グルリアン市太守様主催の晩餐会。あの『奇跡の料理人』であるサトゥー・ペンドラゴン士爵が腕を振るうというので、大盛況であった。
だけど、太守夫妻の様子がおかしい。二人共顔面蒼白であった。
「なんだって…あのムーン士爵が…アルジェント卿だと…」
「えぇ…ペンドラゴン卿の主様のミツクニ公爵もいらしています」
「まずいだろ…アルジェント卿は、オーユゴック公爵の義理の息子って話だ。そんな人物に、勲章を授けてしまった…」
まさか、ムーン士爵の正体って、あのアルジェント卿なのか…私も無礼なことを…まずい。アルジェント卿と言えば、都市伝説クラスの公爵様である。都市核や迷宮核、源泉までも持っていると言われている。あくまでも都市伝説であるけど…
シガ王国の影の執務官だとも言われている。彼の手腕で数名の爵位持ちが左遷されたとも…身分を隠して、諸国を内偵しているとの噂も。いや、噂は本当だったようだ。
「大変です…」
執務官が駆け込んできた。
「貴族の子息達が、アルジェント卿の眷属に手を出して、即刻打ち首にされました」
執務官の声で、歓談していた貴族達が固まった。
「なんだと…どういうことだ」
「王様の外孫の女性に手を掛けた罪で…下流貴族のフロアは血の海です」
何名かの貴族の男性が、下流貴族のフロアへ向かうが、悲鳴が聞こえてきた。
「王様の外孫に手を…具体的にはどのような行為だ?!」
「無理やりスキンシップをしたようです」
「衛兵はどうした?衛兵は取り締まらなかったのか?!」
「それが、衛兵はアルジェント卿達に刃を…」
「おい!シガ八剣と同等の腕前だと聞いている相手にか…」
太守様が崩れるように座り込んだ。
「なんの騒ぎだ!」
オーユゴック公爵様が現れた。今宵の主賓だそうだ。
「あの…アルジェント卿が…」
事情を話した執務官。
「そういうことか…ふふふ♪私は彼を支持する。それは私の孫娘だよ。そうか、即刻手打ちに…実に彼らしいな♪」
「オーユゴック卿、お孫様は亡くなられたのでは?」
「あぁ、そうだよ。二人共命を落とした。だけど、彼の御業で生き返ったのだよ」
蘇生術…最上級神聖魔法である。彼は、司祭なのか?
「まさか…」
「彼の元には、彼に命を預ける覚悟で、彼の眷属になった者が多い。私の孫娘二人もそうだ。後、私の領地は、次代には彼に譲ることにしている」
「なんと…」
「既に、ムーノ男爵領、セーリュー伯爵領、セリビーラは彼の領地だよ」
え?セリビーラって王家直轄のはず…
「彼の功績は表には出ないが、素晴らしいものばかりだ。義理の孫に出来て、私は非常に嬉しい。で、私の孫に手を出した者の家系は、爵位を剥奪だな」
「はっはぁ~」
執務官がオーユゴック卿へ頭を下げた。
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翌日から、アルジェント卿について、調べてみた。だけど、手がかりが無い。表には出ない人物なのか…オーユゴック卿の公都へ向かった。ここでも、彼のことはわからない。噂レベルの話しか聞けない。
ふと、テニオン神殿に足が向いた。彼は聖職者の可能性があるから…そこで神殿に不釣り合いの彫像が目に入った。全身が骸骨の聖職者らしき人物の彫像であった。手には杯のような物を持っている。その人物は『名誉祭司アール』と表記されていた。これは?近くにいた巫女の少女に訊いてみた。
「人間が行使してはいけないレベルの魔法を使い、神の呪いを受けて、人間ではなくなったって話です」
人間が行使していはいけないレベル…それは蘇生術か?
「都市伝説ですよ♪」
と、嬉しそうに去って行く少女。まさか、事実を都市伝説として、伝えているのか?そう思った瞬間、全身に鳥肌が立っていく。
その像の隣には、見た事のある顔の少女の彫像があった。『聖女セーラ』と表記されていた。その聖女は、骸骨姿の祭司を見つめているような感じに見える。あっ!想い出した。あの時、私の怪我を癒やしてくれた少女の顔にソックリだ。
また、近くにいた巫女に訊いてみると、聖女セーラは神託の巫女であったが、魔王に身体を蹂躙され、殉教したそうだ。
何かの閃きが舞い降り、私は図書館で調べ物をした。オーユゴック公爵家の家系図である。あった。孫の欄に『セーラ・オーユゴック 巫女 殉教』『リーングランデ・オーユゴック 勇者の従者 殉職』と記されていた。この二人が蘇生されたとしたら…
私は彼が住んでいるセリビーラへ向かった。
旅のガイドブックには、探険者の街で、荒くれ共の街とあったのだけど、実際には違った。街の中では、ルールが根付いているようで、馬車同士のいざこざなどが無い。ゴミは道ばたに落ちていない。門番の兵士も丁寧で上から目線ではなかった。こんな街は初めてである。横柄な門番が多かった。馬車同士のいざこざが多く目に入った。それらは街の賑わいだと思っていた光景は、この街には無いのだ。
「何か、お困りの事はありますか?」
笑顔で訊いてきた少女。
「アール・アルジェント卿にお会いしに来ました」
「あぁ、校長先生の家ですか。乗り合い馬車の3番にお乗りください」
と、教えてくれた。彼は校長先生なのか?教わった乗り合い馬車に乗り、彼の家の前で下車した。大きなお屋敷である。表札には『ミト・ミツクニ公爵』と表記されている。
ここでいいのかな?彼なら私のしたことを叶えてくれるかな。期待を胸に、呼び鈴を押してみた。