旅に出るので、当分の間は行けないと思い、バンの元へ向かい、彼の好物である葡萄酒『レッセウの血潮』を届けた。
「いつも悪いなぁ」
「持ちつ持たれつだよ」
迷賊が発生した場合、刈り取って貰っている。そのお礼である。
「そうだ、まだユイカに会っていなかったな。ちょっと会ってやってくれ」
バンが言うユイカって者は、多重人格のゴブリンの姫だという。その正体はバンや俺達と同じ、神に拉致されて、この地に連れ攫われて来た日本人だそうだ。
地図を貰ったので、地図の通りに向かう。しかし、ここは広いよな。ここ自体が別世界ではないのか?だいぶ歩いて行くと花畑が現れた。地図にも『ユイカの花畑』と書かれている。この先にいるようだ。
で、紫の花で六芒星が描かれていて、その中心に立ち、ユイカを呼ぶって、書かれた通りの行動を取ってみた。
ユイカって呪文では無いのか?空間の揺らめきを感じ、六芒星を描く花々が光出し、6つの扉を発言させた。扉には日本語で、「はずれ」「地獄行き」「罠です」「入っちゃダメ」「DEATH」「うぇるかむ」と書かれている。一通り試して見たが、特に何も起きない。「うぇるかむ」以外の扉は俺が入ると壊れていった。いや、俺を入室拒否したというか…こしゃくな…って感じで、俺が5つの扉全て破壊してしまったのだ。で、「うぇるかむ」の扉に入ると、また6つの扉。「うぇるかむ」の扉以外の扉が震えているように思える。入室禁止かな♪
6つの扉の試練が9回行われれ、ようやく着いたようだ。目の前には、小さな畑と竹林が隣接する日本家屋があった。田舎の情景のようだ。縁側に面した中庭では鶏がエサとなる虫や雑草などをついばみ、軒にはタマネギや大根が吊され、干されていた。
「あなたは誰?タクワン食べる?」
障子が開き、座敷童のような女の子が家屋から出て来た。あれ?ゴブリンって座敷童だっけ?白く透き通る肌に、床まで届くくらい長いロングパープルヘア。ゴワゴワ感はなく、しなやかそうだ。ストライクゾーンにまだ届かない娘枠のような少女だ。
「いぶりがっこは無い?」
「渋いなぁ…ごめん、無いよ」
縁側に座り、タクワンを口にして、お茶をすする俺とユイカ。のどかな時間である。
「で、何者?」
和気藹々ムードなのに、今更、そこ?
「バンに君を紹介されたんだ。必要な物があれば、調達してくるよ」
「魔神…まさか…」
俺の称号が見えるらしい。まぁ、隠していないからな。
「不死王…何…私をどうするの?!『――無限連鎖』」
ユイカが呪文を唱えた。黒いツブツブが俺に撃ち込まれてきた。マップ情報によると、『マイクロブラックホール』らしい。なので、オールスルーした。
「透過能力…不死なのに…チートすぎる…」
ユイカの瞳が紫色に輝き出した。ピキッと音が聞こえた。
何の音だ?ピシッと異音がする。
何処からだ?パキン。
何かが壊れた音…宙に浮くユイカ…着ていた物が破壊され、ツルペタな裸体になっている。ポチとリザの中間辺りのボディかな?どっちにしても娘枠だけど。
「こんのスケベ野郎がぁぁぁぁぁ!!」
自分で脱いでおいて、ソレはないだろう?爆裂拳のように拳の連打が撃ち込まれてきたが、全てスルーする。これって、人格のスイッチかな?童女が露出狂になった気がする。いや、露出してもあまり大差が無いんだけど。脱いだらスゴいんです的なサプライズは無い。
「ククククク」
また、人格のスイッチか?漆黒に染まったゴスロリ風のドレスを着ている童女。宙に浮かんでいる為、真っ白なお子様パンツが丸見えである。
彼女の薄紫色だった瞳が、朱と蒼のオッドアイに変わっている。聖魔分離状態か?
「我れは虐げられし闇の末裔、天魔の巫女にして、鬼人族最後の王族。我が名はフォイルニス・ラ・ベル・フィーユ!人は私を畏れ敬い、こう呼んだ『漆黒の美姫ダーク・ラ・プランセス』と!」
最後にポーズを決めたユイカ。だから何だ?
「俺はアール・ウール・ゴーンだ」
アインズ様を模してみた。
「貴様、何者だ!」
何者って言われてもなぁ。あぁ、なんか、イライラしてきた。
「えっ…」
ユイカの表情が崩れていく。勝ち誇っていた表情は恐怖により歪んでいく。俺は、俺で無くなって行くようだ。ここには、俺を止めることの出来る奴はいない。ふふふ…
「わ、わ、我こそは、幾多の魔王と勇者を葬り去ってきた最強の魔法戦士ッ!世代交代で往年の半分ほどのレベルしかないが、レベル差が戦力の決定的な差では無いことを教えてやろう!」
「面白い。やってみろよ♪種族の違いを見せてやる。掛かってこいよ、ユイカ!」
「そ、それは世に秘めし真名!神々の呪いを受けし『唯一神』の名を口にしてはならぬ!我が名はフォイルニス・ラ・ベル・フィーユだ!」
神の名?神なんか、クソくらいだ!
「ま、ま、待て!問おう!汝の目的は何ぞや!」
「お前の友達になりに来たが、もういい。面倒だ!ここで消えろ。それとも無限に続く地獄がいいかな♪」
「ま、ま、待って下さい…我がスキルが貴様の言葉が事実だと告げている…」
言葉遣いが崩壊してきているよう。人格も崩壊しているのか?
「だから、何だ?」
ユイカは全裸になり、俺に奉仕をし出した。
--------
俺が俺に戻ったようだ。ユイカが添い寝をしていた。ツルペタな身体で健気に服従の意を行動で示していた。
「ここは?」
「私の家です。マインドロストで、倒れていましたよ」
また、やってしまったようだ。凹む俺。
「ごめんなさい。追い込んでしまって…」
彼女の透き通るようは白い肌には、ムチ打ちの跡が…鬼姉妹がしばいたようだ。
「何なりと、用を申しつけ下さい。ですから、もう虐めないでください」
相当、折檻を受けたようだ。彼女の心は完全に折れている。そして、和解して、俺の下僕になったそうだ。
「ここからは出ませんが、何なりと用を命じてください」
って、俺に土下座をしているユイカ。以前、「最強の魔王」を名乗っていたそうだ。で、魔王なのに魔王狩りをしていたとか。で、今回初めて敗北だそうな。相手が悪かったと思う。不死王である俺とカグヤとカグラでは…魔王程度では勝て無いだろうに。
--------
一緒に旅へ行く者の選別。ここまで仲間が増えていると、メンバーを絞らないと目立ってしまう。
「兄ぃ達は先発隊で転移で移動ね。問題は先輩の方だけど、馬車で移動よ」
まぁ、妥当な線だな。行ったことの無い場所へは転移は出来ないから。
「で、学校や執務のある者は除くわ。ここ一番な場面で招集はするけど」
アリサ、ルル、オーナ達は一緒には来られないようだ。
「で、馬車は2台。先輩と私が主として乗り込みます。私の方は、ゼナ隊とルススとフィフィかな。先輩の方は、アーシア、羽川、メリー、セーラ、リーン。御者はリザ、タマ、ポチ、ミーアとします。役割分担は臨機応変にします」
と、ミトから指示が出た。先ずはパリオン神国かな?
「そうだ♪レッセウの血糊の原料の葡萄畑も視察しよう」
葡萄の栽培に興味がある。
「そうね、レッセウ伯爵領の視察も出来るわね。許可します」
ミトが便乗するようだ。
そして、王都から目的地へ旅へと出た。勿論、勤務のある仲間は、勤務地に送り届けてから♪
-------
先乗り部隊の先輩からメッセージが届いた。
『レッセウの血糊の危機。葡萄畑に魔物の群れ有り。どうする?』
と…俺はアーシアと共に先輩の元へ転移した。
「どういうこと?レッセウ伯爵の領軍は?」
先輩に状況を訊いてみた。
「レッセウ伯爵の領軍は、鉱山や都市周辺の魔物駆除しかしていないそうだ」
「差別だよね。って、この辺りの農村は斬り捨て?」
「だな…どうする?レッセウの血糊の蔵元は、エチゴヤの傘下にしてあるが、原料が無いと無理だぞ」
俺の領地にすればいいのか?税収が少ないからって、斬り捨てるなんて…許せない。
『良く言ったわ♪ホセベド村とスイブド村を、アルジェント卿の領地として認めます』
って、ミト…しまった。また仕事が増える…そもそも言っていない。心で思っただけだ!
『ご愁傷様です』
って、先輩。
『がんばれ~♪』
って、アーゼ。凹む俺。だけど…
「くそうアリ共め!オレ達が精魂篭めて育てた葡萄畑を!」
「タグォーサ!やめろ!クワで立ち向かっても無駄死にだ!」
村人達の声…凹んでいる暇は無い。
「アーシア、この辺りの源泉は?」
「最近、湧き出た場所があります。魔物の異常発生の原因だと思われます」
「所有者は?」
「…今、所有者をアール・アルジェント公爵にしました」
アーシアの仕事は早い。
「魔物の発生を抑える為、魔物発生値を超えないように、他の源泉へ流してくれ」
「了解です」
これで、今いる奴らだけを処分すれば…揺り篭にいるカマキリ軍団をこの場に、強制転移させた。腹が減っているカマキリ達はアリさんの大群に襲い掛かっていく。アリさん達の死骸から、魔核を強奪して、残りはアーシアの迷宮のゴキ軍団の隔離エリアへ強制転移させていく。アリさんの死骸は固くて、ナマコの食いつきが悪いから。
「お前のチートさには負けるよ。どこまでも、リサイクルありきだな」
って、先輩が笑っている。いやいや、戦闘に関してのチートさは先輩に負けると思う。多彩な技と多彩な魔法を駆使できるし。
「先輩、俺のストレージに入り切らないかも…」
「俺のストレージへ転送していいぞ」
強奪した魔核は、オーバーフロー寸前で、先輩のストレージにギフトしていく。俺のストレージは1品目999個までしか入らない。それに対して、ミトと先輩のは無限大らしい。
「あ、あんた…魔物遣いなのか?」
「そうだ」
まぁ、見た目、カマキリ遣いだよな…カマキリ達は地上にいるアリさん達を殲滅すると、巣を掘り出して、幼虫と女王アリに狙いを定めたようだ。満腹そうなカマキリは揺り篭に戻し、腹ぺこそうな奴を呼び出していく。
先輩は俺がギフトした魔核を取り出して、中型犬サイズの石狼を30頭ほど生み出した。畑の周囲をパトロールにさせて、魔物を駆除させるようだ。俺は、その石狼達に、マナの供給を源泉から出来るように、アーシアに設定をして貰った。
「この石狼達を葡萄畑の守護に与える。魔物の駆除に役立てろ」
って、先輩が村人達に説明した。
「こ、このような高価な魔法の従者を、ですか?」
あれって、高価なのか…
「気にするな。我々の知り合いに、この村の葡萄から作る酒を愛飲する者がいてな。その者の為にした事だ」
と、畑を護る理由を説明している先輩。
「レ、レッセウ伯爵のご命令ではなかったのでしょうか?」
「レッセウ伯爵は与り知らぬ事だが、村を脅威から救って、文句を言うほど狭量ではあるまい。あぁ、そうそう、ホセベド村とスイブド村は、アルジェント卿の領地に編入される。領民が困っているのに、手を差し出さぬ領主では困るからな」
って、領主の鞍替えの件も話しているし…
「たぶん、レッセウ伯爵は、編入を快く思わぬかもしれない。だが、お前達が困っているのに見捨てるのは言語道断である。もし、レッセウ伯爵が文句を言ってくるようなら、その対応は、ミツクニ公爵家が行おう」
「こ、公爵家?!た、たしか伯爵様よりお偉い貴族様?」
先輩は石狼達に、ミツクニ卿の紋章と俺の紋章を刻み込んだ。ミツクニ公爵家の紋章はテニスのラケットを二つ交叉させた意匠になっており、俺の紋章は、杯に骸骨の頭部が載っている意匠になっている。
一つ目の村を救済した後、二つ目の村も同様に救済した俺と先輩。
-------
パリオン神国は遠い…いや、馬車では無理だったのでは?現在砂漠地帯に突入している。馬車の速度が落ちていく。馬の休憩間隔も短めである。タマとポチが馬の疲れ具合を察知して、休憩を申請してくれるので、馬達の負担は多少は軽いはずだけど…
「空路だったわね。う~ん、自前の飛行艇が無いから…」
って、ミト。確かに飛行艇は俺が酔う為、購入していない。
「検討するわ!」
『毎度!』
って、先輩からメッセージ。俺の心をモニタリングしているので、現在の状況下で必要な物…飛行艇を売る作戦らしい。だけど、ここで受け渡しは出来ない。パリオン神国へは陸路で向かわないとダメだ。
でも、先輩の商人魂はスゴい。今夜宿泊予定のオアシスに、飛行艇を持ち込んでいた。
「ヒカル、毎度おおきに♪」
「このエセ商人が…」
まぁ、支払はローンだな。ここから先輩達が合流し、飛行艇の操縦方法をミトに教えるそうだ。空中酔い酷い俺では無くて…
飛行艇は、馬車2台も収納出来る大型船のようだ。俺の部屋のベッドは、イネちゃんのベッドのコピー品が置かれていた。これで熟睡出来る