「Lucidの不在、それは楽士達に驚愕と戸惑いをもたらした。奴の加入によって快進撃となっていた悪を滅する正義の道に暗雲が立ち込める‼ 次回、隻影のシャドウナイフ!『消失』不穏の渦中に、奴の影」
「ちょっとお⁉ 何次回予告でイジってくれちゃってるのよ⁉」
「っつーか奴の影どころか今回のラガード狩りお前参加しねえだろ! なんでタイトル『隻影のシャドウナイフ』のまんまなんだよ!」
軽快なBGMと共にノリノリで語るシャドウナイフにスイートPとイケPが怒鳴る。
「まあまあ、Lucidがいなくて不安な気持ちも分かるけどねえ。あは! あははは‼」
そんなコントのような光景に笑い声をあげるStork。
「先が思いやられる……」
そんな4人を見てため息をつく梔子。
毎度恒例となりつつある帰宅部によるデジヘッド狩り。それに対して楽士達もソーンによってラガード狩りを命じられるのだが、今回のラガード狩りにLucidの姿はなかった。
「今までが順調過ぎたのかしら?」
携帯を手に呟くソーン。画面には、WIREの会話の記録が映っている。
ソーン「控え室に来なさい」
Lucid「仲間に監視されてるから今回は無理」
◇◇◇
少し前のこと。全員が集まった部室にて。
「さて、今回も待ち伏せ作戦を始める訳だが、今回はどこにする?」
「パピコなんてどう? あそこではまだやってないでしょ?」
笙悟の言葉に琴乃が提案をする。特に反対する者もおらず、今回の待ち伏せ作戦はパピコに決まる。
「じゃあ班分けだが……部長、俺と組もう」
「はい⁉」
どうせ今回も1人なんだろうなと考えていた部長は笙悟の思わぬ言葉に素っ頓狂な声をあげる。
「毎回部長を1人にしてたら可哀想だしな。それに、本気で疑ってる奴はいないと思うが、これで部長がサボってる訳じゃないって証明できるだろ」
「なら、僕も一緒の班でいいですか? 証人は多い方がいいでしょうし」
笙悟の説明に鍵介が手をあげる。
「ああ、なら今回は3人、2人、2人、2人、2人の5つの班に分かれよう」
あっさり受け入れる笙悟。まさかとは思うが、毎回1人になっている自分の立場はいったい……。
そんな時、部長の持っている携帯が震える。ソーンからのWIREだ。
◇◇◇
で、現在。
ソーン「どうしても無理かしら?」
Lucid「今回ばかりはどうしようもない」
WIREに送られてきたメッセージを見て、ソーンは携帯をポケットにしまう。
「で、ソーンちゃん、どうしてこのメンバーなの? 今回は誰かが帰宅部に負けたとかじゃないでしょ?」
「今回帰宅部がデジヘッド狩りをするのはパピコよ。だったら、パピコを根城にしてるスイートPとイケPが適任でしょう?」
スイートPの疑問にさも当然と言わんばかりにスラスラと答えるソーン。
「別に根城にしてるって訳じゃ……」
「よく行ってることには変わりないでしょう?」
「うぐ……そ、そりゃそうだけど……」
不服そうなイケPだったが、ソーンの言葉で押し黙ってしまう。基本的に戦闘要員がシャドウナイフくらいなので、攻撃力にステータスを振り切ったような性格をしているウィキッドみたいな例外を除いて楽士達は基本的にラガード狩りに乗り気ではない。
「じゃあ僕が選ばれた理由は?」
Storkが手を上げる。
「Lucidと名前が似てるから彼の代役よ」
「そんな理由⁉ アルファベット5文字ってだけじゃないか!」
「いいじゃない。擬態できるんだから、ラガード狩りの間ずっとLucidに擬態してなさい」
「辛辣ッ‼」
ソーンの反応は若干なげやりになっていた。もしかしたら間に合わせで入れたのかもしれない。
「それじゃあ、私は?」
「梔子は他のメンバーが暴走した時のブレーキ役よ」
「……ああ、なるほど」
納得してしまった。梔子はメビウスを守るという意思が楽士達の中でも特に強い方だ。ラガード狩りも命じられれば文句の1つも言わずに行うが、今回はどこか諦めた表情をしていた。
「Lucidがいなければサポートの必要はないし、μは今回はお留守番ね」
「うん、分かった」
ソーンの言葉にμは頷く。
「しっかしLucidちゃんどうしたのかしら?」
「あんな見た目でも私達と同じ人間よ。調子が悪い日もある」
「表情は分からねえけど、意外と感情表現豊かだもんなあ」
「ギャップってヤツだね。あは! あはははは‼」
なんて話をしながらラガード狩りに選ばれた4人は控え室を出て行く。
「さて、どうなることか……」
静かになった控え室でソーンはひっそりと呟いた。
「あれ? そういえばシャドウナイフは?」
「シャドウナイフなら出オチした後帰ったわよ、μ?」
◇◇◇
「ヴィンテージストライカー! インパルススピナー! クアッドトリガー! クアッドトリガー! クアッドトリガー! クアッドトリガー! クアッドトリガー! クアッドトリガー!」
「ええ……」
「先輩……」
◇◇◇
「それで? 一方的にボコられて帰って来たと?」
少し苛立ったソーンの言葉に控え室で4人は冷や汗をかく。
「い、いやだってしょうがないじゃない! 怖かったんだもの!」
「何かに憑かれたかのように乱射してきたからなアイツ。恐怖しか感じなかったぜ……」
「お仲間さん達も少し引いてたもんねえ……」
「オーバードーズしないままであそこまで強いなんて、予想外だった」
もう全部あいつ1人でいいんじゃないかな。そんな空気を出す4人にソーンはため息を吐くしかなかった。まさかここまであっさり負けるとは。
「やはり、奴は敵にしておくにはおしいな……」
誰に聞かせるでもなく、ぽつりと呟くソーン。
「ソーン、どうしたの?」
「大丈夫、何でもないわ」
心配するμに、ソーンは微笑んで見せる。その胸の内を隠したまま。
◇◇◇
時は過ぎ、グラン・ギニョール。
「やはりお前が切り札になった。Lucid」
ソーンの隣に立つ部長の姿が変わる。帰宅部の部長ではなく、楽士の姿に。
「ゆ、You……?」
「謎の楽士が部長? 何? どういうこと? どういうことなのよ⁉」
「馬鹿な……」
「ずっと……」
「ずっと騙してたんですか⁉」
「なんでなんですか⁉ 部長!」
「信じてたのに……」
「信じてたのに‼」
帰宅部の面々の表情が変わる。
「カタルシス・エフェクト……オーバードーズ……」
アリアの呪いのような言葉と共に、絶望、憤怒、軽蔑、憎悪、黒い感情が溢れだす。
「やるぞLucid‼ 佐竹笙悟を……帰宅部を……現実を粉砕しろ‼‼‼」
ソーンの言葉と共にLucidは自身のカタルシス・エフェクトである二挺拳銃を構える。
たった1人の楽士による蹂躙が始まった。