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それでは第8話、行ってみましょう。
トスの結果、サーブは俺からだ。
よし、校内戦の大事な初戦、このサーブゲームから勢いに乗っていこう。
「サーブは俺……。ここから全国優勝までの道は始まっているんだ。しっかり気合い入れてかないとな」
そうして俺はサーブの構えをするが、辺りはまだざわめいている。
そんな中、俺の呟きが聞こえたのか、林先輩が苛立った声で言葉を発した。
「おい、何を1人でブツブツ言ってるんだ立川。緊張で腰でも抜けたか?」
……林先輩、その発言をしたこと、後悔させてやりますよ。
「行きますよ……。ふっ!」
そうして俺はセンターライン上のコーナーに、ファーストサーブを叩き込んだ。
「……っ?!」
林先輩は俺のサーブに反応することもできない。1ポイント目、俺のサービスエースだ。
俺がサービスエースを取ると、あれだけ騒がしかったギャラリーが一瞬で静まり返った。
「ふぃ、15-0……」
審判がカウントをコールすると、静まり返ったギャラリーに今度は俺の侮蔑とは違う、歓声が巻き起こった。
「す、すげぇぇぇ!見たか今のサーブ!」
「なんだ今のは?!めちゃめちゃ早いじゃん!それも、あのスピードでセンターラインコーナーきわきわだぞ?!取れるわけねぇ!」
「立川ってあんなにテニス出来たのか?!誰だよ馬鹿にしてたやつは?!」
よし、出だしは完璧だな。なんとか試合の空気を変えることが出来た。
「不二、今のサーブ……」
「……まぐれ、ではなさそうだね。まぐれであの狭いコーナーに、あれだけのスピードのサーブを入れることは出来ない。彼、うまいよ」
「……俺たちも、負けてられないね」
そうして、このサーブゲームはそのまま俺のサーブ4本で終わった。
「すげぇ……立川のやつ、まだ林のやつに1本もボールに触れさせてねぇ……」
「……お、俺、やっぱり立川に賭けようかな」
「はぁ?!お前ずるいぞ!だったら俺だって!」
皆さん、手のひら返すの早すぎでしょ……。まあ、これで流れは完全にこっちのもんだ。このまま攻めさせてもらいましょうか。
「さ、サーブはやるようだが……それだけじゃテニスは、勝てねぇよ!」
林先輩……それじゃあ、サーブ以外も見せてあげますよ!
そうして俺は林先輩のワイドのサーブに対し、前に突っ込んだ。
「はっ!やけくそになったな……っ?!」
まあ、そう見えても仕方ないのかな?だが……。
次の瞬間、右ストレートに鋭い打球が飛び、俺のリターンが決まる。
「ら、0-15……」
「なんだ今のは?!」
「あいつ、林のファーストサーブに対して前に出て打ったぞ?!」
そう、俺が使用したのは対桃城先輩の時に使ったスーパーライジングだ。ダウンザラインで完璧なコースだった俺のリターンエースにより林先輩は青ざめ、戦意喪失している。
このプレーでギャラリーにまたも歓声が沸き起こる中、不二先輩は冷静に俺のプレーを分析していた。
「ライジングショット……バウンド直後のボールを叩くことで速いテンポで返球し、相手に余裕を与えないストロークの高等技術だね」
「あ、あいつそんなこともできるのかよ……」
(……それだけじゃない。ライジングショットは有効的な一打だが、その分ラケットのスイートスポットを外しやすくミスに繋がる可能性が限りなく高い。しかし、彼はそれを相手のファーストサーブのリターンで使って見せた……。よほど自分の実力に自信が無いとできない芸当だ)
「タカさん……彼、来るよ」
「うん……でも俺もレギュラーになりたい。負けてられないよ」
「不二くん!河村くん!」
「あれ?烏野さん?」
「あの、このコートで悠が試合してるって聞いたんだけど……って、いた!」
「ううぉー!立川のやつ、またいったぁ!」
そうして俺はまたもスーパーライジングで、今度は左ストレートにリターンエースを決める。
うん、感触は絶好調だ。
「お、おい、あそこ見てみろよ!」
「っ?!烏野先輩?!試合見に来たのかな?」
「やっぱり烏野先輩可愛いなぁ……」
「まあ、美人だよなぁ。でもやめとけやめとけ、烏野先輩これまでに告白されてオッケー出したことないらしいぜ?噂によると、好きな人がいるらしい」
「ま、マジかよ……」
あれ?ギャラリーの方々がまた騒いでる気がするんですが……まあそれはいいか、集中集中。とりあえず、この試合は決めさせていただきますよ。
「た、立川……」
「林先輩、まだまだ行きますよ?」
俺の言葉に林先輩は冷や汗ダラダラだ。こうなればこの試合は決まりだな。
「ゲームセット!ウォンバイ立川、6-0!」
こうして、俺は林先輩との試合を6-0で勝利したのであった。
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「あ!もう試合始まってる!」
なんかすごい盛り上がってる……。なんで校内戦に悠が出てるのかは後で聞くとして、悠頑張ってるかなぁ。
そうしてコートに近づくと、不二くんと河村くんの姿が目に入った。
「不二くん!河村くん!」
「あれ?烏野さん?」
「あの、このコートで悠が試合してるって聞いたんだけど……って、いた!」
「ううぉー!立川のやつ、またいったぁ!」
っ?!今のボールは……ライジングショット……?ま、待って!今打ったのって悠だよね?!
「不二くん!今のって……」
「うん……見事なライジングショットだね」
「ま、待って!あのボールを打ったのって悠だよね?!私の錯覚じゃないよね?!」
「か、烏野さん?ちょっと落ち着いて……」
「あ……ごめん」
しまった、不二くんを困らせちゃった……。そうだね、一旦落ち着こう。深呼吸深呼吸……。
私が落ち着くまで2人は待ってくれた。そして、私が落ち着いたのを確認すると河村くんが口を開いた。
「えっと、まず烏野さん。悠?っていうのは立川のことであってるかな?」
「うん、悠は私の幼馴染なんだ」
「へぇ、それは驚いたな……。てことは、立川くんがあれだけテニスが上手いのは烏野さんのおかげかな……あれ?でも、烏野さんも立川くんのプレーに驚いていたよね」
「そうなの!私、悠がテニスできること全然知らなくて……。悠がテニスの練習をしていたっていうのも今朝知ったくらいで……。あんなに悠ってテニス上手だったんだ……」
私の言葉に不二くんは頷いて納得したような表情を見せるが、すぐさまその表情が曇った。
「なるほど……それで烏野さんも驚いていたんだね。ただ……加えて彼の真の実力は誰も知らない、全くの未知数ってことだね」
悠の真の実力……?
「不二、一体どういうことだ?」
こうしている間にも、悠の試合は淡々と進んでいる。
あ!すごい、またリターンエースだ!とても綺麗なバックハンド……それも逆クロスにあれだけの鋭い角度で……ん?ちょっと待って、悠の表情、全くミスすることを恐れてないみたい……ていうより、
「不二くん、まさか……」
「うん。あれだけのプレーをしているけど、立川くんはまだ本気じゃない。もしかしたら、越前君より強敵かもしれないね」
「……悠」
不二くんの言葉に、私は驚愕すると同時に、自分の胸の内が熱くなるのが分かった。
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「す、すげぇ。あいつ、汗ひとつかかずに勝ちやがった」
「立川、もしかしたらレギュラーも狙えるんじゃないか?」
「馬鹿言え!このグループにはレギュラーの不二先輩と、あのバーニングで最も勢いのある河村先輩がいるんだ、立川は確かにうまいが、あの二人には適わねぇよ」
「あー、そっか……このグループにはその2人がいたんだ……でも、あいつなら何か起こしてくれそうな気がするよ……」
林先輩との試合が終わり、ひとまず俺は校内戦初勝利をおさめた。
「ふぅ、とりあえず一勝だな。やっぱ試合は楽しいなぁ。3試合後と4試合後が本当に楽しみだ……」
俺は3試合後、4試合後に控えた河村先輩と不二先輩との試合に焦点を当てていた。
やべぇ、2人とする試合のことを考えるだけで緊張とワクワクが止まらん……。早くやりたいなぁ……。
そんなことを考えていると、俺は聞き覚えのある声に呼び止められた。
「ゆ、悠!」
「冥?!試合見てたのか?!」
いや、校内戦見に来るとは言ってたけど、手塚部長の試合見に来たんじゃなかったのかよ?!
「うん……その……」
「あ、ごめん!校内戦出るってこと、今朝言おうとしたんだよ……。でも、タイミングが合わなくて……」
やっべ、また今朝みたいに怒られる……そう思った俺であったが、冥は首を横に振った。
「ううん、いいの。今は試合に集中したいだろうし、それは全部終わってから教えて。それもそうなんだけど……」
え?待って違うの?それじゃあどういうこと?
「悠、テニスすごく上手だった。私、あんなに悠がテニス上手いと思ってなかったよ。それにテニスしてる悠、すごく生き生きしてて、かっこよかった」
なるほどねぇ、かっこよ……っ?!冥さん、今、なんとおっしゃりましたか?
「冥、今なんて……?」
すると冥は手で口を抑え、はっとしたような表情をした。
「ふぇ?!え、今、私……?!いや、違うの!そういう事じゃなくて!」
かぁぁ、っと冥の顔が真っ赤に染まっていく。
「と、とりあえず校内戦頑張って!悠ならレギュラーになれるよ!私応援してるから!それだけ、それだけ言いたかっただけだから!」
そう言って冥はあっという間にどこかへ走り去っていった。
「冥さんや、今のやつ、幼馴染視点からでもかなり破壊力あったぞ……」
今の、一瞬ドキッときた……。でも、冥からしたら幼馴染としてかけた言葉だろうし、俺が深読みしすぎるのも良くないよな。
ん?なんか周りからの視線が痛いんですが……。
「今の……まさか烏野先輩の想い人って……」
「立川のやつ……烏野先輩と……」
「立川を許すな!河村先輩や不二先輩の試合と言わず、俺らでやつを倒すぞ!」
え?!なんで先輩方そんなに目がギラギラしてるんですか?!
そうして俺は、何故かヒートアップした先輩たちに殺意を持った目で試合を挑まれたが、2試合目、3試合目もゲームカウント6-0で勝利し、残すは河村先輩と不二先輩の2試合のみとなった。
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「大石、試合結果の書き込み、交代するから休憩行っていいよ」
「あ、乾」
グループ表が張り出されたボードの前には乾と大石がいた。2人は自身の校内戦の調子について、軽口を挟みつつ話し合っていた。
「その感じだと大石は順当に行けそうだな」
「乾もだろ?いつも通りみたいだし」
「まあな。でも、あの1年も予想以上にやるな。まだ1ゲームも落としていない」
「越前か。お前と同じグループだったな。あの子もかわいそうに」
「フフ……いや、俺より前に厄介な相手がいるだろう。2年に」
「ケンカ売ってんすか……先輩」
そうして話す乾の後ろの木の影には、2年のレギュラーである海堂薫の姿があった。
「ハハ、海堂も相変わらずだな」
海堂は異様な雰囲気を放っていたが、いつもの事なので大石と乾は軽く受け流す。
「試合なんで、行きますよ」
「おう、頑張ってな」
そうして海堂が立ち去った後、そこに不二が歩いてきた。
「お、不二」
「2人とも、調子はどうかな」
「まあまあといった所だ。ところで、確か不二は
「うん、立川君、越前君と同じでまだ1ゲームも落としていないよ。彼、要注意人物だね」
不二のその発言に、乾と大石は驚いたような表情を見せる。しかし、その理由は真逆であった。
「不二がそこまで言うとは珍しいな」
「やはり、それほど……」
大石の反応に不二が眉をピクリとさせる。
「大石、彼について何か知っているみたいだね」
不二の言葉に大石は困ったような表情を見せる。
「まあ、別に大したことじゃない。不二も油断せずにな、お前なら大丈夫だろうが……。立川の次の相手は誰なんだ?」
不二は何か言いたげであったが、大石が話題を変えたためそれに乗った。
「次は、タカさんだね」
「河村か……立川のデータが全くないからデータを取りたいところだが、俺は海堂と
「そうだね、普通、なら……。まあ、僕もタカさんが勝つとは思うけど、注目の試合だね。そろそろだし、僕も見に行くよ」
そう言って不二は立川と河村の試合が行われるコートに立ち去っていった。
「不二のやつがあの1年に違和感を持っている確率、95%ってところか……。不二とあっちの1年の試合、見に行けたら見に行くか」
「乾?」
「なんでもない。俺もそろそろ行く」
「あぁ、頑張ってな」
今回の校内戦、2人の1年が波乱を起こそうとしていた。