丸々太ったセイウチが、つぶらな瞳を輝かせながら教壇の前で両手を広げ、三人の生徒を見ている。
「素晴らしい出来事だ!諸君!」
拝啓、魂の兄弟ピーブズ氏へ。
「諸君、よく聞いて欲しい」
私は、君の忠告通り一週間位はきちんと大人しくしてたよ?
「前回の薬当てクイズだが、全てを正解した者は私が寮監を勤めるスリザリンからはたった一人、セブルス・スネイプのみとなった。実に、嘆かわしい結果だ。皆の以後の研鑽を期待するとしよう。
セブルス、この調子で勉学に励みなさい。スリザリンに10点をあげよう!」
「・・・はい!ありがとうございます!」
セイウチに褒められて青白い顔に少し血の気を通わせながら幸薄そうな少年が目を輝かせている。
少年、もっとよく周りを見るのだ!あの憎々しげに見てくる緑の集団がお前は怖くないのか!?
私はすごく怖いんだけど!?
「更に喜ばしいことに、この合同クラスからはセブルスの他に更に二人の正解者が出た。それも、二人ともがハッフルパフからだ!」
お前!!セイウチ!それ、本当に喜んでるのわかるし、照れるけど!そんな大袈裟にしないで!緑の視線の圧力が上がっちゃうから!!
隣のシャーリーはふんわか笑って天使達の声援に手をふって応えてるけど、すごく余裕だね!?
うぅ、こちとら人前に立たされたり注目されたりなんてしたことないってのに。
ピーブズに目立つなって言われたけど、これ、目立つに入るのかな。
忠告を言われる前の出来事だから、しょうがない、よね?ピーブズも許してくれるよ。いい奴だし。・・・多分。
「こちらのシャーロット・フォウリー嬢は聖28家の名に恥じぬ素晴らしい見識だった。ハッフルパフに10点!
フォウリー嬢、よろしければ、我が素晴らしきスラグクラブへ招待をさせていただきたい。よく考えておいて欲しい」
「ふふ、光栄ですわぁ。スラグホーン先生」
にっこり笑ってはいともいいえとも言わず流すシャーリー先輩。完全に純血の聖28家でこの可憐さを前に流石の緑集団も殺気を収めざるをえないのか、視線の圧力が和らいだ。ナイス!シャーリー!!
しかし、別に家柄がいいからシャーリーが頭良いわけではないんだが、このセイウチ、なんていうか。・・・こう、あれだな。本家でもそうだが、あの校長も認める実力を持ってるっていうのに、残念な人だよなぁ。
「えー、おほん!そして最後にハッフルパフ、クリア・アヴァロン嬢!」
「あ、はいっ!」
セイウチ!半純血でも純血でもない生粋のマグルの私のことはアッサリ流していいからな!!
「君のレポートはまさに素晴らしいの一言に尽きた!!」
「あー、ハイ?」
なんですと?
「それぞれの薬の特徴、用途、制作手順等を実に正確に細かく記されており、尚且つ、それぞれの薬について羊皮紙一枚ずつのレポートを作成。
あの短い時間の中でよくもあそこまで詳細に書き記すことが出来たものだ!君の年でなかなか出来ることではない!!全くもって素晴らしい!!ハッフルパフに10点!!」
「あ、ありがとうございます」
前世含めて11歳+α歳ですからね!
しかしだ!セイウチ!私のことはよくわからないからか、生粋のマグルの私をそんな全力で褒めるんじゃない!圧力が!視線の圧力が全てこっちに!!
「しかし、それなのに実に、実に残念だ、クリア・アヴァロン」
テンション高く人を褒めたと思ったら突然物憂げな顔をするセイウチ。
私に集中してる視線も訝しげな物に変わった。
教室の雰囲気を自分の仕草一つで変えるセイウチ。
このセイウチ、接して初めてわかる凄さがある。
スラグクラブなんてものを長い期間続けられるカリスマ性ってものがこのセイウチにはある。
しかし、見た目は完全にセイウチだ。
「君の解答なんだが、全て一問ずつずれていてね」
「・・・・え」
「解答が全て完璧に合っていただけに実に惜しい!
ケアレスミスにも程がある結果だ!ハッフルパフ5点減点!」
「・・・ええっ!?」
「では、セブルス・スネイプ、シャーロット・フォウリー。
後で私の部屋に来るように、二人には正解のご褒美、あの中から好きな薬を選んで持っていくといい。
残念ながらクリア・アヴァロンはなしだ。
席に戻りなさい」
「・・・あ、はい」
緑の集団から小バカにしたような囁きと黄色の集団からは慰めの言葉をかけられつつ席に戻る私が考えることは一つ。
あれ?私が教壇の前に行った意味とは?
これに尽きる。
あのセイウチ、無駄に目立たせやがって!
今度ひげむしってやる!!
この一件は、他にも全問正解者が居たためか、私が完璧なレポートを提出したと言うことよりも、私がうっかりで一問ずつ間違えてレポートを提出したと言うことが不思議な程大きく噂になった。
ハッフルパフのうっかり者。と暫く影から正面から言われるようになったわけだが、これ、目立っては、ない、よね?
「みんなぁ?いいぃ?クリアちゃんがぁ、虐められたり、他の寮の子に取られちゃったりしちゃうのは、嫌じゃなぁい?」
「いや、だからって、うっかりだけ噂にするってどうなの?」
「ぼくたちがクリアの嫌な噂流してるなんて知られたら、嫌われちゃうんじゃ・・・?」
「悲しませてしまうかもしれないわよ?」
「でもでもぉ、優秀なのが広まって、他の寮に目を付けられても大変じゃなぁい?」
「それは・・・・、そうかも?」
「苛めらて泣いてしまうかもしれないわぁ?」
「それは・・・、可哀想だわ!」
「・・・そうでしょぉ?それなら、わたくしたちがクリアちゃんを守らなくっちゃ」
「・・・そう、なの?」
「そうなのよぉ。今、クリアちゃんを守れるのはわたくし達ハッフルパフの寮生だけなのよぉ?」
「「「それもそうか!!!」」」
「お、おおぅ、なんだ、あれ」
「ミス・フォウリー嬢主導の『クリアちゃん守り隊』?らしいよ?」
「流石に純血家だけあって、カリスマ性高いよね。
みぃーんな言いくるめてるや。」
「いいのか?あれ?」
「うーん、みんな、楽しそうだし、いいんじゃない?」
「そうそうー。悪いことしてる訳じゃないし。校則にも引っ掛かってないし。何より見てて楽しいよ?」
「・・・・・ま、いいか」
「「そうそうー」」