彼はデスゲームの中に本物を求める 作:すのどろ Snowdrop
SAOは前々から書いてみたくてつい、ね?
では、駄作ですがどうぞ
始まり
狂化ヴァンパイアナイト。それが今俺が相対している敵だ。最前線からは遠く離れたこの迷宮区に俺はいた。本来ならばマナー違反なのだが、とあるスキル上げをするために人の少ない59層の迷宮区に足を運んでいた。
狂化ヴァンパイアナイトは本来のヴァンパイアナイトとは違い、攻撃力がかなり高く、移動速度も通常個体の1,5倍はある。その分、言語能力はなくなり、攻撃も単調となり、避けることができれば通常個体より経験値も多く得られ、倒しやすいため、よく狙われるモンスターである。もちろん、油断したり、初見で情報がない時に死者も少しでてしまったところでもある。
「ふっ!」
「ガァァァァ!」
俺は短剣を、狂化ヴァンパイアナイトは長剣を繰り出す。もちろん俺はフェイントだ。右へすっと避けそのまま後ろに回り、両手に逆手で持った短剣を常人では目に捉えられぬ速度で鎧の繋ぎ目を切り裂く。
1ドット残った。狂化ヴァンパイアナイトが薄く笑った気がした。
「グラァァァァァ!」
「ちっ」
狂化ヴァンパイアナイトは振り向きながら長剣を振り回し、俺はそれをギリギリで、且つ次の動作に繋がるように回避する。これで仕留められなかったことにイラつきを覚えるが、思考は至って冷静だ。いや、ほとんどいつも冷静だが。
逆手に持った短剣を鉛筆持ちに持ち替え、それを引く。投剣スキル、シングルシュートの構えだ。スキルはすぐに立ち上がり、AGIにもの言わせた有り得ない速度で手を煌めかせ、短剣を投擲する。それはまっすぐに空気を切って進み、狂化ヴァンパイアナイトの頭を貫き、そのまま進み壁に紫色の火花を散らし、床にカラン、と音を鳴らして落ちた。直後、狂化ヴァンパイアナイトがパリンとポリゴンの粒となって砕け散った。
「まだ980か……」
このスキルが出現してから8ヶ月以上。普通ならばMAXになっていてもおかしくはない。特にボス戦では使用していなかったとはいえ、男は睡眠時間をやや削りながらもこのスキルを使用していたのだ。だが、このスキルは普通ではなかった。このスキルはこの剣の世界で唯一魔術的なものを使えるスキルなのだ。もちろん、デメリットも存在してはいるが。
「はぁ……」
ウィンドウを閉じ、短剣を仕舞うと男は振り返り元来た道を引き返して行った。
****
46層主街区グリーンランド。今まで74のエリアを見て感じてきたがここまで風の気持ちいいエリアはここ以外にない。男はその郊外の安全区域にささやかな一軒家にいた。ソファーでだらけながら黄土色のコーヒーを飲んでいる男は先程の雰囲気とは真逆の雰囲気を醸し出している。
「あぁ……もう引き篭ろうかなぁ……スキル上がらねぇしいいよなぁ……」
「ダメに決まってるでしょ」
背後から聞こえてきたのは女性の声。同じ家に住み、俺のとあるスキルを知っている唯一の人である。
「……おぉ、帰ってたのか、アスナ」
「誰かさんがそろっと帰ってきてるころだと思ったからね。で、ハチくん、あのスキルはどう?」
彼女はアスナ。1層迷宮区で死にかけていたところを助け、傷つけあいながらも共に、相棒も含めて3人でコンビとして歩んできた仲の1人だ。
今では恋人であり、理解者《本物》である。
1層の時から俺を支えてくれ、信じ続けてくれた。そんな一途なところにも、最近……とは言っても8ヶ月くらい前ではあるが。みせるその優しさにも惹かれた。
……ストーカーのように着いてくるのには困ったものだったが。
「今何か失礼なこと考えなかった?」
「……き、気の所為じゃにゃいかな!?」
「まったく……」
呆れたように微笑む彼女の顔を見ながら、俺はおよそ2年前、彼女と出会った時のことを思い出していた。
****
このころから短剣を2本持ちしていた俺は、どちらからでもソードスキルを使えるようにレベリングがてら、1層迷宮区のコボルド相手に練習していた。
19Fに到達したころだろうか。近くから悲鳴が聞こえた。すぐさま索敵とAGIを全開にして風のように走る。……速すぎて1度か2度ほど壁にぶつかりそうになったことはここだけの秘密な。っと、それはおいといて。5秒くらいで索敵に反応があった。それと同時に視界にも変化があった。およそ7程度の赤いカーソル。その中心にある、1つの緑色のカーソル。つまり、1人のソロプレイヤーは迷宮区を探索中に運悪くコボルトの集団と遭遇してしまったのだ。
しかも、本来ならばコボルトは集団でも2,3体程度。どれだけ運がないのだろうか。
「練習にもなるし……やるか……」
俺はそう呟くと近くの敵に斬りかかった。もちろん、鎧を着ているので繋ぎ目でないと効果がない。β時代に一月と今までの一月。そしてβ版からコレが始まるまでの3ヶ月をほんの少しではあるが、百均で買った包丁を毎日隠れながら振っていた。その合わせた5ヶ月の精度に狂いはない。振り下ろした2つの短剣が見事に両腕の鎧の繋ぎ目を切り裂いた。
「グォォォォ!」
そこでようやく斬りかかったコボルトが俺に気づいたらしく、振り向く。ほかのコボルトもそのコボルトの叫びに、俺を視認した。
「……今からでも逃げたい」
幾度かのコボルトの攻撃をやり取りし、ようやくプレイヤーの近くに到達した。
ブロンドで長めの髪に赤いローブ。どことなく人を寄せ付けようとしない冷たさを感じるその雰囲気。そして1番は……
「……女性プレイヤーかよ」
それも美人。というより美少女だった。じっくりみていればマナー違反やこの目のせいで犯罪者にされそうなので意識をすぐに戻す。というか、この状況下でその美少女をじっくり見れるやつはよほどの自殺志願者か馬鹿だろう。
6体に減ったコボルトを気絶している美少女を守りながら殲滅する。……無理じゃね?コイツ捨てた方がいんじゃね?
「グルルルルル」
俺の近くにいたコボルトが剣を振り上げ、突撃してきた。俺はそれを回避するも、次々と他のコボルトが襲いかかってくる。俺はそれを器用に回避しつつ、プレイヤーから離れるように誘導する。
幾度か回避したころ、左にいたコボルトに隙ができた。そんな美味しいところを見逃す俺ではない。AGIにもの言わせた速度で敵の背後にまわり、腕を切り落とした。そのコボルトを放置してすぐ近くのコボルトの首を落とす。
残り5体。大きく後方にジャンプしながら投剣スキル、シングルシュートを発動させる。それは女性プレイヤーの近くのコボルトの首に突き刺さり、そんなにはなかった体力を無くし、ポリゴンとなった。着地すると同時に腕を切り落としたコボルトの首に突きを放つ。仰け反ったままポリゴンへと姿を変え、散っていく。
残り3体。
ここでようやく僅かながらも連携をとりだし、投げた短剣を取りに行くことが難しい状況となった。それゆえに、先程のように両腕を一度に切り落とすことができなくなったうえに、投剣スキルの道具がピックになってしまったため、威力がかなり落ちてしまう。
「ちっ、こんな時にキリトがいれば……!」
そんなことをぼやくが、仮想ではあれどここは現実。そんな甘いことは起きない。
はずだった。
「スイッチ!」
どこか聞き覚えのあるような少年の声が響くと同時に、俺はバックステップを、少年はかなりの速度で突進。そのまま淡い光を放つ片手剣を振りぬき、1体のコボルトをポリゴンにした。
俺は太腿につけているポーチからピックを数本取り出し上にジャンプしながら構える。投剣スキル、ショット。ピックを纏めて放つソードスキルだ。目の前には少年がいるため、当たったら俺はオレンジになってしまうが、不思議と当たる気はしなかった。左手を思いっきり振り抜く。ピックが散弾のように進み、少年の右前にいたコボルトに全て命中した。頭部にほとんどが集中し、軽いノックバック効果を与えた。
そこに技後硬直から回復した少年が隙だらけのコボルトの首をはねた。
残り1体。
右手の短剣に淡い光を纏わせ、突撃し、首を横薙ぎに切る。それは鎧の繋ぎ目を綺麗に通り、首が床に落ちて散った。