉に鍵介が頷く。
「でも、実力は確かよ。戦闘時は他の楽士達をまとめ上げてるみたいだし、新参といっても油断はできないわ」
「実際、私達も何度も負けてる訳だしね……」
琴乃の言葉に、彩声が苦々しく続く。
「アイツが来る時はμも一緒に現れるってのに……クソッ!」
「待ち伏せ作戦の時には必ず来るからな。他の楽士に比べれば会える確率は高いはずだが……」
「何か情報でもあればいいんだけどねー」
苛立つ鼓太郎に考え込む維弦。そして携帯をいじる鳴子。
部室にいる全員が謎の楽士Lucidについて考えていた。
「You、どしたん? さっきから一言も喋ってないけど」
「い、いや! なんでもないよ! 大丈夫!」
アリアの問いかけに慌てたように大丈夫を返す帰宅部の部長。
「いや、でもなんかすごい汗かいてんよ?」
「昨日寝てないからじゃないかな⁉ ずっと起きてるとなんか汗かいたりするじゃない⁉」
とりつくろった理由づけ。当然、部長がこんなにも汗をかいているのには別の理由がある。
Lucidの正体が部長だからだ。
当たり前のことではあるが、帰宅部には自分がLucidであることは秘密にしている。実は楽士なんですなんて言えるハズもない。待ち伏せ作戦を決行する帰宅部相手に何度か戦っているのだから。
「そうだ! ネットで何か情報を探してみようよ!」
唐突に鳴子がそんなことを口にした。
「いくら謎っていっても相手は楽士だよ? μのファンばかりのメビウスで楽士といったら有名人だよ。もしかしたらgossiperに目撃情報とかアップされてるかもしれないよ!」
「んな簡単にいくか? 鍵介が楽士だった時は一般には正体は知られて無かっただろ。 ミレイやイケP、スイートPみたいな奴らならともかく、そう上手くいくとは……」
「あ、出てきた」
「早ェなオイ⁉」
笙悟の言葉が言い終わらない内に出てきた検索結果に、思わず鼓太郎がツッコミをいれる。ネットの情報って怖い。
「えーと何々、『パピコでスイートPを発見、変な黒いドクロ頭の透明人間と一緒に3月ウサギに入っていった。もしかして最近噂になってる新しい楽士ってヤツ?』だって!」
「黒いドクロ頭……間違いないですね」
gossiperの投稿を読み上げる鳴子の言葉を聞いて鍵介が頷く。
「3月ウサギって、スイートPがお茶会してた場所よね?」
「そそそそれって、まままさかデート⁉」
「いやいやいやいや‼」
琴乃の言葉に顔を赤らめる美笛。そしてそんな美笛の言葉に部長のメンタルは限界を迎えた。
「お茶会に誘われただけじゃないかな⁉ スイートPだってさすがに頭ドクロと恋仲になりたいとは思わないんじゃあないかな⁉」
「ぶ、部長? どうしたんですか? そんな必死に……」
美笛が驚いた顔をするが、そりゃあ必死にもなるだろう。だってLucidだもん。LucidとスイートPが付き合ってるなんて変な噂でも流れたらスイートPに何を言われるか分かったもんじゃない。彼女は見た目は少女でも、中身は男なのだ。別に女の子になりたい訳ではなく、ただゆめかわいい服を着たいだけなのだ。
「あ、こんなのもあったよー」
そうこうしているうちに、鳴子が新しい投稿を見つけてしまう。
「えっと、『学校でStorkと黒いドクロが何やらやっているのを見つけた。変身したstorkをドクロがひたすら見破ってて、正直隠れんぼでもしてるのかと思った』だって」
「まさか、アイツ性懲りもなくまた覗き……」
「いやいやいやいやいや‼」
顔をしかめる彩声の言葉を、部長が慌てて遮る。
「あ、『いや』の数が1コ増えましたね」
「気にするのそこか……?」
ズレた話をする美笛に首を傾げる笙悟。だが、そんなことにいちいち口を出していられない。
「gossiperに『隠れんぼ』って書いてあったんだから隠れんぼなんじゃないかなあ⁉ 仮に覗きだったとしてもLucidはStorkの擬態を見破ってたんだろう? だったらLucidは覗きを止める側だったんじゃないか⁉」
「いや部長、だからなんでそんなに必死なの?」
彩声から不審者を見るような目で見られるが、LucidとStorkが一緒に覗きをしていたなんて噂が流れるよりはマシだ。そんな噂が流れた日にはLucid状態で帰宅部に出会ったら彩声に問答無用で天誅されてしまいそうだ。
「じゃあ、これは?」
鳴子が次の投稿に手を付ける。一体どれだけあるんだ。
「なになに? 『ミレイ様が駅前広場で歳三さんと黒いドクロと一緒に福引やってた。福引に当たって大はしゃぎするミレイ様がなんだか庶民ぽくて微笑ましかった』だって! 意外な一面じゃない?」
「まさか今度こそデートですか⁉」
「いやいやいやいやいやいや‼」
鍵介の言葉を部長は即行で否定する。
「大方、福引でどっちが良い結果になるか競ってたんでしょ? あの女、負けず嫌いだし」
「そうそう! 絶対そうに決まってるって‼ そもそも従者付きのデートなんて聞いたことないもん‼」
「いや先輩? だから何でそんなに必死になってるんです?」
琴乃の言葉に食い気味に賛同する部長に、鍵介も若干引いている。だが仕方のないことなのだ。デートなんて噂になったらミレイに殺されかねない。今後の安全なLucidライフのためにも必要なことなのだ。
「うーん、じゃあこれ」
次の投稿に移る鳴子。まだあるのか……と、メンタルが何度もリスクブレイクしかけている部長だが、聞かない訳にもいかない。
「『イケP様をメンズフィストで発見! でも今日は自分の服を買いに来たんじゃなくて、服を選んであげてたみたい? フードで顔を隠した人と黒いドクロと一緒だった』って」
「黒いドクロはLucidだとして、フードの人は……少年ドールか?」
「そうなんじゃない?」
「普通の反応だ⁉ さっきまであれだけ慌てといて!」
首を傾げる笙悟に部長が答えると、アリアが大げさに驚く。まあ、これなら変な噂も立ちそうにないし。度重なるメンタル崩壊の危機によって、部長は若干なげやりになっていた。
「少年ドールさんもイケPさんみたいな服装になってしまうんでしょうか……?」
部長の反応が普通な分、鈴奈が複雑な表情をしていたが。
「うーん、結局Lucidについてはよく分からないままだなー」
「他の楽士と仲が良さそうってことしか分かりませんでしたねー」
不満そうに呟く鳴子と美笛。
「まあ、そんなこともあるさ。あまりネットの情報ばかりアテにしても仕方がないってことじゃないかな? それじゃあ、話も一段落したし、今日の活動はここまでにしよう」
そんな風にまとめて、部長は部室から出て行き、
「ふう、危なかった……」
外の廊下でため息を吐いた。
◇◇◇
「おー、Lucid! 丁度いい時に来たな!」
「どういうことだ?」
後日、Lucidが楽士達の控え室に顔を出すと、イケPが手招きして来た。どうやらソーン以外の皆が集まっているようだ。
「今楽士達で帰宅部の部長について情報交換してたんだよ! Lucidは何か知らねえか?」
(勘弁してくれ……)
イケPの言葉にLucidは心の中でそう呟いた。