パブ「漏れ鍋」の裏庭、物語の通りに杖でつつくだけでレンガの壁がひとりでに動いて行くのはマジで興奮した。興奮のあまり、両手を挙げてFoooo!!とか叫ぶくらいには興奮した。
二人の先生方から注がれるいたずらに成功したような目線がマジかわいくて、語彙が死んだ。
マクゴナガル先生可愛いすぎかな?
そこから広がる魔法の世界。
沢山の人々で賑わうゴチャゴチャした通り。
とんがり帽子をかぶって俯いて歩く人々。
両親と思わしき男女にしっかりと手を繋がれ、足早に歩くおや、こ?
「えっと?」
なんか、暗くないか?
全体的に?
あれぇ?映画だと、入学や進学準備もあって、物凄い賑わいだったはずだったんだけどなぁ?
「あの「さ、ミス・アヴァロン。行きますよ。
私としっかりと手を繋ぎ、けして、はぐれることのないように。」
「あ、ハイ」
女神にしっかりと手を繋がれ、傍らの小さいオジさんはローブの中に手を入れ、いつでも杖を取り出せるように身構えている。
え?これ、なんて状況?
そんな状態の三人組なのに、誰にも怪しまれることもないままに、怒濤の勢いで買い物は続く。
憧れの魔法書物だらけのフローリッシュ・アンド・ブロッツ書店。
なんの感慨を与えられる暇もなく、書店を見回ることもなく、「ホグワーツ一年生用」の看板の下、帯に括られ山積みにされた本の束を購入。セット価格でお安くなってるらしい。え?
マダム・マルキン洋裁店では、入ってすぐにゆたかな体の女性に突撃を受けた。
危うく三途の川を渡るはめになりかけたが、そんなのはお構いなしに寸法を測られていく。あ、やっぱり鼻の穴も測るんですね?
測りつつも、「まぁ!こんなに小さいなんて!貴女はどこの妖精さん?」とか、ディスってくるのはやめてください。心が痛みます。あと、イギリスの平均身長は140辺りってだけで、130辺りしかない私が小さいのではなく、成長期がまだ来てないだけです!ここ、テストに出るので、間違わないようにしてくださいね!
寸法を大幅に詰めるとかで、時間がかかるらしく、さっさと追い出される私達。
詰める時間がかかって悪かったな!!
羽ペンに羊皮紙、鍋に薬瓶安全手袋。
胸がときめくレパートリーなのに、うっかり壊しそうとか考えちゃうと、口を挟んで丈夫なヤツに変えてもらう。修復呪文、早めに覚えなくちゃなぁ。
ていうか、鍋二個も要るとか、どうやって持って帰ろうか。
そんな怒濤の買い物ツアー。
道すがら教えて貰ったのは魔法界の硬貨について。
今の換金率は1ガリオン5ポンド。
日本円換算で1ガリオン1000円かぁ。
おいおい、金貨のくせに安いな!?
魔法界、物価安いんだ。
それがひとつめ。
もうひとつは、この横丁、最近こんな暗いというか、殺伐とした雰囲気になったらしい。
そう、例のあの人、トムでリドルなヤツのせいであるらしい。
闇の勢力がいつ襲撃してくるかもわからない。
どんな所へ現れるかもわからないこの現状で、のんびり楽しく買い物は出来ないとのことである。
そりゃそうだ。
言うなれば、これもよく知らないけれど、戦時中ということなのだろう。
娯楽は少なく、必要な物資のみを求めて短時間外に出る。
あとはなるべく安全であろう我が家に帰る、と。
うへぇ。つまらない。
いや、彼らにしてみれば必死な案件なんだろう。命の危険と明日への不安。
心の余裕なんてどこにもないだろうし、誰が闇の勢力かもわからないから疑心暗鬼。
生きてくので精一杯で、怖くて怖くて仕方がない。
でも、子供たちはイギリスの中で唯一といってもいいほど安全なホグワーツへ行って欲しい。
安全な場所で楽しく、素晴らしい魔法に触れて欲しい。
だから、親は恐怖に負けずに外へ出て、子供の為に買い物を。
でも、危ないから、なるべく早く終わらせていく。
その姿勢にどこかへ寄るとかっていう、心の余裕なんかまったくないのだ。
店側もそれがわかってるから、探す手間をなるべく省けるように商品を陳列してる。実際に一部の魔法使いや魔女を除き、店という店に子供の姿も無ければ笑い声も無い。
なんとも味気ない風景である。
憧れの二次元、魔法界。
残念感が拭えない。
ハリーの存在を誰も知らない状態なのだから、仕方の無いことなんだろうけども。
なんとも、悲しいことだなぁ。
現実のダイアゴン横丁