セーリュー伯爵の娘、オーナの視点です。
パリオン神殿で、神託の巫女をしていた。オーユゴック公爵領の公都での魔王騒ぎの際には、生け贄として攫われたのだが、私は奇跡的に救われた。テニオン神殿の神託の巫女であるセーラは殉教したそうだ。
救われた後、父であるセーリュー伯爵に、巫女籍から外された。
「そんな魔王に狙われるような職はダメだ。家に戻ってこい!」
と…でも、私の身を案じた為ではなく、私をエサにある人物を懐柔しようとしていた。その人物は、父の支配している街にある迷宮の核を所持しているそうだ。士爵で爵位も低いが、迷宮核の所持は莫大な利権を生む。士爵でありながら、男爵、いや伯爵くらいの権力を持てるらしい。そのことを恐れているようだ。その人物が権力を持つ前に、セーリュー伯家に取り込む必要があるようで、私との縁組で、迷宮核を手に入れようとしているようだ。
「いいか、貴族の娘っていうのは、政局の駒なんだ」
と、言い切った父。私は駒なのか…私が贈られる人物は、アール士爵と言うらしい。マリエンテール家の縁者らしいのだが、マリエンテール士爵は父の配下であるから、どうにでも出来るそうだ。
-------
そして、アール士爵を食事会へ招待することが出来たそうだ。その席に、私、マリエンテール卿、その娘のゼナさんが参加決定になった。アール士爵はゼナさんと一緒になろうとしているようだが、私を正妻にして、ゼナさんを側室とする案でいくらしい。ひどい父である。配下の娘さんも、政局の駒にするなんて…
地獄ってものがあるなら、父はそこへ送られるのだろうか?
食事会当日、彼は二人の女性を連れて来た。二人共、どこか気高く良家のお嬢様に見える。私なんか相手にしないと思う。神託の巫女は神託を受けるだけしか能力が無いから…あの時、セーラさんの代わりに私が殉教すれば良かった。
デザートを食べ始めた頃、父が本題に入った。
「――単刀直入に行こう。オーナを卿の嫁にやる。我が伯爵家の一員となって迷宮運営で差配を揮う気はないか?」
きょっとんとしている彼。いきなり過ぎる話だ。だけど、彼は直ぐに返事を返して来た。
「お断りします」
唖然としている父。面目丸つぶれである。
「アール士爵よ。誤解があるかもしれぬが、伯爵家の一員とは単に伯爵家の者を娶るというだけではない。伯爵家の継承権も与えるという事だ」
「ぷっ!あははは♪」
彼の連れの女性が吹き出して、笑い出した。何かおかしな話ってあったっけ?
「なるほどな。そういうことか。ボク達を誤解しているようだな、セーリュー伯爵よ!」
彼女は力強いオーラを纏い、父に叩き付けるように言葉を吐き出した。
「貴様、士爵の侍従のくせに、生意気だぞ!」
父の配下の騎士で最強と言われているキゴーリが、彼の連れの女性を睨むように、言葉を浴びせた。
「誤解するなよ。俺の方がミトの侍従だよ♪」
彼からの言葉…彼女が彼の主である事実…
「何?!」
キゴーリも父も、予想だにしていない事態のようだ。
「後、俺は士爵じゃ無いんだよ」
「何?貴様…何者だ?」
父の見込みは違っていたようだ。
「ミト・ミツクニ公爵付きの公爵、アール・アルジェントだ。覚えておいてくれ。あと、そこの騎士が愚弄したのが、俺の主のミト・ミツクニ公爵だ。更に言うと、今日の連れは、俺の片腕であるサガ帝国王女、メリーエスト・サガである。伯爵よ、頭が高いんで無いか?って、ミツクニ公爵を下座の席に座らすって、どういう根性だ?!」
ミツクニ卿って…シガ王国の王が引退した際に得る爵位では無いか…いや、もう一人、その爵位を持つ人物を私は知っている。勇者である王祖ヤマト様だ…
もう一人の女性はサガ帝国の王女…なんて人脈なんだ…あっ!私を助けてくれた人…
「もしかして、テニオン神殿の…」
テニオン神殿で聞かされたんだ。アール様という名誉祭司様に、私達は救われたと…私は、彼に跪き、彼に祈りを捧げた。
「オーナ…何をしているんだ?」
父に訊かれた。祈りを捧げ終えると、説明をした。
「アルジェント卿はテニオン神殿の名誉祭司です」
「なんだと…」
父の集めた情報は、間違いが多かったようだ。
「まぁ、貰える者は貰っておく。お前の娘を貰う事には異議は無い。だけど、公爵なのに、伯爵家を継げって、何を言っているんだ?メリー、どう思う?」
「はい、主様を愚弄しております。領地没収が良い…いや、ここは主様の領地ですよ。あの無礼な伯爵は、主様の配下となります。爵位を奪うのが良いかと思います」
父に下された罰…
「何…あの地図は誤植では無かったのか…」
父が手に入れた新版の地図には『セーリュー伯爵領(アルジェント公爵領)』と記載されていた。
---------
彼は軍部に顔が利くのか、シガ八剣がガードに付いていたようだ。そして、この街の市兵が父をとりおさせた。ミツクニ卿暗殺容疑だそうだ。
何事も無かったように去ろうとしている彼。咄嗟に服を掴んだ私。
「では、私をつれて行ってください。名誉祭司様の元で、修行をしたいです。お願いです。何でもします」
「視察が終わったら、迎えに行く。簡単な旅支度をしておいてくれ」
彼は、彼の領地内の視察をしているんだそうだ。この後もまだ2,3箇所廻るらしい。
彼は約束通り、私を迎えに来てくれた。え?ゼナさんも一緒に行くみたいだ。馬車とかはどこだろうか?光に一瞬包まれて、光が霧散するとテニオン神殿の前にいた。転移術だ…最上級魔法師にしか使えない術だと聞いたことがある。
「あれ?オーナじゃない。どうして、ここに?」
声の主を見て、目を疑った。殉教したはずのセーラだったから…
「どうして…殉教したはずでは…」
「主様に、2回目の人生を頂いたの♪」
まさか、蘇生術…彼は使えるのか?最上級神聖魔法師にしか、使えないとされる術である。彼は何者なんだ…全身に鳥肌が立っていく。
「アール様、どうしてオーナがいるんですか?」
「貰ったんだよ。貰えるものは貰う主義だから」
「ご主人様らしいわね~」
紫髪の少女が、彼に言葉を発した。
「まぁ、俺は俺らしく生きる。それだけかな」
って、女性が多いのは何故…
---------
彼の屋敷に転移した。え…ハーレムって感じの家…彼は何者なんだ?
「オーナが慣れるまで、セーラが同室でいいかな?」
「はい♪」
セーラに部屋に案内された。
「ねぇ、彼って何者?」
セーラに訊いた。明るい笑顔だったセーラの表情が強張っていく。訊いてはダメな事だったのか。
「私を助ける為に、呪いを受けました。主様は、もう人間では無いんです」
人間では無い?呪いを受けた?神聖魔法の蘇生術って、呪いを受けるの?そのことがショックだった。
「蘇生術で呪いが掛かった訳では無いの。その前段…勇者で無いアール様が、魔王を倒す為にしたことが、呪いの原因…」
魔王を倒した…勇者にしか倒せないはずだけど…
「今、アール様は聖属性の不死王なの」
有り得ない…聖属性の魔なる者だなんて…
「有り得ない存在…私は彼に一生を捧げる。私を助ける為、魔王を倒す為に、彼は人間を辞めたんだから。それくらいしないと…」
「どうして、そこまで思えるの?」
「私…魔王に殺されたの…魂の状態で、彼と魔王の死闘を見届けた。彼は、ボロ布のようになった私の亡骸を大切に、護りながら戦ってくれたんだ。とっても、嬉しかった」
セーラの目からポロポロと涙が溢れ出ていた。
「あんな惨い死体は見た事が無い。それなのに、彼は大切に護ってくれた。これ以上汚れないように、これ以上破損しないように…これ以上…」
言葉に詰まり、泣き崩れたセーラ。彼女がここまで想える人物なら、私の選択は間違いでは無いだろう。