兄ぃと先輩捜しの旅を続ける。ザイクーオン神が何かしたのか、あれ以来、孤島宮殿に戻る事が出来無くなっている。これには、チートの総合商社の兄ぃが困っていた。孤島宮殿に残っている仲間達の安否確認が出来無いからだ。
「まいったなぁ。アールにどう説明すれば…」
先輩にはダメダメな処を見せたくない兄ぃ。まぁ、私もだよ。先輩に弱っている処は見せたく無いし。兄ぃの転移術は、この世界においては有効な為、エチゴヤの本店、支店を見回りながら、情勢を調べつつ、先輩を捜していく。
パリオン神国で大量の人命が消えたことを受けて、サガ帝国では勇者を召喚しまくっていた。魂を浪費して勇者を呼び出すようだ。その数、3桁くらいだ。この世界を勇者だらけにしたいのか?
一方、シガ王国では、先輩の家臣達が混乱を治めようと尽力していた。王は、この機会に乗じて、亜人融和政策を進めていた。先輩の家臣って、亜人が多いし、亜人の自治区もあるから、彼らの働きを目にした者達は、追うように、その政策に乗っかっていく。
そして、パリオン神国…クレーターのようになっている。
「イタチ帝国の国民をここに移住させたから、狙われたのか?」
兄ぃの表情が優れない。イタチ帝国の皇帝も、この地に逃がしたらしい。その事実は、先輩には知らせずに…
「俺の行為で、アールの国が…」
「そんなことは無いさぁ」
突如、私達の背後から声が聞こえた。振り返る私と兄ぃ。
「君は誰だ?」
見た事のない人物である。種族はUNKNOWNと表示されている。神なのか?
「僕は僕が神であることを否定して生きている。だから、賢者程度に思ってくれ」
神であることを否定して生きている?それって、神ってことじゃ…兄ぃが一歩前に出て、私を背中に隠すようにして警戒をしてくれている。
「君には僕を殺せないよ。君はその資格が無いからね。それよりも、身重の女性と旅をするのって、どうなんだ?」
身重な女性?
「どういうことだ?」
兄ぃが相手に尋ねた。
「気づいていないのか?あぁ、初めての体験かぁ。その彼女、身籠もっているぞ。知らないと思うけど、妊婦には転移術は良く無いんだよ」
身籠もっている?私がかぁ?自覚は無いんだけど…
「受精して着床して1ヶ月か1ヶ月半ってところかな?」
1ヶ月くらい?それは兄ぃと…1発で大当たりしたのか?
「えっ!」
驚いて私の腹を見る兄ぃ。
「提案だけど、僕達のキャラバンで移動しないか?助産経験をした女性もいるんだよ。安心だろ?」
しかし、探査マップに、目の前の男は表示されていない。何者なんだ?
◇
賢者を名乗る男性のキャラバンに同行する私と兄ぃ。彼らの正体がまるでわからない。皆、UNKNOWNと表示されているのだ。
「団長、この先に勇者の一団がいますが」
賢者様の親衛隊であるファルコンさんが、そう報告をした。
「殲滅しておいて。どうせ、死に戻るだけだ。気にせずに蹴散らせ。まったく、デッドアンドリロードって、ゲームの世界じゃないんだぞ、ここは…」
賢者様によれば、ザイクーオン神がこの世界の理であるシステムを書き換えたらしい。勇者というジョブの者は、召喚された場所に死に戻る定めらしい。アンデッドではないが、殺しても生き返るタチの悪さらしい。
「まったく、あの黄ばんだクソは、ロクなマネしていないよな。アールは3000年も飛ばされているし」
理を読み解き、先輩の居場所を見つけてくれた賢者様。だけど、先輩は3000年後に飛ばされたらしい。
「そうなると、君達も3000年後に連れて行かないとダメだな。う~ん…出産をして子供が乳離れしたら、連れて行ってあげるよ」
賢者様達の正体は、時空を飛び、神様達の悪事を止める騎士団らしい。本当の意味での神の御使いって感じらしい。
「ザイクーオン神達は神だったんですか?」
「異世界から来た侵略者だよ。本当の意味の神では無い。自分から神と名乗るヤツに神はいないよ」
神と名乗る異星人だったのか。
「なんで、日本人ばかり、召喚されているんですか?」
「未来の日本の技術により、彼らの侵略が失敗に終わったのさ。だから、過去に遡って、将来敵になりそうな若者を、異世界に収監したんだよ」
そんな理由で…
「後、魔王を倒して、元の世界に戻して、未来において自分たちの名前を出せば、神と信じてもらえると思ったようだ。だから、色々な別世界の日本人の少年、少女に的を絞ったんだよ」
記憶に名前を刻んでおいて、将来再会したときに、神だと証言してもらえるようにしたのか?
「まぁ、ロクでも無い行動だよ。あぁ、勇者と君達の違いなんだが、勇者は退路のあるヤツラで、君達は…わかっていると思うけど、退路が既に無いんだよ」
退路は無い。元の世界で私も兄ぃも先輩も死んでいるのは確定である。
「退路のあるヤツは、2,3日のロス程度で、元の生活に戻れる。だけど、黄ばんだバカのせいで、そのシステムも崩壊している。アイツらには死に戻りという退路はあるが、元の世界へと戻ることは出来無い。ゾンビ集団と何の変わりは無いんだよ」
片道召喚になったらしい。召喚数を優先するあまり、帰還の際に必要になる彼らの召喚元のデータを、保管しなくなっていたそうだ。
「あの黄ばんだヤツは、この世界の理というシステムをハッキングした挙げ句、別物に書き換えてしまったんだよ。今、修復中だけど、完全には元に戻らない」
遠くを見つめる賢者様。
「本来、システムの書き換え後にリセットをするんだよ。その時あった文明という古いバージョンのシステムを完全に消す為にね。君の生きた世界でも、アトランティス、ムーと言った伝説の大陸があっただろ?あれらはリセット時に消えたんだよ。だけど、この世界においてリセットは出来無いんだ。原因は未来という時間軸に飛ばされたアールの存在だよ。今、リセットをすれば、彼の存在は完全に消える。それは、この星や、あそこに見える2つの月に宿る星霊達が望むことでは無い。だから、リセットは出来無い」
賢者様によると、本来星は星霊と創造神、維持神、破壊神により、維持運営をしているそうだ。だけど、この星には星霊しかいない。新たなる創造神、維持神、破壊神が赴任すれば、本来の業務に戻るらしいが、戻って来てもリセットが出来無いように、ザイクーオン神は星霊に縁のある先輩を未来へと飛ばしたようだ。リセットすれば、先輩の存在は無かったことになるからだと言う。
「先輩は大丈夫なんですか?」
「僕の孫を傍においてある。だから、暴走することは無い。近々、パリオンとアーゼも傍に置くから、危険性は下がると思うよ」
「アーゼも飛ばされたんですか?」
「いや、アーゼは殺されたよ。あの黄ばんだクソにな」
殺された…
「だから、蘇生術で、未来の世界に於いて、生き返らせるんだよ。アーゼの魂は、招魂して確保済みだし」
そうなんだ。
◇
そして…私は子供を産んだ。娘を二人…双子だった。生まれた娘達はネームドで、既に名前が付いていた。カグヤとカグラだった。何のいたずらだ?誰のいたずらだ?
二人からは何故か先輩を感じる。そのことが原因だろうか、兄ぃには似ていない。生まれて直ぐに断言は出来ないけど、直感的にそう感じた。
「ヒカル、おめでとう」
って、兄ぃの安堵した声。兄ぃも同じように直感したのだろう。この子達は、兄ぃの子供では無く、先輩の子供だと。
「そうだよ。彼女達はアールの子供だよ」
って、賢者様。
「散々、君の中で出しただろ?」
確かに、何度も中出しされた。だけど…あれ?なんで、賢者様が知っているんだ?
「サトゥーに聞いたんだよ」
兄ぃぃぃぃぃ~!何、逃げをうっているんだ!
「それにサトゥーとの子供では、3000年後に連れて行けない。人間の寿命はそこまで無いからね」
あぁ、そういうことか。だから、先輩の?あれ?
「じゃ、二人ともリッチ?」
「種族はそうなる。君とサトゥーは単なる不老不死者だけどね」
私と兄ぃはチートな人間って感じかな。なんか、トンビが鷹を産んだ気分ではある。そもそもリッチって後付けの種族では無いんか?
「聖属性のリッチであるアールは特殊な事例だよ」
賢者様がそう教えてくれた。先輩は特殊なんだ。なんか、納得出来てしまう。斜め上を行く先輩だもんな。そんな先輩の二人の娘達の成長速度は速い。賢者様の教えを学び、知識とスキルを身に着けていく。