メタボ氏へ書類を渡すと、俺の身体は重力に引き寄せられ、床へ…
「アール、どうした?えっ!おい!救急車を呼べ!早く…」
俺は駆けつけた救急隊に心臓マッサージを受けながら、担架に乗せられて、病院へ…病室のベッドの上に、頭部に白い布が置かれた俺が横たわっていた。
俺は7完徹の後、完成した書類を手渡して、この世から去った…
『お兄ちゃん…幸せだった?』
彼女が訊いて来た。
「まぁ、燃え尽きたって感じだ。幸せってなんだ?」
『そう…幸せってなんだろうね』
俺の葬儀は社葬だった。俺の写真の両脇には、先輩と後輩氏の遺影が並んでいた。あれ?これって夢か?先輩と後輩氏の死体はみつかっていないはず。
『並行世界の1つだよ。なにか歯車が1こだけズレるだけで、未来はこうも変わるんだよ』
そうなのか…
ゲーム売り場へ彼女と向かうと、『プログラマ鈴木一郎の遺作ゲーム』『プログラマ高杯光子の遺作ゲーム』と銘打って販売されていた。そこには俺の名前は無い…
『あんなに頑張ったのに、これだよ。人間はやることが惨いよね』
「死んで仕舞えば、ささいなことだよ。俺はこうして、君と会えたことが嬉しい」
『うん♪私も嬉しいよ。やっと、お兄ちゃんと過ごせるもの』
彼女と初めて会ったのはいつだろうか…竹子って名前だった気がする。
『光あれば、闇があるんだよ』
そうだな。
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目の前の空間が割れると、違う場面にいた。カグヤが天から来た軍勢に連れ攫われていく。俺は、それを見ていることしか出来ない。俺は空を飛べないから…
『お兄ちゃん…また、会えるよね?』
涙をポロポロ流しながら、カグヤが叫んでいる。
「あぁ、また、会おう…時空を超えて…おい!神かなんだか知らないが!俺はお前達を許さない!なんで、引き裂くんだ?姫だから?だったら、異世界に降ろすな!出逢っていなければ、こんな想いはしなかったはずだ!」
『お兄ちゃぁぁぁぁ~ん!』
カグヤの泣き叫ぶ声。何も出来無い俺…無力感が俺を変える…目の前に隔たりは無い!俺はカグヤの元へ飛び移った。
「貴様!」
天の軍勢のヤリが腹に刺さり、矢が胸を撃ち抜く。痛みは無い!まだ、出来る。一歩一歩確実にカグヤに近づいて行く。
「死ね!」
神の手にした剣が俺を引き裂く。命が無ければ、死なない♪俺は不死王へと変貌した。神の下僕である魔王、悪魔、魔物が次々に召喚された。だけど、俺には効かない。聖なる光は青、魔なる光は赤。だけど、俺の光は紫である。青も赤も紫の前では無力である。
「カグヤ…」
カグヤは光の姫。ならば、俺は闇の王となろう。光あるところには闇がある。カグヤがいる処に俺がいるように…俺はドンドンと変貌していく。愛する者といたいから、別れたく無いから…
『お兄ちゃん、ダメだよ。それ以上は…ねぇ、お兄ちゃん…』
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三本鳥居で、あの女の子がいつも待っていた。一緒に鳥居を潜り、森で戯れる。そんな、なんのことは無い時間が楽しい。彼女と一緒に時を刻めるのが嬉しかった。だけど…あの日、もう出来なくなった。
俺はベッドの上に横たわり、頭部に白い布が被せられている。
『おにいちゃん…』
俺を迎えに来てくれた彼女…
『これからは傍にいられる。だけど、一緒にはいられない…』
あぁ、おれはやりすぎたのだ。一線を越えてしまった。彼女のいるサイドとは裏側のサイドに踏み込んでしまった。彼女とは紙一重で存在している。だけど、紙がジャマで一緒にいられない。俺は彼女の息吹を感じ、彼女は俺の影を見ている。
「どうすればいいんだ…」
『私がお兄ちゃんをコチラ側に召喚する。だから、待っていて。必ず召喚するから』
それから、俺は何度も同じ場面に転生を繰り返し、カグヤの召喚を待った。俺が俺であるのは、転生した人生が終わって、新しい転生が始まる僅かな時間である。
だけど、神の意向に逆らった俺は、それなりのペナルティーが科せられていた。カグヤのタイミングに微妙な誤差率が生じているのだ。なので、後一歩が合わない。後一歩なのに、途轍もなく遠い距離に感じる。
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閉じた空間に俺だけがいる。ここで俺は一人封印されるのだ。それも良いと思う。もう、ゼナを巻き込みたくない、セーラに恐怖を与えたくない。ミトに哀しい想いはさせたくない。俺の目の前を様々な女性が走馬燈のように写しだされては消えていく。だけど、あの少女の姿は無い。どうして?なんで?
『お兄ちゃん…まだ出逢っていないんだよ』
哀しそうな少女の声…出逢っていない?何度もあったじゃないか。
『あれは幻影だよ。私では無い。お兄ちゃんに逢いたいだけなのに…』
真なるペナルティーは、会えないことなのか…くそっ!
『お兄ちゃん…忘れないで…私はいつでも傍にいるんだよ。一緒にはいられないけど…私を見つけて…お願い…お兄ちゃん!』
目の前の空間が破壊されて行く。ここを出れば、俺は俺でなくなり、田中一郎になってしまう。だけど、吸い込まれるようにして、あちら側へ吸い出されてしまった。
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目の前にテンちゃんがいる。俺は空中に放り出されて、落下していく。あのジェットコースター感覚が蘇る。
「お~い!大丈夫?!」
テンちゃんの暢気そうな声が聞こえる。口から胃袋が飛び出しそうで、声が出ない。耳からは溶けた脳ミソが流れ出しそうだ。
「先輩、大丈夫?」
ミトに抱き締められた。そうか、こいつも空中浮遊できたんだな。
「テンちゃん、ダメだよ~。先輩は飛べないんだからさぁ~」
「そうだっけ?」
おいおい、墜落死は嫌だよ。
「まぁ、不死王だし。墜落死も無いから、安心だけどね♪」
ミトの楽しそうな声。俺は、コイツの何なんだぁ~。
「玩具だよ♪」
凹む俺…地上ではホクホク顔の先輩。鯨の立田揚げを夢見ているそうだ。で、あのクソ勇者はリザに完敗らしい。聖なる装備が無かったらしい。あぁ、俺が強奪したんだっけ…
こうして、公都はサガ帝国から、多大な損害賠償を受けられることになった。競技場を破壊し、魔族を呼び込むきっかけを作ったからな♪