1971年8月31日。
父さん、母さん。
私、クリア・アヴァロンは、大都会ロンドンのキングス・クロス駅にて、大都会の厳しさを痛感しています。
山ほどの荷物をカートに載せ、よろよろと進む私を見る世間の目は冷たい。
・・・・うん、そうだよね。
私も何も知らない人間だったら、何に使うかもわからない鍋とか大量のカバンだとか、バンドでまとめてある本の山とかを見て、大変そう。とかは思えど手伝ってあげよう!とかは思わないもん。
親が傍についてないから、余計に不審だろうし。
なるべくなら、関わりたくない部類に入るだろう。
わかる!わかるよ!
しかしだね!
しかしだ!普通に助けて欲しい!
どこまで持ってくの?とか、大丈夫?とか!
遠巻きに見てヒソヒソしてる時間的余裕があるのならば!
せめて9番線までこの荷物を運んで欲しい!切実に!
「現実って世知辛いなぁ。」
深くため息を吐き出してしまうほどには辛い。
中身は大人なので重いのを運ぶのは精神的には我慢できる。
けど、体は小さいので物理的に無理なことは無理なのだ。
右へよろよろ左へよたよた。積み上げた荷物のせいで前はほぼ見えないし、誰にぶつかろうが舌打ちされた後であまりにも小さいのが運んでるのに気付いて気まずい顔をされたり。ごめんよ、悪いのはこの大量の荷物共なんです。
「うぅ」
変なものを見る様な目は、魔法界デビューしてから既に何度も見られているから、気にはしない。
あの杖の一件さえ、乗り越えた私、なにを気にするものぞ!という気分である。
それでも歩みは遅々として進まない。
精神的ではなく、単純に重いし先が見えないという物理的な意味でだ。
変に見栄張って心配する両親に自分だけで大丈夫!まかせてよ!とか言わなきゃよかった。
せめて、母さんに着いてきて貰えれば。
いや、私のせいで大量の出費をさせてしまったのだから、さらにあんな片田舎から出てきて余計なお金を使わせるわけには!!
「よいしょ!よいしょ!さー!もうひとんばり!」
もはや掛け声は日本語で、気分とノリでこの広大なキングス・クロス駅を突き進むのみである!
はーどっこい!
奇声という名の掛け声を発する私を他人は何事かと振り返り、その大量の荷物を見て飛び退いて。
そして出来た道を私が大量の荷物を押してひぃこら進む。
羞恥心さえ捨て去れば、出来ぬことなど何もない!
強いて言うなら、喉が痛くなってきたことぐらい。無事にたどり着いた暁には、母さんが淹れて持たせてくれた、お弁当とお茶でも飲んでコンパートメントで優雅に過ごすんだ!
そんな希望を胸に突き進む私は9番線の4番目そこだけ妙にぽっかりと空間が空いているお馴染みの場所に漸く到達したのである。
結局誰も手伝ってくれなかった!
実際に9と4分の3番線に到達して感動にうち震える私。長かった。とても長かった!
元々部屋に篭って勉強したり、本を読んでる方が好きだし外になんか出たくない派な私の腕は酷使されたせいでぷるぷるしてるし、膝とかガクガクしてきてる。
早くコンパートメントに行って休みたい。ただただそれだけを考えてあの憧れの9と4分の3番線を無感動に通り抜けてしまったのだから、見栄張るんじゃなかったと何度も後悔することになるが、全てが今更なのだ。
ヒソヒソ「あの子夜逃げかしら」
ヒソヒソ「親御さんはどこに?」
ヒソヒソ「助けてあげた方が?」
ヒソヒソ「奇声をあげ始めたわ」
ヒソヒソ「関わらない方がいいわね」