青春学園中等部の立役者   作:O.K.O

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第21話

「英二」

 

「うんにゃ、分かってる」

 

俺は念の為、英二にも確認した。

何の確認か、それはこのゲームに入ってからの不動峰ダブルスの変化だ。

この第6ゲーム、明らかに相手の石田が何かタイミングを図るような動きをしている。

 

「こりゃ最後まで油断は出来ないな」

 

不動峰ダブルスは予想以上の強さだ。凄まじいのはその精神力、油断していると一瞬で試合の流れを持っていかれかねない。

まあ、だからこそ……。

 

「なんてしつこさ……っ!しまっ!」

 

「いただき!」

 

またも俺と桜井のラリーに英二が割り込み、ボレーを決める。

 

「菊丸先輩ナイスボレー!」

 

「やばい、今日の菊丸先輩ノリノリじゃん!今ので何本目だよ?!」

 

よし、流れは完全にこっちだ。

 

「くそっ!なんて動きだ!」

 

「ナイスボールだ英二!」

 

「かんぺきぱーぺきってね」

 

今日の英二はいつも以上に調子が良い。

これは相手の集中力が高いからこそ、英二もそれに比例して集中力を高めるからだ。

 

「よし、次がゲームポイントだ。ラスト、しっかりしめるぞ」

 

「ほいさ」

 

そうしてサーブを放つと、今度は逆クロスで石田とのラリーになる。

その石田はというと、視界の端に英二の動きを捉えていた。

英二はそれを利用し、ストレートのコースを守るような初動を見せる。

いい動きだ英二、そのままポーチで……っ?!

その瞬間だった。

 

「行くぞ桜井っ!」

 

「おっしゃ、任せた!」

 

「行けぇ石田ぁ!波動球ぶちかませ!」

 

なんだ?!さっきまでの構えと違う?!

捕球体制に入った石田は腰を下げ、体の重心を下ろした。

 

「ヌンっ!」

 

まるで何かが爆発したような、そんな音を轟かせ、凄まじい球威のボールが返球される。

 

「きょ、強烈!」

 

これを打つタイミングを測ってたってわけか!

そこに、ストレートにフェイクを入れた英二が逆クロスの石田のボールに対応しようとする。

 

「どんなボールだろうと、返してやる!」

 

「だ、ダメだ!その球威は!」

 

「菊丸先輩危ない!」

 

俺の声と共に、立川の声も混ざった。

しかし、英二はすでに捕球体制だ。

 

「きく、まる、バズーっ?!」

 

英二がそう叫んだ刹那、石田のボールにより英二のラケットが弾き飛ばされた。

いや、弾き飛ばされたというよりは、英二がラケットからすぐさま()()()()()と言うべきだろうか。

 

「いよっしゃー!さすが石田!」

 

「へへっ」

 

「な、何だよあの球は……あんなの隠し持ってたのか……」

 

俺はすぐさま英二の方へと駆け寄る。

 

「大丈夫か英二?いけそうか?」

 

「うん……それは大丈夫。ただ、あのままムキになってたら腕がやばかったかもしんない。あの球ヤバいよ」

 

よかった……。すぐにラケットを離したおかげで何とか大丈夫そうだ。

ただ、あれを警戒しなければならないな……。

 

デュース(40-40)

 

「よっしゃ!石田、桜井、このまま押し切れー!」

 

先程のプレーに不動峰陣営は盛り上がりを見せている。

どうする……。とりあえず、ここは桜井にボールを集めるべきか……。

そうして俺は桜井にラリーをしかける。

 

数度のラリーの後、英二がそのラリーに割り込んだ。

 

「よし!英二!」

 

「ほいさ!……っ?!」

 

しかし、今日初めて、英二のボレーがネットにかかってしまう。

 

「よっしゃラッキー!」

 

「あぁ!ここで英二先輩のミス!」

 

ふぅ……そう簡単に勝たせてはくれないってことか。

 

-----

 

「少しまずいね。流れが変わった」

 

不二先輩がそう言葉を口にした。

確かに、流れは今不動峰ダブルスにある……ただ、こんなこと言うのはあれだけど、正直今は安心感の方が大きい。

 

「ですね。ただ……菊丸先輩が怪我をしてなさそうで良かったです」

 

そう、このダブルス2の試合において俺が1番不安に思っていたのは、波動球によるレギュラーメンバーの負傷だった。

原作では、石田さんの相手が河村先輩で、あの波動球により河村先輩は負傷したのだ。

河村先輩で手首を痛めるボールなのに、他のメンバーがあれをまともに受けていたらと考えるとゾッとする。

あれ?でも河村先輩だからあれを受けれたのか?……まあその辺はどっちでもいい、とにかく菊丸先輩の身体が無事で良かった。

 

「まあ、英二先輩の身体は大丈夫そうだが……プレーの方はそうでもないみたいッスよ」

 

「そうだね、あの波動球で英二の集中が散漫になってる」

 

まあ、とはいえその通りなんだよなぁ。

結局、さっきのゲームは不動峰ダブルスに取られて、この第7ゲームも菊丸先輩のミスが目立って今は相手のゲームポイントだ。

 

「大石の粘りに英二の決定力。ダブルスの理想ではあるが、英二の集中力は1度切れると止まらない」

 

「あっ!またボレーミス!」

 

そうして、またも菊丸先輩がボレーをネットに掛けてしまう。

 

「ゲーム不動峰!ゲームカウント3-4!」

 

一応勝ってはいるが、これはちょっとまずい流れかもな……。

チェンジコートにより、プレイヤーが一旦自陣のベンチにアドバイスを受けに行くが、その道中菊丸先輩は思い通りにプレーできずイライラした様子だ。

 

「英二、一旦落ち着こう」

 

「分かってる!分かってるけど……」

 

うーん……集中力か……。

俺も前世で思い通りにプレーできない時、集中力が切れてその後ミスばかりになってしまったことがある。ミスを取り戻そうと躍起になればなるほど、集中力が削がれてそれがまた次のミスに繋がる。負の連鎖は止めようとすればするほど逆効果、気分屋な菊丸先輩にとっては尚更だろう。

ベンチでは竜崎先生が菊丸先輩に声をかけている。

 

「菊丸、あの波動球は確かに強烈だが、あれから1度も打たれとらん。あれほどの威力……恐らく、打ち手にも負担がかかる球なんだろう。少し気にしすぎだ」

 

「でも、チラつくんだよな……」

 

おぅ……これは予想以上に菊丸先輩がきてるな……。

んー、何かきっかけがあればいいんだが……。

そんな中、大石先輩が口を開いた。

 

「英二、要は打たれることがない状況なら大丈夫ってことだな」

 

「あ、うん……。それなら別に気にならないよ。打たれないって分かってるなら……」

 

「なるほど……。よし、俺に考えがある」

 

「考え……?」

 

大石先輩はそう言うと、菊丸先輩に何やら小声で話している。

え?その考えめちゃめちゃ聞きたいんですが……。

俺の願いはさておき、大石先輩が話終えると菊丸先輩の表情がパッと明るくなった。

 

「さーすが大石!それなら大丈夫!」

 

「よし、最後まで頑張るぞ!」

 

「ふふ……大石は何をする気だろうね」

 

「き、気になりますよ……」

 

次の第8ゲーム、俺は大石先輩の凄さを再認識することになる。

 

-----

 

「ラリーの我慢比べは終わりだな」

 

今までは英二が決める展開だったが、ここからは俺も攻めさせてもらう。

 

「大石ー、頼んだ!」

 

「あぁ、任せておけ」

 

「何をする気か知らないが、このまま追いつかせてもらうぞ!」

 

英二のサーブで始まったこの第8ゲーム、不動峰は石田が下がり、桜井が前衛をしている。

 

「石田、やっちまえー!」

 

波動球の牽制か……。だが、もう打たせない。

俺はクロスのコースに打たれた石田の球に対し、大きく前に出た。

 

「ふっ!」

 

「なっ?!ノーバウンドでストレートロブ?!」

 

俺がノーバウンドで打ったボールは前衛である桜井の頭上を超えていく。

 

「大丈夫だ桜井、その高さとスピードならアウトだ!」

 

石田は俺のボールに対し、ウォッチを促す。

まあ、なんの回転もかけていないならアウトになる弾道だな。だが……。

 

「へへーん、大石のムーンボレーは百発百中だかんね!」

 

「なっ?!玉が急激に落ちた?!」

 

そうして、そのまま俺のボールはベースラインギリギリの場所に落下する。

 

「あ、あの弾道でインだと?!」

 

「大石先輩すげー!あんな技隠し持ってたのかよ?!」

 

青学部員からは大きな歓声が上がる。

 

「すまん桜井、あの弾道で入るなんて」

 

「いや、俺の方こそ申し訳ない……。あのボール、ラケットがぎりぎり届かない」

 

「なっ……そんなにコントロールされているのか……。だが、そうと分かれば次は取る!」

 

「あぁ、負けられねぇよ!」

 

さっきのポイントで更に火がついたのか……。ほんと、すごい精神力だ。でも、負けられないのはこっちも同じ、このまま行かせてもらう!

 

-----

 

「へぇ……大石先輩、あんなこともできるんだ」

 

リョーマが先程の大石のプレーに、感心したようにそう呟いた。

 

「凄いよね!あんなコントロール絶対出来ないよ!」

 

「あったりまえだろ!青学の副部長の名は伊達じゃないぜ!」

 

「いや、なんで堀尾くんが威張ってるの……」

 

堀尾の発言にカツオがすかさず突っ込んだ。

 

「ムーンボレー。ドライブ気味の回転をかけ相手の頭上を越し、ベースライン際に落とす大石得意の技だ。針の穴を通すような繊細なコントロールが求められる。あれは大石だからこそできる技だ」

 

「っ?!」

 

リョーマの隣には、いつの間にか先程までいなかった乾が立っていた。

 

「いつの間に……」

 

神出鬼没な乾に対し、カチローも苦笑する。

その時、コートでは菊丸が本来の動きを取り戻し、見事なハイボレーを決めた。

 

「それにしても、菊丸先輩の調子も戻ってきたよね!菊丸先輩のアクロバティックテニスもすごいや!……あれ?でもなんで急に変わったんだろう……」

 

「それも大石のおかげだ」

 

カチローの疑問に、乾がメガネを光らせた。

 

「え?どういうことですか乾先輩」

 

「大石のムーンボレーに対し、石田は嫌でも逆サイドに走らなければならない。するとどうなるか、体のバランスが崩れるから波動球を打つための力を込められないんだ。つまり、菊丸は波動球の心配無くのびのびプレーできるという事だ」

 

そう、大石の本当の狙いはそこであった。

波動球は腰を深く落とし、どっしりと構えないと打てないボールだ。

そこで大石は、石田を走らせることで波動球を打つ体制を作らせないことに思考を切り替えた。

結果、その作戦は見事にハマり、菊丸は現にのびのびとアクロバティックテニスを展開できたのだ。

 

「お、大石先輩すごすぎる……」

 

「大石のプレーは一見地味に見える。だが、あいつのダブルスのゲームメイクは1級品だ。大石がいてこそ菊丸も安心してプレーが出来るんだ。大石がつなぎ、菊丸が決める、あれほどダブルスに適したコンビはそうそうお目にかかれないよ」

 

青学のゴールデンペアは次々とポイントを積み重ねていく。

 

そして--

 

「ゲームセット!ゲーム、ウォンバイ青春学園、6-3!」

 

見事、青学ダブルス2が初戦をもぎ取ったのであった。

 

-----

 

「ナイスゲームです、大石先輩、菊丸先輩!」

 

俺はベンチへと戻ってくる2人にそう声をかけた。

 

「ふぅ、初戦を取れてよかったよ」

 

「まあ、俺らにかかればこんなもんよ。ブイ!」

 

菊丸先輩が右手でブイの字を作る。

竜崎先生もホッとした表情だ。

 

「ふぅ……ハラハラさせおって……。特に菊丸!お前は集中力を鍛える必要がある!重点的に見直すように!」

 

「はーい」

 

菊丸先輩は両腕を頭の後ろに回し、そう答えた。

ははっ……菊丸先輩は相変わらずだなぁ……。

 

「まっ、それは置いといて、次は期待の立川の出番だな!」

 

「期待のって……そんなプレッシャーかけないでくださいよ」

 

部員みんなが見てる前って割と緊張するんですよ……。

 

「ふふ……そんなに気負わず行こうよ。頼りにしてるよ?」

 

「不二先輩、何気に追い討ちかけないでください」

 

あ、この人、絶対わざとだ。

 

「ごめんごめん。まあ、楽しんでいこうよ」

 

「はぁ……そうですね。頑張ります」

 

それはそうと、相手は誰だろう。

俺の予想では内村さんと森さんのはずなんだけど……。

 

「えっ……?」

 

俺は不動峰のベンチを見て、思わず目を見開いた。

不動峰……俺の相手は……。

 

-----

 

「「橘さん、すいません」」

 

ベンチに戻ってきた石田と桜井が俺に頭を下げる。

 

「よくやった」

 

「「え?」」

 

「地区予選であのペアから3ゲームも取れたのはお前らだけだ。次は勝とう」

 

もっと胸を張っていいんだ。確かに負けはしたが、充分すぎる試合をやってくれた。

 

「「はい!」」

 

俺の言葉に、2人の表情はスッキリとした物になる。

しかし、そうは言ってもダブルス2にあのペアを持ってくるとは……予想が外れたな。

ダブルス1でこの2人と当てる予定だったんだが……。まあいい、とりあえず次の試合、頑張ってもらわないとな。

俺は隣で準備をする2人に視線を向けた。

 

「二人とも、いけそうか?」

 

「やるしかないでしょう。石田と桜井があれだけいい試合をしたんだ。リズムに乗りますよ」

 

「はぁ……嫌になるなぁ……勝たないといけないじゃん……」

 

「二人とも、いつも通りで何よりだ。ダブルス1は任せたぞ」

 

さぁ深司、神尾。奴ら(青学)の度肝を抜いてやれ。

 





如何でしたでしょうか。
お読みいただいている方々には大変長らくお待たせしました。
ここからようやく、書きたいところがかけます。

次話もよろしくお願いします。

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