それでは第12話、行ってみましょう。
ども、立川です。今日は校内戦2日目、授業も終わったし、早いとこテニスコートに行かないとな!
今日は不二先輩との試合。やべぇ、河村先輩の時もそうだったけど、今日も楽しみすぎて……いや、ボキャ貧かよ。
そうして俺は不二先輩との試合を思い浮かべ、ワクワクしつつ校舎外へ出たところ、とある女性に話しかけられた。
「あ、テニス部員の子、見つけたー!ねぇねぇ君」
「ん?はいはいなんでしょう……げ?!」
俺は女性の顔を見て、衝撃を受けた。
あ、そっか……この人たちも校内戦見に来るんだった……。
「あら?ふふっ……もしかして美人なお姉さんに話しかけられて驚いちゃったかしら?」
「いえ、そういう事じゃないです」
俺はすぐさま否定する。
「む、ちょっと失礼じゃない?……まあいいわ、昨日の生意気な子程ではないけど、かわいいし許してあげる。……で、質問なんだけど、テニスコートってどこにあるのかな?」
「あぁ、テニスコートならあっち……」
そこで俺の目に、女性の右肩から下げられた、一眼レフのカメラが映った。
俺の視線に気づいたのか、女性は得意げにカメラを持って口を開く。
「あぁ、これ?私、『月間プロテニス』の編集やってる芝砂織って言うの。よろしく!今日は青学のかわいい……じゃなくて強い選手達を取材させてもらいにきたの」
「『月間プロテニス』の芝さん、ねぇ……」
えぇ知ってますとも……原作キャラの人でしょ?!
てことは、今日は井上さんも勿論……。
「コラ!!芝ーっ!昨日の今日で何やってんだ!」
あ、やっぱりいらっしゃるのね。
「げ!!井上先輩……すみませーん!」
「ほら!さっさとテニスコートに行くぞ!直に手塚くんの試合が始まる」
「え、手塚くんの?!先輩早く行きましょ!」
「ったく……お前ってやつは……ん?君は……」
そこで井上さんが俺の存在に気づいたようだ。
「あ、この子にテニスコートの場所を聞いてたんです」
「昨日場所は言ったじゃないか……。うちの芝がすまないな。君は見たところ……1年生かい?」
「あ、そうです」
「ほぅ……間近で見る青学の先輩達はすごいんじゃないか?君も頑張ってな」
「2年後くらいなら取材してあげてもいいわよ?」
「コラ!!何を言ってるんだお前は!」
なんか、この2人も原作と全く同じですな……。ていうか、芝さん言ってくれますね……。
芝さんの言いように、少しだけ俺は物申したい気持ちになる。
「あ、俺もう行きますね。それと、芝さん」
「んー?」
「2年後?2時間後の間違いじゃないですかね?」
「ふふっ……あらあら、昨日の子と負けず劣らずの生意気さね」
「ん?2時間後……?それは一体……」
よし、俺は言ってやったぞ!
そうして、くすくす笑う芝さんと、何か思案する井上さんを背に、スッキリした俺は駆け足でテニスコートへと向かったのだった。
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「ゲームセット!ウォンバイ越前、7-5!」
たった今、リョーマVS乾の試合が終わりを告げた。
展開は原作通り、リョーマが1本足のスプリットステップとツイストサーブを解放することで乾のデータを上回った動きを見せ、試合の軍配はリョーマに上がった。
「すげぇ!越前のやつ、乾先輩に本当に勝っちまいやがった!」
「レギュラー2人、倒しちゃったぜ?!」
「キャー!桜乃、リョーマ様が勝った!」
「うん!すごかったね!」
コート内ではネットを挟み、リョーマと乾が握手しあっている。
「完敗だな」
「ちょっとムカついたけど、けっこう楽しかっ……」
「いいデータがとれた。なるほど、右のツイスト、キャリオカステップを使えば……」
リョーマなりに乾のプレーを賞賛しようとした言葉であったが、乾はすでにブツブツと呟きつつ、メモを取っていた。
リョーマは1つ、溜息をつくと口を開いた。
「もうアンタとはやりたくないね」
コートの周りでは、ギャラリーに混じり試合を見ていた井上と芝も驚いた様子である。
「あの子、一体……」
「まさか、レギュラーの乾君に勝ってしまうとは……。思わぬ拾い物だな。……お、越前君が出てくる。芝、行くぞ」
「あ、はい!」
2人はコートから出てきたリョーマに駆け寄った。
「き、君すごかったね。ちょっと話を……」
芝がリョーマにそう問いかけると、リョーマは意地悪な笑みを浮かべた。
「あれ?取材は2年後じゃなかったっけ?」
「ぐっ……」
先日、芝はリョーマと出会った時のことを引き合いに出され、恥ずかしさから顔を赤らめる。
「芝、お前ってやつは……。今日のあの子だけでなく、越前君にまでそんなことを言ったのか」
「す、すみません……」
「今日のあの子?誰それ?」
リョーマが疑問を口にする。
「えっと……1年生なんだけど、君と同じか少し大きいかくらいの身長で……」
「ふーん……まだまだだね」
そう言うと、リョーマは別のコートに向かって歩き出した。
「え?!ちょ、どこ行くの?!」
「試合観戦」
「今からかい?でも、レギュラー同士の主要な試合は終わったんじゃ……」
「……主要な試合は、むしろこっちの方だと思うよ。桃先輩、行きましょ」
「おうよ。ったくお前ってやつは、俺の時よりツイストサーブに磨きかかってんじゃん……」
そうしてリョーマは桃城と2人、別のコートへと向かっていった。
「えー……先輩、どうします?」
「そうだな……越前君のような掘り出し物の可能性もある。少し覗いてみるか」
井上と芝もリョーマと桃城のあとに続く。
この時、井上と芝はリョーマの印象が強く、悠の存在は全く頭に残っていなかった。
そんな中、2人が悠と出会って2時間が経過しようとしていた。
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「ふぅ、今日の俺の試合の相手は不二先輩、それも本日の最終戦、加えてギャラリーには手塚部長含めた原作レギュラー陣……これ以上の緊張する場面を俺は経験したことがない」
俺はグリップを握り感触を確かめつつ、そう呟く。
いやー、まさか今日の最後の試合になるとは思ってもなかった。おかげで、テニス部員ほぼ全員集合ときましたよ……。
「悠、緊張もしてると思うけど、周りは気にしなくていい。相手はあの不二くん、こんな機会滅多にないんだから、楽しんでやればいい……っの!」
「ぐへっ?!」
コートに入る直前に、冥に背中を全力で叩かれた。
ま、待った……危うく昼飯で食べたヤツ、出てくるところだった……。
「いってぇ……ちょ、本気で叩きすぎじゃないですかね?」
「ごめんごめん。でも……気合いは入ったでしょ?」
あ、確かに。そうだよな、別に失うもんも無いし、全力でやるだけだもんな。
「ははっ、ありがとう冥。おかげで何とかやれそうだ」
そんな中、河村先輩にも話しかけられる。
「立川、頑張って。不二は強いけど、相手が立川なら何か起こる気がする。うまく言えないけど……そんな気がするんだ」
「河村先輩……やってやりますよ」
もう俺は緊張していなかった。あるのはこれから青学No.2の牙城を崩すやる気とワクワク感だけ。不二先輩……負けませんからね。
そうしてネット前まで歩を進めると、すでにネット前で待機していた不二先輩に話しかけられる。
「立川君……いや、立川。今日はよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「ところで……タカさんとの試合の最後に見せたボールはたまたまなのかな?」
にこやかな感じだけど、これは探りを入れられてるな。
「んー、どうですかね?無我夢中だったんで」
「へぇー、そうなんだね。……実は今日の君との試合は楽しみにしていたんだ。よろしくね」
「こちらこそです。じゃあ、そろそろ……フィッチ?」
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サーブは俺か。さて、大事な1ポイント目、どうしようか。
おっと、その前に不二先輩に宣戦布告だな。
「不二先輩。本気、出してくださいね」
「立川……負けないからね」
俺は不二先輩の言葉に、何か体がゾクゾクするのを感じた。
よし……絶対勝つ。
俺はトスを高々と上げた。
「ふっ!」
次の瞬間、俺はセンターのコースに虎砲(改)を打ち込んだ。不二先輩は動く気配もなく、1ポイント目は俺のサービスエースとなる。
「ふぃ、15-0!」
「で、出た!河村先輩との試合で使ってたサーブだ!」
「な、なんだよあれ?!てか、全く見えねぇじゃん?!」
俺の虎砲(改)にギャラリーは一気に沸き立つ。
「は、はぇぇ!立川ってあんなサーブ打てたのかよー?!」
「す、すごいね……」
「うわ、本当に立川ってテニスうまかったんだ……」
「……げ?!竜崎はともかく、なんで小坂田がこんなとこにいんだよ?!」
「なーに?何か文句ある?リョーマ様の応援に来てたけど、ついでに同じクラスで立川も出てるって聞いたから見に来たの」
「も、文句はねぇけど……」
「朋ちゃん、堀尾くん……2人とも試合中だから……」
「あっ!桃ちゃん先輩!それに、リョーマ君!」
そこにリョーマと桃城先輩も合流したようだ。
「キャー!リョーマ様?!」
「と、朋ちゃん……」
「おうおう、お前モテモテだなー。コノヤロウ」
「やめてください桃先輩。それより、今のサーブ……」
「あぁ、半端じゃねぇ速さだ。それに、恐らくリバース回転もかかってやがる。怖いねぇ、家の1年は」
「でも、不二先輩、動けなかったというより、
「……あの人は、一筋縄でも二筋縄でも行かねーなー。行かねーよ」
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「実際に見ると、段違いの速さだね」
不二は先程の悠のサーブを見てどこか納得したような様子である。
「センター寄りにリバース回転のかかったサーブ……タカさんとの試合を見てなかったら攻略するのに時間がかかったよ。でも……」
2ポイント目、悠がサーブを放つと同時に不二が動く。
(立川、僕は負けないよ)
「うぉ?!不二先輩、あのサーブ返したよ?!」
そこから凄まじいラリーの応酬となる。
(なんて重さのボールだ……予想はしていたけど、想像以上に体力を持ってかれる)
「すげぇラリー……。ていうか不二先輩、河村先輩も押されてた立川のボールとまともにラリーしてるよ」
その意見に、試合を終え、観戦に来ていた乾が口を挟んだ。
「不二の本気は誰にも分からない……。俺でさえ、正確なデータは取らせてもらえないからな」
「い、乾先輩?!」
「おい乾、休憩しなくてもいいのか……?」
乾の疲労に気遣い、大石が声をかける。
「あの1年、不二が警戒していたんだ。もしかしたら、データが必要になるかもしれない。それに」
乾は一旦そこで言葉を区切る。
「不二の手の内も見れるかもしれないしな」
「ははっ……お前も相当、ハングリーなやつだよ……」
「当たり前だ。1年に負けて凹んでる暇なんかない……言ってる間に、不二のテンポが上がり出した」
乾の視線の先には、球速を上げ、ラリーを制す不二の姿が映った。
「15-30」
「こりゃ珍しい、不二が攻めてるとは……」
「それ程、あの1年に主導権を渡したくないんだろう」
乾はそう答えつつ、自身の持つノートにペンを走らせる。
一方、不二はというと……。
(やはり、球が重い。早く決めきらないと体力が持たない。……こんな序盤で使うとは思ってもなかったよ)
不二は悠の
「っ!不二先輩、こんなに早く……。越前、よく見ておけよ」
「??何がっすか?」
(行くよ、立川。
次の瞬間、不二は悠のボールにスライスの超回転をかけて返球すると、ボールは悠のコートで
「な、なんだ今の?!ボールがバウンドせずに転がった?!」
「あれが不二先輩の十八番、トリプルカウンターの1つ、つばめ返し。いくら立川といえど、油断してるとこの試合ストレートで持ってかれるぞ」
不二のつばめ返しにより、ギャラリーが沸き立つのであった。
ついに始まりました、悠VS不二。
数話に分けての投稿となりますが、お楽しみくださいm(_ _)m