今年は魔王の季節に当たる。66年周期で魔王が産まれる年に当たるのだ。そんな年なので、竜の谷方向に見えた「星降り」の調査の為、私達は現地に向かっていた。魔王が産まれたのであれば、命を捧げても倒さないといけない。
まだ恋をしたことが無い。なのに…これで死ぬかもしれない。魔王になんか勝てる訳無い。私は勇者では無いんだから。
同僚のリリオは彼氏がいた。恋を経験し、男性との経験も…あぁ~、それなのに私は…何を今まで、やっていたんだ。
天変地異的な「星降り」により、パニックに陥ったリザード族の大群に出くわした。大群の後方にはワイバーンがリザード族を捕食しているので、より一層、パニック状態のようだ。私達を見かけると、大群が襲ってきた。応戦する私達。
普段なら勝てる相手であったけど、パニック状態の彼らは強い。圧されている。魔法兵である私は、彼らに魔法を撃ち込んで行く。だけど…魔法を放つ瞬間に隙が出来、彼らの攻撃を腹部に受けた。
焼け付くような激痛が腹部に走る。装備も服もお腹も切れている…大量の出血。リリオ達は、ダメだと判断したのか、近寄って来ない…もうダメなんだ。恋…したかったなぁ。愛しい男性に、心を尽くしたかった。関係は持てなくてもいい…彼と呼べる存在の役に立ちたかった。もう、叶わぬ夢を思い浮かべた私。意識が遠くなっていく…
暖かな物に包まれる感覚…意識がゆっくりと覚醒していく。お腹の痛みは消えていく。天国に着いたのかな?ゆっくりと瞼を開くと、知らない男性に抱かれ、緑色の光に包まれていた。これは神聖魔法の回復術だと思う。この人は誰?
彼の纏うオーラからは、恐怖を感じる。だけど、彼の瞳からは暖かさを感じる。何、このアンバランスさは…
「ありがとうございます。あの私…ゼナ・マリエンテールと申します。あなたは?」
名前を訊いてみた。
「アールです」
彼の声…心に染み入っていく。命の恩人の声…
「何か、お礼を…」
彼にに尽くしたい…吊り橋効果かもしれない。だけど…彼に…
「身分を明かす物を無くして困っています。どうにかなりますか?」
「あぁ、この戦乱だと、無くしますよね。わかりました。お役に立ちたいです♪」
この願いなら、私に出来ると思う♪
「ゼナ!大丈夫か~?」
遠くからリリオ達がやって来た。彼からリリオ達に視線が動いてしまった。再び、彼を見ると、もう立ち去った後だった。一生の不覚か?
「あの怪我で生きているのか?って、怪我が無いじゃん」
防具と服には斬り痕が残り、血塗れであったが、傷跡は残っていなかった。
「助けてくれた人がいたの。アールって方だよ♪」
耳が何故か熱い…
「おい!お前、その男に惚れたのか?」
「うん♪」
素直に頷く私。
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街に戻り、家に帰った私。一応、負傷兵扱いで、数日安静休養しろってことだ。この時間を利用して、彼の為に…
「マリエンテール士爵…お願いがあります」
父であるマリエンテール士爵にお願いをすることにした。
「どうしたんだ?改まって…」
怪訝な顔をする父は、私を見るなり、暖かい眼差しで見始めた。
「この度の戦地で、命の恩人に、命を救われました。その彼は、身分証を無くされたそうなんです。身分証を作ることって可能ですか?」
「う~ん、なるほどな♪ゼナ…その彼に惚れたのか?」
「えっ…」
なんでバレているんだ?リリオがチクったのか?
「まぁ、彼の意向もあるだろうけど、わかったよ。作って上げよう。彼の名前は?」
「アール様です。纏うオーラは殺戮者のような感じだったのですが、神聖魔法が使え、暖かい眼差しでした」
「戦場で武勲を上げる者は、たいていは殺戮者だよ。ある意味な♪そうか…ゼナがなぁ♪」
なんか嬉しそうに部屋を出ていかれた父上…どうして?
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父から彼の身分証を受け取った。
『アール 人間 所属:マリエンテール士爵』
と、ある…
「これは?」
この所属では、父の眷属若しくは身内ってことになるが…
「お前の想い人だろ?後々に期待を掛けてな♪」
まだ、片思いだよ…言い当てられて、耳が熱くなっていく。
「もし、嫌なら、文句を言うだろう。まぁ、踏み絵みたいな物だよ。ははは♪」
なんてことを…それも、嬉しそうに言うんだ。でも、彼には必要な物である。私が嫌で無いなら受け取ってくれるだろう♪
そして、彼を探す為に、街の近くを捜索し始めた。あそこから、この街が一番近いから、きっと立ち寄るはず♪