旧・東方神零録   作:異山 糸師

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貴族にまともな奴は居ないのか

 

こうして輝夜が出した無理難題の締め切り当日が来た。

 

幽香から借りた日傘を持って家を出る。ルーミアとアマテラスは留守番だ。

 

屋敷に着いたのだが、あれほどいた大勢の人は今はもういない。

なぜに?あの貴族どももまだいないし……屋敷の周りでも回ってみるかな……

 

この屋敷はとても大きいとは言えないが、綺麗で清潔感がある。お爺さんたちに輝夜が大切にされているというのが一目でわかる。

 

うろちょろしていると、人を発見した。

って、あれは妹紅じゃん。髪がまだ黒いな。

なんか、屋敷を覗きながらぶつぶつと呟いている。正直気味悪いね……黒いオーラが見えるような気もするし。

 

……声でもかけてみるかな?

 

「ちょいと、そこのお前さん」

「!?誰だ!輝夜の回し者か!?私を誰だと思ってるの!」

 

今の妹紅は警戒心剥き出しにしてガルルルッ!って唸る犬みたいだ。

 

「知ってるよ。藤原妹紅だろ?俺は怪しいものじゃないよ」

 

俺を見ていた妹紅が何かに気付いたように声を上げた。

 

「あなた、お父様と一緒にいた奴じゃない!お願い!お父様に輝夜を諦めるように言って!」

 

え~…見た目は同い年位何だからそろそろ親離れしようぜ、このファザコンめ。

 

「無理だよ。俺みたいな庶民の言うことなんて聞くわけ無いだろ?」

「……そう、分かったわ。ごめんなさい、変なことを頼んでしまって」

「悪いな。役に立てなくてさ。俺は天城零だ、よろしく」

「いいわよ。藤原妹紅よ、よろしく。それにしても零、あなたも輝夜に求婚しにきたの?」

 

ああ~…そういえば。

まあ、妹紅にならいいかな。

 

「別にそういう訳じゃない。ただ顔でも拝ませて貰おうかな…と思ってな」

 

原作キャラだもん。

そりゃあみたいでしょ。

 

「へぇ…輝夜に靡かないなんて……まさかあなた、男にしか……」

「いや、俺は輝夜より妹紅、お前のほうがいい」

「えっ!?」

 

心底驚いたような顔になり、次いで意味を理解したのか顔を急速に真っ赤にして慌て出した。

俺を出し抜こうなんてそうは行かない。会話の主導権は俺が握らせてもらう。

 

「そ、それは一体どういう………?」

「そのままの意味だ。輝夜は美しいと騒がれているが、正直お前のほうが可愛いから好きだ、と言って置こうと思う。輝夜実際に見た事ないし」

 

上げて落とすとはまさにこの事。だが、妹紅は後半を聞いていなかったらしくパニックになっている。

これは面倒くさい事になりそうだ。今からでもあやふやにしておこう。耳元に近づき暗示を掛けるように囁く。これぞ悪魔の囁き。

 

「だから……ごにょごにょ……」

「…………ふぇっ!!?」

 

何を言ったかは内緒だ。

 

「れ、れれれれれ零さんッ!!用事を思い出したので失礼しますねッ!!」

 

妹紅が敬語になりダッシュで去って行く位の衝撃を与えたとだけ言っておく。

いやぁ、楽しかった。いい暇つぶしになったな。そろそろいい時間帯だし、行きますか。

 

再び壁沿いを歩いていき玄関まで行く。お爺さんに出迎えて貰い以前と同じ部屋に通された。

そこには既に貴族共が居り、俺が最後。一番端っこに座り幽香の日傘を隣に置く。さて、貴族様とやらの出来を見せて貰いましょうかね。無様に悔しがるがいい。どうせ全部偽物だ。

 

「皆様、この度は再び集まっていただいてありがとうございます。早速ですが、私が出した依頼の品をそれぞれ見せて貰います」

 

簾の向こう側から輝夜の声が聞こえる。言い終わった後、同時にお婆さんが立ち上がり品を集めて輝夜に渡した。

輝夜が鑑定している間、暇なので隣の貴族を見てみた。隣には丸々と太った豚がブヒブヒ言いながら溢れ出る汗を手拭いで拭いていた。

見ていたらこっちを見られ目が合った。あ、いや、何でもないです……どうぞ豚小屋にお帰り下さい。

 

「………ブヒッ!」

 

こっち見んなッ!気持ち悪い!この腐れ“ピッー!”が!“ピッー!”して“ピッー!”すんぞ、人面豚!

 

ふぅ……おかしいな、これでも有名な貴族だったよな?名前忘れたけどな。

あ~、臭っ……気持ち悪くなってきた。もうさっさと終わんないかな。

 

「お待たせいたしました」

 

お、やっとか。これで豚と相席する時間の終わりが来た。

 

「残念なことに皆さんに持ってきてもらったものは偽物でした。そうですね?」

 

それを聞いた貴族共は目に見えて落ち込んだ。ざまぁみやがれ。

でもおかしいな、俺のは本物のはずなんだけど……幽香の妖力も感じ取れるはず。

 

「ただ……マイケル様のだけは本物でした。私は今まで風見幽香を倒すほどの実力を持った陰陽師を聞いたことがありません。一体何者なのですか?」

 

ん~、そうだなぁ……

 

「流れの妖怪退治する人って感じ?」

「そうですか……ですが、私は討伐を依頼したはずです。聞いた話だと、未だ風見幽香は健在…どういうことですか?」

「ああ、それなら話し合いで解決だ。あちらさんも手出しされない限り何もしないと言っていた。歴史を辿っても幽香から攻撃したことが無い。だからこれからも放っておくことを進言するよ」

 

まったく、幽香も大変だよな。名を上げたいっていう雑魚陰陽師たちにちょっかい掛けられるんだから。

ま、幽香も暇つぶしになっていたみたいだし、結果オーライ?

 

「ですが依頼は達成ではありません。貴方も不合格です」

「あっそ。まあ、お前と結婚なんてする気は無かったし、丁度いいさ」

 

さっさと立ち上がって輝夜の下まで行く。簾の横からお邪魔します。

 

「なっ!?」

「お~、これが輝夜か……別に何も思わないな」

 

以前から知っている顔と同じだった。これで目的は達成したな。

 

「これは返してもらうぞ。借り物だからな」

 

ひょいっと傘を拾い上げる。

 

「そう睨むなって。夜、また会いに来るよ」

「………どうしてよ。貴方みたいな不愛想で礼儀知らずなやつはもう会いたくないのだけれど?」

 

睨みながらそう言ってくる輝夜。ちなみに会話は小声のため貴族共には聞こえない。

 

「じゃあ、絶対に会って話したくなるようなことを教えてあげよう」

「なによ?」

「天城零」

「ッ!?」

 

俺の名前を呟いただけで、輝夜は目を大きく見開いて驚いた。

 

「八意永琳」

「そ、それって………」

「という訳で、また夜にな。起きてろよ?」

 

最後にこれだけ言って帰ろうとする。

 

「あ、ちょっと…………!」

 

はい、無視無視。貴族共の横を通り過ぎてさっさと家に帰る。家のある方から幽香の気配がするってことは来ているのだろう。

アマテラスが居るけど大丈夫か?まあ、幽香はぼっちだしいいか。

 

 




輝夜より妹紅の話をどうしようかな……

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