「学校の地下って現実にも少ないからあんまりデータがなかったんだ。そうなるとほら……参考にするのはテレビゲームとか……そういう……」
鳴子を助けるため、体育館の鍵を探しに旧校舎の地下へとやって来た帰宅部一行。この時、彼らはまだ知らなかったのだ。アリアの言葉の本当の意味を。
◇◇◇
廊下を歩いていると、突然浮遊感に襲われ、次の瞬間、帰宅部の面々は落下していた。
「いてて……どーなってんだよ⁉」
一瞬の浮遊感、数秒の落下の感覚、そして尻もちの衝撃の後、鼓太郎が叫ぶ。
「落とし穴ってヤツですか? いたた……ってあれ?」
鍵介が立ち上がり周りを見回してみるが、何も見えない。どこもかしこも闇、闇、闇の黒一色で、近くにいるであろう仲間の姿さえ見えない。
「な、何も見えません! み、皆さん、どこですか⁉」
「落ち着いて鈴奈ちゃん、みんなちゃんといるから」
「は、はい……すみません……」
「いいのよ。こんなに真っ暗だもん、不安にもなるわ」
暗闇に、人一倍ホラーに耐性のない鈴奈がパニックになりかけるが、琴乃がなだめたおかげでなんとか落ち着いたようだった。
「あちゃー、ダークゾーンに入っちゃった。こうなったら手探りで進むしかないよ」
暗闇の中で薄ら光るアリアが呟く。この暗闇ではアリアの放つ光もアテにはならない。
「お、おいアリア? お前さっきゲームを参考にしたとか言ってたよな? この地下を作るのに参考にしたゲームって……」
よくよく考えたらこの旧校舎も半分はアリアが作ったのだ。地図は作れないにしてもそれぐらいは覚えているんじゃないかと思い、笙悟はアリアに問いかける。
「えっと、女●転生シリーズとか世界●の迷宮シリーズとか」
「よりによって……」
どっちも難易度が高いことで有名なゲームだった。
「マッピングしなきゃ……」
「部長落ち着いて。まずは鳴子を助けないと」
謎の使命感に囚われかける部長に彩声がストップをかける。
「とにかく先に進もうぜ? 手探りでもなんでも、動かなきゃどこにも行けねえよ」
そう言って鼓太郎が1歩踏み出す。
「いってえ⁉」
その瞬間、思いっきり叫ぶ鼓太郎。
「ど、どうしたんですか⁉ 鼓太郎先ぱ……いたあ⁉」
「なんかしらねえけど全身にビリッてきた! すげえ痛え!」
慌てて鼓太郎にかけよろうとした美笛も叫ぶ。続けて発した鼓太郎の言葉に、緊張が走る。
「な、何が起こってるんですかあ⁉」
「落ち着いて鈴奈ちゃん! 大丈夫、大丈夫だから」
当然、暗闇でそんな風に叫べば混乱する者も出てくる訳で。
「これは、所謂『詰み』という状況じゃないか?」
「い、維弦先輩! 不吉なこと言わないでくださいよ!」
1人が混乱すれば、その混乱は周りに伝染していく訳で。
そのまま混乱によって誰に見つけられることもなく自滅していくと思われた時。
「これはダメージ床だね。さすがに死にはしないだろうからそこまで気にすることないよ」
部長の呑気な声が響いた。
「お? You? 知ってんの? 結構ゲームとかやる派?」
「ああ、女●転生と世界●の迷宮なら少しは分かる程度だけど」
アリアの質問に答えながら、部長は前へ一歩踏み出す。
「いっつ! あ、でもやっぱり大丈夫だ。痛いだけで死ぬような罠じゃない」
多少痛がるものの、すぐに安心した表情と声になる。もっとも、この暗がりで部長の表情は他の部員には見えていないのだが。
「当然! メビウスは現実の辛いことを忘れるために作ったんだから! 人を殺す目的で作った場所なんてないんよ! ここも遊園地のお化け屋敷みたいなもんだと思えば楽しいモンだって!」
自慢げにアリアが語る。
「なら、早く先に進みましょう。鳴子先輩も助けなきゃいけませんし、あまり時間をかける訳にもいかないでしょう」
鍵介の言葉に見えないながらも皆が皆頷くのが分かった。
「帰宅部、活動再開だ。アリア、ダークゾーンを抜けるまで先行して方向を示してくれ」
部長の声と共に皆がぼんやり光っているアリアを目印に進んでいく。1歩、また1歩と足が地面に触れる度、体に電気を流されたかのようなビリっとした痛みが走るが、なるべく口を開かず、声をあげないようにしながら歩き続ける。
少しすると、驚く程あっさりと暗闇から出られた。周りが見えるようになって初めて、自分たちが旧校舎の廊下にいることに気付いた。隔てるものは何もないというのに区分けされているかのように、廊下が暗闇の部分と明るい部分に分かれているのだ。
「出られたー!」
「そんなに長い間いた訳じゃねえのに、解放感がすげえな」
大きく背伸びをする美笛と笙悟。
「暗闇の中でデジヘッドに襲われなくて本当に良かったですね」
安堵の表情を浮かべる鈴奈。束の間の休息といきたいところではあるが、
「いたぞ! gossiperに写真のあった帰宅部だ!」
そんなことは許さないと言わんばかりに1人のデジヘッド化した生徒が襲い掛かってくる。
「来るぞ! 構えろ!」
部長の言葉で皆が一斉にカタルシス・エフェクトを発動させる。
実質的に10対1である。10人分のカタルシス・エフェクトがたった1人のデジヘッドに向けられる景色はある意味で圧巻の一言だろう。
本来、μの教信者であるデジヘッドは人数差など気にもせず襲い掛かってくる、
「ま、待て! 待って⁉ やっぱり無理!」
ハズなのだが、このデジヘッドは他とは違った。なんというか、ヘタレだった。
「あ、アンタがリーダーだろ? こんなただの一般生徒相手にそんな恐ろしい武器突きつけないでさ、話し合いで解決しようや? な、何が望みだ?」
部長に向かって早口に話すデジヘッド。それだけ必死なのだろうが、どうにもこの状況に見覚えがあった。
「力を貸してくれ」
「お? 俺の力が欲しいって? なら、タダというわけにはいかねえな。そうだな……シュガーコートを1つくれ」
「分かった」
何やら交渉を始めるデジヘッドと部長。
「これって……」
「悪●会話だな……」
完全に別のゲームと化してしまった。口を開いたのは彩声と笙悟。現実の年齢的にわりと昔の作品も知っているのはナイショだ。
「俺の名はデジヘッド。コンゴトモヨロシク」
デジヘッドが仲魔になった!
「この調子で進んでいこう」
デジヘッドの加入によってメンバーが11人となった帰宅部は再び歩き始める。
「おい、普通にデジヘッド仲間にしてっけど、本当にこれでいいのか?」
「まあ、一般生徒なら時々部長が仲間にしてますし、いいんじゃないですか?」
「この前は確か、レベル20まで上げるとかデジヘッドを20体狩るとか言ってたわよね? なんのことかよく分からなかったけど……」
先頭を歩く部長の後ろにヒソヒソと相談するような話し声を残しながら。
◇◇◇
「鳴子! 無事か⁉」
「部長、みんな……! ありがと……って、なんか多くない⁉」
「大丈夫。ただのデジヘッドだから」
「大丈夫な要素が見あたらないんだけど⁉」