ゼナが目の前にいる。俺の目をじっと見ている。
「ボルエナンの森へ行くって、どういう事ですか?」
ゼナの瞳は涙で濡れてきた。
「護衛の仕事が入って…終わったら、戻って来るよ」
「行って欲しくないです…」
俺の手を握るゼナ。
「一緒に行けると良いのだけど…無理だろ?」
ゼナが頷くと、涙が零れていく。
「今生の別れでは無いんだ。仕事が終われば、会えるって…」
「ですけど…どなたの依頼ですか?」
「何でも屋の主人だよ」
「そうなんだ…」
俺の手を握る力が強くなっていく。俺はゼナを引き寄せ、優しく抱き締めた。ゼナの胸の感触を覚えるかの如く…俺の頬に、ゼナの頬が重なる。
「無事に帰って来て下さいね」
「あぁ…」
「死なないでね」
「死ねないよ。ゼナもいるし、リザ達もいるし…」
「そうですよ。もう一人では無いんですから♪」
迂闊に死ねない…リザを泣かすことは避けたい。
「出発の日…非番なら、見送ります♪」
涙を浮かべ、笑顔のゼナ。良い表情だ…
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何でも屋に行くと、馬車が2台あった。
「馬車は用意できたわ。いつでも、出発はできるわよ」
って、ミト。旅に必要な物は、必要な度に、先輩が創造するらしい。チートだろ?その能力は…
「なぁ、ミト…あの悪魔が利権をくれるようなこと言っていたけど、迷宮の利権ってなんだ?」
「あっ!そうか。あの迷宮の所有者は、先輩ってことになりますね~。正式な登録をしに行きましょうよ♪」
登録?ミトによると、迷宮の一番深い部分に、ダンジョンコアって言う制御室のような部屋があるそうだ。二人であの迷宮へ転移した。
「えぇっと、あの時は殺戮者だったよね?」
ジョブを殺戮者にすると、知らない部屋に強制転移された。色々な計器や装置がある。周囲を興味深く観察する俺。ミトは何かを操作している。
「先輩!一番強いと思うモンスターって、なんですか?」
「それは、獣の数字、トライヘキサだろ?神を殺せるし」
「なるほど…」
『マスター、ようこそ。ここから出て行かないで欲しいです』
スピーカーから声が聞こえる。
「お前は誰だ?」
『このダンジョンのコアです』
人工知能のようだ。
「いや、用は終わったら、帰るよ」
『そこのマスターでは無い者よ!何をしているの?』
「マスター権限で、あれこれ設定を変えているのよ♪ふふふ、もう遅いわよ。彼はここを出られるの♪」
あぁ、さっきからソレをしていたのか…
『酷い!何の権限?』
「私はマスター代理として登録したの。だから、操作できるのよ♪」
勝ち誇ったような表情の元勇者様。
『一人はいやぁぁぁぁ~!』
泣いているらしい人工知能のコア。
「じゃ、探索用のホムンクルスを作って、そこにアナタの思考をコピーして、リンクしてみなさい」
コアがミトの言葉に従い、人造人間を作りだした。顔はまだ無い。
「顔とか体型は、先輩の好みに出来ますけど…」
そうなのか…では、
「ソード・オラリオのティオナ♪」
「はぁ?もっと胸のある子でもいいわよ」
そうなのか…
「じゃ、ソード・オラリオのリヴェリア♪」
「それはダメ。耳長族は避けた方がいいわ」
ダメなのか…
「う~ん…じゃ、DXDのアーシアは?」
「まぁ、いんじゃないの?」
装置を操作するミト。ホムンクルスが、DXDに出てくるアーシア・アルジェントに、なっていく。
「コア、この子の名前はアーシアだからね。で、この子を一緒に連れて行く。一人でじゃないでしょ?もし、このダンジョンに危機が迫ったら、私達が護りにくる。どうかな?」
『了解しました。サブマスター♪』
よく、わからないけど、ミト任せにして、3人で街に戻った。
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「うっ!アーシアそっくり…チートだろ?」
先輩には言われたく無い。
「どうせなら、リアスとか朱乃だろ?」
それは先輩の好みの爆乳娘では無いか…俺は物理的に有り得ない巨乳は、好きでは無い。
「まぁ、この子は使えるわよ。ダンジョンコアだから、ダンジョンでは有益よ♪」
一番チートなのはミトだと思う…
「ダンジョンを制覇していく旅もいいわね♪」
元勇者様、言う事がデカい。俺はそんなに戦闘に拘らない。リザ達と楽しく生活が出来れば良いと思う。ゼナも一緒に…
「じゃ、出発よ♪」
今日はゼナは非番では無い…じゃ、いいか…2台の馬車に乗り込み、いざボルエナンの森へ出発である。
でもアクシデントはすぐに起きた。関所でのこと…身分証を出したのだが…
「何…ミツクニ卿付きの子爵様だと…」
うん?俺はミツクニ卿付きの子爵になっていた。あれ?
「お忍びの旅ですか…いや、しかし、ここはこの地を治めるせーリュー伯爵とお会いになっていただけませんか?」
「申し訳ないが、急ぐ旅だから…」
って、門が閉ざされた。力尽くで出さないようだ。
「ミト、どうする?」
「先輩、街の外だと、どこに転移できますか?」
「竜の谷と、リザ達を手に入れた道だな」
「じゃ、馬車2台をそこへ転移して」
言われた通りに転移させた。現在位置をミトがチェック。
「なるほど…じゃ、あっちだわ。まず、鼠人族の集落へ行って、その戦士を送り届けるのよ」
って、指揮官ミトが声を上げた。
「で、いつ身分証が更新されたんだ?」
「あぁ、ダンジョンコアの処で、マスター登録、サブマスター登録したら、身分が更新されたみたい」
って、ミトが身分証を出した。
『ミト・ミツクニ 人間 所属:シガ王国 ジョブ:公爵 経歴:王祖ヤマト、元勇者』
って…俺のは、
『アール 人間 所属:ミツクニ公爵 ジョブ:子爵 経歴:勇者 源泉:竜の谷クレーター 迷宮:セーリュー市』
うん?源泉って?
「源泉って?」
「魔力の発生源よ。油田みたいな物で、権益があるのよ。あの流星雨から竜神を護ったから、あのクレーターの辺りを分けてくれたのよ」
なるほど…油田持ちなのか。
「迷宮も所有物になるの?」
「迷宮も源泉だからねぇ♪」
油田を2つ持っているのか…
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食事休憩…リザ達が狩りへ向かう。肉を仕入れるようだ。ルルとアーシアは、野草を摘みに行っている。
「ねぇ、呼称が被っているんだけど、どうにかならない?」
って、アリサ。ミトが俺を呼ぶのに「先輩」で、俺が佐藤先輩を呼ぶのに「先輩」だからか…確かに、わかりにくい。
「じゃ、名前呼びにしましょう。私はミト、兄ぃはサトゥーで、先輩はアールで、どうかな」
まぁ、無難だな。
アリサの話を訊いた。俺達とは違う並行世界の日本から転生したらしい。
「あなた達の会話…懐かしさを感じるの」
って、小学生くらいの子に言われてもなぁ。先輩は中学生くらい、俺は高校生くらい、ミトはOLって感じである。
「ミト・ミツクニ卿かぁ…いっそ、格さん、助さんにしたら?」
ミトと同じようなことを…
「ご主人様、兎がとれました♪」
って、リザ。
「いのしし?」
って、タマ
「くまなのです♪」
って、ポチ…
「今から捌きます♪」
嬉しそうなリザ。
「食べられる野草を摘んできました」
ルル達も戻って来た。アーシアがデータベースを使って、食べられる物を判別したようだ。コアとリンクって便利…
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ボルエナンの森へ運んでいるミーア。本名は、ミサナリーア・ボルエナンというエルフである。確かに耳が長く無い。彼女を護り抜いた戦士は、ミゼという鼠人族、正式には灰鼠人族らしい。通称は赤兜という騎兵だそうだ。
彼らの集落の周辺で、森の立ち枯れ現象の調査をしていて、どこかから逃げてきたミーアを助けたらしい。彼の仲間の数名が、追っ手と交戦し、その後がわからないと、心配してた。
「立ち枯れかぁ…源泉を横取りしたヤツがいるかもなぁ」
って、ミト。エネルギー源を横取りされて、立ち枯れたかもしれないらしい。酷いことをするなぁ。って、考えていた時、空気がどんよりし出した。
「何か来たな!」
ミトが戦闘態勢を取ると、リザ達も警戒を強めていく。
『ここにいたのか…エルフの姫君よ!』
影のような物が現れた。
「影遣いか…厄介な。みんな自分の影に注意して!」
って、ミトの声…
「いやぁぁぁぁ~!」
ミーアがミーアの影に引き込まれて行く。俺は咄嗟に、ミーアの影に飛び込んだ…
そこは闇の世界…何も見えない、聞こえない。これで、誰からも何も言われずに死ねるのかな?心が安らかになっていく俺。闇の世界へゆっくりと沈んでいく。心地良い♪まるで揺り篭のようだ。
「やめてぇぇぇ~!」
静寂を斬り裂く誰かの叫び声。俺の安息地に何をするんだ!
「ふざけるなぁぁぁぁぁ~!」
パリン!
闇の世界が粉々になっていく。俺の世界を…
「何…あそこから脱出だと!貴様、何者だ?ここへは正式な手順で来い!」
フードを被った男がそう言うと、床が抜けた。落下する俺。ジェットコースター感が半端無い。胃袋が口から飛び出しそうだ。脳ミソが耳から流れでそうだ。気持ち悪りぃぃぃぃ~!
ドボ~ン!
水の中に落ち、沈んでいく。息が出来ない。溺死は嫌だな…意識が遠くなっていく。
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遠くで誰かの声がする。
「アーシア、生命維持装置を出して」
「了解です」
唇に柔らかい物が重なり、空気が送り込まれてきた。胸を押し込まれる。心臓マッサージ?じゃ、マウストゥマウスかな?
「ご主人様、目覚めて下さい」
柔らかい物が俺を抱き締めてくれている。
「このマスクを付けて、リザ」
「はい…」
「死んじゃダメ?」
「死んじゃダメなのです」
「う~ん、最後の手段だわ。ルルちゃん、ちょっと…ゴニョゴニョ」
後輩氏の声。誰かに耳打ちをしている。嫌な予感がするが、身体が動かない。
「えっ!それで、生き返るんですか?」
「もっと生きたいって思わせないとダメ。アールは死にたがりだから…」
うん?心臓マッサージをされている俺のズボンが脱がされていく。どういうことだ?少し間を置いて、生きてて良かったって刺激が俺を襲う。なんだ、これは…全身に力が漲っていくのがわかる。
「うっ…」
口から大量の水が流れ出ていく。
「ほらね♪」
「本当ですね…」
「アーシア、生命維持装置はそのままにして」
「了解です」
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ルルのお口での奉仕で、生き返った俺…
「生きる喜びが少ないんだよ、アールはさぁ」
そうかもしれない。こんな気持ち良いことって有るんだ…
「で、どうして、水没していたの?」
上での話をした。
「床が抜けたのか…罠を外さないとダメだねぇ」
考え込むミト。
「あっ!罠を強奪して、どこかへ強制転移とかは?」
どこか?迷宮にするか。早速実行した。迷宮の守護者の部屋の前に罠を設置…
「次に、私とアールで、そのフード男の前に転移よ!」
ミトと二人…いやアーシアも来たので、3人で転移した。
「何?貴様か…懲りずに…」
「マスター、迷宮のシステムを乗っ取りました。自爆シーケンスを解除しました」
転移してすぐに、アーシアが良い仕事をした。
「何?ダンジョンコアが帯同しているのか…お前、何者だ?」
「ミツクニ公爵配下の殺戮者だよ♪」
ジョブをチェンジして、聖剣と魔剣の二刀流で、フード男に襲い掛かった。ミトはミーアを助けている。
「ふざけるな…殺戮者の勇者だ?」
「暗黒面の勇者だよ~♪殺し合おうぜ♪」
フード男をみじん切りにして灰にしていく。
『なんだと』
『こいつ、危険すぎる…』
フード男から、しゃべる紫色の珠が2つ出て来た。
「逃がさない!」
「逃がさないのです!」
リザとポチが、その珠を斬り刻んだ。俺は、ジョブをチェンジした。仲間達に恐怖を振りまきそうだから。
「アーシア、ここは?」
コアの分身に訊いた。
「『トラザユーヤの揺り篭』という迷宮です。今、マスターを新しい所有者として、登録しています」
「ユーヤの?」
ミーアが呟いた。知り合いらしい。所有権が俺に移ったので、ダンジョン内をマスター権限で見学していく。
制御ルームの隣に小部屋が有り、迷宮の名前になったトラザユーヤの研究室のようだ。
「ホムンクルスの研究をしていたようね」
って、ミトが資料に目を通しながら呟いた。俺は本棚に目を移すと、日記のようなノートを見つけた。
「ミーア、日記みたいだ。君に渡しておく」
「うん」
日記を受け取り、涙を流しているミーア。知り合いなのは確定か。
「おっ!誰だ?!」
サトゥー先輩が声を上げた。ミーア似の巨乳のホムンクルスがいた。
「マスター、7号機です、よろしくお願いします」
って、俺に頭を下げた。7号機?
「攻略の褒美みたいよ♪6号機までは、迷宮でのモンスター扱いみたい」
って、ミトが資料を片手に説明してくれた。
「ナナって、名前にしよう。7号機じゃ味気が無い」
「わかりました。書き換えました」
アーシアが、ライバル心を持って見ているようだ。
「アーシア、仲良くしてあげてくれ。お姉さんなんだから」
「お姉さん?あぁ、そういうことですか、了解しました、マスター♪」
何かを誤解したアーシア。面倒ごとになりそうなので、スルーだな。
「ナナ、後、見所な場所はあるか?」
「ここ以外は、戦闘エリアになります、マスター」
「じゃ、ミト、攻略されないように、設定してくれる?」
「わかったわ。ここも守護者を獣の数字にしちゃおう♪」
で、出口から脱出。あっ!立ち枯れの原因は?
「ナナ、立ち枯れの原因って、わかるか?」
「源泉の乏しいこの地で、迷宮を起動したことによる、マナ不足です」
なるほど…
「アーシア。俺の源泉から、マナを供給出来るか?」
「竜の谷のクレーターですね…出来ます。設定を終えました。この迷宮が安定的に動けば、初期投資を回収は可能です」
「赤兜、そういうことだ。これでいいか?」
「助かる。すまんな。そうだ、これを持っていってくれ」
鈴を貰った。アイテム情報によれば、『ボルエナンの静鈴』という物らしい。
「友情の証だ」
「わかった。大切にするよ」
ミゼを無事に集落へ送り届けて、ボルエナンの森を目指す俺達。