彼はデスゲームの中に本物を求める 作:すのどろ Snowdrop
「ふぅ、さすがだな、キリト」
「お前こそその腕は鈍ってないようだな、ハチ」
途中から参戦したやつはキリト。β時代の相棒だ。俺の速さに着いてこれる唯一の存在として、互いの弱点を塞いでくれる存在として、共に戦うことで他のベータテスターが登れなかった所まで登り詰めた。
「それよりハチ、よく俺がキリトだって分かったな」
「あの太刀筋で強力な攻撃力、それにあの速さで動くやつはお前以外に知らないからな」
「はは、否定はできないな」
安全エリアではないがなんとなく不安はなく、迷宮区の壁に背中を預け、座り込む八幡。キリトもそれにならい、座った。
それにしてもなんでこんなところに、しかも1層にコボルトの群れがいたんだろうか。本来なら群れは組まないはずなのだが。
「ハチ、コボルトは何体いたんだ?」
「7体だな。5体未満なら苦戦はしねぇよ」
「ま、それもそうか。とりあえずフレンド登録しようぜ、あとパーティーも」
その申し出は八幡にとってはありがたかった。八幡からはどうしても怖くてできなかった。人を信じることができないというか、できなくなったというか……。まぁ、色々あったということで。
「了解、ほらよ」
「さんきゅ。で、そこに倒れてるのは?」
「なんか悲鳴が聞こえたからここにきたら倒れる寸前でな。そこに俺が首を落としまくった感じだな」
「首を落とすってハチしかできないだろうな……」
「いや、お前もできるだろ、その馬鹿力で」
キリトは持ち前のSTRで狙いは正確ではなくとも力技で首を落とすことができる。β時代、2人でどれだけ首を落とすことができるか、勝負したことがある。正確で素早い行動をする八幡と、力技とイメージで八幡程ではないにしろ早いキリト。結果は僅差でキリトが上回った。それだけでどれだけキリトの力とイメージが化け物じみてるかわかることだろう。
……いや、八幡も八幡で化け物じみてるのだが。ただこの時の勝負ではキリトが上回ったというだけだ。今の1層でレベルもそこまで高くない状態では正確で早い八幡が勝つだろう。
デスゲームになったここでそんなことはしないだろうが。……たぶん。
「馬鹿力言うなよ。それならお前の早さもおかしいだろ」
「……否定できない」
同じくβ時代、2人はとある迷宮区から主街区まで競走したことがある。およそ1000mの距離をキリトは2分半で走り、八幡はなんと約90秒で走り抜けたのだ。
あの時のキリトはこう語った。
『ハチに早さで勝てるやつはいない。そのうち光より速くなるんじゃないか?』
と。
2人が最終的に登り詰めた10層。その時にハチが全力ダッシュしたのだが、その時は秒速16mを超えていたという。
やったね、ボルトよりも早くなったよ。
「それより、コイツどうするんだ?」
「……マップが目当てだー、とでも言っとけばいいだろ」
「はは、相変わらず捻くれてるな、ハチは」
「うっせ」
2人は暫く……とは言ってもほんの数分ではあるが、デスゲームが始まってからのことを語り合っていた。その間、不思議と辺りにモンスターは湧いてこなかった。
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「んぅ……」
そんな可愛らしい声と共に起き上がったのは先程の女性プレイヤー。いかにもまだ眠たいですよ、といった目で辺りを見回す。そして視線を正面に戻した時、ようやく2人の男性プレイヤーと目が合った。
「おお、起きたか」
「いや、ハチ、1言目にそりゃねぇだろ」
「じゃあどうやって声かけろと言うんだ……」
「……やぁ、とか」
「どっちもないと思う」
少し嬉しそうに口喧嘩気味な男性プレイヤーにその女性プレイヤーはツッコミをいれる。
が……
「「じゃあどうやって声かけろと!?」」
2人して逆ギレである。しかも息ピッタリに言うものだから女性プレイヤーも引き気味である。
そして数瞬後
「具合はどうだ、とか……」
「……」
「……」
2人の男性プレイヤー、ハチとキリトは顔を見合わせる。そして気付く。
「なんでこんなことに気づかなかったんだ……」
「そりゃハチが間抜けだからだろ」
「キリトほどじゃねぇよ」
「どっちもどっちでしょう」
女性プレイヤーに正論を叩きつけられ、そっぽを向く2人。向いている方向が同じなので仲の良さが伺える。……いや、たまたまかもしれないが。
「……それで、なんで私を助けたの?」
「このあたり……迷宮区の最上階にいるならマッピングもかなり進んでるはずだろ、それが欲しいからさ」
「身体が勝手に動いたとしか」
……。もはや何も言うまい。
「おいハチ!さっきと言ってることが違うじゃないか!」
「や、わりぃ、口が滑った」
事前に打ち合わせ擬をしていたにも関わらずハチはマップ目的を理由として出さなかった。わりと本気で口が滑ったらしいハチに、キリトは何も言えなかった。
何故か。β時代にもハチは幾度となく口を滑らせたり考えていることを口に出したり(ほとんど同じ意味じゃね?)していたからだ。
そして、口を滑らせる相手は大抵が女性プレイヤーであった。しかも、ネカマではなく本当に女性プレイヤーであったのが腹のたつところ。
「まぁいいわ、好きにしなさい」
女性プレイヤーは片手でゆっくりと操作して2人にマップを渡し、そのまま立ち去ろうとした。
「お、おい、ハチ!?」
その声に振り向くことなく、首に当たった何かと衝撃に彼女の意識は“攻略するにはお前も必要だ”という声と共に再び暗闇に落ちていくのだった。
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1時間。それが彼女の首トンをしてから経過した時間……という訳ではなく、彼女が目覚めてから八幡に正座をさせている時間だ。なお、終わったわけではなく、現在進行形なのでもっと長くなるかもしれないのだが。
かといって彼女は何かを言うこともなく、ずっとフードの中から八幡を睨めつけている。キリトはオロオロするだけで彼女をたしなめようとすれば絶対零度の視線に射抜かれ、八幡をフォローしようとすればまた射抜かれる。結果、どうしようもなくなっているのだ。
こんな状況では、たとえどんな勇気のある者でも回れ右をして帰っていくはずだ。
ちなみに、葉山隼人ならこれを宥めようとし、逆に火に油を注ぐ結果になりそうだ。まぁ、ここに葉山隼人はいないが。
「で、どういう意味?」
ようやく口を開き、疑問を口にする。
「なにが?」
もちろん、八幡がこう返す。逆に返さない人はいるのだろうか。
「私が攻略に必要だってこと」
「あれ、そんなこと言ったか?」
聞かれていたとは思わなかったのか、やや焦り気味に返す八幡。しかしそこで味方の裏切りが入る。
「言ってたろ、ハチ」
再び絶対零度の視線に射抜かれる八幡。その八幡はキリトになんでばらしたんだ、という視線を向ける。
当の本人はそっぽを向いて口笛を吹いている。無駄に上手くて内心イラついている八幡なのでした。
いや、終わらないけどね?
「はぁ、あんなに奥まで進めるんだ、少なくともある程度のレベルと技術はあんだろ。それをボスで活かせよ。じゃなきゃお前が稼いだ経験値が無駄になる」
「……」
「……いや、ハチ「黙ろうか、キリト」うっす」
八幡の視線と言葉で強制的に黙らされたキリトは、拗ねたような顔をしながらも、かつての相棒と共に行動できていることを嬉しく感じていた。
「どうせ終わらないわよ、こんな世界」
「そうでもないぞ、お前を助ける前に20Fの階段をみつけた。鼠に送ってあるから明日にはボス部屋みつかるだろ」
女性プレイヤーは諦めた目と表情で吐き捨て、八幡はそれに少しの希望をみせた。
「……そう」
「で、もう足崩していい?」
「いつまで正座してるの?」
「「なんて理不尽な!」」
正座している八幡と普通に座っていたキリトの声が重なった。キリトはキリトでそれに思うところがあったのだろう。
「まぁいいや、風呂入ってくるわ」
瞬間、八幡は床に押し倒された。のちに八幡はこう語った。
『あの速度はシステムの限界を超越していた』
それほどまでの速さで俺に突撃してきたのだ。
「お風呂、あるの?」
「あ、ある、けど」
「どこ」
黙って浴室を指さし、女性プレイヤーは指された場所にAGI全開で入っていった。
「俺が借りてる部屋なのに……」