年末…この世界でも年末があるらしい。
年末年始休みって概念は無いようで、新年早々、王都で会議があるそうだ。重役クラス、要するに爵位持ちは参加だという。先輩のような、なんちゃって士爵は参加しなくても良いそうだが、俺は侯爵なので、ミトとともに参加になったそうだ。
「先輩、会議だと寝ちゃうよね」
企画会議…説明や口論が子守り唄に聞こえ、寝てしまう。俺に取ってのささやかな昼寝タイムのようなものだ。
「まぁ、ミトが起こしてよ」
「う~ん、そうなるのか…」
中層で食材を仕入れ、転移術で王都へと転移した。あれ?ミトも転移術を持っている。レベルアップで覚えたのか?
「竹子に貰ったんだよ。無いと不便だからって。どこかの誰かを回収するのに、必須でしょ?」
どこでも寝ちゃう俺のことか?
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ミツクニ邸で、年末年始の料理計画を立てた。
「新年の一日目から会議だよ。だから、年末にお節は作り終えてね、兄ぃ!」
ミトが先輩に希望を伝えた。
「どうにかなるかな。問題は年越しソバだな。そば粉が見付からない」
エチゴヤでそば粉を捜索しているが、見付からないようだ。
「うどんなら、作れるけど…」
この世界には小麦、米はある。なので、醤油、味噌、日本酒、みりんなどは作れるようだ。問題は良い麹菌がまだ見付かっていないらしい。
「お雑煮はどう?」
「もち米は見付かった。今、試作をしているところだ」
王都にあるエチゴヤの裏手に醸造所を作った先輩。
「料理は、俺とルル、リザ、アリサ、ゼナ、セーラで作る」
「じゃ、先輩は、珍味系をお願いしますね」
って、ミト…珍味か?う~ん…エチゴヤの食材倉庫へ向かった。全国各地の食材を集めて、置いて有るそうだ。先輩のチート能力で腐敗もせずに、保存出来ている。
おっ!がごめコンブがある…数の子無いかな?
「数の子は無いよ」
って、先輩。無いのか…
「アジは?」
「なめろうか?味噌がまだ完成していない」
そうなのか…一旦、屋敷に戻り、セーラ、リーンと共に、公都へ転移した。ここの市場で買い物をする為だ。商店街のような場所に連れて行って貰い、店の品揃えを確認していく。おっ、梅酢があるのか。ならば…梅干しをゲット。
「この朱いのはなんだ?」
リーンが試食。
「なんだ、これは…酸っぱい…」
食べ慣れない者にはつらい食い物であるが、アリサ、ミト辺りは感激するに違いない。うん?塩…塩が何種類もある。海塩、岩塩、人塩…へ?人塩ってなんだ?セーラに訊いた。
「あぁ、それは、神の裁きに遭い、塩化した人を原料にした塩です。共食いとも言えなくないですが、一番安い塩になります」
暗い表情のセーラ。
「炊き出しなんかで、使っていました」
と。そうなのか…この世界の神は裁きとして、塩化させるそうだ。なんで、塩なんだ?魔除けかな?
うん?「塩漬け魚卵」と書かれた物を発見。これって…数の子だ…塩漬けなのか…水抜きすれば、良いのかな?ここは1つ、大人買いをした。使い切れない分は、エチゴヤが引き取ってくれるらしい。
次に魚の市場へ…雑魚が一山…安い。これも大人買いした。
「そんな物、どうするんだ?」
リーンに訊かれた。
「食うんだよ。珍味担当だからね」
じゃこ天とかかまぼことか…そうなると石臼か、擂り鉢がいるな。道具屋さんを巡った。
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試しに、じゃこ天にチャレンジ。小さめの魚の内臓だけを取り、擂り鉢でする。そして、山芋を和えて、揚げる。
「これはなんだ?」
カリナが食った…
「なんだ、これ…うまい…」
「生姜か、ワサビを載せてみな」
言われた通りにするカリナ。
「旨い…はぁ?雑魚がこんなにうまいのか?」
カリナの声で、アリサ、ルルが味見をし、
「じゃこ天…懐かしい…」
って、アリサ。
「美味しいですね。どうやったんですか?」
ルルに製法を伝授した。問題はかまぼこである。雑魚ではダメだって気づいた。そうだ、白身の魚、鱈とかグチじゃないとダメだったよな…
「これはなんだ?」
リーンが松前漬けを食した。
「う~ん…」
イマイチだ。それはそうだよ。
「魚介の漬け物だ。熟成させないとダメだよ」
「なるほど…」
「なぁ、ナマコの酢醤油和えは無いのか?」
「あるけど…」
リーンにナマコ料理を出した。群がる、酒好き軍団。宴会になりそうだな。
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年末と言えば、クリスマスである。この世界にはそういう風習は無いようで、ミトに頼まれて、ケーキ造りを始めた。
スポンジを焼き、果物を敷き詰め、クリームでコーティング…
「おぉ~!ケーキだ…」
アリサの目が輝いている。ミトもか?
「先輩は何気に、甘味系は得意ですよね」
って、ミト。
「糖分は脳ミソの栄養だからな。徹夜仕事の時に、欲しくなるんだけど、店が開いていない時間だから、よく作って食べたよ」
ブラック企業の職場の想い出は、何故か消えない。消えて欲しいのに…
「アリサがサンタの衣装を作ったんだけど…」
ミトが困った顔だ。何か問題が有るのか?おぉぉぉ…これは…女性専用露出の多いサンタ衣装である。セーラ、ゼナ、ミトが着ている。あらぬ妄想が脳裏を駆け巡っていく。
バキ!
やはり…ミトの鉄拳が飛んできた。
「聖夜に何をしようと言うのかな?」
露出の多いサンタさんを白い袋に詰めて、袋の上からお触り…
「もっと、ロマンティックな妄想してくださいね、先輩♪」
バキ!
ですね…
ケーキは5ホール程作った。一つは王様に献上すると言う。最後にデコレーションを施していく。マジパンでサンタさん、トナカイを作り、上から、粉砂糖を篩う。
「う~ん…アールが、そんな物を作るとは…」
先輩が驚いている。ふふふ♪実は残り4ホールの中に、ロシアンルーレット的なホールを混ぜておいたのだ。
そして、クリスマス・パーティーインミツクニ邸の開幕である。ローストチキンなどが並び、ケーキのピースをサーブしていく。
「わぁ、綺麗…中が紅色んだ♪」
パクッ!
運悪くミトが一口食べた…震えているミト。
「なんだ…これって、梅干し…へぇ~隠し味なんだ♪」
あれ?喜ばれている上に、売れ行きが良い。失敗かぁ~。
「うっ!抹茶じゃなくて、ワサビか…」
先輩が爆弾を引いたらしい。
「だけど、悪く無い。そうか、こういうのも有りだな」
あ…また、不発のようで、売れ行きが良い。仕込んだ爆弾ケーキが最初に無くなった。こんなはずでは…
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大晦日…お節の製作が急ピッチで行われている。奇跡の料理人の先輩は、ソバ探しに出てしまった。おい!シェフは留守なのか…
白身魚が手に入り、かまぼこ製作を開始。紅白の2種類作らないと。アリサは、だし巻きと伊達巻きにチャレンジ、ミトはリーン、カリナと餅つきをしている。
「有ったぞ♪」
先輩がそば粉をゲットしてきた。喜ぶ転移組、転生組。そうなると、テンプラがいるんではないか。ルルと共に、テンプラを揚げていく。
ふと、窓の外を見ると、満月が見えた。そうだ、行かないと…
「ミト!ちょっと出掛ける」
「えっ?年越しソバは?」
「間に合えば、食べるけど…じゃな♪」
俺は、転移をした。待ち人の元へ…
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二人で、満月の月明かりに照らされて、会話を楽しんでいた。見た目はおかしなカップルだろうな。リビングスケルトンとお姫様であるから、美女と野獣よりも、おかしなカップルかもしれない。
「お兄ちゃん…」
「カグヤ…」
俺にとっても、カグヤにとっても、長い年月が経ったものだ。二人で肩を抱き合い、満月を見上げている。
「竹子…」
うん?ミトが転移してきた。
「あれ?お姉ちゃん…年越しソバは?」
「三人分、配達に来ました♪」
おかもちを手にしているミト。満月を見上げながら、三人で年越しソバを啜る。スケルトンがソバを啜るって、間抜けな絵面の気がするが…
「「気にしちゃダメ♪」」
って、ステレオの声が聞こえてきた。
「ねぇ、竹子…私って、何者なの?」
ミトが訊いた。
「お姉ちゃんはカグラだよ。アコンカグラの依り代…彼女はドラゴンだから、愛しい彼に会う為の依り代がお姉ちゃんなんだよ」
天竜がテンちゃんになるようなことかな?
「竹子は?」
「私はカグヤ。満月の日にしか、地上に降りられない。でも、お兄ちゃんは忘れないでいてくれた。だから、とっても幸せだよ。まぁ、不憫なのはお兄ちゃんの方だよね♪」
えぇ、不憫です。不死王って何?
「でも、これで何時までも一緒にいられる。この世界がなくなったら、一緒に月で暮らせる。まぁ、この世界は無くならないけどね。お姉ちゃんがいる限り♪」
昔昔大昔、月とこの星は同じ星であった。だけど、地殻変動で、二つに分かれた。なので、二人は一卵性双生児なのである。カグヤもカグラも、月とこの星、その物であった。
空が明るくなっていく。もう夜明けが近いようだ。
「じゃ、お兄ちゃんまたね♪お姉ちゃん、不憫なお兄ちゃんをお願いね♪」
カグヤは月へと戻っていく。俺はミトを残し、正妻の元へと転移した。
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「待っていたわよ、ダーリン♪」
巫女姿のアーゼ。新年の神楽舞いによる祝いの奉納をするそうだ。アーゼの婚約者である俺は、アーゼの舞いを見ないといけないらしい。
「じゃ、そろそろ始めましょう♪」
舞台に上がり、舞いを披露するアーゼと巫女姿のエルフ達。そのバックの窓から、新年の光が届き始めていた。
一糸乱れぬ舞い…それは幻想的で有り、形式的であり、情熱的であった。呼吸の乱れは無く、呼吸を合わせて、エルフ達がハイエルフを中心に据えて、舞いを舞っている。光が徐々に強くなっていく。アーゼの姿が幻想的に霞んだり、輝いているように見え始めた。
そして、アーゼのバックに後光が差し、舞いは終わった。
「これで、一年間は幸せになれる…ダーリンと共に♪」
世界平和の祈願では無いのか?俺とアーゼの家内安全の祈願なのか?みんなの見て居る前で、唇を重ねるアーゼ。おい!いいのか…
「これで、夫婦だよ、ダーリン。きゃはっ♪」
え?婚礼の儀でもあったらしい…なんか負けた気分だ。嵌められた…凹む俺…
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その後、アーゼと共に、王様の前に…アーゼが王様に、婚礼の儀が無事に終わったことを告げた。
「それは、めでたいですな~」
めでたくない…知らない間に結婚式があったとは…
「えぇ、これで、ダーリンとは夫婦です。ダーリンを虐めないでくださいね」
「えっ!虐めていませんが…」
「それなら良いですが…」
アーゼを職場へ送り、俺は爵位持ちの会議へ…お節料理は?お雑煮は?
議題は、俺の処遇だった。王都の迷宮核と、迷宮都市セリビーラの都市核と迷宮核を所持していることが問題だそうで…セリビーラの件は、偽核なのだけど…だけど、問題として問い詰める会議では無く、俺を公爵へする会議らしい。
「将来的にはオーユゴック公爵領も、アルジェント卿の領地になる訳だし。どうかな?」
って、王様。
「どうって…」
「セリビーラは王都直轄領であるが、アルジェント卿の領地でもかまわない。どうかな?アルジェント卿よ」
って言われても。
「では、アルジェント卿を公爵に任命する。私からの祝いじゃ」
って、俺に跪く王様。って、まさか結婚祝いか…ミト、義父さんが立ち上がり、拍手をしている。くそぅ~、謀られた。知らなかったのは、俺だけか…
そして、この日の会議は閉幕した。次の議題は明日らしい。
凹んで帰る俺。後からご満悦のミトが続く。
「みんな!アルジェント卿が、公爵に承認されたわよ~♪」
俺の目の前で鳴り響くクラッカー。まさに、俺だけが知らなかったようだ…
「そうなると、ミト様は、別居ですか?」
「うん?同居するわよ。いないと困るもの♪」
ミツクニ公爵付きというより、王祖付きの公爵らしい…
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「おい!会議に遅れるぞ~」
後輩氏の声…
「後10分…」
「そうか、一日遅れの雑煮は要らないんだな♪」
目が醒める俺…
「要る…って、俺、昨日は何も食っていない」
「大丈夫だよ、不死王様だから」
餓死しないらしい俺。だけど、食いたい…ミトを
バキ!
お年玉代わりに、拳骨始めを貰った…