実は前話で色々と描写を苦戦してたんですよね……。
長い間待っていただいた方々には感謝感激です。
それでは第19話、いってみましょう。
「ね、ねぇ立川くん……」
「ん?どうしたカチロー?あ、このツナマヨならあげないからな」
「いらないよ!」
現在、青学部員は試合の合間時間のため、各々昼食を食べていた。俺は1年仲良しトリオ、堀尾、カチロー、カツオの3人といる。
この公式戦の時の昼飯って大体二手に別れるんだよなぁ。家から持ってきたお弁当派かコンビニ派かのどちらかだ。ちなみにカチローは前者のようである。そして、もちろん俺は言うまでもなく後者、ローゾンのおにぎり派だ。そしてローゾンの紙パックジュース派でもある。
あー、なんで試合の日に食べるコンビニのおにぎりと紙パックのジュースはこんなにも上手いんだろう。やっぱり、コンビニで昼食を済ますという背徳感からきているのか?
いずれにせよ、こんな上手いものを渡す訳には行かない。
「いや、そんな大事そうに抱え込んでも取ったりしないからね?自分のやつあるし」
「カチローはまだコンビニおにぎりの魅力というやつを知らないだけだ」
「……立川くんも変わったところあるんだね」
おい、なぜそんな呆れたような視線を向けてくるんだ。だって美味しいじゃん、コンビニ食。
「それよりも、青学ってやっぱり強いね。玉林戦、フタを開けてみれば全勝だったし」
「ほんとだよね!やっぱり公式戦で見ると迫力が段違いだよ!」
カチローの言葉にカツオも興奮気味でそう返す。
ちなみに玉林中との試合結果は以下の通りだ。
ダブルス2、桃城越前ペア6-1勝ち
ダブルス1、大石菊丸ペア6-0勝ち
シングルス3、海堂薫6-0勝ち
シングルス2、不二周助6-0勝ち
シングルス1、手塚国光不戦勝
まあ、圧勝っちゃ圧勝だよなぁ。リョーマと桃城先輩のところ以外は全部ストレート勝ちなわけだし。
ただ、ひとつ気になるのは手塚部長が不戦勝だったことだ。これは温存っていう意味では大きいとは思うけど、明らかに原作の展開とはズレてる。
まあ、俺という原作にはいない存在がいるわけだし、もう驚くことでもなくなってきたけど……。
「何言ってんだよカチローもカツオも。あったりまえじゃん、うちがこんなとこで足止め食らうかよ」
そう言ってのけるのは、口に大量の米粒を含めた堀尾だ。
おいおい……飲み込んでから話せよ。二、三粒が口から出てるぞ。
「堀尾くん……行儀悪いよ」
「まあまあ、細かいことは気にすんなって」
そうして話す間にも、米粒が飛んでいる。
あっ、1粒誰かのジャージに飛んだ。……って、あのジャージ……。
「あー、堀尾?」
「なんだよ立川まで」
「いや、米粒……海堂先輩のジャージにまで飛んでるぞ?」
「え?!」
そうして堀尾の視線に米粒が付いた海堂先輩のジャージが映る。
「おー、あっぶねぇー!サンキュー立川」
「何がサンキューだ……?」
「え……ひょえ?!」
あーあ、言わんこっちゃない。俺知らねぇからな。
堀尾の後ろには物凄い形相の海堂先輩が仁王立ちしていた。あまりの迫力に俺、カチロー、カツオの3人は場所を移動する。
「ちょ、どこ行くんだよ!助けて!」
「堀尾くん、自業自得だよ……」
「うんうん……」
「ま、待って!……っ?!ぎょぇぇぇぇ!!」
後ろから堀尾の断末魔が聞こえるけど、ありゃどうしようもない。カツオの言う通り、自業自得だしな。生きて帰ってくることを願おう。
「はぁ……。まあ堀尾くんは置いといて、次は準決勝だね」
「うん。これに勝てば都大会進出かー。ていうか、立川くんアップとかしなくて大丈夫なの?」
「ん?あー、俺は次も補欠枠だよ」
準決勝も出れないとなると、やっぱり出番は決勝かな。
あー、おれも早く試合出たい。
「そうなんだ、勿体ないなぁ」
「いやいや、そんなことないよ。ただ、決勝は何としてでも出たいところだけどね」
あ、そう言えばまだ準決勝まで時間あるし決勝の対戦相手を見ておくか。
「決勝の相手はやっぱり柿ノ木中かな?ここの地区、毎年青学と柿ノ木中の2強みたいだし」
「だねー。青学が優勝できるように僕達も応援頑張ろ!って、立川くんどこ行くの?」
「あー、ちらっと試合見てくる」
「なるほど、そう言えばちょうど柿ノ木中の準決勝の試合やってるもんね。でももうすぐうちの試合時間になるから遅れないようにね!レギュラーの立川くんがいないってなると大騒ぎだよ」
「おう、すぐ戻るよ」
柿ノ木中、ね……。いや、決勝に上がるのは99%、
そうして、俺はもう1つの準決勝が行われているコートに駆け足で向かった。
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「信じられない……。シード校の
たった今、青学とは逆の山の、もう1つの準決勝の試合が終了した。
そのコート上には相異なる2者がいた。
一方は両膝を地面につける柿ノ木中テニス部主将、九鬼貴一である。そして対面にはラケットを縦に持ち、フレーム部分でボールをリフティングの如くバウンドさせる者がいた。その者の着るジャージの背中部分には、<不動峰>と書かれている。
項垂れる九鬼は現状を受け入れられていない様子だ。
「こんな……こんなはずは……!不動峰中……こんなチームじゃなかったぞ?!クソォ!あんな無名のヤツらに……!」
その九鬼の言動に対し腹を立てたのか、対戦相手の者が九鬼にラケットを振りかざす。
「九鬼さん危ない!」
「っ?!」
部員の声より九鬼は自分の身の危険を察知したが時すでに遅しである。
ラケットは九鬼の目前まで迫っていた。そして九鬼が反射的に目を閉じた、その時である。
「やめろ深司!」
その一声でラケットがピタリと止まる。九鬼は目の前で静止したラケットに息を呑む。
「騒ぎを大きくするな。行くぞ」
「はい、橘さん」
こうして黒い軍団、不動峰中はコートを立ち去って行った。
残されたコートのスコアボードには<不動峰3-0柿ノ木>という文字が無機質に刻まれていた。
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現在、無事準決勝の水ノ淵中との対戦をストレート勝ちで終えた青学の面々は、コートわきで決勝まで待機しているところである。
その中で掲示板を見に行った荒井から決勝戦の相手を伝えられ、皆に少なからず衝撃が走る。
「えっ?!柿ノ木中が負けた?!」
「まさか。都大会出場候補だぜ?」
「でも掲示板に」
桃城の言葉に荒井が焦ったようにそう返す。
「で、決勝の相手はどこになった?」
「不動峰中……ノーシードです」
荒井の言葉に再度、青学部員がざわつき始める。
それもそのはず、不動峰中は昨年の大会で暴力事件を起こし出場を辞退したのだ。そのような中学が決勝までコマを進めるのは信じ難いことであった。
そんな中、乾が口を開いた。
「試合を見てきたけど、全くの別物だったね。選手は全員新レギュラー、部長以外は全員2年生、顧問も変わったらしい。鍵を握るのは実質的に監督も兼任している橘という男……」
「2年生にあの九鬼くんが圧倒されたって」
「……」
乾の言葉に続き不二が手塚にそう述べるが、手塚は相変わらずのポーカーフェイスで無言を貫く。
そして乾の情報により青学部員に沈黙が流れる中、海堂による制裁を受けた堀尾が口を開いた。
「でも、ウチならそんな新参者余裕ッスよ!ブッチギリ優勝ッス!」
「ほ、堀尾くん、後ろ……」
「後ろ……?っ!わわっ!不動峰?!」
カツオの言葉で後ろに振り返る堀尾、そこには不動峰の面々が顔ぶれを揃えていた。
「手塚だな。俺は不動峰の部長、橘だ。いい試合をしよう」
橘が手塚へと歩み寄り、右手を差し出す。
「ああ」
手塚もそれに応じ、2人はガッチリと握手した。
「うわー、不動峰のレギュラー強そう……」
「見てカチロー!あの一番後ろの人!あのスゴ技に加えて、全然手元見てないよ!」
カツオに促された人物にカチローは視線を向ける。
その人物はラケットを縦に持ち、手元を見ずにボールをフレーム上でバウンドさせていた。
「スッゲー不動峰……ん?別のボールの音?」
不動峰とは別に、ボールのバウンドする音が聞こえることに気づいた堀尾は視線を移す。
「げげっ?!越前のやつ、挑発してる!」
そこには、片手でファンタを飲みつつ目をつぶり、余裕の表情で不動峰と同じようにラケットでボールをバウンドさせるリョーマの姿があった。
そこに若干興奮気味の立川が歩み寄る。
「うぉぉ……生の、生の不動峰中だ……。やっぱり間近で見るとかっこいい……ってか、リョーマ、挑発するなよ」
「挑発?なんのことか分からないね。そんなことより、立川もこれくらいできるよね」
「俺まで加担させようとするなよ!」
もちろん、不動峰はこの程度の挑発に動じることは無かった。
それ以上に、橘はリョーマのその技量に注目する。
(1年生……か?それと声をかけたもう1人も1年生のようだが……)
「行くぞ」
「はい、橘さん」
「楽しめそうだな、深司」
こうして、不動峰は青学への挨拶を終えると淡々と去っていったのであった。
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「はぁ……リョーマ、お前はぶれねぇなぁ」
「なんのことだか分からないね」
「そういうとこだよ」
危ねぇ……ほんとリョーマ勘弁してくれよ。生の不動峰中のメンバーだぞ?あれ橘さんがいなかったら伊武さんキレてたからな?
俺は先程のリョーマの挑発シーンを思い返す。
内心では不動峰のメンバーを間近で見れたことに興奮を覚えつつ、リョーマの挑発により眉毛がピクリと動いた伊武さんにハラハラドキドキ状態であった。
「伊武……じゃなくて、あのお前が挑発してた人、絶対お前のことロックオンしたからな」
「それなら返り討ちにするまでだね」
だ、ダメだこいつ……。まあだからこそ頼れるんだろうが……。
そんなやり取りをしていると、竜崎先生が声を張り上げた。
「みんな集まるんだ!いいかい?決勝の不動峰戦、今までと同じと思うんじゃないよ。柿ノ木中を全く寄せ付けなかったチームだからね」
「はい!」
「よし、それじゃあ決勝のオーダーを発表する」
き、きたー!やばいな……めちゃめちゃ緊張する……。ちゃんと名前呼ばれるかな……。
「ダブルス2、大石菊丸ペア!」
「よっしゃー、おおいしー先手必勝だね」
「だな、勝って流れを掴もう」
「ダブルス1、不二立川ペア!」
「ふふっ、よろしくね立川」
「だ、ダブルス1!?あ、よろしくお願いします……」
「シングルス3、海堂!」
「ふしゅー」
「シングルス2、越前!」
「まだまだだね」
「そしてシングルス1、手塚!」
「……」
「以上だ。みんな暴れてきなよ!」
竜崎先生がオーダーを言い終えると、青学部員がざわつき始める。
「やったー!とうとう越前君のシングルスデビューだ!」
「おいおい、立川ってダブルスできるのかよ?しかも不二先輩とペアって」
「よし、気合い入れて応援するぞー!」
ちょ、ちょっと待て!不二先輩とダブルスなのはある程度予想できたけど、ダブルス1ってどういうこと?!
「よし、お前達!行っておいで!」
「ちょ、竜崎せんせ……」
「ほら、行くぞ立川」
こうして立川の疑問は解けることなく、地区予選決勝、対不動峰戦が始まろうとしていた。
いかがでしたでしょうか?
次回、言わずもがな不動峰戦です。