たくさんの人に見ていただけて感謝感激雨あられでございます。
稚拙な文章ですが、今後ともよろしくお願いします。
えー、立川悠です。こうして越前リョーマと帰国をかけた試合をすることになったのですが、早速、問題が発生しました。
「あー、すまん……。今日は観光ってことでラケット持ってきてねぇんだわ……。だから、その……借してくれ」
俺の発言に越前リョーマがため息をつく。
だってしゃあねぇだろ?!アメリカの観光旅行でテニスラケット持参するやつがいるかよ!
「本当にやる気ある?まあ、俺は賭けの約束守ってくれるならそれでいいけど」
そう言って越前リョーマはラケットバックから、予備のラケットを1本俺に渡す。
「あぁ、その点は大丈夫だ、ありがとよ。で、トスだよな……。スムース(表)で」
表を選んだ理由は適当だ。正直言うとサーブでもレシーブでもどちらでもいいしな。あ、裏だ。
「ラフ(裏)だね。じゃあ、サーブはもらうよ」
そう言って越前リョーマは対面のコートに向かっていく。
「サーブ権は向こう側か……」
さて、なんやかんや俺は初試合なわけだが……まあ、当然そうくるよなぁ……。
「何?さっさと終わらせるよ。サーブ、打つからね」
……あいつ、利き手とは違う右手で構えてやがる。完璧に舐められてるな……。まあ、当然っちゃ当然か……。
ドシュッ!っと越前リョーマのファーストサーブがクロスのコースに決まる。サービスエースだ。
15-0。
「……テニス、自信あるんじゃなかったの?」
「なるほどな」
「……?次、行くよ」
「あぁ……こい」
やっぱりだ、俺の本能が確信してる。これくらいのサーブは……余裕で返せる!
「ふっ!」
越前リョーマの速いファーストサーブが逆クロスのコースに入り、今度もエース……とはならなかった。そればかりか、今度は俺の強烈なバックのリターンがストレートのコースに突き刺さる。俺のリターンエースだ。
15-15。
「……っ!」
「おいおい、早く試合終わらすんだろ?なら、次のポイントに行こうぜ」
よし、タイミングもバッチリだ。しっかり芯で捕えられてるし、さっさと彼に本気出してもらおう。
このプレーに刺激を受けたのか、越前リョーマがニヤリと笑う。
「へぇ、少しはやるじゃん……はっ!」
次はセンターのコースか。なるほど、サーブ&ボレーね……めちゃめちゃ上手いし、前世ならボッコボコにされていただろうが……あくまで前世での話だ!
俺はスピードにのった球を、鋭く浅く、クロスに返球する。常人ならこれでリターンエースとなるはずだが、相手はあの越前リョーマ、超人的なフットワークで追いつき、なんとか返球してきた。しかし、俺はそこでネットに詰めてボレーによりポイントを奪う。
15-30。
「なぁ、そろそろ本気、出してもらえないか?」
「……にゃろ」
俺の言葉で、越前リョーマの雰囲気が変わる。おうおう、集中力が半端じゃないな。十八番のサーブ、来るか?
越前リョーマのサーブが飛んでくる。そのサーブはこれまでのサーブとは違い、強烈な回転がかけられていた。そして、ボールはバウンドすると同時に右利きである俺の顔面に向かってきた。
……来た、越前リョーマ十八番のツイストサーブ!原作の技を見れたのは感動だけど、マジでこれヤバすぎだろ……。比喩かと思っていたが、ほんとに顔面向かって飛んできやがる!回転も威力も強力……だが!
「ふっ!」
「なっ……!」
俺のリターンは、サービスダッシュでネット際にきていた越前リョーマの左側を抜け、一見、サイドアウトしたかのように見えた。しかし、ボールはそこから軌道を曲げ、シングルスライン上にオンラインでコートに入った。
やっぱり、この身体能力チートだわ……。いや、まあスネイク打てることは調査済みだけど、実践で使って初めて、この有用性に気づくよね。
そう、俺が打ったのはスネイクだ。しかも、回り込んでバックハンドでスネイクを打った。こうすることで、元々ツイストサーブで回転がかけられていたボールに二重の回転をかけ、強烈な軌道の変化を起こさせたのだ。
越前リョーマは一瞬驚いたような表情をしたと思うと、すぐに笑みを浮かべた。
あいつ、こういう所は原作通り、根っからのテニスバカだな……。
そうして、ゲームポイントも続いて俺が取り、越前リョーマのサーブゲームをブレイクすることに成功する。
「……あんた、何者?」
「俺か?俺は立川悠12歳、ただの小学校6年生だ」
「小学校6年、てことは俺と同年代……。日本には、あんたみたいなやつが……?」
ん?最後の方なんて言った?ぼそぼそ言っているせいで聞こえなかった。
てか、これは俺も一応名前聞いとく流れか?
「あー、そういや君の名前も聞いてなかったな」
「……越前リョーマ」
いや、まあ知ってたんですけども……。それでもやっぱり、聞いておかないと、なんでお前が俺の名前知ってる?とかいう状況になったらめんどくさいわけですよ。
まあ、これでお互い名前も知ったことだし、これからはリョーマって呼ぶか。
「じゃあリョーマって呼ぶわ。リョーマ、続きやるぞ」
すると、リョーマは何やら楽しげに、両足で軽くジャンプし始めた。
「こんな所でまさか、こいつを使うことになるとはね……」
お、あれは……ってスプリットステップやる気ですか?!てかよく見ればラケットも本来の利き手の左手に持ち替えてるし、エンジン全開ですねぇ……。だけど……。
「悪いが、俺のサーブは取らせない」
そうして、俺は高くトスを上げた。
「一球、入魂っ!」
俺は体のバネをめいっぱい利用してサーブを放った。そう、これは氷帝学園の鳳長太郎が使用していた、超高速のスカッドサーブだ。
いや、まあ別に俺は一球入魂の掛け声は言わずとも使えるんだけど、やっぱり原作通りに使ってみたいじゃん?
そうして、俺のスカッドサーブはセンターのコースに入る。俺の強烈なサーブにリョーマは、反応こそしてはいたが、ボールにラケットが届かない。
「俺は負けられないから」
そう、いくら相手がリョーマとは言え、まだ原作が始まってもいない。経験値を積んでいないリョーマに俺が負けていい理由なんてない。
--そうして、流れは完全に俺に偏り、ゲームカウント5-0、俺のサーブでのマッチポイントを迎えた。
「はぁ……はぁ……」
リョーマは肩で息をして、額には大粒の汗を浮かべている。一方俺はというと、汗はかいているものの、体力の限界は全く迎えていない。
「マッチポイントだ」
「……まだだ!」
そうして、俺はスカッドサーブを打った。
手加減はなし……リョーマには何としてでも俺と日本に帰ってもらう!
そうして、俺の強烈なサーブがリョーマ側のコートに入る。
サーブを打った感触は今日1番、センターに俺のサーブが突き刺さった……しかし。
「くっ……!」
リョーマはなんとか、ボールをラケットのフレームに当てて俺のコートにボールを返す。
まあ、そうだよな……。テニプリの世界は、最後の最後まで、諦めの悪い奴らばかり。勝利の瞬間まで、油断しちゃいけない……。でも、だからこそ!
「っ!!」
「リョーマ、君なら返してくると信じてた」
ネット際に詰めていた俺は、ハイボレーをコートに叩き込んだ。
「……越前リョーマ、日本の青春学園に入ってくれ」
こうして、リョーマの帰国をかけた試合は俺の勝利で幕を閉じだのだった。
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本日、アメリカのジュニアの部で4連覇を果たした越前リョーマは、帰りの道中、試合の反省のため近くのテニスコートで壁打ちをしていた。
そうして打ち始めて10分ほどであろうか、リョーマは自分に向けられている視線を感じた。
(誰かいる……?)
リョーマが振り返った先には、おそらく自分と同年代程であろう日本人の小学生がいた。その少年はリョーマが振り返ったことに気づいたのか、それでも臆せず視線を外さないでいた。
(変な奴……)
そう思い、気にせず壁打ちを再開しようとしたリョーマであったが、少年はこちらをじっと見つめている。まるで、リョーマを値踏みするかのように。
「あんた、なんか用?見たところ日本人のようだけど」
意味ありげにこちらを見てくる少年に、リョーマは我慢出来ず声をかけた。
「いや、日本人で俺と同じくらいの歳の子を見かけたから、何してんだろうなぁと思ってさ」
(ふーん、そういうことね)
恐らく、こんな所で1人日本人がテニスしているのが不思議だったのであろう、そうリョーマは結論づけた。
「別に……見たまんま、テニスしてるだけ」
「普段ここで打ってるのか?」
「いや、今日は近くで試合があったから寄っただけ」
そこで、会話が途切れる。この時点でリョーマの少年への興味はほとんどなかった。
そうして、リョーマが練習を再開しようとした時、今度は少年が話しかけてきた。
「あー、そう言えば俺はここに観光できてるんだけど、君ももうすぐ日本に帰る予定?」
「日本、ねぇ……。俺は帰らないよ。日本のテニス、レベル低いって聞くし」
これはリョーマの本心である。日々、日本のテニスレベルはあまり高くないという周りの噂をかねがね聞き続けていたリョーマにとって、この時日本に帰るという選択肢はなかった。実は、自分の父親、越前南次郎の師匠という人が顧問をしている日本の中学校のテニス部から勧誘を受けてもいるが、それもこういった理由から先日断ったばかりである。
この発言に目の前の少年は何故か驚き慌てふためいているが、リョーマは何となくだが、これに触れると面倒くさそうな気がしたので話題を変える。
「そうだ、あんたはテニスしないの?」
リョーマはテニスをしている自分を見ていた彼自身、テニスをしているんじゃないかと思った。これまでの言い回しからしても、十分にその可能性はある。
そして、予想通り少年の答えはイエスだった。
その答えを聞いて、リョーマは若干口角を上げる。
(日本のテニス、どんなもんかな)
そう、リョーマはこの少年とテニスをすることで日本人のテニスがどのようなものか推し図ろうとしたのだ。勿論、父親とは毎日のように試合をしているが正直当てにならない、というのが本音であった。
まあこの少年がどういった実力を持っているか、リョーマは全く知らないのではあるが、代わり映えのない日々に気分転換という意味も込めて、軽くテニスをしようと誘った。
すると、目の前の少年から予想外の提案をされる。
「俺と、1セットマッチで勝負だ。俺が勝ったら、日本に戻ってほしい」
「……は?俺と、あんたが?」
リョーマは思わず聞き返してしまった。正直、意味が分からないのだ。何故彼は、自分を日本に連れ戻そうとしているのか。
そうして彼の提案を断ろうとしたリョーマであったが、彼の提案が面白おかしく、少し乗ってみることにした。
「ぷっ……あんた面白いこと言うねぇ。で、俺が勝ったら?」
「ファンタ10本買ってやる」
「……20本、それと味はグレープね」
前言撤回、リョーマはこの提案により勝負に乗ることを決めた。
--そうして、見知らぬ少年と賭けのテニスをすることになったわけだが……。
「……テニス、自信あるんじゃなかったの?」
15-0。
1ポイント目、リョーマの
そして、彼はというと、そのサーブに全く反応していなかった。
(なんだ、期待したのに、全然じゃん……)
リョーマはこのワンプレーで完全に落胆した。
実は、リョーマは少し彼に期待していたのだ。他人にテニスを挑んでくるほどだ、よほどその腕に自信があるのだろうと。
そして、テンションが右肩下がりのリョーマは、早く試合を終わらせようとサーブの構えをすると、視界の端に彼が映った。
「なるほどな」
(笑ってる……?)
そう、目の前の少年はノータッチエースを決められたはずなのに、何故か笑っているのだ。少年の反応に、リョーマは頭にはてなマークを浮かべる。
「……?次、行くよ」
「あぁ……こい」
(オーラが、変わった……?)
不自然さを抱えたまま、リョーマはファーストサーブを放つ。
逆クロスの完璧なコースだ。リョーマは今度もエースの確信があった。
(コース完璧、決ま……っ!)
「ふっ!」
しかし、リョーマが描いていたシナリオ通りに事は進まなかった。
逆クロスのコースに入ったはずのボールは次の瞬間、リョーマの右サイドストレートを過ぎ去っていった。
「……っ!」
(リターンエース?!)
「おいおい、早く試合終わらすんだろ?なら、次のポイントに行こうぜ」
少年はリョーマに悪戯な笑みを浮かべ、そう告げる。
(こいつ……)
リョーマは自分の血が騒ぎ出しているのを自覚した。
「へぇ、少しはやるじゃん……はっ!」
リョーマにスイッチが入り始める。
次にリョーマはセンターのコース目掛けてサーブを打ち、そのままネット際に詰め寄る。
(これならどうだ)
しかし、少年はリョーマにとって最も取りにくい、浅く鋭い球をクロスに打ってきた。リョーマは予想外のコースに球を浮かせてしまう。
(ぐっ……しまった!)
そしてそのまま、浮き球を綺麗にボレーされてしまう。
「なぁ、そろそろ本気、出してもらえないか?」
「……にゃろ」
(こいつ、上手い……。なるほど、最初のポイントは様子見だったってわけね……。でも、負けない……見せてやる、ツイストサーブ……)
もうリョーマに手加減という言葉はなかった。というより、全力でやらないと、やられることを本能的に理解した。
リョーマはポーン、ポーンと一定のリズムでボールをバウンドさせる。
(これならどうだっ!)
渾身のツイストサーブをリョーマは放つ。ボールの軌道は予想通り、少年の顔面向かって飛んでいった。
しかし、次の瞬間リョーマは目を見開いた。
なんと少年はそれをバックに回り込み、ライジングでバウンド直後にボールを打ったのだ。
「ふっ!」
「なっ……!」
しかも、驚くべきことはそれだけではなかった。少年が打ったボールはサイドアウトするかと思いきや、急激に軌道を曲げて再度ライン上に跳ね落ちたのだ。
(あれは……バギーホイップショット!それもバウンド直後にバックで?!)
そしてそのままゲームポイントも少年に奪われ、リョーマ得意のサービスゲームを落としてしまう。
「……あんた、何者?」
リョーマはこれまで、対外試合でサービスゲームをほとんど落としたことがなかった。加えて、精巧な技術を見せる少年にリョーマは驚きを隠せない。
「俺か?俺は立川悠12歳、ただの小学校6年生だ」
(小学校6年?!俺と同い年……。立川、聞いたことない名前だけど……)
「小学校6年、てことは俺と同年代……。日本には、あんたみたいなやつが……?」
(日本ジュニアのテニスレベルは、こんなに高いのか?もし、もしそうだったとしたら……!)
日本への帰国を真剣に視野に入れ始めたリョーマに、立川から声がかかる。
「あー、そういや君の名前も聞いてなかったな」
「……越前リョーマ」
(とりあえず、このことは後で考えるんだ。今はこいつ……立川に勝つことだけ考えろ!……久々に、楽しくなってきたな)
「こんな所でまさか、こいつを使うことになるとはね……」
もうリョーマは出し惜しみすることをやめた。自分の全力を持って、この少年に立ち向かうことを決めたのだ。リョーマはスプリットステップを解放する。
しかし、それでも立川はリョーマに立ちはだかる。
「悪いが、俺のサーブは取らせない」
そうして、立川が高くトスを上げる。
「一球、入魂っ!」
そう、立川が叫んだと思うと、次の瞬間ボールは猛スピードでリョーマのコートに向かってくる。
(な、なんてサーブ……!と、届かない……!)
スプリットステップにより反応は飛躍的に上昇していたが、それでもリョーマはボールに触れることができなかった。
「----」
何か立川が呟いていたが、それはリョーマに届かない。
(こいつ、本当に何者だ……?)
--そうして、最後の最後まで立川に翻弄され続け、マッチポイントでも実力の差を見せつけられ、リョーマは父親以外の相手で初めて敗北を知った。それも、完敗である。
賭けに負けたことより、勝負に負けたことにショックを受けていたリョーマに、試合後、立川から声がかけられる。
「……越前リョーマ、日本の青春学園に入ってくれ」
(っ!今、青春学園って言ったのか?!青春学園って、確か勧誘が来ていた……)
「……あんたは、青学に入学するの?……青学には強い人がたくさんいるの?」
何故今このときに、彼の口から青学が出てきたか、ということなどどうでもよかった。負けず嫌いのリョーマにとって、敗北のままでは終われなかった。
「ん?あぁ、俺か……。そうだ、俺も青学に入るし、強い先輩もめちゃめちゃいるだろうぜ」
その言葉に、リョーマは今まで以上にテニスへの向上心が高まっていた。
「青学、青学ね……。いいよ、立川にやられっぱなしは嫌だしね。俺も、青学に入る」
(必ず、力をつけてあんたをやっつけるよ。立川悠、この負けは忘れないから……)
こうして立川悠と越前リョーマが出会い、物語は原作通り、越前リョーマは青学に入学することになったのであった。
試合後の悠。
「あ!やっべ、もう真っ暗じゃん!また冥にどやされる!」