歌姫の寝ぼけ見る夢   作:灰色平行線

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歌姫はこんな夢を見ていたかもしれない。


ギューピー3分クッキング

 お昼時、メビウスで不定期に放送される番組があったとさ。

 

「あー、もう昼か。……カップ麺でいいか」

 自宅でくつろいでいた笙悟はカップ麺にお湯を入れて、何か面白い番組はやってないかとテレビの電源をつける。

 

「ギューピー3分クッキングの時間です」

 

 軽い音楽と共にタイトルコール。

「料理人の部長です」

「アシスタントのアリアだってば!」

「げ、ゲストアシスタントの神楽鈴奈です!」

 そして現れる見知った姿。ぽかんとしながらも笙悟は番組を見続ける。

「色が変わるまで混ぜたらボウルに砂糖を投入します。鈴奈ちゃん、砂糖持って来てくれる?」

「は、はい! ……どうぞ! 先輩!」

「……鈴奈ちゃん、これ塩だね」

「ええっ⁉」

 部長の言葉に鈴奈はショックを受けたように目を見開いて驚く。

「あちゃー、初めてのテレビ出演だから緊張しちゃったんだね。ドンマイ鈴奈、こんなこともあるよ」

 アリアがフォローを入れるが、鈴奈はこの世の終わりのような表情のままだ。

「ご……」

「ご?」

「ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい! ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん‼」

「耳ガーーーーーーーーーーーーーーーーー! 耳が死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ‼」

 次の瞬間、大声で泣き出す鈴奈。耳を押さえてもだえ苦しむ部長とアリア。その大声はスタジオだけに留まらず、笙悟の見ていたテレビからぶすぶすと黒い煙が吹いたと思うと、ボンと小さな爆発音を出して画面が真っ暗になってしまった。

「ああ⁉」

 笙悟は慌ててテレビに駆け寄って、ボタンを押したり叩いてみたりするが、テレビはうんともすんとも言わない。

「また、バイトかあ……」

 がっくりと肩を落とす笙悟。その後ろでは時間の経ったカップ麺がひっそりと伸びていた。

 

 ◇◇◇

 

「ギューピー3分クッキング。料理人の部長です」

「アシスタントのアリアだってば!」

「ゲストアシスタントの篠原美笛です!」

 お昼時、出前のラーメンをすすりながら何気なくテレビをつけたスイートPの目に見知った顔が映る。

「ひ、ヒマワリ……ちゃん?」

 名前を呼ぶが、当然ながらテレビの向こう側のヒマワリちゃんが反応することなどない。ぽかんとしながらスイートPは番組を見る。

「あとは弱火で30分、じっくり時間をかけて煮るだけです。こちらに30分煮たものを……あれ?」

 料理番組らしく料理の作り方を解説していた部長だったが、何かに気付いて慌てだす。

「You、どしたん?」

「あ、アリア、完成した料理知らない? あらかじめ用意しておいたヤツ」

 部長の言葉にアリアもぎょっとする。

「え? ないの⁉ 本番中なのに⁉ 美笛ーここに置いておいた料理しらない?」

 そう言ってアリアが振り向くと、美笛は明後日の方を向いていた。

「え、えっとぉ~、ど、どこいったんでしょうねえ~? 分からないなぁ~」

 まるでヒマワリちゃんのような口調になる美笛。冷や汗もダラダラで、分かりやすい。

「……美笛ちゃん。僕の目を見て答えて? 本当に料理どこいったか知らない?」

 美笛の顔をじっと見つめる部長。

「う、うう……ご、ごめんなさーい! 練習用だと思って食べちゃいました!」

「た、食べた⁉」

「やっぱり……」

 観念したように白状する美笛、驚くアリア、項垂れる部長。

「えっと、完成品は是非ともキミの目で確かめてくれ! それじゃあ、またいつか!」

 途中までしか情報の載っていない攻略本のように番組を終わらせる部長。そのまま次の番組が始まる。

 

「……まあ、気持ちは分からなくもないわ」

 

 自分も同じ立場だったら同じ事をしてたかもなあ、と思うスイートPだった。

 

 ◇◇◇

 

「ギューピー3分クッキングの時間です。料理人の部長です」

「アシスタントのアリアだってば」

「ゲス、ゲスト……えーと……巴鼓太郎様だ! 俺様に任せとけ!」

 カップ麺にお湯を注ぎ、なんとなくテレビをつけたシャドウナイフの目に見知った顔が映る。

「さて今日は……」

 部長が本日のメニューを発表しようとした時である。

「助けを求めてる声が‼」

 突然鼓太郎が叫んだ。その手には携帯が握りしめられている。

「悪いが俺は行ってくる!」

「え⁉ ちょ⁉ 肝チビッチョ⁉ 今放送中!」

「うおおおおおッ! レスキューマン、出動だ‼」

 そう言って駆け出す鼓太郎。アリアの制止は耳にも入っていない。

「えーと……You、どうする?」

「えーと……アシスタントゲストが急用のため、今日は僕とアリアの2人で進行していきたいと思います」

 思った以上に普通に進む番組。

「……これもまた正義か」

 テレビの前でシャドウナイフは普通にマスクを外してカップ麺をすすりながら、そう呟くのだった。

 

 ◇◇◇

 

「ギューピー3分クッキングの時間です。料理人の部長です」

「アシスタントのアリアだってば!」

「ゲストアシスタントの琵琶坂永至だ」

 カップ焼きそばにお湯を入れ、新しく買ったテレビの電源を入れた笙悟の目に見知った顔が映る。

「それで部長? 今日はどんな料理を作るんだい?」

「はい、今日はステーキを作りたいと思います。あらかじめ塩と胡椒をまぶしておいたステーキ肉をフライパンで焼きます。琵琶坂先輩、お願いしても?」

「ああ、任せておきたまえ!」

 琵琶坂は楽しそうにそう言うと、フライパンに肉を乗せ、

 

「おら、燃えろぉぉぉぉ‼」

 

 一気に火力を最大にした。

「ちょ、ちょっと永至⁉」

「じっくりこんがり焼いた後に、ブクブク醜く太らねぇように脂身掻っ切ってやるよ」

「You! なんか永至の変なスイッチが入った! 放送事故! 放送事故だよ!」

 暴走する琵琶坂に慌てるアリア。

「放送事故? ハハハハハ! 安心してクビになれ! お前の亡き後はこの俺がこのくだらねぇ番組の料理人をやってやるよ!」

「You! 絶対に負けないで‼ 決着をつけよう! 視聴者のみんなのために‼」

 カタルシス・エフェクトを出して戦いだす2人。料理番組が一転してB級特撮ヒーロー番組へ早変わりだ。

 戦闘の後、メチャクチャになったスタジオ、敗走する琵琶坂。画面が「しばらくおまちください」に切り替わり、もはやクッキングどころではない。

 少しして、画面が元に戻る。

「……そういうわけだから、永至はもう番組には戻ってこないと思う」

「本日のギューピー3分クッキングはここまでとなります。またいつか、お会いしましょう」

 テンションの下がった2人が頭を下げて番組が終わる。一連の出来事を呆然と見ていた笙悟の前で、湯切りするタイミングを逃したカップ焼きそばがひっそりと伸びていた。

 

 ◇◇◇

 

 お昼時、メビウスで不定期に放送される番組があったとさ。

「ギューピー3分クッキングの時間です。料理人の部長です」

「アシスタントのアリアだってば!」

「ゲストアシスタントの佐竹笙悟だ」

 今日もメビウスは平和だった。

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