歌姫の寝ぼけ見る夢   作:灰色平行線

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 続きというよりは楽士ルート


ギューピー3分クッキング・シーズン2

 お昼時、メビウスで不定期に放送される番組があったとさ。

 

「ギューピー3分クッキングの時間です。料理人のぶちょ……Lucidです」

「アシスタントのμだよー!」

「ゲストアシスタントのスイートPでぇす」

 テレビをつけてお昼ごはんのチャーハンを食べようとしていた実笛の目に見知った姿が映る。

「Lucidちゃん、今日は何を作るの?」

「はい、今日は自宅で作れる三郎系ラーメンに挑戦してみましょう」

「そ、それはまた随分と思い切ったものを作るのねぇ……」

 本来、料理番組で作るようなものではないだろう。いくら三郎系ラーメン大好きな彼女でも、時と場合は選ぶのだ。

 

「さて、完成です!」

 メニューのインパクトに反して、番組自体は普通に進み、丼にこれでもかと具材が乗せられたラーメンが完成した。

「まあ! とってもおいしそう!」

「カロリーもどんと来い! だね!」

「うぐ……! そ、そうなのよねぇ。このままじゃ痩せるなんて夢のまた夢……!」

 喜びの声をあげるスイートPだったが、μの一言で悩みだす。

「大丈夫だよスイートP。食べたらその分動けばいいんだから、怖がらなくていいんだよ?」

「μ……」

 手を差し伸べるμと、その手にすがるスイートP。

「さて、なにやら良い雰囲気になったところで、ギューピー3分クッキング、お時間となりました。この後の時間はカリギュラブートキャンプをLucid、μ、スイートPの3人でお送りします」

「……え?」

 Lucidの言葉にスイートPの表情が変わる。

「頑張ろうね! スイートP!」

「え? え?」

 μが笑顔を向けるが、ラーメンのスープは飲み込めても状況が飲み込めないスイートPは戸惑うばかりだ。

「チャンネルはそのまま!」

「Check it out!」

「ええーーーーー⁉」

 ノリノリなLucidとμの声にスイートPが絶叫したところで、美笛はテレビの電源を消す。

「ダイエットかあ……」

 そう呟く彼女の目の先には、空になったチャーハンの皿が置いてあった。

 

 ◇◇◇

 

「ギューピー3分クッキングの時間です。料理人のLucidです」

「アシスタントのμだよー!」

 休日だというのに間違って用意してしまったお弁当をテーブルに置いて鈴奈がテレビをつけると、もはや見慣れた光景が目に広がって……いなかった。

「あれ? 今日のゲストアシスタントは?」

「確か少年ドールのはずだけど……」

 ゲストの不在に騒然とする現場。

「あ、あわわわ……」

「あ、少年ドール! もう本番始まっちゃってるよ?」

「む、無理だよ! できるわけないだろ⁉ テレビの前で料理なんて!」

 スタジオのすみっこで小さくなっている少年ドールをμが説得するも、少年ドールは動かない。

「大丈夫だよ、スタジオにはカメラしかないから! 人の目線はないから!」

「カ、カメラを通してみんなが見てるんだろ! 絶対無理だって‼」

 怯える少年ドールの肩をLucidがぽんと優しく叩く。

「あの子とお弁当、食べたいんだろう?」

「……」

「頑張って作ってみようじゃないか。一緒に食べるためのお弁当」

「……うん」

 Lucidの言葉に小さく頷く少年ドール。論点が変わっているような気もするが、気にしてはいけない。

 

「少年ドールさん……」

 ようやく料理を作り始めた3人の姿を見て、なにより、慣れないながらも頑張って料理をする少年ドールの姿を見て、鈴奈は現実に帰るという気持ちを強くするのだった。

 

 ◇◇◇

 

「ギューピー3分クッキングの時間です。料理人のLucidです」

「アシスタントのμだよー!」

「ゲストアシスタントのソーンよ」

 テレビに映った見知った者の姿に、笙悟は口に入れたカップ麺どころか胃の中の物まで吐きそうになった。

「それで、今日は何を作るの?」

「今日はねー、シチューを作る――」

「さっそく――」

「―――」

 テレビの音が耳に入らない。

 

「――がこちらになります」

「わあ! おいしそう!」

 吐き気が収まった頃には、既にシチューが完成していた。

「では早速味見を……」

 スプーンでシチューを口に運ぶ3人。

 

 次の瞬間、Lucidとソーンはその場にぶっ倒れていた。

「そ、ソーン⁉ Lucid⁉ どうしたの⁉ 2人共ステータスが毒になってるよ!」

 あまりにも突然の出来事に慌てふためくμ。

「そ、ソーン? シチューの中に、何入れた……?」

「何故、私だと……?」

「前科、あるだろう……」

 絞り出すような声で会話するLucidとソーン。Lucidの質問に、ソーンは観念した様子で答える。

「ト、トリカブトとハシリドコロだ」

「それも毒草だよ! もしかして今回も救急車呼ぶの?」

「頼む」

 嫌な汗をかきながら震える手でLucidは携帯をポケットから取り出す。

「み、μ……あとは任せた……」

「わ、分かった!」

 死屍累々。元気なのはμだけ。バーチャドールだから人間に効く毒も効かないのかもしれない。

 

「飛び降りの次は服毒か……⁉ 勘弁してくれ‼」

 ぶっ倒れたソーンを見て笙悟は逃げ出すように部屋を出る。

 誰もいなくなった部屋では伸びきった食べ掛けのカップ麺が静かに佇んでいた。

 

 ◇◇◇

 

「ギューピー3分クッキングの時間です。料理人のLucidです」

「アシスタントのμだよー!」

「ゲストアシスタントのウィキ……水口茉莉絵です」

 毎日毎日お店の新メニューのレビューを書いている訳でもなく、家で昼飯を食べることもある。そんな鳴子が新商品のカップ麺のレビューを書きながら、暇つぶしにテレビをつけると、そこには見知った者達の姿が映っていた。

「今日は家庭的に肉じゃがを作ってみましょう。用意する材料は……あれ?」

「どうしたの? Lucid?」

「いや、材料の中に変なビンが……中に錠剤が入ってる」

 スタジオに用意された材料の中にぽつんと紛れ込んでいた錠剤の入ったビン。何やら作為的なものを感じる。

「えーと、これ睡眠薬だね」

 ビンを見たμの言葉にLucidは首を傾げる。一体誰がこんなモノをスタジオに持ち込んだのだろう。

「水口さんは何か知らない?」

「いえ、私にはさっぱり……」

 茉莉絵に聞いても困った顔で首を横に振るだけだ。

「本当に?」

「本当ですって」

「……」

「……」

 さらに踏み込んでみる。黙ったまま見つめ合うLucidと茉莉絵。

 そして、

「あああああああああ! もうっ‼ め・ん・ど・くせぇ~~なぁ‼」

 ついに我慢できなくなった茉莉絵がウィキッドになる。基本的に彼女は我慢ができない。

「ウィキッド⁉ ……って呼んでいいんだよね? もう正体バラしちゃったようなものだし」

 驚きの中でもμは律儀に確認をとってくる。

「あ? いいよもうウィキッドでも水口でもどっちでも」

 ぶっきらぼうに答えるウィキッド。

「そ・ん・な・こ・と・よ・り! せ~っかく、番組中に眠らせて放送事故にしてやろうと思ってたのに、バレちゃった、ざんね~~ん!」

 残念と言いつつ、ウィキッドは笑みをこぼしている。

「でも、お前1人拉致っていけば放送事故確定じゃん! 番組の間抜けなスタッフたちさぁ、番組中に料理人が消えたら、どう思うだろうねえ? アハハハハ! じゃあ、さくっと連れてくよ~!」

 琵琶坂程の迫力はないにせよ、堂々と放送事故を起こすあたり、彼女もなかなかにクレイジーな性格をしている。

「あんたは一足先に奴隷にしてやる。マインドホンでね!」

「あれ? そういう話だった?」

 突然の奴隷宣言に戸惑うμ。Lucidはそもそも表情が読み取れない。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 笑いながら爆弾を取り出すウィキッド。それに合わせてLucidもカタルシス・エフェクトを発動させる。

「え? これ私のセリフじゃないんだけど……言うの? えーと、Lucid、ガツーンと返り討ちにしちゃって‼」

 そして始まるB級特撮映像、ドクロと爆弾魔の一騎打ち。飛び交う銃弾、舞う爆弾。

 

 おいてけぼりになっていた鳴子はとりあえず、

「……gossiperにアップしとこ」

 携帯のカメラで動画を撮り始めた。

 

 ◇◇◇

 

 お昼時、メビウスで不定期に放送される番組があったとさ。

「ギューピー3分クッキングの時間です。料理人のLucidです」

「アシスタントのμだよー!」

「ハロー、子猫ちゃんたち! ゲストアシスタントのイケPだぜ! ところで、何で俺?」

「まあまあイケP、料理ができる男の人はモテるよ?」

「マジか! よっしゃ! やってやるぜ!」

 

 放送事故が平常運転、今日もギューピーは平和です。

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