水口茉莉絵……いいや、ウィキッドは自室のベッドに横になりながら考える。
帰宅部と守田鳴子を監禁してそろそろ3日が経つ。今頃、あのメガネチビの信頼などとうに消え失せ、帰宅部同士の信用すら危うくなっていると思うと、笑いがこみ上げてくる。そしてなにより飲まず食わずでずっと監禁しているのだ。空腹も限界にきていることだろう。
睡眠も排泄も、不必要にすることができるメビウスで、お腹がすいて力が出ないなんて笑い話にもならないが、奴らは今まさにそんな状況にいるのだ。
そんな彼らは今、自分が部室にかけられた鍵を持ってくることをひたすらに待っている。自分が監禁した張本人だなんて知らずに、疑いもせずに、自分を信じて待っているのだ。
敵の手の上で踊るとはこういうことを言うのだろう。自分の手の上で踊り狂う帰宅部。なんて愉快な表現だろう。
だが、そろそろ解放してやってもいいだろう。といっても、別に帰宅部の連中を逃がしてやるつもりなど、ウィキッドには毛頭ない。むしろここからが本番だ。
お腹を空かせた帰宅部の連中のために差し入れを用意してやろう。ただし、睡眠薬を混ぜて。そして眠ったところを今度は1人1人別々に監禁してやろう。1人ずつ、じっくりと、時間をかけていたぶってやり、絶望に顔を歪ませてから、デジヘッドにしてやろう。そして最後に、デジヘッドになった帰宅部をあのメガネチビに見せて、絶望した彼女をデジヘッドにする。
好き勝手にできる
「そういえば、誰かさんは私の獲物とかソーンの奴言ってたっけ? まあいいか」
どうせ帰宅部を潰した後はソーンも潰すのだ。わざわざ彼女の言葉に従ってやる気などさらさらない。
「さてと、差し入れはどうすっかなー? サンドイッチなんてどうかなー?」
ベッドの上でゴロゴロしながらウィキッドは考えを整理するように呟く。
サンドイッチなら手づかみでも食べれるし、お手軽だから差し入れにもピッタリだろう。具材に睡眠薬を混ぜ込んだところで誰も気付くまい。
「あ、でもパンだと喉が渇くか? まあ、どうせ飲み物も用意しなきゃだし」
飲み物は水かお茶でも用意してやればいいだろう。
「っつーか、私帰宅部の奴らの好みなんて知らねーじゃん」
空腹の最高潮にいるのだから、多少の好き嫌いくらい我慢して食べそうなものだが、念には念をだ。
「メガネチビの携帯になにか情報は……っと」
鳴子から奪った携帯の中を調べて情報を探すが、めぼしいものは見つからない。鳴子と帰宅部の部長のやりとりに鳴子の食の好みは少し書かれていたが、別に鳴子にサンドイッチを作ってやる訳ではないのだ。
「っつーか、なんでコイツ部長の質問に答えてばっかなんだ? 普段の知りたがりはどこいったよ?」
仕方ない。いろんな種類のサンドイッチを作ってやれば、各々好きなものを手に取るだろう。
「さて次は作り方だな」
ベッドから降りて机に向かうと、パソコンを起動してインターネットに接続する。
「えーと『サンドイッチ 作り方』と……」
検索エンジンにキーワードを打ち込み、それっぽいサイトを片っ端からクリックする。
「なるべく見た目が良いヤツを……」
やるならば徹底的に。どうせ作るなら見た目も味も良いサンドイッチを作らなければ。
「あー! ダメだ! どれもこれもイマイチだ!」
しばらくインターネットでサンドイッチの作り方について調べるが、自分の納得できるものは見つからなかった。
「チッ仕方ない。本屋に行って料理の本でも探すか」
最高の結末を見るためだ。妥協はしない。
「あら茉莉絵ちゃん、出かけ――」
部屋を出て、外に出ようとするウィキッドに呼びかける誰か。そのセリフが終わらない内に、ウィキッドは手に持ったカバンの角で頭を殴りつける。
「うるっせえんだよ! 死ね!」
うめき声をあげて倒れる誰かの腹に蹴りをいれ、もう1度カバンを顔面に叩きつける。
「人がせっかく良い気分になってんのに話しかけんじゃねえよ! クソ‼」
倒れたままのソレに怒鳴りつけてウィキッドは外へ出て、振り返らずに玄関の戸を閉めた。
◇◇◇
「さあてと、料理の本はーっと……」
本屋の棚に並んだ料理関係の本を手に取って、サンドイッチが載っているページを探す。手軽さと見た目の良さを天秤にかけ、何冊か選んだ中からこれだと思う本をレジに持っていく。
「本を買ったら、次は料理の材料を買わないと」
サンドイッチを披露してやる瞬間を想像し、軽い足取りで本屋を出る。
◇◇◇
家に帰って、玄関の近くの黒いポリゴンのような何かを無視し、ウィキッドはキッチンへと向かう。早速サンドイッチを作る練習だ。帰宅部の連中になるべく気持ちよく、気分良くサンドイッチを食べてもらわねばならないのだから。
卵、ハム、ツナ、チーズ、トマト、レタス、きゅうり、などなど。いろいろな種類のサンドイッチを作ってみる。そして、サンドイッチの練習の練習をしながらウィキッドは考える。
明日になったら、練習したサンドイッチを食べてもらおう。そして、もう1度監禁した後で1人ずつ味の感想を聞いてみよう。美味しかったと言ってくれるかな? それとも「最悪の味だった」とでも言うのかな? 怒るのかな? 泣くのかな?
試してみたいことがどんどん湧いてくる。早く壊したい。早く潰したい。早く絶望させたい。
はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく。
帰宅部の顔が見たい。守田鳴子の顔が見たい。あの男の顔が見たい。
胸の高鳴りを感じながら作ったサンドイッチを口に入れる。我ながら良い感じだ。
明日になったらもう1度サンドイッチを作って、それを帰宅部の部室に持って行こう。ああ、明日が本当に楽しみだ。
◇◇◇
「部長さんも召し上がってください。いっぱい持ってきたんで遠慮する必要はありませんよ」
サンドイッチに手をつけず、他のみんなが食べている様子を眺めるだけの彼に私はそう言ったが、それでも彼はサンドイッチを食べようとしない。
「どうしました? 食べてくださいよ」
「……どうして部長だって知ってるの?」
「…………え?」
見透かしたような目で彼は私に問いかけた。
他の帰宅部の奴らはみんな寝てしまったというのに、彼だけはじっと私を見つめている。
ああ、もう、本当に、
「め・ん・ど・くせぇ~~なぁ‼」