魔王の使いが帰った翌日、リビングに各種族の代表が集まり、今後の方針を決める会議が開かれた。参加者は、俺、大樹、エロ賢者様、天使代表のティア、吸血鬼代表のルー、ハイエルフ代表のリア、鬼人代表のアン、リザードマン代表のダガである。アーゼ、ウルフ代表のクロ、スパイダー代表のザブトンは、会議向きでは無いので参加していない。
「家も数棟出来たし、村として運営をしたら、どうかな?」
魔族相手に恐怖を振りまいた人物と同一とは思えない、今日のエロ賢者様。穏やかである。
「村にするメリットは?」
大樹が質問をした。
「今回のように、合議制に出来ると思うんだよ。村でなく集落って感じだと、誰かの独裁に思われかねない。まぁ、対外対策だ」
「なるほど…で、村長は、祖父ちゃん?」
「僕は相談役とかだな。ここに常勤する訳にいかないからね」
そうなると大樹になるのか?異論は無いが。
「アールは種族的に裏方が良いと思う。そうなると大樹が村長で、ここを大樹の村ってするのが、スムーズだと思う」
不死王が村長はマズイよな。アンデッドの村に思われかねない。
「どうかな?異論、反論を受け付けるよ」
誰も口を挟まない。挟めば、村長にされてしまうだろうから。
「じゃ、大樹が村長だ。アールは補佐を頼む。戦闘になったら、大樹が攻撃、アールは後方支援および盾になってくれ」
まぁ、それも妥当だな。俺の最大火力はフルカウンターであり、それは盾になることで生かされる火力である。
「他のみんなも、そこそこ強いから、攻めるバカはいないと思う。もし死んだら、アールが蘇生出来るから、安心していいぞ」
安心せずに、死なないことが一番だと思う。
「あとは適材適所で運営すれば、問題は少ないだろう。まぁ、もう少しすれば、アールの仲間が合流できる。そうすれば、外交なんかを任せられる者や商いを任せられる者が出来る。それまでは、大人しく暮らせばいいと思う」
頷く一同。さすが賢者様の言葉は重い。
「黄ばんだバカ神のせいで、アールの縁の地の特定が難航しているが、大樹が買い出しに行っている街は、迷宮都市の可能性がある」
「迷宮が残っているんですか?」
「黄ばんだバカが、迷宮核、都市核の扱いを誤ってしまって、機能していない。だから、残っていない。今、龍の谷を探しているところだ。あそこの源泉で魔素溜まりを見つけて、それから、ナナとアーシアを再起動させようと思う」
「それは、二人の居場所がわかったってことですか?」
「あぁ、見つけたよ。既にサルベージはしてある。ただ、再起動する為のエネルギーが不足しているんだよ」
魔素の流れが分断されているのか。
「もう少し時間をくれ」
その後、細々としたことを決め、エロ賢者様が転移して帰った。
◇
翌日、来客があった。1匹のドラゴンが村の門を作っている時に現れた。大樹、俺、ルー、ティアで向かうと、
「我が名はドライム。由緒正しきドラゴンである」
と、挨拶をしてきた。
由緒正しくないドラゴンっているのか?
『邪龍とか』
パリオンが教えてくれた。そうか、邪龍がそうなるのか。
「この村の村長の大樹だ」
大樹が挨拶を返した。そして、即座に相手に尋ねた。
「この村に、何の用かな?」
いつでも屠れる間合いに踏み込んだ大樹。その両腕には、得物であるナイフを仕込んだガントレットを装着している。
「これは手土産です。お納めください」
頭を下げたドライムの隣にいた執事姿の人物が、大きな箱を差し出してきた。
「ご丁寧にどうも」
大樹のお礼、俺が代わりに受け取り、中身を確認した。ワナなどはなく、高そうな装飾が施された剣が、鞘と一緒に入っていた。それを大樹に見せた。
「素晴らしい物を頂きまして、ありがとうございます」
「いえいえ、お近づきの印です」
と、ドライム。どうやら、フレンドリーなドラゴンのようだ。
「ところで、本日はどのようなご用件で?」
相手の目的を訊き出そうとする大樹。闘気を纏ってはいないが、間合いからは出ていない。相手の執事の膝が笑い始めている。ティアとルー、クロ達が闘気を纏っているからか?
「はい。我が主、ドライム様はここより南の方、ここからでも見えるあの山に巣を持っております」
「そうなの?」
「距離としてはあるかもしれませんが……近所と言えば近所。遅くなりましたがご近所として、挨拶に参った次第です」
近所と言えば近所であるが、村はまだ建設中である。何故、未完成の村に挨拶なんだ?ふと、エロ賢者様の顔が浮かんだ。なんか、やらかしたのか?俺以上に斜め上を行くらしいからなぁ。
「それはご丁寧に……えっと、その主が頭を下げっぱなしなのは?」
「ご主人様は初対面の方とのトークが苦手でして、下手なことを言うぐらいなら私が代理にと。ご気分を害されましたら謝罪いたします」
「で、その大きさだと村に入れませんが…」
「まったくですね。ご主人様。小さくなってください」
「うむ」
ドラゴンが返事をすると、目の前の巨体が煙を上げて小さくなり、背の高い気弱そうな貴族風の中年男性に変身した。変身能力か、いいなぁ…
◇
その夜、大樹の家のリビングで宴会になった。お酒の類いを用意していなかったので、『強奪』で地下からワインやウィスキーを取り出し、振る舞った。つまみは、ウニとカニが、俺のストレージに保存してあったので、ツマミを調理して出していく。
「酒美味い、ツマミ美味い。俺、帰らない。ここに住むぞ」
ドラゴンのわがままに、大樹は動じない。幼い時に、ドラゴンに育児してもらったことがあるそうで、ドラゴンに恐怖も畏怖も感じないそうだ。
「駄目です。ちゃんと巣を守らないと、色々な方に怒られますよ」
執事の人が困っている。
「まぁ、いつでもおいでよ。その姿なら歓迎だよ」
大樹が言葉を掛けると、
「おぉ~友よ。うん、また来るよ。絶対にね」
「さぁ、帰りましょう。お土産に色々と包んでもらいましたから」
村で生産した野菜である。特に甘みの強いトマトを気に入ってくれたようだ。
「よし、わかった。帰ろう」
「はい。ああ~、ここで元のサイズに戻っちゃ駄目ですよ」
変身仕掛けたが、人のサイズに戻った。ここでドラゴンに変身すれば、家は崩壊するだろうな。
◇
翌日、反省会を開いた。
「迎賓館みたいな、お客さんをもてなす施設はいるかな?」
「そうね。家に招くにしても、客間は無いですからね」
って、ルー。客が来る想定はしていなかった俺達。隣町まで、結構な距離があるそうだ。ドライムの住む山も小さく見えるし。こんな場所に客が来るって、誰が想定出来ただろうか?
「リア、図面は作るから、建築してくれるか?」
「はい、喜んで」
大樹は建築を担うハイエルフ代表のリアに発注をした。
「出迎えに出るのは、俺とルーとティア、それにアールだけにしよう。後の者は、見えないようにガードを頼む」
いや、ガードは要らないだろう。俺と大樹だけで、大抵の者は制圧出来ると思う。それに、俺達で対処出来無い場合、エロ賢者様が来てくれるはずだ。
「問題は目の前に現れるまで、来客に気づけないことだな」
通常の移動であれば、探索スキルで接近している者を察知出来るが、魔王の手下、今回のドラゴンのように、転移で近くまで来られると、察知は難しい。
『わかった。魔王と交渉をしてみるよ』
エロ賢者様から念話が届いた。
「祖父ちゃんが絡むと、スケール感が違うからなぁ~」
大樹が苦笑いしている。
◇
数日後、また来客があった。今回は探索スキルで察知出来た。なので、村の入り口で待ち構えることが出来た。客は鎧を着込んだ獣人の一行だった。大きな荷物を背負っている。行商か?
「俺はガルフ。ここから東の山の中ほどにあるハウリン村からやってきた。この村と友好を結びたい」
一行はクーデルに案内されてきたようだ。一行の代表者が、目的を告げてきた。
「よく来られた。大樹の村は、貴殿らを歓迎しよう」
大樹では無く、ルーが代わりに答えた。そこには、大樹とティアの姿は無かった。
「感謝する」
「休める場所に案内しようと思うが……お主らは今居る数で全員か?」
「そうだが?」
「そうか。ならば、他は敵と見なすぞ」
森の中で、大樹とティアが二人の獣人を制圧して、来訪者の前にたたき出した。
「これはどういうことだ?」
大樹が殺意を纏っている。ティアもだ。
「……すまない。はぐれていた者が居たようだ」
はぐれた?明らかに、隠れていただろうに。
「それは危ないな。ここは死の森だ。命を粗末にするなよ。そうそう、村の中で勝手な行動は慎むように。私でも死を感じる相手が居るぞ」
「……わかった。勝手な行動はしない。約束しよう」
大樹は、相手の心を読んでいるはずだが、警戒を緩めてはいない。ルーを先頭に、獣人の一行が、建てたばかりの来客用の家に入った。その家は柵で囲まれている。その柵内なら、命の保証をするって感じである。迎賓館と言うより、収容所の感じか?まぁ、信用出来るか、分からない者達だからな。
「どう、思う?なぁ、ティア」
大樹がティアに意見を求めた。
「友好目的では無いかもしれませんね。魔王の使いも門番龍も手土産を持って来たでしょ?」
今回は無かった。
「警戒はした方がいいわね。まぁ、私一人でも殲滅出来ると思いますけど」
殺す気満々のティア。俺の中の天使のイメージが壊れていく。
◇
その夜、収容所で宴会が開かれた。大樹、ルー、ティアが参加をする。そして、俺とアン達は裏方として参加をする。もてなす料理は、俺達が普段食べている物よりも質素な物を提供していく。
「貧相な食事で申し訳ない」
一応、『強奪』で手に入れたウィスキーやカクテルを食事と共に出した。一応客であるから、酒くらいは出す。いや、酔えば本音を漏らすかもしれない。
「自分の無知を晒すようで申し訳無いが、ハウリン村はどのような所かな?」
「ハウリン村はここより東の山の中ほどに、千年前に作られたと聞かされている。まあ、実際は半分の五百年ぐらい前だろう。年寄り連中は変な所に見栄を張るからな」
アルコールで口が軽くなるガルフ。彼によると、ハウリン村も魔王領で、人口は500人位。ほとんどが獣人で、その大半が犬系らしい。狩猟と採掘が中心の生活で、山向こうの人間の村との交易でこれまでやっていた。が、その村とトラブルになり、交易が滞っているそうだ。そこで、ここに目を付けたらしい。風の噂で、死の森に住んでいるヤツがいると聞いたそうだ。誰がリークしたんだ?魔王サイドか?まさか、エロ賢者様か?
あの隠れていた者達は、ガルフ達に何かあれば、村に戻って知らせる役目だったらしい。ガルフ達も、俺達を警戒していたようだ。そして、翌日の朝、ガルフ達が帰って行った。
手土産の用意が無かったのは、ハウリン村にそういった風習が無い上、用意出来無い程、貧乏だからだそうだ。友好を結びたいのは本当のようだ。
大樹は友好は了承したが、交易に関しては返事を保留した。交易出来る物が、この村には無いからである。基本、生活必需品しか生産していないからなぁ。そう考えると、ハウリン村よりも貧乏だと思うんだけど…更に問題があった。ハウリン村との交易は物々交換だと言う。ここもそうだが、ハウリン村も通貨が流通していないそうだ。
「鉱石と塗料は魅力だけど、何を対価にするかだよな?」
「塩は?」
悩む大樹に、ルーが提案をした。
「製塩出来るか?」
「やってみるけど…」
ルーは自信なさげに答えた。
「後、ガラス製造の技術も魅力だよな」
ガラスは地中から『強奪』で手に入るが、それをリサイクルする技術が、この村には無かった。一方、ハウリン村が希望する品は食べ物。特に野菜である。向こうの村は山の中腹にあり、作付け面積が少ないらしい。後、ワインが欲しいらしい。ワインは、村の宝だからなぁ。ブドウを栽培して、販売用に作るかどうかだな。作物を売るなら、畑を増やさないとダメだな。
「まぁ、直ぐには無理だけど。アール、頼めるか?米、ブドウ、小麦、大麦、トウモロコシ、ライム辺りをだ」
コロナビールでも作るのか?製法なんか知らないぞ!
「あぁ、後、ホップもいるんなぁ」
ビールは確定かぁ。
「って、ビールは無理だぞ。売る為の容器が無い」
「だよなぁ。やはり、ガラス製造の技術が欲しいなぁ」
◇
本格的な夏を迎える前に、二毛作目を始めた。この世界の作物の生育は早いのか?豊穣の鍬のおかげか?
畑の作付け面積を増やし、ブドウ、米、小麦を中心に増やしていく。ビールは諦めたようだ。村の名産品は日本酒とワインで行くらしい。後、油狙いでアブラナ、ごまを、甘味狙いでサトウキビ、小豆を、そして大豆を忘れてはいけない。ソウルフードの元、味噌、醤油、納豆の原料であるからね。ついでに、胡椒、わさび、唐辛子、レモン、ゆずなども植えていく。
エロ賢者様から、麹と納豆と日本酒の為の蔵が寄付された。それぞれ、発酵の為の菌が培養された状態である。ルー、フローラに注意事項を伝え、製法を教えていくエロ賢者様。その姿からは、エロさの微塵も感じ無い。今度から賢者様と呼ぼうかな?
巫女職であったアーゼが俺と共に畑仕事をしている。大戦前には考えられなかったことだ。
「土を弄るって、なんかほっとしますね」
アーゼの笑顔は、あの時のままである。みんな、元気かな?