デスマーチからはじまる異世界マン遊   作:もっち~!

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2度目の冬を前にして

本格的な夏になると、クロの子供達が伴侶を見つけ、戻って来た。何故かオス達は ボロボロになっている。ライバル達と戦い抜いたのか?って、そんなにインフェルノウルフって、森にいたか?遭遇したことが無いのだが…

 

頭を捻って、大樹が新しい住民達に名付けをした。クロイチのパートナーはアリス。クロニのパートナーはイリス。クロサンのパートナーはウノ。クロヨンのパートナーはエリス。ウノだけがオスである。

 

リア達が、犬小屋を増設している。子供を産むため、雨で濡れないようにだ。あぁ、犬小屋ではなく狼小屋だな。村には来客用の為の宿とか物産店も設置された。信用できる客は宿で、うさん臭い客は収容所という迎賓館に泊めるようにするそうだ。

 

大樹は狩りで得た食えない部位を街で売り、海産物を大人買いしてくる。昆布、わかめ、かに、うに、いか、タコに小魚など。この世界の住民には人気の無い食材を安く大量に仕入れ来るのだ。

 

「昆布とわかめは干して、イカはキモだけ抜いて干す。小魚はすり身にしよう」

 

大樹と俺で、アン達に下準備や加工方法を教え、必要な道具をリア達に発注していく。夏真っ盛りが終わる頃、2毛作目が終わり、収穫時期になった。冬までに3毛作目が可能のようだ。木材取得の為に切り倒した木々のエリアを農地にして、3毛作目の準備を始める俺。

 

「ワイン仕込み用の樽を持ってきたぞ」

 

賢者様が、樽を数個持って来た。ここに生える木では、ワイン用の仕込み樽に出来無いらしい。

 

「どうして、ここのはダメなんですか?」

 

製造責任者のリアが訊いた。

 

「熟成させるのに酵母菌っていう物が必要なんだよ。発酵の原理はルー達から説明があったと思うが、酒の種類によって、発酵に使う菌が違う。だから、酒蔵、醤油蔵、納豆蔵を道具一式でプレゼントしたのだが、ここの木は、菌が増殖出来無いみたいなんだよ」

 

確か、糖分をエサにする菌がアルコールを排泄するんだっけ。

 

「ここの木で樽を作ると、何年経ってもブドウジュースのままで、ワインにはならないと思う。試しに、1樽作って、1年置いてみな」

 

「はい。実験します」

 

アン達は収穫したブドウを足で踏み付け、潰していく。米は精米して麹付けをして酒樽へ、大豆は水に漬けてから蒸して、それぞれの蔵へと、ルーとフローラが執り行っていく。

 

ティア達天使族と大樹は、収穫した物の一部と共に、ハウリン村へ向かった。交易という名の食料支援をする為にだ。帰ってくると、25名くらいの若い獣人の女性達と共にいた。

 

「対価に女性をくれたよ…」

 

疲れた顔の大樹。食料の見返りに女性を?鉱石や塗料は?

 

「人減らしをしたいそうで、移住という名の人身売買って感じだよな。対価に差し出されたわけだから」

 

「みなさん、ごめんなさい。私はハウリン村村長の娘のセナです。奴隷として、この村に置いてください」

 

セナ以下全員が頭を下げた。奴隷としてって…みんな、大樹に視線を合わせていく。

 

「いや、奴隷としてで無く、住民として受け入れる。彼女達はガラス製造のノウハウがあるらしいので、ガラス関係を頼もうと思う。リア、セナから必要な設備、道具を訊き出し、製造してくれないか?」

 

「わかりました」

 

「ティア、彼女達を空き家へ案内してくれか」

 

「まかせて。さぁ、こちらに来てください」

 

畑を開拓するに当たり、切り倒した木々を使い、空き家を何棟か建てていた。それが利用出来る様だ。俺とアーゼは開拓作業に戻る。俺が耕し、アーゼは何の畑かを記録していく。アーゼの記録を元に、収穫量を予測しておくのだ。

 

 

その夜、俺の寝室にセナが来たらしい。俺は死体となって寝るので、寝ている最中の出来事はまるで分からない。なので、死体の俺に驚かないように、説明要員として訳知りのアーゼが、毎晩添い寝をしてくれているのだ。朝、目覚めると、上にセナがいて、隣にアーゼが寝ていた。それはそういうことだろう。

 

なんで、ここにセナが居るんだ?こういう場合は、村長の大樹の元では無いのか?脳ミソに血流が行き渡り、なんで俺かを理解した。そうだ、ニトロブラッドのせいだ。大樹は寝る時に、ルーとティアと添い寝している。それは、大樹の特性を知らずに、間違いを起こさない為である。世間一般の常識では、吸血姫ルーと殲滅天使ティアの危険度は有名らしいので、近寄る者はいないようだ。なので、補佐としての俺と関係を結んだセナ。相変わらず、アーゼは俺の愛人を300人まで容認するようだ。いや、300人なんて無理だと思うのだが。

 

翌日、賢者様が二人の男女を連れてやってきた。

 

「トライ先生、リリスさん…」

 

大樹が二人の元へ駆け寄っていく。

 

「しばらく、来られないから、用心棒と万が一の時の借り腹を置いて行くよ。大樹には受精卵のチェックスキルと、受精卵の転移スキルを与える。それらを使って、仲間を護れ。いいな」

 

「はい。祖父ちゃん、ありがとう」

 

って、ことは、女の方はドラゴンか。男の方もドラゴンなのか?

 

「彼らは何者ですか?」

 

ルーが質問した。

 

「トライ先生は獣の数字で、リリスさんは原書のドラゴンだよ」

 

大樹が答えた。ルーとティア達天使族、アーゼの顔から血の気が失せていく。なんか、ヤバい存在じゃないのか?

 

「ラスボスですか?」

 

ルーがつぶやく様に声を発した。

 

「祖父ちゃんが使役しているから、敵にはならないよ」

 

ラスボスって言う事を否定しない大樹。そんな存在を2体も、置いて行くようだ。

 

「大樹、りりしくなったなぁ」

 

「たいじゅぅぅぅぅぅ~!」

 

トライが大樹の頭を撫で、リリスが大樹を抱き締め、頬を重ねている。そうか!大樹の乳母だったドラゴンか、リリスは…

 

「じゃ、僕は、仕事に戻るよ。トライ、リリス、普段はオーラを抑えろよ。仲間をびびらすな」

 

「はっ!」

 

「お任せ!」

 

二人が賢者様に跪いた。それを見届けて、賢者様が転移して消えた。

 

 

大樹、ティア、ルーと共に、大樹が見つけた迷宮らしき場所に潜入した。

 

「どこの迷宮か、わかるか?」

 

鉄の森と大樹の良く行く港街の間辺りにある高い丘のような場所の麓に入り口があった。

 

鉄の森が大砂漠として、考えられるのは港街が迷宮都市で、その迷宮だろうか。カニやウニが近海で採れることを考えても、そんな結論になりそうだ。

 

「迷宮都市かな?」

 

「偽核の?」

 

「そうだ」

 

そうなると、迷宮核の部屋は、迷宮には無い。あの屋敷の中だ。だけど、屋敷はどこにいったんだ?地形が様変わりしすぎて、予想が出来無い。

 

そうだ!ヴァン達は生きているだろうか?迷宮内の探査は出来無い上、迷宮内のマップも変化しているようで、下層へ向かう通路が見つからない。長らく閉ざされていたのか、上層には魔物の気配は感じなかった。

 

「もう少し、探索メンバーがいれば、ここを踏破して貰いたいけど、現状だと無理だな」

 

って、大樹。俺一人でも行けると思うが、日没までに帰れない予感がする。ここって、結構広いからな。

 

「今日はここまでにしよう」

 

出口へと向かった。

 

 

丘の上は野っ原だった。

 

「ここに第二の村を作るのは有りだな。街に近いし」

 

馬車でなら街まで、1日くらいの距離らしい。

 

「現状は今の場所の開拓が先だけどな」

 

丘なので、景色が良い。遠くに港街が見え、海も見える。あの村は木々しか見えないもんなぁ。

 

そして、港街にある借りている家に転移した。買い込みの為の拠点として、家を借りたそうだ。大量の荷物を持って、街中で転移では怪しいので、家に運び込んでから、転移しているそうだ。

 

「ここを拠点に、この街で情報を得るのもいいけど、現状では、俺とアールしか転移出来無いのが問題だな」

 

トライとリリスはオーラが異質な為、街には来られないそうだ。

 

「来年になれば。転移出来る者も増えるらしいから、今後の課題だな」

 

転移出来る者が増える?それは、孤島宮殿の者達と再会出来るってことかな?少し期待しよう。

 

大樹だけが街に出て、大人買いをしているようだ。ティア、ルーは有名人過ぎるので、街には出られないらしい。俺は種族が問題なので、やっはり街に出ない方が良いらしい。

 

 

秋の訪れを感じ始めた頃、キノコ狩りに出掛けた。食べられるキノコかどうかをルーが判断してくれ、食べられるキノコを集めていく。この世界に、トリュフが存在していることに驚く俺と大樹。

 

「椎茸とか松茸は適した木々が無いから無理かぁ」

 

松茸は赤松だっけ?この森は表皮が異常に硬い木しか無いからなぁ。豊穣の鍬をふるい、赤松と椎の木をイメージして耕した。これで生えるか?

 

村に戻り、キノコ鍋の準備をするアン達。大樹は冬支度をしていく。コタツを各家へ配り、使用方法を説明していく。コタツは、地下から『強奪』したものだ。これを使う為に、夏の間に、太陽光発電システム一式を数台、地下から『強奪』してある。電子回路の塊である太陽光発電システムは、まだこの世界では製造出来無いようだった。電池という概念が無いし。なので、過去の魔法具と説明している大樹。発電する為に、各家の屋根には太陽光発電パネルが既に設置してある。

 

各部屋にはLED電球があり、夜でも部屋内を明るく照らしている。この世界に於いて、俺達のいた世界の技術は魔法具として認識されるようだ。電気という物が無いし。原理自体は研究熱心なルーとフローラのコンビだけが、理解できる程度のようだ。

 

「これらの魔法具は、この村からの持ち出しを禁止する」

 

と、大樹がルールを定めた。複製品すら作れない状況で、流通させるのには問題があると判断したのだ。これには、各種族の代表も了承した。この村は基本、合議制なので、緊急案件以外は、大樹の一声だけでは決まらないのだ。

 

そして、冬の訪れを感じ、今年最後の収穫を始めた。このタイミングで、ビーゼルが助成金を払いに、村へ来訪してきた。敵意は無いので、宿に案内し、もてなす。

 

「この魔法具は売ってもらえませんか?」

 

LED電球に目を付けたビーゼル。

 

「これはまだ開発中なので、ダメです」

 

拒否する大樹。

 

「開発中でも構いません。どうか、譲ってください」

 

粘るビーゼル。

 

「ダメです」

 

断固拒否の大樹。LED電球だけでは、機能しないからなぁ。

 

「では、何か珍しい物を譲ってください。例えば、トイレとか」

 

今度は温水洗浄便座に目を付けたビーゼル。この便座は、製造の目処が立っている。魔力を必要とする魔法具としてだ。ただ、下水処理システムと上水道が居るため、設置場所を選ぶのが難点であり、売るだけで使える物では無い。設置工事が必要で、売る場合は工事費込みの価格になり、高額になってしまう。

 

「単体では動かないので、ダメです」

 

「ならば、システム一式を売ってください」

 

ルーが販売用の資料をビーゼルに見せた。基本工事費込みの見積もり価格付きの資料である。

 

「うっ!こんなにするんですか?」

 

「専門の技術者が施工をしますから、人件費が高く付きます。後、それなりに土地や水源も必要です。それらは、買手が用意してください」

 

村であれば、手が空いた時に施工できるが、外部の街では、そうもいかない。拘束される日数が長い上、専用資材を運ぶ、運搬費などもかかる。

 

「う~ん…少し考えます。見積もりには納得ですが、高いですね」

 

唸るビーゼル。基本的に、この世界のトイレはボットン式だからなぁ。汚物はスライムが浄化していく感じで、バキュームカーのような回収はしないシステムであるけど。

 

「もうすこし手頃な価格の魔法具はありませんか?」

 

大樹はドライヤーと男性専用の筒を持ち出した。ドライヤーは実演し、男性専用の筒は、ビーゼルの耳元でゴニョゴニョと。

 

「この2つを買います」

 

説明を聞いて、お買い上げしてくれた。これらも魔力で作動する魔法具である。

 

 

 

---ビーゼル---

 

大樹の村から、自宅へ直接帰宅した。男性専用の筒の威力はスゴイ。宿で試したのだが、これは最終兵器では無いのか?思わず、30個ほど買い込んでしまった。こんな物を持って王城へは行けないので、自分の部屋に保管をして、妻へドライヤーをプレゼントした。

 

翌日、最終兵器を1つだけ持ち、王城へ向かった。

 

「ビーゼル、どうだった?」

 

魔王に訊かれた。

 

「えぇ、順調に村は大きくなっていました。あぁ、これはお土産です」

 

「これは?」

 

魔王の耳元でゴニョゴニョと。

 

「なんだと…で、威力は?」

 

「サイコーです。問題は、1回ごとに洗浄して、使用前には、この専用のローションを注がねばならないことです」

 

ローションは消耗品であり、なくなれば、村まで買い出しに行かないといけない。

 

「相当の技術力があるのだな」

 

温水洗浄便座やLED電球の話もした。

 

「そのような物があるのか。それらは譲ってもらえぬのか?」

 

「高額になりすぎます。一個人の買える物では無いようです」

 

下水システムというのは、数家で共用しないと場所を取ってジャマになるらしい。発電システムというのは、街単位で維持運営する方が効率的らしいし。

 

「国家予算をつぎ込んで、王城に設置してもらうか?」

 

「問題は、畑仕事の無い冬の間しか、工事してもらえないそうです」

 

工事期間が長くなるため、畑仕事のある冬以外の季節は、来てもらえないらしい。

 

「今では無いか!ビーゼルよ!今から発注をしてきてくれ」

 

今から?設置場所はどうするんだ?

 

「魔王様、設置場所や水源の位置などの図面や地図が無いと、施工してくれません。来年の冬が妥当では無いですか?」

 

「そこをなんとかしてくれ」

 

なんとか出来無い予感。彼らには彼らの生活があるのだ。

 

「無理を通すと、危険ですよ」

 

はっとした魔王。

 

「そうじゃったなぁ。それはそうと、新たな戦力はおったか?」

 

新たな戦力?見慣れない者達が数名いたが…

 

「前回の視察時と、あまり変わりません」

 

と、返事をしておいた。

 

 


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