私はボロ布のようになっていた。私の体内に魔王が産まれ、私の存在を蹂躙しきって、私の身体から魔王が産まれた。今の私の身体は、魔王の抜け殻…皮膚という着ぐるみに、砕け、粉々になった骨や肉クズが入っているだけである。
そんな私を助けに…彼が来てくれた。もう私は魂でしか無いのに…身体が無いのに…彼は私とのデートを渇望していた。魂状態でデートなんか出来ない。甘い言葉の応酬も出来ない。そんな光景を私も夢見ていたけど。
神託を受ける能力のせいで、幼い時から神殿で巫女として奉仕していた。普通の女の子のするようなことを、夢見ていた。いつか、彼氏を作って、デートを…でも、もう出来ない…私は身体の無い魂である。
だけど、彼は、こんな私とのデートを渇望していた。ボロ布のようになった私の身体を護ろうして、戦ってくれている。魔族、悪魔、それらに加担した人間達を、躊躇なく殺していく。まるで殺戮者である。でも、私にとってはナイトに見えた。白馬に乗った王子様に見えた。
そんな彼も、魔王相手では分が悪いようだった。魔王の攻撃を真面に喰らい、壁に激突した彼。だけど、まだ立ち上がろうとしている。彼から、私を護ろうとする気持ちが、痛い程放たれていた。もう、戦わないでいいの!もう、デートなんか出来ないんだから…
私の魂の声は彼に届かなかった。彼は、何かをしたようだ。紫色の光りに包まれていく彼…あの魔王が為す術も無く灰へなっていく。そして、ボロ布のような私の身体は、緑色の淡い光に包まれて…生きていた頃の身体へと修復されていく。神聖魔法の身体修復である。こんな魔法を彼は使えるのか…私でも使えないのに…そして、私は私の身体に吸い込まれて行く。神聖魔法の入魂である。神聖魔法の招魂で呼び出した魂を、器となる身体へ入れる神聖魔法だ。彼は神なのか?
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誰かに身体を揺さぶられ、私の意識は覚醒していく。私は私に戻れたようだ。そうだ…彼はどうなったの?
彼は彼の仲間達によって、棺に納められていた。私を助ける為に…そんな…心が痛い。涙があふれ出していく。私だけ生き残っても…デート出来ないよ…
神殿に彼と共に帰還した。巫女長に私は迎えられた。だけど…もう、彼は帰って来ない。
「う~ん…これは…」
ミト様が唸っていた。
「どうされましたか?」
巫女長が訊いた。
「コイツ…こんな状態で、生きていやがる…」
「えっ?心臓は完全に停止していますよ…」
「不死者になってまで、セーラとのデートを望むとは…コイツ、女性に飢えすぎだろ…」
ミト様が苦笑いしている。
「あははは♪ご主人様らしいわ」
アリサって子が笑っている。彼は助かったのか?
「問題はどうやって、目覚めさせるかだ」
ミト様が私に耳打ちを…えっ?全裸で彼と添い寝しろって…
「セーラの身体の有り難みを実感出来れば、コイツは目覚めると思うんだよ♪」
私の身体の有り難み?まぁ、やるだけ、やってみるか。纏っている物を総て、脱ぎ去り、彼の作ってくれた身体で、彼と添い寝をする。彼の身体は、とても冷たい。まるで死体のようだ。だけど、腐敗臭はしない。まるで生きているような肌である。
「大丈夫ですか…起きて下さい…私の為に…ごめんなさい…」
彼に言葉を掛けた。
「ここは?君は誰?」
え…心臓の鼓動は無いのに、彼の口から言葉が出た…これは神の御業か?魔王の呪いか?
「おい!起きろよ!」
ミト様が彼に怒鳴った。
「後10分…」
彼の返答…
「しょうが無いなぁ…あのね…ゴニョゴニョ…」
ミト様が再び私に耳打ちを…はぁ?皆さんがいる前で、彼の…を口で…そんなことは…だけど、彼の仲間の皆さんの目は真剣であった。もし、断れば、ただでは済まない、そんな雰囲気である。
「えっ!それは…」
「してあげなさい!彼のおかげで、セーラの命は助かったのですよ」
巫女長の目も真剣だ…意を決して…先ず舌で…そして口に入れて…最後に私の体内へ彼を…
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何時の間にか意識が飛んだようだ。彼の胸の上にいる。彼の胸は上下にゆっくりと蠢いていた。
「成功だよ♪」
ミト様の嬉しそうな声…
だけど…汚れ無き乙女でないと、巫女にはなれない。私は、人命救助という名の下に、巫女の資格を失った。いや、魔王に陵辱された時点で、失ったらしいので、彼のせいでは無い。
巫女長様とミト様が、父と祖父へ、私に起きた事実を説明をされている。
「つまり、セーラは巫女籍から抜けると言うことですね」
「そうなります。本来ならば、魔王に陵辱された時点で、殉職になるのですが、セーラは彼の能力により、第2の人生を与えられました」
「う~、そうですか…セーラはどうしたいんだ?」
祖父から声が掛かった。
「私は…彼の傍にいたいです。私を助ける為に、この街を助ける為に、魔王を倒す為に、彼は人間では無くなりました。そんな彼の傍にいたいです。私に出来ることをしてあげたいです。残りの人生を彼に捧げたいです」
思いの丈を祖父に伝えた。今ここにいる私は、彼の導きでここにいるのだから。
「そうか…ミト様、セーラのことをお願いできますか?幼い時より神殿に仕え、世間では右も左も分からない未熟者ですけど…器量は良いと思います」
「うん♪受け入れるよ。アールの為にもセーラは必要な人材だ。ただ…側室扱いになるんだがいいかな?」
側室?どうして?だれか、婚約者が既にいたの?
「どなたが、正妻なのですか?」
父が訊いた。
「う~ん…正妻にはなれないんだけど…、正妻の座は空けておく約束なんだよ。相手はボルエナンの森のハイエルフ、アイアリーゼ・ボルエナンだ。そういう取り決めになっているんだ。すまないなぁ。外交問題になりかねないから、婚約の破棄は出来ない」
え…ハイエルフ様が正妻の座を予約?実際には結婚することは無いけど、婚約はされているそうだ。なんだ?それは?
「それは、彼が人間であった時の取り決めですよね。現在の彼だとどうなりますか?」
祖父が訊いた。
「どうなんだろう?リッチとハイエルフって結婚できるのかな?すまない、私の知識でもわからない。たぶん、ハイエルフに訊いても、わからないと思う難しい事象だよ」
って、ミト様。想定外の事象なんですね。
「セーラ、側室で良いのか?」
「はい、結婚はしなくても良いです。彼の傍にいて、彼の為に尽くすだけです」
「そうか…そういうことで、ミト様。ミト様におまかせします。セーラをよろしくお願いします」
こうして、私、セーラ・オーユゴックは、彼、アール・アルジェントと共に旅をすることにした。