俺一人で、サガ帝国へやって来た。現在、メリーエスト皇女が、ロリ勇者との借金問題を話し合っていて、利子の一部として、この国にある勇者召喚の儀式場の見学権利を、もぎ取ってくれたのだ。その見学に俺を指名したヒカル。
「いい?できる限り解析をして、壊せる物なら壊せるか計画を立てて来てね」
って、俺にミッションを与えたのだ。俺もヒカルもアールも、もう退路は無い。ならば、これ以上召喚出来ないようにさせて、三人で魔王に対処すれば良いって、結論である。最近、勇者は1体も魔王を倒せていない。アールが仕留めているからだ。
「こちらです」
メリーエスト皇女の案内で、儀式場へと案内される。
「ミト様の指示は聞いております」
俺とメリーエスト皇女が載る馬車をガードするように、ルスス、フィフィ、リーングランデが馬に騎乗して一緒に移動している。万が一に備えて、ヒカルが俺をモニターしている。妄想は危険が一杯である。アールのように凹まされるかもしれないから。
勇者の召喚陣は帝都では無く、旧都にあると言う。
「どう?交渉の方は」
「事情は父に報告してありますので、払ってくれる方向です。父もアール様の手腕に惚れていますから」
アールの事を嬉しそうに話すメリーエスト皇女。彼女にとっても、アールは英雄なんだろうな。リーングランデ、セーラ姉妹に負けないくらい。
「あれが勇者の丘です」
見晴らしの良い丘の上にはギリシャ風の神殿が建っている。床、柱、天井だけの構造で壁は無いようだ。近くまで行き、場所から降りて、神殿を見て回る。
「メリーエスト殿下、この方があのペンドラゴン卿ですか?」
「えぇ、そうよ。私の主様の同僚の方ですから、粗相のないようにね」
渋い顔をした年配のパリオン神殿のエラそうな方に、メリーエスト皇女が事務的な口調でそう告げた。
俺とメリーエスト皇女に何か言いたげの神殿関係者。
「では、こちらへどうぞ」
儀式場への侵入を阻む結界を解除した神殿関係者に続いて、儀式場へと俺達も足を踏み入れた。
一見普通の神殿だが、魔力視を有効にすると、床の魔法陣だけじゃなく、天井や柱などにも、積層型の魔法陣が複雑に刻みつけられている。それぞれの魔法陣は相互に作用し合う形のようで、芸術的な魔法陣に思える。これを解析するのは困難だな。魔力視のレイヤーを何段かに分けて、記録していく。この場での解析は無理っぽいから、
エネルギーの流れに目を向けると、「勇者の丘」の地下全体が魔力を蓄積する巨大な魔法装置になっているようだった。これって、丘を破壊すれば機能しなくなるのでは?
『先輩、地脈からのエネルギーが都市核ではなく、その丘に吸い上げられているみたいだ』
って、アールからメッセージ。うん?アイツ、こっそりとここの都市核を奪ったのか?
『兄ぃ、違うよ。アーシアが解析したらしいわ』
ってヒカル。俺の心が読まれているのか。思ったことがダダ漏れなのか。
『お願いだから、妄想はしないでね』
って、ヒカル。アールは妄想しまくりだものな。
「そろそろ満足しましたか?」
神殿関係者は俺達を、早くここから出したいようだ。サガ帝国の秘密事項だものな。ここって…
「ええ、ありがとうございました。神秘的な雰囲気に恥ずかしながら我を忘れてしまいました」
詐称スキルで、この場を乗り切る。ここの魔法陣は、地下の隠し魔法装置も含めて完璧にトレースしたので、幾らでも複製ができると思う。
「神殿長! メイコ様が…」
「ら、来客中ですよ」
神殿を出ようとすると、神殿関係者の元へに、巫女が駆け込み、声を掛けた。この神殿関係者は神殿長だった。エラそうな訳だ。
メイコって、日本人ぽい名前だったので検索してみると、「メイコ・カナメ」という新しい勇者が旧都を散策しているようだ。ロリ勇者の次を召喚していたのか。そうなると、俺が来る前に、召喚を終えたのであろう。
「知っていましたか?」
メリーエスト皇女に訊いた。
「訊いていませんよ。今度の勇者は真面だと良いのですが…」
彼女のユニークすきるは4つもあるし。大丈夫か?「最強の刀」「無敵の機動」「無限武器庫」「先見の明」なんか、戦闘特化過ぎるスキルだな。問題はレベルである。召喚されたばかりなののに、レベル60もある。何でレベル上げをしたのだ?
二人で馬車まで戻った。リーングランデ達が、俺達に近づいて来た。
「なにか遭ったのですか?」
「あのバカがまだ入るのに、新たな勇者を召喚していたのよ」
「え?!」
リーングランデ達も訊いてなかったようだ。
「神殿長の暴走でしょうか?」
「マサキが魔王を討伐して、帰ると信じていたのでしょう」
まぁ、魔王を倒すことだけが勇者の仕事だしな。俺達と仕事の内容は違うし。
「ペンドラゴン卿、街をご案内します」
メリーエスト皇女に、旧都を案内してもらうことになった。
◇
勇者達の御用達のお店が多い。ラーメン屋や和菓子店、甘味処もあるし。
「メリーエスト皇女、今度、アールを連れ歩くと良いと思いますよ」
「そうですか?」
今日一番の笑顔を見せたメリーエスト皇女。アイツ、ラーメン好きだものな。土産物屋には歴代勇者のフィギュアや勇者神殿の模型がある。
「もう!どうして、砂糖漬けみたいな甘ったるすぎるのか、和菓子しかないのよ!可愛いケーキやパフェはないの!」
振り返ると、勇者メイコがいた。見た目生意気そうな少女である。
「すみません、メイコ様。シガ王国には『ペンドラゴン卿のケーキ』というのがあるそうなのですが」
「へんどらこーん?けったいな名前ね。まあ、いいわ。直ぐに買って来なさい!」
「え?!」
「それを買ってきなさいって言っているの。二度も言わせないで。他国で買えないと言うなら、その国を占領して、属国にして貢がせなさいよ!」
アールが訊いたら、キレそうなことを言っている。ケーキの為に占領だと?!
俺達はスルーして立ち去ろうとすると、
「ちょっと!そこの黒髪!」
瞬動術で俺の目の前に立ちはだかった勇者メイコ。
「私ですか?」
「ええ、そうよ!あんた地元民でしょ?あたしは生クリームに飢えてんの!買ってきなさいよね!」
剣に手を掛けている。拒否すれば、即打ち首か?どうするよ、これ…
「ロレンス!メイコ様を神殿に戻せ!今日はあのペンドラゴン卿が来るから、外に出すなと言っただろう!」
そこにエラそうな神官風の銀髪男が飛び込んで来た。あのって、どの?
「ウ、ウォーレン様!」
しかし、俺と目が合った神官ウォーレンが、顔を青ざめさせた。俺の顔を知っているようだ。
「ペ、ペンドラゴン卿?!ま、魔王殺しが、どうしてメイコ様と一緒に?!」
魔王殺し?それはアールのことだと思うが。
「魔王殺し?一人で魔王を倒したっていうシガ王国の勇者?」
「私が勇者ですか?もしかして、同僚のアールとお間違えでは?」
間違った情報は訂正しておかないと。
「メイコ様、このペンドラゴン卿は…」
神官ウォーレンが小声、で勇者メイコに耳打ちする。
彼が話す内容は、概ね間違っていないが、その殆どは俺では無くアールのことである。
「よ、寄らないで!この性欲魔人!」
性欲魔人?娼館通いの趣味が…否定された気分だし。
「何かの誤解では…」
「十人以上の女性を侍らせて、小学生くらいの女の子から大人まで毎晩一緒に寝ているんでしょ!」
「それは、俺で無くて、同僚のアールですが、決して、私のことでは無い」
システィとカリナの二人としか寝ていないし。
「聞きたくない、聞きたくない!この女の敵め!成敗してくれるわ」
再び、剣に手を掛けた。その瞬間、更に状況がカオスになっていく。ヒカルとアールが転移してきた。見るからに、うたた寝をしていたようなアール。メリーエスト皇女とリーングランデが、アールの腕に抱きつき、スリープモードの心臓を再起動させていく。
「え?ヒカル…アールを連れ出したのか?」
「えぇ、埒が明かないみたいだし。ちょっと、そこの女子!私の配下の者に敵対心を持っているのはどういう事かな?」
「お前は、この性欲魔人の主なのか?まさか、ビッチか?!」
ヒカルのこめかみに青筋が…ブチ切れたか…元勇者様は…
「ビッチですって!何様のつもり?」
「私はサガ帝国の勇者メイコよ!頭が高いぞ、平民よ!」
パコッ!
そのメイコの頭をメリーエスト皇女が叩いた。
「新人勇者のくせに、私の主様達を平民ですって…」
メリーエスト皇女のこめかみにも青筋が…
「何するのよ、ババァ!」
メイコの取り巻きの神官の顔から、血の気が失せている。独身の皇女に向かって、ババァは無いだろうに…
「この新人勇者の監督責任者は誰よ!」
冷静沈着なメリーエスト皇女がキレたようだ。
「何をエラそうなことを、勇者である私が一番エライのよ!」
って、遂に剣を抜いた。そして、メリーエスト皇女に斬り掛かるが、アールが聖剣でその剣を受け止めた。
「おい!メリーに何をするんだ」
アールがキレている。どうなるんだ、この局面は…アールのストッパーであるヒカルとメリーエスト皇女は既にキレているし。
「お前…魔王か?ここで会ったのが運の尽きね。殺してやる!」
アールの本質を垣間見たのか?だけど、アールは魔王では無い、寧ろ魔神だぞ…
「塩になりたいか?」
天罰か?こんなバカに天罰って降りるのか?
「塩?アンタ、バカなの?」
メイコの剣だけが塩化した。バツ以前の問題なんだと思う。
「えっ!どうして…」
勇者メイコは塩化がどういう意味かをまだ知らないようだ。その御業を目にして、神官達がアールを取り囲んだ…
「まさか…メリーエスト皇女様の…アール公爵様ですか…」
一番エラそうな神官が、一歩前に出て、アール俺を牽制いている。その瞳は尊敬では無く、畏怖なる色をしている。アールは化け物で、敵という認識のようだ。
一方、配下の者はメイコを取り押さえ、手足の動きを奪っている。
「だと、したら?」
メリーエスト皇女の国である為か、割と冷静なアール。
「召喚されて間もないので…教育が行き届いていませんでした。この場を収めてくださいませんか?」
頭を下げずに、いつでも斬りかかれる体勢の神官。
「メリーに対して、剣を抜いたんだぞ。それって、皇女の暗殺未遂だよな?後、シガ王国のミト・ミツクニ公爵に対しての差別発言をした上で、平民呼ばわりしたし。俺をバカだと断定した。それで、どう収めろと言うんだ。あぁ、後、同僚のペンドラゴン卿に対して性欲魔人と発言もしたな。なぁ、天罰を喰らっておくか?」
アールの隣にパリオン神とアーシアとテンちゃんが転移してきた。アールを止めに来たっぽいなぁ。
「えっ!パリオン神様…」
あの神官って、パリオン神殿の神官なのか?パリオン神を認識出来ているようだ。
「わが主である、パリオン神国の王を怒らせたのは、ドイツだ?!」
「まさか、このお方が国王様ですか…」
神官達がパリオン神にひれ伏せると、勇者メイコが自由になった。何をしているんだ?場が混乱していく。
「コイツらは魔王だ。おい!この場で屠ってやる!」
って、違う剣を抜いた。
「パリオン、どうすればいい?」
戸惑うアール。
「なんで、こんなバカを召喚したのでしょうね、この国は…」
呆れているパリオン神。神と魔神と天龍を魔王認定って…
パーン!
天空からの狙撃…稲光が勇者メイコの振り上げた剣に避雷した。全身から煙を上げて倒れる勇者メイコ。誰も、彼女を介抱しようとしない。違う天罰が舞い降りたようだ。
「じゃ、先輩、俺達は帰るよ」
「あぁ、すまん。休み中のところ…」
アール達異形なる者達だけ、孤島宮殿へ帰っていった。
「皇女として宣言をします。その新米勇者を、牢へ入れて反省と教育をさせなさい。我が国の恥です。表に出さないようにしないさい」
神官達は天空からの狙撃を目にして、皆腰を抜かし、メリーエスト皇女の指示に従う者は、誰もいなかった。