私事でなかなかに忙しく……泣。
それでは第16話、行ってみましょう。
「どりゃぁ!バーニング!」
「タカさん、僕は勝つよ」
校内戦最終日、俺は不二先輩と河村先輩の試合を見に来ていた。
俺が不二先輩と河村先輩に勝ったことで俺のレギュラー入りは確定。後はこの試合の勝者が、このブロック最後のレギュラー枠を手にするわけなんだが……。
「
不二先輩、決めるつもりだ……。
次の瞬間、不二先輩は河村先輩の強烈なトップスピンのボールに対し、つばめ返しを放つ。
ボールは河村先輩のコートに入ると、バウンドすることなく転がった。
「ゲームセット!ゲーム、ウォンバイ不二周助、6-3!」
「タカさん、ありがとう」
「ははは……流石だよ不二。俺の分も、頑張って」
やっぱり不二先輩が勝ったか……。河村先輩も、押してる場面あったんだけどなぁ……。
ともかく、これでレギュラーメンバー8人が決まった。
手塚部長、不二先輩、大石先輩、菊丸先輩、桃城先輩、海堂先輩、そして俺とリョーマ。
乾先輩は原作と同じように、データを超えるプレーをした海堂先輩に僅差で敗れ、レギュラーを逃したそうだ。
もうすぐ地区予選も始まる、河村先輩と乾先輩の分、恥じないように俺も頑張らないと。
そんなことを考えていた俺であったが、背後から意外な人物に声をかけられた。
「立川」
「ん?……って乾先輩?!」
「そんなに驚かなくてもいいだろうに」
うぉぉ!ビビった……。
そう言えば俺、乾先輩と直接話したことはなかった気がする。こうして近くで見ると、乾先輩めちゃめちゃ大きいな……。
「えっと……」
そこで俺は変な気を回し、思わず言葉に詰まった。
乾先輩、そう言えばさっき海堂先輩と試合したばかりじゃ……。何を話したらいいかわかんねぇよ……。
「そんなに気を使わなくてもいい。確かに越前と海堂に負けてレギュラーを逃したことは悔しいが、ここで終わる気はないからな。それより、立川」
「な、何でしょう……?」
それなら良かったけど……俺、何かやらかしたっけ……?
思い当たる節はないぞ?
「いや、お前のデータも取っておきたくてな。出身、誕生日、身長、好きな食べ物、嫌いな食べ物、そこら辺から教えてくれ」
……え?
「えっと……データ収集、ってことですか?」
「あぁ、落ち込む暇なんてないからな」
なるほど、さすが青学……。やっぱり、原作レギュラー陣のハングリー精神は半端じゃない!
「ははっ!さすが乾先輩!オッケーです、出身は……」
え?教えなければいいじゃんって?いやいや、データを伝えた上で勝利を掴みましょうぞ!
それに、これらの情報で乾先輩、俺の自分で分かっていない癖とかも教えてくれるかもしれないしな。これは回り回って自分の為でもあるんですよ。
そうして、俺は乾先輩の質問快く返答した。
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「なるほどな……。最後になるが」
「あ……はい。ラスト……ですね」
や、やっと終わる……!
受け入れたのはいいけど、量が多すぎですよ乾先輩……。
俺は予想以上の質問量に顔面蒼白になりつつあった。
「不二との試合で見せた神速消滅、あれはどういう仕組みだ?」
「……」
おっと……そこを聞いてきますか。乾先輩、ポーカーフェイスに変わりはないけど、雰囲気が変わったのは感じ取りましたよ。
俺は切り札の1つでもある技の質問に、一瞬返答するかどうか迷った。
「あぁ、別に答えなくていい。……今から言うのは俺の独り言だ。無視してくれていい」
「独り言……?」
俺の呟きに意を介した様子はなく、乾先輩は話し始めた。
「神速消滅……立川があの技を放つ際、俺の目が間違っていなければ、手元でボールへと微細な振動を与えているように見えた。それにより振動したボールはバウンド時に、内部的にある振動のエネルギーが爆発的に運動エネルギーへと変換され、あのような速度の打球へと変貌する。これが俺の解釈だ」
「なっ……?!」
待て待て待て……。乾先輩、一体どんな観察眼してるんだよ……今の、ほとんど正解みたいなもんだぞ?
俺は原作レギュラーメンバーの半端なさを再度自覚する。
「ふっ……その反応だけで十分だ」
「とんでもないですね。乾先輩……」
「まあ、それくらいはな。ただ、攻略方は模索中だが」
「そう簡単に破られても困ります」
「ふふ……それにしても立川。今のが事実となると、とんでもない身体能力だな。ボールに直接振動を与える打球なんて聞いたことがない」
乾先輩は顎に手を当てて何やら思案し始める。
その表情は相も変わらずポーカーフェイスだが、真剣な様子であることは伝わってきた。
だけど、ずっとこうしている訳にもいかない。
「えっと、乾先輩……?」
俺の呼び掛けに乾先輩はハッとする。
「……あぁ、すまない。ともかく、付き合ってくれてありがとう。そうだな、俺は烏丸のとこに行くとしよう」
はい……?なんで今冥の名前が?
俺は乾先輩の口から予想外の名前が飛び出したことに驚いた。
「え?冥のとこにですか?」
「あぁ、データ収集だ。烏丸とは幼馴染なんだろ?」
「な、なるほど……」
乾先輩、徹底してるなぁ……。こりゃ本当に油断も何もしてられない……。俺も練習あるのみだな。
そうして気合を入れ直した俺は、地区予選までに少しでもレベルアップしようと改めて決心したのだった。
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「ぐがぁ……ぐがぁ……」
校内戦から数日後、場所はとある路線バスの中に変わる。
休日の早朝ということもあり、バスにはほとんど人がいない。
そのため、バスの後部座席に座って寝ている彼のいびきは車内中に響き渡っていた。
「ぐがぁ……」
ラケットバックを脇に置き、豪快に居眠りをしていた彼は体を何者かに揺すられ目覚めた。
「お客さん。お客さん、終点なんだけど」
「……んが?終点?」
「そう、早く降りてよ」
運転手に言われるがまま、くせっ毛が特徴的な彼は瞼を擦りながらバスから降車した。
寝起きということもあり、その瞼は半開きである。
「ふぁ……。で、どこだここ?」
彼は自分の居場所を確認するため、辺りを見回した。
すると、彼が立つ後ろに、その場所を表す表札があった。
--青春学園中等部。
「青学、か……。ちょっくら見てくか」
幾度となく全国優勝をしてきた立海大附属中の2年生エース、切原赤也が青学の門に足を踏み入れた。
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「部外者は出ていけ」
「……そんなー。手塚さん、1セットでいいっすよ?堅い人だなぁ」
(なんだよその言い方……アンタ潰すよ)
切原が青学のコートにやってきたことで、部長である手塚が対応するが、その手塚に切原は試合を申し込む。
「こーんな顔ばっかしてると、疲れちまいますよ」
「ぶっ!」
切原は手塚をからかうつもりで、手塚の真似でムスッとした表情をする。
すると、ネットを挟み、後ろにいた背の低めな1人が堪えきれずに吹き出した。
「お?ほらほらー、お宅の部員にもそう思われているみたいですよ」
「え?あ、いやこれは」
「おいコラくせっ毛!うちの部長に失礼なことしてんじゃねぇよ!それと立川、お前もなに笑ってやがる!」
「いや、今のは不可抗力で……」
「うるせぇ!笑ってるやつも同罪だ!」
(へぇ……見たところ1年、生意気なやつもいたもんだ)
切原の失礼な言動に、ネットを挟んだ場所にいた荒井が苛立ったように声を上げる。
しかし、切原は荒井の言葉を全く意に介した様子はなく、むしろこの状況で吹き出した立川という1年らしき人物に少し興味を示した。
まあ、それもほんの少しだけであり、すぐに手塚の方に視線を向ける。
「いやー、ちょっとだけでいいんすよ。お手合わせお願いしたいなぁって」
「おら!とっとと出て行けよ!」
「バカ!荒井!」
相変わらず手塚に押しかける切原。そんな様子に苛立ち、荒井は自分に背を向ける切原に強烈な打球を放った。
荒井の奇行に大石が焦って声を上げる。
(はぁ……よっと)
しかし、打球は切原に当たることはなく、右手に持っていたラケットで撫でるように荒井の打球の威力を消しつつ、ふわりと受け止めた。
「俺のショットをイナした?!」
「ったく、横から口挟まないでくれる?別に1球2球交えようって言ってるだけじゃん。そんなシカト、気分悪いなぁ……。アンタ、潰すよ」
先程までヘラヘラしていた様子とは一転、切原の雰囲気が一気に臨戦態勢のものに変わる。
「なーんて」
しかし、その雰囲気も一瞬で解き、またヘラヘラした様子へと戻った。
「おーい荒井くん、ボール返すぜ!」
(よし、これは決まった!)
そうして切原が後ろ向きで放った打球は、荒井の横にいた桃城の、顔面直撃コースに沿って進んでいく。
「も、桃ちゃん先輩危ない!」
「へ?……なっ!」
その時、桃城は完全によそ見をしていたため、反応に遅れた。
そうして、このまま桃城の顔面に当たる、誰もがそう思った時である。
「ふっ……桃先輩、危ないですよ」
「た、立川。お前……」
(俺のショットをイナした……。へぇ……あの1年、
「切原さん、ここで暴れないでくださいよ。危うくペナルティでグラウンド30周もらうとこじゃないですか」
「ちっ……だから横から口挟むなって」
切原は自分がしたことをそっくりそのままやり返され、不機嫌になる。
しかし、それに物怖じもせず荒井の横にいる1年は更に畳み掛けた。
「それともなにか、俺が
「は……?お前、1年のくせして生意気すぎるよ?」
まさに一触即発の雰囲気だが、そこで手塚が大きく息を吸い込んだ。
「え?あ、部長ちょっと待っ……」
「全員グラウンド30周してこい!」
「「「えぇぇぇぇ?!」」」
「ぐっ……やっちまった!皆さんすません……」
ここで逆らうと周数が更に上乗せされるため、部員皆、しぶしぶ手塚に従う。
「ちょ、お前。逃げんのかよ?!」
「切原、お前も出てけ」
「いや、なんだよ……っ!ちっ、あの1年覚えとけよ」
切原もこれ以上突っかかるのは良くないと判断し、渋々コートから退場する。
(あいつ、立川って呼ばれたか……?公式戦で潰してやるから待っとけ)
こうして、切原は立川の名前を頭に入れつつ青学から去っていったのであった。
--グラウンドを走っている最中
立川「マジモンの切原赤也だったな……。いやー、来ると思って準備はしてたけど、結局30周喰らっちゃったよ……」
荒井「何をブツブツ言ってんだ。お前、後で覚えとけよ」
立川「げ、ちょっと今回のマジで不可抗力ですから!お許しを!」
荒井「無理」