ボルエナンの件が解決したので、行き先が変更になった。
「王都を目指すよ!」
って、ミト。ミツクニ卿として、王都にあるミツクニ邸を王様に強請りたいらしい。で、次の補給地点は、オーユゴック公爵領の公都だそうだ。そこに、古くからの知り合いがいるそうで、挨拶したいんだそうだ。
「その知り合いは生きているのか?」
ミトがどのくらい冬眠していたかは知らないけど、王祖なんだろ?それなりに年数は過ぎていると思うんだけど…女性に歳の話はダメだろうな。いくらミトでも…
「たぶん…名前はリリーっていう名の少女よ」
だから、少女である保障は無いと思うんだけど…
「それよりも、馬車をどうにかしてくれよ~!」
先輩のお古の馬車は、人数の割りに狭い。
「公都に着いたら、きっちりと請求するわよ!」
息巻いているミト。
そして、公都へ…
「ミト!俺達は、トルマの家に行くよ!」
って、先輩達は自由行動のようだ。
「逃げた…有り得ない…」
ミトが歯ぎしりしている。佐藤先輩はカリナという彼女が出来て、ミトに反抗するようになったようだ。幼なじみより彼女が優先なんだろうな。彼女が未だにいない俺にはよくわからない。
先輩達と別れ、ミトと共に、テニオン神殿という、神聖な場所に着いた。
「ここよ。ここにいるはずだわ」
入り口にいる門番に用件を伝えたミト。だけど、目的の人物はいないようだった。
「おかしいなぁ…死んじゃったのかな?」
涙目で天を仰ぐミト。
「まさか…ミト様ですか?」
突然、老女がミトに話し掛けてきた。この人では無いのか?探している少女って…
「え?まさか…リリー?」
「ミト様ですよね…お懐かしい。あの頃と変わらない姿って、奇跡ですね」
って、ミトに縋る老女リリー。
「リリーがこんな姿になるなんて…ちょっとショックだわ…ねぇ、リリアンは元気?」
「リリアンですか?今は、迷宮都市セリビーラの探索者ギルドで、ギルド長をしているはずです」
「リリーは?」
「私ですか?私はこの神殿で巫女長をしており、ユ・テニオンと名乗っております」
探し人の名前が、違っていたんじゃないか。それは見付からない訳だ。
「巫女長なんだ…ねぇ、可愛い女性を一人紹介してくれない?私の配下の者が、失恋3連敗中なのよ♪」
おい!俺の話を出すな!
「ミト様の配下の?うん?彼ですか?」
「そうよ。ほら、挨拶しなさい」
ミトに促され、
「ミツクニ卿配下の男爵で、アール・アルジェントと申します」
と、挨拶をした。
「ミト様、巫女は結婚出来ないんですよ…」
「そうなんだ…じゃ、この街にいる間だけでも、彼のガールフレンドになってくれる娘はいないかな?」
笑っている巫女長。そこまで、不自由はしていない。ミトが、お見合いを持ち込むオバサンのように見えるぞ!
「セーラ、ちょっとおいで」
「はい、巫女長様」
巫女長に呼ばれ、近づいて来た少女セーラ。萌葱色の瞳にプラチナブロンドの髪、胸の大きさはでかすぎず、小さすぎずだ。ストライクゾーンと言えば、言えなくもない。
「アルジェント男爵が、この街に滞在する間、お友達になってあげられる?」
「はい」
固い表情のセーラ。お友達の意味を誤解しているのか?
「この神殿で巫女をしています、セーラです」
「急で妙な申し出で申し訳ありません。アール・アルジェントです。アールとお呼びください、巫女様」
「私も名前で良いですよ、アール様」
俺を見つめる瞳は優しい視線である。
「あなたからは、悪意を感じません。隣にいても、安心していられそうです」
それは、やんわりと手を出すなってことですね…あぁ、4連敗確定か…ミトが笑っているし…くそっ!
「これからお祈りの時間なので、また、後ほど♪」
って、セーラと巫女長が神殿へと戻って行った。
「良かったじゃないか、かわいい娘を紹介してもらってさぁ♪」
って、笑顔のミト。
「なぁ、なんで、結婚できない相手を…」
「アーゼもそうだし、問題無いだろ?」
問題大有りだよ~!あぁ、4連敗確定だな…
「ご主人様、人生は谷有り谷間有りですよ」
って、アリサ…それだと、沈んだり潜ったりの人生になりそうだ。俺は浮かばれないのか…
うん?嫌な風が吹いている。ミトの顔も強張っていく。
「アーシア、この街の核とリンクして、魔物、魔族の探査をしてくれ」
俺は指示を出した、
「了解です」
「先輩…ヤバい敵かも…」
ミトが感じるヤバい敵って、ヤバすぎるのでは無いか?
「魔王が来そう…」
魔王か…ミトがいれば、どうにかなるのかな?
「ご主人様、この街の地下空間に、怪しい気配を感知しました」
アーシアが探査結果を報告してきた。
「ミト…どうする?」
「掃除をしよう♪魔王相手だと、相打ち覚悟だよ」
元勇者じゃダメか…ミトと心中か…それも悪く無いかな。
「先輩と心中する気はないけどね」
へ?そう言うことを言うのか…4連敗確定だな。もういいや、ここで終わりでも…
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アーシアには、地下への入り口と敵の分布情報を探査してもらっている。その間に準備をしていく。
「タマ、ポチ、リザはミトと共に、神殿を護れ。きっと魔王が狙うはずだ」
「ちょっと待ってよ!私も行くよ」
って、ミト。
「ミトはリリーの傍にいてやれ。アリサ、ルルはお留守番だ。馬達を頼む」
「ご主人様、私も一緒に参ります」
リザが一歩前に出た。
「リザには大切なことを頼みたい。とても辛い命令だ…もし、アリサが魔王になりそうになったら、アリサがアリサである内にアリサを殺してくれ」
皆、はっとした表情で固まった。でも転生者は、何かのきっかけで魔王になるらしい。だから、アリサにアリサのままでいて欲しい、俺のわがままだ。
「わかりました。ご命令、必ず果たします」
嗚咽を抑えてリザが答えた。
「ご主人様…ありがとう…私が私のまま…とても嬉しい判断ですぅ~」
気丈なアリサが、俺に泣いて縋って来た。後は…
「ナナ、お前はここにいる仲間の盾になれ」
「命令を受諾したと報告します、マイマスター」
「アーシアは一緒に来てくれ。迷子になると厄介だ」
「はい、マスター」
指示を一通りした時、神殿内で響めきがおきた。ミトと共に、中に入ると、リリーがオロオロしていた。
「どうしたの、リリー?」
ミトがリリーの肩を抱いて、訊いた。
「セーラが…炊き出しに行ったセーラが…消えました」
消えた?まだ、デートもしてないのに…
「炊き出しに一緒に行った者達と共に消えたそうです」
セーラの位置情報を探索すると、これから向かう地下に反応がある。
「まずい…生け贄だ…」
「えっ?魔王召喚の儀式だわ」
って、ミトが叫んだ。
「お願いです、セーラを助けてあげてください」
いや、頼まれないでも助けるつもりだ。デートをしたいし…
「ミト!行ってくるよ♪」
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目の前には魔王がいる。セーラの身体を突き破って魔王が産まれた。セーラの身体は、生前の面影もなく、ボロ布のようになっていた。
魔王の配下の魔族、悪魔、人間は皆殺しにした。だけど、殺戮者では魔王に勝て無いようだ。アーマーのお陰で、俺には怪我は無いが、マナ不足によるマインドロストが近いようだ。魔力が足り無い。どうすればいいんだ。
「アーシア、魔王をここから出すな!」
「了解です」
相打ちではダメだ。セーラを助ける分の魔力は残さないと…考えろ…考えろよ、俺…
ダメ元で勇者にチェンジした。それに伴い、魔剣が聖剣にチェンジした。勇者として、魔王に斬り掛かる…
壁に吹き飛ばされた…そうか、勇者だと、あのチートアーマーは装着出来ないのか…背骨が砕けたかな…くそっ!セーラはそこにいるのに…手が届かないなんて…
「アーシア…俺にマナを流し込め…」
「…」
俺の指示をスルーするアーシア。ダメなことなんだな。でも…
「アーシア…頼む…後2発、魔法が撃てれば、終われるんだよ」
「マスター…」
とても哀しそうなアーシアの声。それは、俺が俺でなくなる行為だと、言いたげである。でも…
「アーシア…頼むよ~!」
意を決したアーシア。次の瞬間、有り得ない激痛が俺を襲った。これが、核同士でやりとりするマナか…意識が…いや、俺自身が消えそうだ。消える前に撃たないと…
『ウルティマウエポン』
渾身の一発を魔王に放った。光輝き灰になっていく魔王。
『蘇生コンポ』
セーラに放った。セーラが緑色の仄かな光に包まれていく。ボロ布のようだった、セーラの身体は、本来のセーラの身体に戻り、セーラの鼓動が聞こえ、形の良い乳房が上下動し始めた。これでいいか…ここで終わっても悔いは無い…
俺の意識は途絶えた。
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柔らかな物に触れている。心地良い人肌…ここはどこだ…転生したのか…ブラックなアノ会社は嫌だぞ!
「大丈夫ですか…起きて下さい…私の為に…ごめんなさい…」
「ここは?君は誰?」
記憶が曖昧だ…ここは天国か?地獄か?
「おい!起きろよ!」
後輩氏の声…あぁ、またあの職場か…
「後10分…」
「しょうが無いなぁ…あのね…ゴニョゴニョ…」
後輩氏が誰かに耳打ちをしている。
「えっ!それは…」
「してあげなさい!彼のおかげで、セーラの命は助かったのですよ」
老女がセーラって子に、何かを言っている。しばしの沈黙の時…徐々に何かの刺激を感じている。なんの刺激かな?生きていて良かったって思える刺激である。生きている実感が下半身に芽生えてきた。
身体の一部が暖かな物に包まれていく。誰かの鼓動が、俺の身体を揺さぶる。俺の心を揺さぶる。もっと生きないとダメって、俺の心が、俺の魂が、俺に告げている。それよりも、ここはどこだ?
『殺戮者ジョブがリッチになりました』
リッチ?金持ちになったのか?
『勇者ジョブが魔神になりました』
マシン?俺は機械になってたのか?
『聖女を手に入れました』
性女?セフレかぁ…いいなぁ♪
『もっと、読解力、理解力をあげてくださいね♪』
真っ赤な文字が目の前に浮かんだ。誰かの怒りのメッセージのようだ。誰からの?
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目が覚めると、知らない部屋にいた。大きなベッド、フカフカの布団、柔らかな肢体…形の良い乳房…
「あ♪お目覚めですか。良かったです…」
彼女が俺に抱きついて来た。誰だっけ?
「今、お食事の用意をさせます」
彼女がベッドから降りて、バスローブを着込み、ドアの外にいる誰かに、何かを伝えた。
「さぁ、一緒にお風呂に入りましょう。汚れを落としましょ♪」
彼女に促されて、部屋に併設されているお風呂場へ行き、彼女に身体を隅々まで洗ってもらった。そして、真新しい服を着て、部屋を一緒に出た。
広間のような場所に長テーブルがあり、その上席に彼女と共に座った。中央には知らないオジサンがいる。俺の目の前には、ミト、リザ、タマ、ポチ、アリサ、ルル、ナナ、アーシアが座っていた。
「アール先輩♪おはようございます!」
「「おはようございます♪」」
ミトの言葉に、みんなが乗っかっている。状況がまるで見えない。
「その顔は、戸惑っているってことかな?どこまで記憶があるのかな?」
って、ミト。
「ここはどこで、これは、どんな状況?覚えているのは、死んだと思って、意識が飛んだ辺りだな」
感じた事の無い激痛…そして、意識が途絶えたはずだ。
「必死に戦うって、そういうことだよ。記憶すらも消し去るくらいにね」
元勇者様の経験談か?長そうだ…
「食っていいかな?」
「あぁ、食べてくれ給え」
エライ人の座る席にいる、立派な髭なオジサンに言われた。パンを手に取り、ちょっとずつ千切って口に運んだ。
「まず、その方は、次期オーユゴック公爵だ」
次期?
「で、先輩の隣にいる女性は、次期公爵の娘さんの、セーラ・オーユゴックさんだよ」
次期公爵の娘さん?
「先輩がデートしようした巫女のセーラだって♪」
巫女?あぁ、ボロ布のようにされた…
「魔法が効いたってことか…」
「ありがとうございました。魔王に蝕まれた私を、助けて下さって」
俺の隣で涙するセーラ。
「で、魔王はどうなったんだ?」
「先輩が命に替えて倒したよ…」
命に替えて?はぁ?
「俺…生きているけど…」
「それなんだけど…言いにくいなぁ…端的に言うよ。先輩は人間では無くなったんだよ。都市核からマナの供給を受けたでしょ?」
「あぁ、マナ不足で、セーラを助ける魔力が…」
「え…私の為に…」
セーラが震えている。俺はどうなったんだ?
「人間が都市核のマナを、直接受けるってことは…人間を辞めることだよ…」
そうなんだ…
「現在の先輩は、人間ではなくて、リッチだ。不死王とでも言えば良いか?」
リッチって金持ちでは無く、そっちのリッチか…あぁ、読解力が不足気味だ…
「娘の為、この都市の為に…すまない。君に感謝してもしきれない…」
次期公爵様が俺に頭を下げた。
「セーラを巫女籍から除籍させた。君の傍に置いてくれ。巫女では、不死な者と一緒にいられないからな」
俺の為に、巫女を辞めたのか…
「なんで?そんなことを?俺なんか、斬り捨ててくれていいのに…」
「ボロ布な様な私を護ってくれました。この身体を授けてくれました。一緒にいたいって、思ってはダメですか?」
あの救われない情景を見て居たのか?魂となって…
「いや、ダメでは無いが…ミト!どうすれば、いいんだ?」
「一緒にいてあげなよ。恋人が欲しいんだろ?」
「まぁ、5連敗中だし…」
「では、娘を頼むよ、アルジェント卿よ♪」
こんな俺に笑顔を向ける次期公爵様。ふと、セーラの称号を見ると、『神託の巫女』『聖女』『不死王の側室』と表示されていた。なんか、不思議な文字の並びである。
「今後の旅は、セーラも同行する。馬車も新しいのを用意してあるから♪」
って、ミト。佐藤先輩の財布を使ったのか?